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武器庫

カルメギス戦です。

「あんたが通行止めだって言っても、アタシは押し通るだけさ」

 スライが突撃を敢行する。それに合わせて、カルメギスが盾を展開する。


 スライの双剣の一つが盾に当たると、盾が液体のようになり、双剣を飲み込んでいく。

「なに!?」

「この盾は触れた金属を吸収する。武器は効かないさね」

「ほう。それはいい盾だな。もらい受ける」

 いつのまにがガイウスまでもが突撃していた。ガイウスは素手でその盾を掴み、ひねり上げる。


「膂力があるからといって、関節技ではどうすることもできまい!」

「舐めるな!」

 ガイウスに対し、カルメギスは無理矢理に力を籠めて技が極まるのを防いだ。

「フンッ」

 スライがカルメギスを蹴り上げるも、効いた様子はない。

 ナイマンが魔法で牽制をかける。その間に二人は一度後退し、距離をとった。


「次は俺が行かせてもらう」

 それと交代するように、クルツが前に出る。

「ウォーターボール」

 クルツが水魔法をカルメギスの顔面に向けて放つ。カルメギスは怯む様子さえもなく喰らった。無傷だ。

「そんな攻撃が」

「通じるはずだ」

 ウォーターボールはただの目くらましに過ぎない。クルツはカルメギスの鎧の隙間――最も装備の薄い部分にナイフを突きたてた。

 紫の光がバタフライナイフ・カースドから放たれる。それはこのナイフが性能を発揮した証だ。

「――<必殺>か。そのナイフ、珍しいスキルを持っているな」

 だが、カルメギスは生きている。

「悪いが、そんな危険な効果を放置しておくわけがないだろう。黒甲冑は四属性魔法や状態異常だけでなく、即死にも無効を持っている。スキルは効かないと思っていただこう」

 クルツは舌打ちして後退する。ナイフは手に持ったままだ。

 ガイウスがぼやいた。

「やれやれ、武器を取られただけで終わってしまったぞ」

「スライ、俺の剣を使え」

「助かる」

 サイトがスライに剣を投げてよこす。長さに差ができてしまったが、無いよりはいい。

 サイトが丸腰になるが、元々県の扱いが上手くないサイトに持たせておくよりは百倍ましだ。


「武器もマズいが、何よりもあの黒甲冑が厄介だな」

「『火山の魔王』は火の能力の使い手なんだろ? 鍛冶が得意って言ったってあんなにやたらと武器にスキルを込めるなんてことがどうしてできるんだよ」

「付与武器作成は錬金魔法の極致だと言われています。天才が一生涯を通して漸くたどり着ける境地です」

「あんな若造に達成できるものではないはずなんだがな」

 疑問に思うサイトたちに、カルメギスが鷹揚に答えた。

「やれやれ、『火山の魔王』が使える能力が火だけだなんて、誰が言ったさね」

「!」

「『火山の魔王』が使う能力は確かに火さ。だけど、火ってなんだろうね。どこまでが火で、どこまでが火じゃないんだろうね……カガリが使うのは『火の概念』。火というものが暗喩・象徴するものすべてがその対象さ」

「つまり……」

「人類を人類たらしめる要素の一つ――それは道具を使うということさ。そして人類が最初に使った道具は火だったといわれている、らしい。カガリからの請け合いだけどね。要するに火とは、文明の象徴なのさ。文明は人類が持つ力のこと。だから、|能力と加護(ヒトでないものから与えられたモノ)意外――人類が自ら得る力ならばなんでも扱えるのさ。それがこの世界の力でも、異世界の力でも、過去に失われたものでも、未来に掴むものでも」

「そんなんアリかよ! チートじゃねーか!」

「チートさ。だって能力って、魔王ってそういうものだろう?」

 カルメギスが放った言葉は、端的なものだった。


「人類の力では『火山の魔王』には勝てない――力の総量が、人類そのものの可能性を上回るからさ」


「……っ」

 サイトは戦慄した。ガイウスが唸るのを聞く。ナイマンが息を呑む。

 ようやく理解したのだ。自分たちが立ち向かっている敵の強大さに。

「そんなのが……」

 そんなものが能力ならば、自分の能力はなんだというのだ。

 ただの脱衣が、なんの役に立つというのだ。


 呑まれている中で、クルツだけは泰然自若としている。

「関係ない。殺さねばならぬものを殺す、敵がどれほど強かろうがそれだけは変わらない」

 クルツがナイフを強く握る。柄の棘がクルツを傷つけ、血が噴水のように噴き出す。

 そしてその血をナイフが吸い上げる。

 この呪われたバタフライナイフには血を吸うことで性能を高める力がある。

 ナイフの速度と強度が上昇した。威力はともかく、カルメギスの攻撃にギリギリ対応できる程度にはなった。

 だがそれのみを以てカルメギスに相対するのは難しい。だが。

「それに、こちらにはお前に対して相性が極めて高いヤツがいる。そうだろう、サイト」

「え?」

 クルツはチラリとサイトを見て、飛び出していく。

 サイトはクルツの残した言葉の意味を考えた。ナイマンは発想を転換し、その真意をすぐに理解した。


「無駄さ!」

 剣を合わせるカルメギスに、クルツはただ答える。

「魔王に立ち向かうなど人の身では所詮は無駄と知りながら、それでもここまで来た俺たちを舐めるなよ」


「くっ」

 気圧されたのか、カルメギスは一歩後退する。だがそれも一瞬のこと。

「なんだい。絶望的な状況に抗っているのが自分たちだけみたいに……理不尽と戦っているのが、あんたらだけだと思うなよ、わたしらだってなあ!」

 剣圧により、颶風が巻き起こる。今度はクルツが後退する番だった。

「あたしらだって必死なんだ。これまでだっていつ誰に殺されるんじゃないかと気が気じゃなかった。今だって、カガリが堕ちてしまうんだ。楽な気持ちでなどいられるものか。必死で抗って、出した結論がこれなんだよ!」


