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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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事実は小説よりも奇なり

 




 突然の鼻血サンリエルさん。あだ名みたいだな、鼻血サンリエル。

 ひとまず無難な対応をとる事にする。



「……大丈夫ですか? 体調不良ですか?」


「いえ、お気になさらず」



 いやいやいや、お気になるよ。



「睡眠不足ですかねー」


 そう言いながら助けを求めてカセルさんを見ると涙目になっていた。それ笑いすぎるとなるやつ?



「……あんなにヤマ様に見つめられると我々でも領主様のようになるかもしれません……クフッ」



 隠しきれない笑い。そして君は絶対ああはならないと思う。



「そんなに見てました?」


「ええ。しかもお褒めの言葉もたくさん」


「……なるほど」



 モテ女(雑誌情報)の行動パターンか。

 目を見て話し褒めて上げる、なおかつさりげないボディタッチで相手に勘違いさせる系のやつね。

 ボディタッチはしてないけど。それにしても簡単過ぎじゃない? こんなので騙されるのか。御使い恩恵?

 しかもよりによってサンリエルさんの前でか。やるならキウイメロンを買ってくれた門番の地の一族の彼に試したい。



「目が不思議だな~と思ってじろじろ見てしまいました、申し訳ありません」



 サンリエルさんの性格的にさっぱりとは遠いところにいそうなので早めに訂正をしておく。

 結婚できない云々はもちろん伏せる。



「そう言えば領主様のような目を持った人は見た事が無いですね」



 いいぞカセルさん。



「その目は風の一族の特性ですか?」


「……目の大きさは“風”の特性ですが、目の色に関しては3つの一族の特性が混じり合った結果かと」


「髪は理の一族ですよね? 残りは……水でしたか」


「はい。海中でも長く行動できます」


「凄いですね~。今回は理の一族の頭の良さが設計図を描くにあたって発揮されたんですね~。良かったら残りの設計図も見せてもらえませんか?」



 なんとか軌道修正に成功した、と思いたい。


 そして残りの設計図も見せてもらい、ちょこちょこと自分の要望も付け加える。

 血も止まったようで何より。





「2階建ての設計図が良いですね。屋根裏部屋の窓をもっと大きくしてもらえれば嬉しいです」


「そのように描き直します」


「よろしくお願いします――――部屋にアレクシスさんが来そうなので一旦戻りますね。また後程」



 挨拶もそこそこに図書室を出て部屋に戻る。

 ボス情報によると、サンリエルさんが来た事により少し朝食の時間を早めるようで、それにともないアレクシスさんが後で私を起こしに行くという話になっているようだ。





「あ~終わったね~」



 誰にも見つからずに部屋に戻りひと息つく。

 マッチャはダクスをベッドに戻しシーツをかけていた。優しい子。起きてるけど。

 流血騒ぎの後なので癒しが私には必要だ。とりあえずみんなに抱き着いて癒しをもらう。



「話してる相手に鼻血出された事ある? ないよね~。というかリアルに鼻血とか出るんだね。――まあ面白い経験をしたって事で。2度目はないと思いたいわ~」


「ぴちゅ」

「フォーン」

「キュッ」


「えぇ……、毒味にアルバートさんを連れて行くの? まあ扉の開閉はいてもらった方がいいけど……。投げたりつついたりしないんだったら……」



 3人が朝ご飯の毒味に行ってくれるようなのでお願いする。アルバートさんの無事を祈る。



「あ! 昨日の残り! アルバートさんの前で食べたら毒味したいって意思が伝わるんじゃない? カセルさんなら気がつくかもしれないし」



 マッチャにドーナツっぽい食べ物を渡し3人を見送る。

 空中に浮くドーナツはなかなかシュールな光景だ。


 毒味係を見送った後、髪が乱れないように残ったメンバーと戯れながらアレクシスさんを待ち構える事に。

 しかしボス実況に戯れるどころじゃなくなった。



「――伝わってないの? むしゃむしゃしてるのをただ見てるだけ? それカセルさんはじっくり見てそうだな……。えっ!? 実力行使? ――なんだ、腕を引っ張るだけか……ぶつかった!? 力の加減を間違えた……?」



