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溶岩の雨

お待たせしました。久しぶりに3000字程度の尺です。

 スルトが溶岩の池に飛び込み、波が飛び散る。

 激震。見上げると溶岩の雨。

 頭上から赤黒い溶岩は手を広げて、俺たちを捕まえようとするみたいだ――サイトはそんなことを思いながら、あの時のことを思い出していた。

 あの山登りの時――途方もない数の燃えた岩が降り注いだあの時のこと。

 あの時もまた今と同じように、降り注ぐ危険に為す術もなく、ただ見上げて駆けまわっていることしかできなかった。


 あそこでかなりの人数が死んだ。

 あれは本当にどうしようもなかった。なにもできなかった。

 いままでの行程の中で、あれほどどうしようもないことはなかった。


 今また、それに襲われている。

 ――俺たちは、またここで死ぬのか。なにをする事もできずに。


 溶岩を耐えるには、カガリ印の鎧が必要だ。その上で衝撃に耐えなくてはならない。溶岩は液化していても岩なので重いのだ。

 だが、戦いの足かせになるからとカガリ印の鎧は脱いでしまっていた者も少なくない。

 当然だろう――カガリ印の鎧は、エレウスの前では拘束具に早変わりしてしまうのだから。


「ダイダルストリーム!」


 イサナが無詠唱の中では最強の魔法を放つ。だが溶岩は一部が固まるだけで勢いが弱まることはない。

 溶岩の熱で水が全て蒸発してしまい、蒸気で視界が分からなくなったことを踏まえればむしろ悪化したと言えるかもしれない。


「まずい――」

 イサナはカガリ印の鎧を着ていなかった。


 サイトは彼女をかばって倒れた。

 前は彼女に助けられた。今度は俺が助ける番だ――。


 自分はこの岩に耐えられないかもしれない。だがせめて彼女だけでもと願うサイトのもとに、岩まじりの溶岩が殺到した。



 …

 ……

 ………



「遅かったか――」


 スルトの内部でカルメギスは歯噛みした。

 スルトの中には溶岩のダメージは一切ない。元よりスルトは溶岩の中に保存してあったのだから当然ともいえる。どこかから空調があるのか、むしろ快適と言う他なかった。


「どうしようもないわ。こんな短時間では何も対策は打てない。気の毒だけど――」

「まあ、もともと敵だったわけだし、別に悲しむ気持ちとかは無いけどさ。それでも人が死ぬのは嫌な気分さ。願わくば、もうすこしスルトの足止めをしてほしかったところではある。あの二人だけじゃあ、能力を封じるのをやめたコレを任せるのは荷が重い」

「間に合うといいのだけれど」


 カルメギスはコードを差し込んでいた。

 ここはアスカのコンピュータが納められている部屋だ。

 スルトは元は宇宙船という側面があるため、居住エリアが存在する。そのすぐそばにコンピュータールームはある。

「次、A3をDi6ブロックの右から三番目。コネクタが特徴的だから分かりやすいでしょ」

「これでいいかい?」

「ありがとう。これで右足の改造部分に干渉できる。次は左足よ。A4を――」

 今、カルメギスがやっているのは、アスカの干渉範囲の拡張だ。改造部分にはアスカが接続されていないので、それを繋げることでスルト自身を乗っ取ってしまおうということだ。

 接続さえできてしまえば、AIであるアスカは自力でデータを読み取り必要なプログラムを生成できる。

 干渉の容易な部分から少しずつ主導権を奪い取り、コクピットを支配することができれば、スルトからエレウスを追い出すこともできる。そんなことが可能なのも、カガリの思想ゆえだろう。

 カガリはアスカをただのAIとして扱うのではなく、かなり自由意思を尊重していたのだ。

 スルトの原型になったロボットの名前もそれを象徴している。

 その名は明日香――アスカ自身が、このロボット全てを支配し身体として扱うことができることを表現していた。

「さあ、さっさとやるわよ。C6をGu9、D7をFa2に!」



 …

 ……

 ………


「……うう、生きてる。悪運が強いな」

 地面には未だコールタール状に溶岩が広がっているものの、サイトはなんとかそれに触れることなく生き延びていた。

 タイラスもナイマンをかばっていた。二人は巨木の下に逃げ込んだようだ。なるほど、たしかにそこならば危険はまだ少ないのだろう。だがその巨木は降りかかった溶岩の熱からか燃え始めていた。