「ようやくお前の心を裸に剥けたか。あとはその身体を守っている服を剥ぐだけだ」

 クルツはそう言った。カルメギスに向けての言葉ではなかった。


「カガリの意識がもう少ししか残っていないんだ……最期に夢くらい、叶えさせてやってくれよ」

「それはできません」

 カルメギスの悲痛な願いに、それでもナイマンは切り捨てる。

「意識が消えかけているということは、『堕落』が最終段階まで来ているということです。そんなことを許すわけにはいかない」


「カガリのいない世界なんかに意味はない……」

「あなたには無くても、私たちは生きなくてはならないのです。あなたの自殺に付き合う義理はない」


 瞬間。

 カルメギスの黒甲冑はバラバラに分解され地に落ちた。

 同時に、サイトの鎧衣服も全て無くなる。

「ごめんよ。悪いけど、君と心中してやれるほど俺、君のこと好きじゃないから」


 サイトがカルメギスに対して能力を使ったのだ。それによりサイトもカルメギスも装備を解かれ、裸になる。

 それだけで、力の差が一気に逆転した。


「ううううううーーーーー!!!!」

 最後の力を振り絞るかのように、カルメギスは剣を振るう。

 装備を落とされても、手に持った武器は落とせないのだ。

 だがその斬撃もスライの二刀によって抑え込まれる。スライの剣術の得意とすることは、大きな力をその双剣でいなすこと。衝撃を生む剣圧も、散らされて無力化する。

 そして飛び込んできたガイウスに取り押さえられ、クルツのナイフが頭蓋に突き刺さる。


 そしてカルメギスは死――ななかった。

「え?」

 ナイフは肌を裂いているも、頭蓋を砕くには至っていない。それでもこのナイフは必殺能力によってクルツ以上に強い存在を死に至らしめるはずだった。

 だがナイフは紫の光を生むことなく、ただ少量の血液を飲んでいるに過ぎなかった。

「<<必殺>>が発動しない。装備のスペックや取り扱いには長けていても、素の力はないのだろう。裸のこいつはもう魔王幹部でもなんでもなく、ただの恋焦がれる少女に過ぎない」

 ガイウスが抑え込みをやめる。カルメギスはぺたんと力なく座り込んだ。その両親指は縛られていて、身動きが取れないようになっている。ガイウスはでかい図体をした豪快な性格のおっさんのくせに小器用なところがあるのだ。裸のカルメギスにナイマンがマントだけは投げてかけてやる。


「あっち、熱、熱い! カガリ印が無いとこここんなに暑いのかよ!」

 サイトが一人で騒ぎながら、装備を付け直していた。


 クルツがナイフを仕舞う。ナイマンに急かされ、ガイウスもスライも奥へ進もうとする。


「殺さないのかい、私を」

 カルメギスの言葉に、あくまで冷淡にナイマンが答える。

「その暇も惜しいのです。事態は逼迫しています。さあ早く速く、行きますよ」「はいはいあねさん。意識消えかけはマジで急がないとまずいですからね」

「戦利品にこの盾貰ってくぜ。自前のは壊れちまったからよ。金属吸収か。へへ、いい盾だ」

 そのままナイマン・ガイウス・スライも走って行ってしまう。


「おーい置いていくなよまったく」

 今回の戦いの一番の功労者のサイトが装備を付け直しながら愚痴を言う。まだフルチンだった。


「決着はついた。それに……」

 クルツはカルメギスに振り向いた。その顔には一瞬、別の人間の顔が映る。

は、弱いやつを殺すような趣味はないんだ」

 そのままクルツも走り出す。


 サイトは文句を言いつつも準備を整えながら、カルメギスに言った。

「これから先どうすればいいかは、君が決めなよ。でも」

 サイトは甲冑を着け終わって、胸に両手をこすりながら

「過去ばっかり見ているより、未来を見た方がいいんじゃないの? カガリってやつのことよく知らないけど、この装備は本当にいいもんだよね。この装備に身を包んでいるとどこか安心できるんだ。ただの道具なのに、不思議だよね。こんな装備を作れる奴は、絶対に優しいやつだ。そう思う。だからカガリは、君に悲しい顔させたくないと思うよ、勝手な解釈だけど。ま、これからも頑張ってね」

 サイトは全部の装備を付け終えた。


 そしてこれだけ告げて駆け出す。

「さて、俺はこの勝手な解釈が正解か見てくるよ」

PV1000を超えました。ユニークも450人を突破。皆さま、読んでくれてありがとうございます。


暇だったら、感想も書いてくれるとありがたいです。一言だけでもいいので。

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