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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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弟子入り

 




「――そうそう、その持ち方の立ち回りから色々と派生させていくの」


「それにしても小さいけれどとてもいい短剣ね……。使ってなかったとはいえ手入れもせずにこの状態はすごいわ」


「ヤマチカさんの手に持ち手がもっと合えばいいんだけど。やはり武器ではなく装飾品としての短剣のようですね」





「あの~そろそろいいですかね~?」





 もはや恒例となったこのやり取り。

 しかも、家の玄関の前で警護の人達も含めた大勢にへっぴり腰稽古を見られている。ある種の罰ゲームである。



「今教えたのは基本ね。船でユラーハンに向かうなら陸路ほどの心配はないでしょうから続きはまた今度ね」


「ヤマチカさん、毎日継続する事で高みに近付いて行きますからね」


「走り込みは動きながら長く戦えるようになるからおすすめよ」


「はい、ありがとうございました!」



 師匠ズに体育会系の挨拶をする。



「証文は無くさない様にね。負担にならない程度にまた元気な姿を見せに来てね」



 がってん、アレクシス親分。



「また会えるんですからもうその辺でいいでしょ~。ユラーハンに帰るのが遅くなっちゃいますよ。これから商品の売り込みに行くんですから」


「カセルはしっかりと後ろから目立たない様に警護するのよ」

「アルバートは無理に立ち向かわずに時間を稼ぐんですよ」

「いざって時はお前はしっかり大声を出して助けを呼ぶんだぞ」

「周りの住民に頼るといい」

「前もって商品の売りをまとめておいて簡潔に話せるように練習を」

「気をつけてな」

「アルバート、やっぱり仕込み武器でも持っていく?」



 なんか……アルバートさんが……。本人も恥ずかしそうに俯いちゃってるし……。



「私も目立たぬよう同行するので安心するといい。茶葉の件は私も関わっているからな」



 おい、何さらっとついて来ようとしてるんだ。目立つから却下したのに。

 そもそも王族の見送りに行く用事があるでしょうが。ちらちらこちらを見るんじゃない。



「――それではお世話になりました。ジーリさんにもよろしくお伝えください」



 どさくさにまぎれてアレクシスさんに抱き着き良い匂いを堪能する。さらばアルバート家。










「――サンリエルさん」



 アルバート家から少し離れたところでサンリエルさんに話しかける。



「申し訳ありません。あの者達を安心させる為にあのように言ったまででして……」



 こちらの感情を察してか、なにやら沈んだ声のサンリエルさん。



(え? なにその感じ? え? 私が悪いの? ちょっとちょっと……)



 自分が偉そうな権力者で他人を委縮させているような気分なんですけど……。



「……ユラーハンの方達のお見送りは時間がかかるんですか?」


「王子が見過ごせない情報があるのでぜひ会って話をしたいと」



 何となくサンリエルさんにだけ冷たい態度をとっている気がしなくもないので積極的に話しかける。

 そういや苦手な人にこそ笑顔で挨拶をって教わったな。あえて懐に飛び込む戦法。

 周りの評判が悪くても、仲良くなっちゃえば自分にとっては仕事しやすい上司とかいたもんな。



「昨日の会食で話そうとしたんでしょうね」


「……族長達が聞けば済む話です。真偽も定かではないはるか遠くの国の話のようですし、念の為情報を集めるよう指示は出していますのでご安心ください」


「いつも気を使わせて申し訳ないですけど、私を第1優先にしなくても怒ったり不機嫌になったりしませんからね。今は御使いなんて立場になってますけど、本当に偉大なのはエスクベル様であって守役であって、私はただの仲介役に過ぎません。いやまあ、神の威光をお借りして美味しい食事を届けてもらったりしてますけどね~。拠点も建ててもらいますし。あれ、結構やりたい放題してますね? わがままな感じ出ちゃってます?」



 頑張れ、フレンドリー戦法。



「いいえ、そのような事は決してありません」

「そうですよ~。気さくで我々は話しやすいです」

「そうです……!」



 また『え~そんな事ないよ~』待ちな発言をしてしまった。あほ!



「……あの、そう言ってもらえるのを誘導した感じになっちゃいましたけどそういう意図はないので」


「私の本心です」

「ははは、分かっております」

「そうです……!」



 アルバートさんは同じセリフしか言っていないが、このメンバーの中でも言葉を発してくれた頑張りが嬉しい。

 心がほっこりしたまま歩いていたが、サンリエルさんと一緒にいるのを見られると色々と面倒だという事を思い出した。



「――ではサンリエルさんはこの辺で。そうそう、こちらには切った髪を利用した被り物はありますか?」



 変装の定番ウィッグ。



「あります。ミナリームなど他国では被り物として貴族がそのような装いをする場合があります」


「その言い方だとクダヤではありませんか?」


「使用しないと言った方が正しいですね。まず貴族階級の人間がおりませんし、一族の者達は自分の容姿に誇りを持っておりますので。それに白髪の被り物で理の一族になりすまそうとした者も過去には存在しましたので、疑われかねない行為をする住民はいません」


