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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録27:休みをもらいたい

 




「――色々とお世話になりました。ではサンリエルさんさようなら、時間が合えば食事をしましょう。被り物は今日じゃなくても大丈夫ですので」



 領主様がじっと見つめているにもかかわらず、さっと歩き出したヤマ様。

 慌てて後ろをついて行き、そっと後ろを振り返るとまだ領主様がこちらを見ていた。うわあ……。



「はじめに幼馴染のライハさんのお店に行くんですよね?」


「はい。昨日ヤマ様がお渡ししたカリプスを買い取る約束もしていますので。あと、食事代を払っていません」



 笑いながら言う事じゃないぞ。



「また島から持ってきますけど」


「ありがとうございます。でもいくらあっても嬉しいものでして。な? アルバート」



 急に話を振られて動揺する。



「は、はい」


「お前な~、今日は俺が話す担当じゃないんだからしっかりしろよ~」



 背中をばしばし叩いてくるカセル。痛い。



「お兄さんが言ってましたね、商品の売りをまとめておくって」





 その後ライハの店に向かいながら練習として、ヤマ様とお互いに商品の売り込みをし合うという謎の状況に陥った。

 カセルは離れて後ろからついてきているので、自分の力を振り絞って立ち向かわないといけなかった。

 俺が何か言うたび、ヤマ様は子供を見るような目で優しく微笑んでいたので泣きたくなった。

 そしてヤマ様の方が何倍も説明が上手だった。









「おはようございます……」



 ライハの店に到着し、混み合っていないのを確認してから店内に入る。ヤマ様と一緒なのにやんわり「帰れ」なんて言われたら大変だ。



「アルバート! 昨日のカリプスって――」



 さっそくうるさいライハ。よりによってなんで今日もいるんだよ。



「それはカセルに言ってくれよ。もうすぐ来るから」


「何? あんた達別々に――あれ? 昨日の?」


「昨日はありがとうございました」



 俺の後ろにいたヤマ様に気付いたライハ。



「え? アルバートと一緒に来たの? え? ――スヴィ! おかーさん! おとーさん! アルバートが女の子連れてきた!」


「はあ!? おい! お前何を言って……!」



 ライハは大声で叫びながら店の奥に消えてしまい、数人の客の好奇な視線とヤマ様の驚いたような視線に挟まれている俺。何でこうなるんだよ……! まだ何もしていないぞ!



「――ライハは相変わらずうるせーな」



 ようやく店内に入ってきたカセル。



「遅い……!」



 完全な八つ当たりだ。



「どうせ厨房にいるんだろ? ちょっと行ってくるよ」



 カセルがまるで自分の家のように店の奥に進もうとしたところでライハが戻ってきた。

 ……家族全員を連れて。



「ほんとだ……。お姉ちゃんの勘違いじゃなかった」

「まあまあまあ」

「好きな物食べてけ。お祝いだ」



 人の良さそうな顔をしたおじさんとおばさんまで……。店内にはまだお客さんもいるのに。



「あの「アルバートと知り合いだったの? どこが良かったの?」


 俺の言葉を遮る失礼なライハ。



「あのカリプスすごく美味しくてびっくりした!」



 話が変わりすぎだ。ヤマ様はまだ何もお答えしてないぞ。



「おい、全部俺が買い取るって言っただろ」


「カセルに味見として出した残りを食べたのよ。美味しかった~! でも貰いものを売るっていうのもね~。ねえ、もう全部売れちゃった?」


「あ、はい。すみません」



 ヤマ様が少し戸惑っているのがわかる。



「残りはアレクシスが全部買ったんだよ。で、御使い様に献上される事になった」


「アレクシス姉様が? さすが! 見る目があるわ~」


「アルバートさん、全部アレクシスさんのおかげですね。感謝しないと」



 この姉妹はほんとに……。



「その縁で昨日アルバートの家に泊まったんだよ。今日はヤマチカさんの商売の話があって、俺達はその付き添い。おじさん、残念ながらお祝いはまだまだ先の話になりそうですよ」



 おい! なんだその言い草は。



「そうか……。まだ若いからな」

「アルバート、今からでも大丈夫だからね。おばさんは応援してるからね」



 なんで俺が慰められているんだ。

 ヤマ様も慰めるようにこちらに向かって頷いているし……。



「昨日はちゃんと泊まれたんだね! 良かった~。後で見に行ったらもういなくなってたから気になってたんだ」


「はい。ライハさんがあの方達に声を掛けてくれたおかげです。たまたまアレクシスさんと知り合いだったみたいで」


「そうなの? うわ~ついてたね!」



 盛り上がっている女性達。なんでヤマ様はライハとそんなにうまく話せるんだ? 先程は戸惑われていたのに……。同じ女性同士だからか?