 タイラスがナイマンに話しかける。

「大丈夫か? すぐに森を出るぞ。火事になりかけている」

「ええ、はい。……痛っ」

「左腕が……」

「ええ、大丈夫です。命を拾えただけ、マシと思いませんと」

 サイトからはその左腕の様子は分からなかった。火傷なのか、折れているのか、無くなってしまったのか。

 サイトは周囲を見回す。ガイウスは無事らしい。傍にいたスライも、多少の火傷を負ったくらいで済んだようだ。


「ぐっ……」

 クルツは左腕の関節あたりが折れていた。高熱に晒されたはずなのに、冷たく感じる。危険な状況であるということは分かった。

 だが、応急処置くらいで留めておく。服を破り、骨折部分を吊る。

 幸いにして、火傷の箇所はあまりなかった。クルツは鎧を付けていたのだ。

 とはいえ多少の工夫を加えている。クルツは関節部分の防具を外していた。

 これで関節以外の部分は身を守ることができるとともに、敵の拘束を無効化することができる。動けなくなるのは関節部分が硬直してしまうからだ。だから関節部分を取り外してしまえば何も問題はない。

 合体魔法をサボりつつ作業した結果、彼だけがこれをやることができていた。


「意外と生きてはいるみたいだな……それでもけが人は多い、か」

 完全に死んでしまった者は少ないようだ。ここが森に近いということで、木を溶岩への盾にするために逃げ込んだ者も少なくはなかった。とはいえそれで防ぎきれるわけではなく、骨折して呻いているものは数多くいた。溶岩の降りかかった木は重さに耐えきれずに折れたり、燃えたりしている。

 前回よりも呻き声は多かった。

 それはつまり、生存者が多いということを表していた。つまりは喜ばしき事だった。

「よし、イサナ。俺たちも移動しよう。動けない人をできるだけ手伝って……イサナ」

 自分の下にいるイサナが動く様子がないのを不審に思い、彼女を見る。


 彼女は頭から血を出して倒れていた。


「な、んで……かばったのに……」

 身体のすべてを守り切れるわけではなかった。頭をかばっても、そのすべてを守り切れるわけではない。


 イサナは運悪く、サイトがかばいきれなかった部分に、固まった溶岩がぶつかってしまったのだ。

「かばった俺が助かって……お前が……なんて……」

 それでもイサナはピクリとも動かない。サイトは彼女の身体を抱きしめた。

 そして上を見る。見えるのは巨大な黒い影。


 スルト。文明の到達点にして暴虐の限りを振るう、世界に終わりを齎すもの。


「お前が……」

 サイトの視界は憎悪で真っ赤に染まった。

「お前がこんなことをするのなら、俺はお前を許さない」

「文明の力を……剥ぎ取ってやる……」


 そのとき、サイトの目の前にテロップが表示される。


<<能力、脱衣が強化されます。強化レベル2。自身の代償が軽減されました>>


 ピッ、とサイトの首にある輪が音を立てる。サイトが強くなったことを検知したのだ。

 この首輪は勇者の証。強くなりすぎると、その首輪によって首を切られて死亡する。

 強化レベルは5が限界。そこに達すると、自動的に首輪のスキルが発動する。


<<能力、脱衣が強化されます。強化レベル3。自身の代償が無効になりました>>

 ピピッ、と音が鳴る。

<<能力、脱衣が強化されます。強化レベル4。対象が複数に選択できるようになりました>>

 ピピピッ、と音が鳴る。

<<能力、脱衣が強化されます。強化レベル5になるために、成長方針を選択してください>>


 そしてテロップは告げる。

<<――さあ、あなたは服を剥ぐことで、相手の何を剥ぎ取りますか?>>

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