「なるほど。ではサンリエルさんは変装出来ませんね。もしお見送りが早く終わって――もちろん無理に早く終わらせるという事ではありませんので――変装が出来るようなら食事を一緒にとろうと思ったのですが」


「……至急用意します」



 さっき疑われかねない行為って……。そして誇りはどこいった。



「私も用意して頂けたら……」



 カセルさんも参加してきた。しつこいようだけど誇りはどこだ。

 視線を向けると、いきいきとした顔で「これで目立つ事なくヤマ様のお供を務められますから」と言われた。守役のみんなと一緒にいたい、が9割な気がする。

 そしてアルバートさんもカセルさんのその案には賛成のようだ。珍しく積極的。



「それって人の髪の毛ですか? 動物の毛なら私も黒髪の被り物がひとつ欲しいです」



 人毛はなんとなく避けたい。



「黒髪ですか……?」



 サンリエルさんにはいつも凝視されているが、今回は不思議そうに見つめられた。

 いつもこれくらいの見つめ具合でお願いしたいものだ。アルバートさんと足して割るとちょうどいい。



「……実は私の髪の毛って白いんです。隠してますけどね。サンリエルさんとお揃いですね~」



 親密作戦その1、共通点をアピール。というか1で終了。



「……!」


「そう言えばそうでしたね」


「…………」



 目を見開いてこちらを凝視してきたかと思いきや、次はカセルさんに殺傷レベルの視線を向け始めた。

 よくよく観察すれば無表情ながらも感情の読み取りやすい人だな。



「いずれ全部が白髪になりますのでどうしようかと考えていたんですよ。ちょうどいいですね」


「……それは」

「御使い様の秘密ってやつですね」



 カセルさん、せっかくサンリエルさんからの視線を逸らしたのにまた凝視される行動は慎んでもらっていいかしら。



「そうです、御使いの秘密です。被り物ですが……こちらには馬がいますけど、尻尾の毛を少しわけてくれる子はいますかね――え? あ、ちょっと待ってくださいね」


 ボスの「はる、はる」という呼びかけが。



「え? ボスの毛? でも黒じゃなくて……黒にした!? は~相変わらずのハイスペックだね~」



 まさかの、尻尾の毛を黒にしたのでそれを使って欲しいとの申し出。

 ウロコといい尻尾の毛といい、なんかすまんねボス。でもありがとう。

 そしてみんなからも一斉に毛の売り込みが。



「いやあ~、みんなのは色鮮やかすぎて目立っちゃうし、そんなに長くないから大丈夫かな」


「キャン!」


「わかったわかった。前言ってたアクセサリーにするから。作り方を教わってからね?」



 これはもうミュリナさんに習うしかない。

 みんなの靴下とかも可愛いけど野生を尊重したいから無しで。残念だ。



「すみません、お待たせしました。私の分は守役から毛の提供があったのでそれを使ってください」


「かしこまりました」

「守役様ですか~」



 カセルさんワクワクしすぎだ。目がとてもきらきらしい。



「サンリエルさんはすぐに手配……しますよね」


「はい、見送り前に先代の技の族長との打ち合わせがありますのでその際に。何としてでも間に合わせますので」



 技の族長なんでも出来るな。無茶ぶりでない事を祈る。



「えーと、“黄”の時間でしたっけ? にはクダヤを発たないと不自然ですのでそのくらいまでに間に合えば。ユラーハンとの予定を欠席した場合はこの話は無かった事に」



 念を押す。ドタキャンだめ。



「心得ております」


「ではサンリエルさんとカセルさんの目の良さを活かして、人が来ないか、見られていないか確認をお願いします。――ボス尻尾いい?」



 こそっと3人の男性の陰に隠れるようにして尻尾を少しだけ透明化解除してもらう。



「ひっ! あ……申し訳ありません……」


「いえいえ。大きいですよね」



 アルバートさんの驚きもわかる。でもこれでもほんの一部なんだぜ。



「サンリエルさん、カセルさん、見張り大丈夫ですか? こっちに意識が向いちゃってますけど」


「お任せください」

「耳も使ってますから大丈夫です!」


「ならいいですけど……。ボスじゃあウィッグ分だけもらうね」



 光沢が美しい黒い毛を短剣でそっと切り取る。



「これを――いいんですか? ではお願いします」



 サンリエルさんが差し出してくれた木の箱に尻尾の毛をしまう。



「ボスありがと。――ああうん……わかった、伝える」



 ボスから警告が。



「えーと、この毛にも神の力が宿っていますので1本でも無くしたりそっと自分の物にしたりすると……あの、あれです、ミナリームの船みたいになります」



 静まり返る3人。

 それにしても1本も無くさないって難易度高すぎだよね。



「……例えば、被り物作成の際に切り落とした部分もでしょうか?」



 そういやこの人収集癖があったわ。もしかしてそっと回収しようとしてたのか? あっぶな、雷落ちるよ。



「それもですね。とりあえず全部集めてください」


「かしこまりました……」






 無理難題を要求する悪代官の所業ではある。ごめん。







次回視点変わります。

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