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三種への旅路1

怒涛の四話連続更新、第二彈!

 この世界にここまで立派な建物があるのか。

 サイトがタイラスに連れられてやってきたのは石造りの大講堂。そこは、五階建ての建造物の中央に位置し、吹き抜けのようになっている。入ると、そこかしこの壁や柱に刻まれた精緻な文様に目を奪われる。白い石柱が並び、それに沿って騎士が目を光らせている。最奥のステンドグラスからの光がこちらへ差し込んでいる。左右に二枚あるステンドグラスは、外からの光を入れているわけではないことは建物の構造から想像がつく。その先にあるのは大奥ともいうべき場所だ。建物の内側からの光が、此処にまで入り込んでいるのだ。そんな状態をどのように構築しているのか――そこまではサイトにも分からなかったが。

 壁のあちこちには観覧席が置かれ、豪奢なドレスを纏った婦人たちが見下ろしている。その視線が含有する感情は侮蔑か憎悪か――少なくとも好ましいものではないだろう。意図的に無視して前へ進む。


 中央に王国旗の紋章。その前で立ち止まり、サイトは跪いた。後ろにいる三人――イサナ、ガイウス、スライも同様にする。


 これほど豪華な建築物が存在しているということ――それは、この城が長年にわたって、全壊させられることなく存在し続けられてきたという証明にほかならない。それがどれほどのことなのか、今のサイトには理解できる。

 ここはメルキアデス王国の王城。『勇者』として王国に管理される身であるサイトは、『火山の魔王』撃退の報告を受けてから呼び出しを受けていた。


「顔を上げてくれ」

 気怠いような優しいような声に驚き、顔を上げると、いつの間にか一人の男が中央の席に座っていた。その周囲に左右に広がる椅子には強面の男たちが並んでいる。彼らのうち幾人かは前に見たことがある。勇者に任命されたときだ。

「まずは『火山の魔王』討伐任務、ご苦労だった。討伐とはいかなかったが、撃退。送り込んだ人数や、不測の事態などから考えてもこの成果は上々といえる。褒賞は割増しで与えよう。よく休むように」

 だが、中央の男には見覚えがなかった。痛んだ茶髪は乱雑に切られ、毛先が不揃いだ。無精髭も生えている。だが優しげなたれ目と声が、心地よく染みわたる。信用を得やすい人物だと感じた。

「はっ。ありがたき幸せ」

 タイラスが頭を下げる。


 ふう、とここで一呼吸。男の声が真剣みを帯びたものに変わる。

「さて、とはいえ一つ問題がある。勇者の首輪の件だ」

 サイトは身を固くした。サイトにとってここが生きるか死ぬかの大一番だ。

「勇者の首輪が壊された。これは法律上、反逆罪として裁かねばならない。勇者の首輪を外すということは勇者としての役割の放棄を意味し、また外されるという事象が国が管理できる水準を超えたことの証明となる――そこまではサイトくん。君も分かっていたはずだ」

 男の声は淡々としている。落ち着いていて、理路整然としている。だからこそ、サイトにはこの声の主の感情が分からなかった。

「君はとうに殺されていなくてはならないはずの人間だ。だが君は逃げ出すでもなく、そしてこの王国に戻ってきている。これはどういう経緯いきさつなんだ?」

 男の問いかけに、サイトの心臓が早鐘を打つ。手に汗が滲む。

 と、背中に手が回された。筋肉が詰まった逞しい腕。タイラスの腕だ。

「大丈夫だ。このお方はむやみに君を恐れて処刑なさるような方ではない」

 タイラスの囁きに、サイトは深呼吸する。

 そして男に向かって話し出す。


「俺――私が逃げなかったのは、逃げる必要を感じなかったからです。結果として首輪が壊される事態になりましたが、私にはこのようなことはできません。なにしろ私の能力レベルは未だ2でしかない。このメルキアデス王国が管理できる段階にとどまっています」

「ふむ、その首輪が壊された経緯というのは報告書にはなかったな」

「もう一度私に首輪をつけてみればどうでしょう。そうすれば、私の言っていることが真実だとすぐにわかります」

 男はサイトの目を見て黙考する。

「…………その前に、聞いておきたいことがある」

「……なんでしょうか」

 サイトはつばを飲み込んだ。

「過程はどうあれ、君の首輪が外れたことには変わりはない。ならなぜ、君はそのとき逃げなかったのか、それを聞いておきたい」

「それは――」

 サイトは後ろを振り返った。そこにはイサナが頭を垂れている。

「こいつらが――いや、こいつと、一緒にいたいと思ってしまったんですよ」

 ここで、サイトは嘘を言いたくないと思った。だから気恥ずかしくはあったが、正直に答えたのだった。


「はっ――」

 その答えを聞いて、男は驚き、声をあげて笑った。

「ははは、はははっ、そうか。気に入ったのか。気に入ってしまったのか。ハハッ、よりにもよってそいつを。そうかそうか。それじゃあ仕方ないな!」

 男がなぜそんなにおかしそうにするのか、サイトには分からなかった。サイトは男を満足させる答えができたことに喜んだが、イサナを嗤われるようで不愉快でもあった。だが、本当にイサナのことを嗤っているのかは、その笑い方は分からなかった。むしろこのことを心の底から祝福しているようにも聞こえたのだ。


