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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ハイタッチとかのテンション

 



「じゃあまた、ライハさん」


「うん! 待ってるよ~」



 拝啓、チカチカさん。

 ファンタジー生活初の女性のお友達ができました。この感じ、地球ぶりです。敬具……? かし……こ?

 ……知らん。



「スヴィさんも。忙しくなるだろうから今のうちにしっかり休んでね」


「凄い自信ですね。ふふ、しっかり準備しておきますから」


「おじさんおばさんも、これからよろしくお願いします」


「こちらそこよろしくね。うちの店を選んでもらってありがとうね」



 手を振りながら店を後にする。

 なにこの充実感。お店に来ていたお客さんにも、たくさんの人と一緒に飲むようお願いしてサンプルを渡したので口コミ効果もさらに期待できそうだ。



「うふふ、友達が出来ました~。1件目はうまくいきましたね。次は市場のミュリナさん達の所に行きますね~」



 さっきからぶつぶつと茶葉の売り文句を繰り返しているアルバートさんに話しかける。



「……あ、はい! そうですね! でもあの美味しさなら当然です! ライハはずけずけものを言いますが悪い奴ではないですので……!」


「アルバートさん、声が大きくなっちゃってます」


「あ! いてっ、あ! 申しわ! ……けありません……」



 忙しいな。



「キイロは私の肩でボディガートをお願いね。離れちゃダメな設定だからね」


 アルバートさんの頭にいるであろうキイロにこっそり話しかける。



「それで、残りのお店はどうしましょうかね」



 話を逸らすべく現時点での問題点を話し合う事に。



「3人で食事をしたお店と、腰ベルトをもらったお店にも商品を置かせてもらいたいんですが……印がね~」



 あの時は顔に他国民の印をつけていなかったのでクダヤの住人と思われていることだろう。

 しかも、白フワの金粉もかかっていなかったのでばっちり顔を覚えられていると考えた方がいい。



「ひとまず今回は2つの店だけで……。しかし、今後ヤマ……チカさんが店を持つとなれば知られる可能性は無いとは言い切れませんので……」


「ですよねー」



 売り上げが見込めそうなら建てるという話にはなっているが、もう自分のお店を持つ事になると考えて事にあたった方が色々とスムーズにいきそうだ。

 物語の主人公の中には、目立ちたくないなんて言う割には目立つ事しかしていない人がいるのはなんでだろうと疑問に思う事があったが、こういう事だったのかと少し納得してしまう。