 ボス実況をまとめると、気づかない⇒腕を引っ張って連れて行く⇒マッチャのうっかり⇒扉に激突。

 うっかりの意味がわからない。アルバートさんごめんよ……。



「――カセルさんもサンリエルさんもついてきてるの? あーあーあー目立つなー」



 すべての計画がうまくいっていない。



「……起きたふりして行くか」



 実況中継より目に見えるところにいた方が安心だ。賢明な判断だと思う。



「白フワはちょっとお留守番しててもらえる? リュックの中なら安全だと思うから。それじゃあね」





 部屋を出てひとまず居間に顔を出す。誰もいない。

 次に食堂をそっと覗いてみる。おじいちゃんがいた。



「――おはようございます」


「おはよう。もっとゆっくりしていても大丈夫だよ」


「目が覚めちゃいまして……。あの、声が聞こえますが……?」



 カセルさん達の騒がしい声だとは分かっているが、知らないふりをしておじいちゃんに聞く。

 みんなこの隙に室内に侵入するんだ。



「領主様がお見えになっていてね」


「え? 何かあったんですか」



 しらじらしさの極み。



「仕事の話があるようなんだけど……今は食事の支度を手伝ってらっしゃるんだよ」



 おじいちゃんは困った顔をしていた。そうだよね、領主が突然来て食事の手伝いって。



「そうなんですね……。私も邪魔にならないように挨拶してきます」



 キッチンに続く扉をそっと開け中の様子を窺う。



「あらヤマチカちゃん、おはよう」



 さっそく朝から完璧な美しさのアレクシスさんに見つかった。

 そしてこちらを見たアルバートさんは物凄く驚いていた。気持ちはわかる。



「皆さんおはようございます。あの、手伝える事があれば……」


 そう言いながらもカセルさん達の様子を観察する。

 ぱっと見た感じは問題なくただお手伝いをしているように見える。



「ヤマチカさんはゆっくりしていてね。領主様、手伝いはもういいですからヤマチカさんと食堂にいて下さい。昨日のお詫びもあるでしょうし」


「そうしよう」



 おばあちゃんの言葉に素早く返事をし、こちらに早歩きで向かってきたサンリエルさん。



「……おはようご……う。昨日は遅くまでもう……すまなかったな」


「(演技へった!)おはようございます。昨日はありがとうございました」


「…………」


「(黙った!) えーと……」

「図書室にあるお茶一式持ってきますね~。ゆっくりおくつろぎください。俺の家じゃないですけど」



 良いぞカセル氏。よくやったカセル氏。



「ほんと。でも口の達者な弟って感じよね」


「アルバートももう手伝いはいいから皆さんと食堂にいなさい。後で運ぶのを手伝ってちょうだい」



 アビゲイルさん素敵アシスト。



「う、うん」



 そしてそのままぞろぞろと食堂に移動する。

 そのままおじいちゃんの提案で私達だけテラスでゆっくりする事になった。さすがおじいちゃん。






「――力の加減を間違えて扉にぶつけてしまったようで……」



 明るい日差しに照らされている美しい庭を見ながら、小声でアルバートさんに話しかける。



「いえ……お食事の毒味に関して配慮が足りずに申し訳ありません……」



 予想通りの返答が返ってきた。



「今後あるかどうかわかりませんが、守役がつついたら味見をしたい印という事で」

「かしこまりました」



 ……かぶせ気味にサンリエルさんが返事をしてきた。たぶんつつかれるのは茶色の髪の彼なんだけどね。

 それにこれで無駄つつきを減らせるだろう。



「キイロにロイヤルは私がいない時の味見はそっとつついて知らせてね」


 そう伝えると嘴で手の甲を撫でられた、気がした。くすぐったさで不満を表すのはやめて欲しい。

 そしてアルバートさんにけがは無いか質問しているとカセルさんが戻ってきた。



「お待たせしました。昨日のお茶をさっそく用意してもらったんですよ~。相変わらず美味しいです」



 このテンションが本当に助かる。アルバートさんにサンリエルさんだけだと会話に困る。そもそもサンリエルさんが加わると気楽に話せない。職場に1人カセルさんは必要だな。



 カセルさんが加わると随分と会話が楽になり、食事の時間まで割とのんびりした気持ちで過ごす事が出来た。

 それぞれ起き出して食堂に入ってきた男性達はみんな、テラスを2度見して慌ててサンリエルさんに挨拶をしにきた。そして食堂でこちらを見ながらひそひそチラチラしていた。うん、気になるよね。





「アルバート、手伝ってちょうだい」



 食堂からのチラチラと、近距離からの凝視にさらされていると食事の用意が整ったようだ。

 もちろんお手伝いはさせてもらえなかったが、こっそりアレクシスさんの傍に移動してサンリエルさんから離れた席を確保する。アレクシスさんとカセルさんに挟まれた鉄壁の布陣である。

 昨夜のように楽しい食事になるといいな。












「うちもお茶を定期的に購入するわね」


「ミュリナが喜ぶわ~」


「確かにあれほどのカリプスは今後も御使い様の為に確保しておく必要がありますから、他国には流れないよう特例としてあらかじめクダヤに店を用意してもいいかもしれませんね。味が良いものが出来次第クダヤに卸してもらいましょう」


「それなら、質の良い商品を適正価格で扱っている商人だけがその店に商品を並べられる権利が発生する、という制度にしては? そうすれば増加の一途をたどっている拝謁者が不慣れな土地で買い物をする際の助けになります」


「なるほど~。競争が生まれ質の悪いものは淘汰される!」


「まとまっていれば私達も買い物がしやすくなりますね。――例えばクダヤの権力者が認めた商品という付加価値が加われば、他国にもっと高く売れるかもしれませんね~」


「しかし、努力を怠る商人は論外ですがより良いものを目指した結果、分かりやすい優劣がついてしまうと新たな問題の火種になりはしませんか? 1つに買い物場所がまとまってしまうと、そこから離れている場所にある店などは客足が遠のいてしまう恐れもあります」


「自由な商売、財政というのは――――」





 ……なんか会議がはじまったんですけど。私とアルバートさんとおじいちゃんポカンなんですけど。

 いや、おじいちゃんはおばあちゃんに返事をしているから正確には私とアルバートさんだ。

 こちらを凝視している白髪の水中行動が得意な頭の良い人物は数に入れない事にする。


 同士よ、と思いながらアルバートさんを見ていると、視線が合ってびくっとされたので仲間意識を込めて笑顔で頷いておいた。話に置いて行かれている仲間だよ私達。

 その動作にアルバートさんは慌てて俯くし、サンリエルさんは音を立てて席を立ちアルバートさんを凝視し始めたりで美味しくて楽しいけど騒がしい食事になってしまった。




 もちろんサンリエルさんはおばあちゃんに注意されていた。







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