「ならば勇者サイトよ。再び首輪をつけ、王国に尽くすがいい」


 近くの騎士がサイトに近づき、首輪をかける。首輪は音声で答えた。

『能力レベルは 2 です』


 数週間ぶりに帰ってきた首輪の感触。男はその音声を聞いて良しとした。

「被告人サイトに反逆の意志はなく、また当人は未だわが国で管理するに値する未熟さを供えている。よって、勇者管理課のサザールの名のもとに、被告人の死罪は免れるものとする」

 男――サザールは笑う。

「……しかし、首輪が壊れたという事実に対して、被告人は罪を負わねばならない。そこで、勇者には新しい任務を与えよう。なに、すぐに魔王と戦って来いとは言わないさ。休暇を兼ねたお遣いだよ。今回の任務は諸外国の偵察とする。竜の谷・聖堂協会・鬼人島を巡り、動向を調査せよ」

 観覧席やサザールの横にいる貴族たち(なんのためにいるのかわからない)が不穏にざわつく。サイトにはその意味が分からない。

 ただ、ロクなものではないということだけは、分かった。

 有無を言わせぬ様子で、サザールは宣言する。

「それではこの議題は閉会!」


 サイトたちが外に出て、大講堂の扉が閉じた。


 王宮を進みながら、タイラスはサイトに訊ねた。

「お前の能力、もう少しレベルが高くなかったか?」

 サイトは彼には別に隠すようなことでもないと考えて、答えた。

「実は、レベルが下がったんです。多分、『復活の炎』の代償でしょう。『火山の魔王』がすぐに逃げていったのは、案外そのせいなんじゃないかと。残り火でもレベルが下がるんだから、大本の炎を浴びた魔王のレベルはもっと下がっているはずで、もしかしたら1まで戻っているかも――なんて、さすがにそんなことはないでしょうけど」

 冗談めかして言ったサイトだが、まさか本当に『火山の魔王』の能力レベルが1まで下がっているとは思いもしなかった。


「そんな絡繰りで処刑を免れるなんて、なかなか強運じゃないか。いや、あの戦いを生き残った時点で強運か」

「あんな戦いを毎回くぐり抜けて生き残っている人に言われると、煽りにしか聞こえませんよ」

 あのような戦いを幾度も潜り抜けているという事実から、サイトはタイラスに対して尊敬というよりは畏怖に近い感情を抱き始めていた。

(すげえよなあ、この人)

 特別な能力の一つもないというのに、あんな戦場においてなお生き延びる。しかも恒常的にだ。

 ただの人間にできたことなど、そう多くはない。だがその中でもできることを探り、行動に移してきた。その結果として、討伐には至らないまでも撃退という戦果を挙げている。

 自身の弱さを自覚しているサイトには、弱いまま敵と戦い続ける彼が眩しく見えた。

 そして同時に思う。自分のような弱い人間がこの世界を生き抜くには、これくらいできなくてはならないのだ。これくらいできるように、みんなを率いていかなくてはならない。なにしろ名前だけとはいえ、自分もこのパーティのリーダーなのだから。


 そんなサイトの憧憬を特に察することもなく、タイラスは思いついたように話題を変える。

「これからは旅の任務か。一番近いのは竜の谷だろう。龍種にとっての聖地みたいなものだ。行ってくるといい」

「ちなみにどれくらいかかるんです?」

「二か月くらいだ。……アインも旅に出ると言っていたな。ヤツとお前が目的地に着くのはだいたい同じくらいの時期になるのか」

 と、視線の先に影。眇めて見ると、ナイマンが書類を持ってタイラスを待っているようだった。

 サイトとは行き先が異なる。タイラスとはここでしばしの別れとなるだろう。

「じゃ、別の戦場で。まあ、その前に死んでるかもしれないですけども」

「なに、お前はなかなかしぶとい。生き残るだろうさ――と、言い忘れていたことがあった」

「なんだ?」

 確りと前に向きなおってタイラスが言った。


「――ありがとう。お前があの戦場にいてくれて助かった。お前は俺の、命の恩人だ」


 それだけ言うと、タイラスは颯爽と歩いていった。

 サイトはしばらく惚けていた。その間、サイトの中で様々な感情が巻き起こって嵐のようになっていたのだ。

「…………あの人、命の恩人多そうだよなあ」

 しかしそれは言葉にならず、サイトが絞り出したのは、そんなどうでもいいことだけだった。

「その割には、嬉しそうじゃないの」

 にやけ面でスライがからかう。おもちゃにされるのも嫌なので、開き直って素直になる。

「ああ、うん。まあね、うれしいさ、そりゃあ。っていうかなんでずっと黙ってたんだ?」

「あん、そりゃおめえ、空気を読んでたんだよ」

「なんの空気だよ」

「何してるの、はやくいこ?」

「ああイサナ、待てってそんなに急ぐことないだろう」


 こうして、サイトは冒険の旅へ向かう。

 ――その先に、何があるかも知らずに。


次は17時に投稿です。

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