 行き当たりばったりやってたらこうなりました、が正しいのかもしれない。



「はじめに他国民として認識されていたらね~。後で聞かれても住民になる事ができたんですーですんなりいったんですけどね~」


「…………」


「待ちきれなくて街に無断侵入しちゃったつけが回ってきましたね~」


「…………」



 アルバートさん、君が何か言おうと苦心しているのはわかっている。手が不自然に動いているのは知ってるんだ。

 でも何も言わなくていい、ただ話を聞いてくれるだけでいいんだ。



「用意してもらった身分証もねー、使いどころがねー」



 口調も完全に友達とカフェでお茶をしている時のあれ。



「――もう住民にしてもらいますか~、サンリエルさんにおねだりして。身分証はもう持ってますけどね」



 考えるのが面倒になった結果、ねだるという結論。

 ミュリナさん夫婦の時は止めたのに自分の事になるとゆるい御使いのわたくし。

 人に厳しく自分に甘いダメ人間のパターンそのもの。



「まあ、問題が起きたらその時考えましょう」


「はい……! 私達も尽力させていただきますので……!」



 起こってもいない問題で悩む必要は無し。なんとかなるなんとかなる。

 というか今さらだが、金粉ってサンリエルさん以外に意味があるんだろうか。昨日今日と会った人達にはまた会う事になるし……。

 ま、いっか。全部うまくやれるんだったら私は<地球>さんに選ばれなかっただろうし。適当でいいや。












「――ミュリナさん達いましたね。さて、売り込みますか」


「は、はい!」



 今日も朝早くから市場は賑やかだ。

 この時間でこの賑わいなんだから、そりゃあ昼過ぎに来て場所が空いているわけはないな。



「――おはようございます。昨日お世話になった、ユラーハンからカリプスを売りに来たヤマチカです」



 金粉の効果でどなたですか状態にならない様にしっかりと名を名乗る。



「あら、おはよう!」

「おはよう」



 良かった。2人は自然に挨拶を返してくれた。



「昨日はありがとうございました。あの、ひょんな事から新しい商品を売る事になりまして……。ご迷惑でなければその事で少しお話をする時間を頂ければ。込み入った話になるので話を聞かれないようにする必要があるのですが……」



 隣で商売をしている人達に聞かれないよう小声で伝えると、お2人は顔を見合わせて不思議そうにしていた。

 そうだよね、いきなり商売の話を持ち出すなんて地球でも怪しい奴だもんね。



「……アレクシスの弟のアルバートと申します。いつも姉がお世話になっています……。今回の話には私の家族も関わっていまして……」



 お、ナイスタイミングだぞ。



「じゃああなたが拝謁許可を得ているアルバートさんなの?」



 ミュリナさんが食い付いてきた。しめしめ――なんて言う日が来るとは……。



「は、はい。そうです……」



 もっと自信をもって! いや、自信ありげにされても鼻につくな。難しいところだ。

 アルバートさんはこのままでいいのかもしれない。



「うわ~、光栄だわ。私はミュリナよ」

「夫のジョゼフです。いつもアレクシスさんから話は聞いてるよ、自慢の弟だって」


「は、はあ……」



 そわそわと落ち着かない様子を見せるアルバートさん。褒められ慣れていないとこうなるっていう良い見本だな。



「アレクシスさん達も関わっているのね?」


「はい、あの……ここでは聞かれてしますので名前を出せませんが、城の関係者も……」



 おお~。お客を引き込むトーク。



「……まあ」


 そう言ってミュリナさんがジョゼフさんを見ると、ジョゼフさんは頷いてテントのようなものを設置し始めた。

 すると前の部分が開いているテントのような状態になった。



「雨が降ってきたりするとこれで凌いだりするんだ。さあ中に入って。ミュリナ、僕はお客さんの対応をするから話を聞いてくれるかい? 声はここにいても聞こえるとは思うけどね」


