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偽装貨物船「名無しの権兵衛」号

掲載日:2016/04/18

大平洋戦争において、日本本土と南方資源地帯を結ぶ海上通商路の保持は重要であった。


日本本土に立派な工場があっても、船で資源を運び込めなければ意味が無いからだ。


しかし、そのための商船の護衛に海軍は無関心か、関心があっても、人員・装備・予算の制約から護衛は不充分であった。


それに対して、ある船会社が行った「名無しの権兵衛」号について、筆者は取り上げることにした。


「名無しの権兵衛」号は、この船の正式な船名ではないのだが、この船名の方が有名なので、ここでも、そう呼ぶことにする。


「名無しの権兵衛」号は、大型貨物船で、資源輸送のため日本本土と南方資源地帯を往復していた。



軍がまともに護衛を付けてくれないのが、「名無しの権兵衛」号を保有する船会社にとっての悩みであった。


小さな船会社であったので、大型貨物船一隻を失えば、倒産確実であった。


船会社では、損失を避けるために色々と考えた。


ハリネズミのように武装したとしても、米軍から本格的な攻撃をされたらお終いである。


それで、発想の転換で、日本以外の外国の商船に偽装することを思いついたのだった。


まずは、中立国の船に偽装することにした。


中立国の旗を手に入れて、船に掲げた。


日本に居住している中立国の人間から、その国の言葉を習い、できれば、表向きだけの「船長」として雇い入れた。


航海日誌等の船にある書類も中立国の物に偽装し、船名も中立国でありえる名前に頻繁に変えた。


乗組員のほとんどは日本人だが、海外で出稼ぎしている中国人に偽装した。


そうすることで、連合国による海上での臨検を切り抜けたのだった。


国際法に違反しているため、中立国に偽装している船は、この一隻だけで、海軍軍人たちや船員たちの間でも、この船のことを知るのはごく一部であった。


しかし、噂は流れて、船名が頻繁に変わるため、「名無しの権兵衛」号と呼ばれるようになった。


何度も綱渡りをするような思いをしながら、「名無しの権兵衛」号は、日本本土に資源を運び続けた。


わずか一隻の貨物船が運べる量は、日本全体が必要とする量からすれば、水一滴にもならないかもしれないが、危険を冒して使命を果たし続けた。


戦局が日本にとって悪化するにつれて、中立国に偽装するのも難しくなってきた。


ついには、敵である連合国の船への偽装までした。


もちろん、完全な国際法違反である。


主に中華民国の船に偽装した。


戦争末期には、アメリカ合衆国の船にまで偽装することまでした。


日本近海に向かうアメリカの輸送船団に、大胆にも紛れ込むようなことまでしたのだ。


大平洋戦争が終結し、連合軍により日本占領が始まると、占領軍は「名無しの権兵衛」号の調査を始めた。


連合軍内部では、「名無しの権兵衛」号は、英語で同じ意味になる「ジョン・ドゥ」号として知られていたのだ。


「名無しの権兵衛」号が戦時中にしたことは、明らかに国際法違反であり、連合軍は関係者を戦争犯罪人として逮捕するつもりであった。


しかし、調査は困難を極めた。


「名無しの権兵衛」号を所有していた船会社は、終戦の日である1945年8月15日に解散して清算していて、会社その物が無くなっていた。


経営陣は、社長以下全員が行方不明であり、役所にあった彼らの戸籍は空襲により焼失していたため、生死すら不明であった。


「名無しの権兵衛」号は、会社が解散した時に、他の船会社に売却されており、その後は何度も転売されていて、追跡調査は困難であった。


しかし、連合軍は執念で突き止めた。


だが、発見した「名無しの権兵衛」号は、空襲により大破しており、スクラップとして処理されるところであった。


アメリカ軍は、わざわざ大破していた「名無し権兵衛」号を曳航可能なまでに修理して、アメリカ本土に回航しようとした。


その目的は、アメリカ国民の前で「晒し者」にすることであった。


米海軍の軍艦に曳航される途中、大波により転覆して「名無しの権兵衛」号は沈没してしまった。


ここで、「名無しの権兵衛」号は生涯を終えた……ということになっているが、真実は違う。


沈没した「名無しの権兵衛」号は、替え玉であった。


建造中だった同型船で、資材不足により工事が中断していたのを身代わりにしたのだった。


本物の「名無しの権兵衛」号は、連合軍の調査から隠し通すことに成功したのだ。


朝鮮戦争の発生により、戦犯への追求が緩くなると、解散した船会社の経営陣は戸籍を復活させて、新しい船会社を設立した。


「名無しの権兵衛」号は、また改名して貨物船として活動するようになり、米軍向けの物資を輸送したりもした。


日本の戦後復興期と高度経済成長期に活躍した「名無しの権兵衛」号も昭和40年代には老朽化により、廃船し、スクラップにされた。


これで、「名無しの権兵衛」号は本当に生涯を終えた……、のだが、また改名して、どこかの海で活躍しているんじゃないかと、筆者は空想することがある。

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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん。 読んで良かった満足。
[一言] 船の名前は厶ヨレコ丸がいいんじゃないかなと
[一言]  この度も、参加ありがとうございます。そして、確かに今もどこかを走っていそうですね。名無しの権兵衛号。それから、英語名を見てあの人を思い浮かべてしまいました。
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