 スヴィとおばさんも楽しそうに会話に加わっているし。



「楽しそうなところすみません。おじさん、商売の話をしてもいいですか? あ、これ昨日の食事代とカリプス代です。3つくらいありましたよね?」



 カセルがいなかったらと思うと恐ろしい。俺なら延々と話を聞かされるだけで何もできなかっただろう。



「こんなに……?」


「そうなんですよ~。あのカリプスが1つ銀貨1枚でして」


「え~!?」



 今日1番のライハの大声。



「“理”のローザが決めた適正な価格ですから安心してください」


「何だって? “理”のローザが銀貨1枚と言ったのか?」



 店内にいたお客さんも話に加わってきてしまった。



「そうです。気まぐれなカリプスですが、このヤマチカさんの農地では定期的に美味しいカリプスが収穫できるそうです。今後街で貢物として買い取る話も出ているので、もしかしたらもう出回らないかもしれませんね」


「そうなのか……。すごいなお嬢ちゃん」



 お嬢ちゃん呼びにこっちはひやひやしているが、ヤマ様は笑顔のままなので大丈夫なんだろう。



「それだけじゃないんです。ヤマチカさんが組み合わせた茶葉も、“理”のローザが定期的に買い取る事になっています」


「茶葉?」



 本気でこいつは凄いと思う。周りの人間も巻き込んでヤマ様の茶葉を自然に売り込む流れになっている。



「ヤマチカさん独自の組み合わせでとても美味しいんです。――ね?」


「今回お試しで持ってきたので良かったら試飲して頂けないかと。味に満足していただいた上で、もしご迷惑でなければなんですが……こちらで期間限定で売り物として置かせていただきたいと考えています」



 2人はぴったりと息が合っている。

 俺とヤマ様ではこうはいかないだろう。俺が足手まといだな。



「ローザおばあ様が? ――ねえ、さっそく試してみていい?」



 ライハがすぐに飛びつき、店内のお客も含めた即席の試飲会が開催される事になった。







「――なにこれすっごく美味しい!」

「……とても美味しいです」



 ライハとスヴィの感想を皮切りに次々と美味しいという言葉が飛び交う。



「いや驚いた。これほど美味しいとは……」


「お嬢ちゃん、これは売れるぞ!」


「いっ……!」



 咄嗟に声を抑えた俺は良くやったと思う。

 客の男性がヤマ様に興奮して近寄った瞬間、頭をなにかに掴まれたような痛みを感じたのだ。



「――――すみません」



 こっそりとヤマ様に言われた言葉で守役様が関係している事がわかった。

 つつかれる可能性が減り安心していたが、より痛くなる可能性が増えた。





「おじさん、どうですか?」


「この美味しさなら確実に売れるね。これはいくらで売る予定なんだい?」


「昨日この街の領主様にお会いして――献上するカリプスを届けに行った時なんですが――既存の商人さんと共存するために高めの金額設定をするように言われましたので、茶葉だけの場合は銅貨3枚です。容器の大きさはこのくらいです」



 さすがは御使い様、うまく領主様の名前を出してきた。



「なるほどね~。高いけど贅沢したい時にはぴったり!」



 ヤマ様が昨日の打ち合わせで仰っていた「たまの贅沢、自分にご褒美をあげる時に出せる値段」という話と見事に合致している。女性に売れる商品にしたいとも仰っていた。



「茶葉の入れ物も独自の物を作る予定ですので、手土産や何かのお祝いの贈り物として買ってもらえれば嬉しいですね。その場合は銅貨4枚になります」


「もし店に置いてもらえるようなら、店には試飲用とお礼として2つを無料で差し上げる予定ですよ~」


「それに加え茶葉の購入で店にきたお客さんが少し食事をしていく、お店の名前がより知れ渡るといった相乗効果も狙っています。今でもとても繁盛しているので必要ないかもしれませんが……」



 長年商売をしてきた仲間のようなヤマ様とカセル。

 俺もこのやり取りをしっかり自分のものにしないといけない。



「ぜひともうちで取り扱わせてもらいたいな。店で飲み物として出してもいい。スヴィは忙しくなるだろうけど……」


「……人を新しく雇ってもいいかもしれない。これで女性のお客さんをもっと増やせるね。お店も大きく出来るよ、お父さん」



 意外とやり手なスヴィ。そうだよな、将来はスヴィが店を継ぐしな。



「――ちょっとアルバート」



 ヤマ様とカセルがおじさんと商品の受け渡しについて話しているのを聞いていると、そっとライハに腕を引かれて奥に連れて行かれた。





「なんだよ」


「ねえ、あの子ってカセルに興味が無いみたいなんだけど……。変わってる子なの?」



 とてつもなく失礼な事を言い始めた幼馴染。



「おま……! 普通の女性だよ!」


「なんで怒ってんの? え? 好きなの? やっぱり? アルバートじゃ無理じゃない?」



 話が飛躍し過ぎだし物凄く失礼な奴。



「違う……! それに陰でこそこそ言うのは良くないだろ……」



 会話は守役様に筒抜けなんだぞと叫びたい。



「あ! そうだよね! じゃあちょっとヤマチカさんに直接聞いて来よう」


「は?」



 予想もつかない事を言い出したライハに一瞬行動が遅れた。

 慌てて後を追って戻ると、もうライハはヤマ様に話しかけていた。



「ねえ、カセルに興味ないの? なんで?」



 ああああ……!

 しかし、はじめは驚いた様子のヤマ様だったが笑顔でライハと話し始めた。

 そしてスヴィとおばさん、更には客数人も加わり、何故か好みの異性談議に花を咲かせていた。

 もう何が何だかわからない。






「楽しそうだな~」

「そうだな……」



 カセルは目の前で「一族じゃなかったら無いわ~」とか「性格が……」とあの姉妹に言われていた。

 もちろん俺も姉妹にさんざんな事を言われていた。褒められるところもあったので偽りのない気持ちなんだろうが……、目の前はやめろ。








 そして、期せずしてヤマ様は地の一族の容姿と美人が好きという何とも言えない知識を得てしまった。

 これは御使い様の秘密に相当するんじゃないだろうか……。

 どうか守役様のお怒りをかいませんように。







次回視点戻ります。

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