「わかったわ。お2人ともこちらからどうぞ」



 お礼を言い、テント内のスペースに移動する事に。

 少し離れた場所でいつの間にかフードを被ったカセルさんもこちらを見ていたので、ミュリナさんに伝えて中に入れてもらう。

 スタイルが良いとフード姿も様になるな。怪しさしかないけど。



「少し狭いけど……」


「いえ、お時間を割いてもらってありがとうございます」

「ありがとうございます。突然すみません、私、アルバートと同じ拝謁許可を得ています“風”のカセルと申します」

「一緒に御使い様にお会いしています」



 拝謁許可を得ている2人が揃っている事にミュリナさん達は驚いていた。



「今回の件にカセルさんも関わっているのですが、目立ってしまいますので少し離れてついてきてもらったんです」


「確かにカセルさんは人目を引いてしまうね」

「確かにそうね……。御使い様にお会いできる2人が関わっている新しい商品って……?」


「はい、昨日なんですが――」



 そこで茶葉を売り出す事になったいきさつを説明する。

 ジョゼフさんもサンリエルさんの名前が出た時は思わずこちらを振り返っていた。変な人だけど領主様だもんな。






「――それで領主様自ら売り出す事を提案されたのね。そんなに美味しいのね~」


 ふぅ、とミュリナさんは感嘆の息を漏らす。

 1番驚くであろうお願い事はお茶を飲みながらリラックスした状態で伝えよう。



「試飲してもらおうと思い持って来たんです。味を確認して納得の上で、少しの間商品として置かせてもらおうと考えていまして」


「あ、あの、その際は試飲用とお礼として2つ無料で差し上げますので……」



 いいぞ、アルバートさん。



「そうそうたる面々が認めた味なら間違いないんでしょうけど……、せっかくだから頂いていいかしら?」


「ありがとうございます」



 ライハさんに水筒に入れてもらった少し冷ましたお茶をコップに注いで渡す。



「冷まして飲んでも美味しいんですよ~」


 そう言いながらジョゼフさんにも手渡すカセルさんはテレビショッピングの販売員としてもやっていけそう。イケメン販売員として奥様達から絶大な人気を誇りそうだわ。





「とっても美味しいわね……!」

「皆さんが売り出すよう勧めるはずだよ」



 ひと口飲んだお2人はライハさん達と同じような反応を返してくれた。

 これほどまでに飲んだ人全員が美味しいと感じるという事は、御使い要素が無くても万人受けする美味しいお茶という事だ。

 これは大ヒットの予感。



「ありがとうございます。あのーそれでですね、まだ未確定な話なんですが……まあ限りなく確定に近い話ではあるんですが……」



 どうしても歯切れが悪くなってしまう。

 御使いとしてはもう確実に店主になるのはわかっているがその辺の事情は説明できないしな。



「あのお、売り上げが見込めそうなら……、あくまでも売り上げが見込めそうならの話ですよ?」



 しつこい前置き。



「領主様が私の店を建てる……なんて事を仰いましてね」



 ほら、ミュリナさんもジョゼフさんまでポカンじゃん。



「御使い様に献上できる程の良い商品を扱っている商人を他国にとられないようにですね。特例中の特例になりますけど。一族の人間はエスクベル様と御使い様の事となると驚くような行動をとっちゃうんですよね~」



 ほがらかに笑いながらフォローをいれてくれたカセルさん。驚くような行動をとっている自覚があったのか……。

 でもありがたい。



「――すごいわ! あっ……ごめんなさい……。でも本当にすごい……!」


 小声ながらも手を握ってまるで自分の事のように喜んでくれているミュリナさん。もちろんジョゼフさんも。

 昨日知り合ったばかりの他国民の事でここまで喜べるなんて凄いな。



「……ありがとうございます。ですが、クダヤに店を建ててもらったとしても私はユラーハンに住んでいますので管理ができないんです」


「――クダヤに住む事は考えていないの?」


「……そうですね、お世話になっている知り合いの方達がユラーハンにいるので。今後はどうなるかわかりませんが今のところクダヤに移り住む事は考えていないんです」


「そうなの、それは残念ね……。お店は断れないの?」


「あ、それなんですが領主様がそれはもう乗り気でして。ヤマチカさんがいない間は別の人に店を管理してもらおうという話になりました」



 よし、舞台は整った。でもこれで2人に申し出を断られたらどうしよう。



「そうなんですよね~。それで私がいない間のお店の責任者をジョゼフさんとミュリナさんにお願いできないかと。もちろん店で今まで通りの商売を続けてもらって構いませんので……。ある意味お2人のお店とも言えますね」



 そっと窺う様にミュリナさんを見ると、口を開けたまま動きを止めていた。

 そしてジョゼフさんは口からお茶をこぼしていた――。



「あの、ジョゼフさんお茶が……」



 この街の人って驚くとお茶をこぼすのがデフォなんだろうか。



「……あ! いや、思いもしな「いたっ! ……痛い! お腹が……あなた……! 赤ちゃんが……うま……」



 ジョゼフさんが恥ずかしそうに口元を拭いていると突然、ミュリナさんがお腹を押さえて痛みを訴え始めた。

 おろおろしだす男性陣、プラス御使い。






 え、え!? 今のショックで!? ちょ、まじ!? 産まれんの!? 

 え? 私のせい!? 









 まままままじか……!








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