プールの飛び込みにご注意ください
「別に必要もないと思って手加減していれば調子に乗って……もう、面倒くさい」
エレウスは鬱陶しそうにため息をつく。
「面倒なんで、もう一気に片付けちゃいますよ!」
溶岩に溺れていたスルトが立ち上がり、飛び出した。そしてエレウスは、今まで使わずにいた能力を解放した。
エレウスに能力を使わせるというのはマルスが課していた目標の第二段階に進んだことを意味する。
能力の使用にはSPを必要とする。エレウスは世界を滅ぼす『消えない炎』を生成するために、SPを回復させようと能力の使用を自粛していた。エレウスが能力を使用するということは、世界の寿命が少し遠のいたということを意味する。
そういう意味ではこれは相手を追い詰めたという成果ともいえた。
――それは戦闘の激化を意味するものであり、彼らの寿命を大幅に引き換えにするということでもあるのだが。
スルトの身体のあちこちから噴射口が出現する。『火山の魔王』の能力を燃料にブースターが点火。巨体が軽々と、まるでロケットのように飛ぶ。
「あの巨体で飛ぶですって!? なんて出力なの」
(そういえば、スルトの元になったロボットは、宇宙旅行のために作られたものとステータスに書いてありましたねぇ。人型に変形する宇宙船ですから、ロケットの真似事くらい出来て当然ということですかぁ)
驚愕を表情に出すナイマン。
一方でサクヤはスルトの元になったロボットの存在を知っているため、驚きつつも納得した。
「なんとかしてあいつを引きずりおろせ!」
タイラスが叫ぶが、アイリーンとマルスにだってそれくらいのことは分かっている。だからといって、どうすればいいのか二人には見当もつかなかった。
火の根元――ノズルの部分が黒甲冑の金属でないのならばアイリーン達にもやりようはあった。要は自分たちも飛んで、あのノズルを切り落としてしまえばいいのだから。
だが困ったことにノズルまで黒金属製だった。魔王幹部の三人|(四人)は光沢の具合からその金属が黒甲冑の物なのかそうでないのかくらいは見分けることができる。
「いいことを思いついてしまいました」
悪い笑みを浮かべるエレウス。
「この下は空洞で、マグマの海。そしてスルトが数度コケたくらいで落ちるようになっている。では、皆さんに問題です。ここで私がいきなり飛ぶのをやめたら、どうなるでしょうか?」
「!」
「げっ」
一斉に事態を悟る冒険者たち。
理解の遅れているサイトはエレウスの言葉を反芻した。
「ここで飛ぶのをやめたらアレが落ちてきて……俺たちの合体魔法があいつをセメント詰めに出来るってことじゃないのか?|(まあ俺だけ水魔法使えないから合体魔法には不参加なんだけど)」
「アレがあの高度から落ちれば、地面に更に大穴が空く。もしかしたら私たちが仕掛けた落とし穴の大空洞は、ここの下にもあるかもしれない。もしそうなら――私たちは溶岩の海に真っ逆さま。全滅は避けられない」
「……げっ」
イサナの補足によって事態をようやく察したサイトは、顔が真っ青にして苦悶の声をあげる。
「大空洞がここの下まで達していなかったとしても、その衝撃で溶岩が高波になって私たちの頭上に降り注ぐでしょうね」
「上は大火事、下も大火事なーんだ? って感じの状況だな……」
状況説明が済んだ瞬間にエレウスは即行動を起こした。
「さーて十、九、八、ゼロ! 燃焼終了! アッついお風呂にざぶーん!」
テンション高く、悪辣に――スルトは落下を開始した。
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