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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ビジネス御使い

 



 本格的な会議に入る前にやる事がある。




「サンリエルさん、筆記用具と茶葉を入れられそうなものを用意してもらえますか? 今あるものとは別の物もいくつか欲しいです」


「……すぐにご用意致します」



 少し躊躇ったものの部屋を出て行くサンリエルさんを見送り、扉が閉まり少し経ってからアルバートさんに小声で話しかける。



「遅くなるとご家族に心配されますよね? 遅くなると知らせた方が良いでしょうか?」


「そうですね……。あの、私が今から家に帰り伝えてきますので……」



 どことなく嬉しそうに立ち上がるアルバートさん。

 しかしそれをカセルさんが引き留める。



「お前だと時間かかるだろ。それになんて言うんだよ?」


「カセルと店を見てて……」


「そんなの俺ら2人とも警護の役目云々で叱られるじゃねーか」


「そうだけど……」


「俺が地の一族に手紙を届けてくれるようにお願いしてくるから。領主様の名前を出せばなんとかなるだろ」


「え!? カセル待てよ――」



 2人のいつものやり取りをのんびりお茶をすすりながら眺めていると、カセルさんが部屋を出て行きアルバートさんが1人取り残された。

 かわいそうに……。強制御使いタイムが始まってしまったな。そして背中が切ない。



「サンリエルさんがすぐ戻ってきますよ」



 フォローをいれておく。



「は、はい」



 しかし、声をかけた事で逆に緊張感を強めてしまったようだ。

 ストレスで若いうちから頭髪が薄くなる可能性があるので、アルバートさんの方を見ない様にむしゃむしゃを再開する。







「――キイロ、ロイヤル、ダクス。見せなくてもいいからね」



 私の気遣いもむなしく、こじんまり組は口に入れた食べ物をアルバートさんの前まで行って咀嚼し、無くなったらまた私の所に戻ってくるという謎の往復威嚇をしている。

 アルバートさんもアルバートさんで律儀に謝罪をしているし全然気が休まっていない。



(頭髪に効く薬とかあるのかな……。でもおじいちゃんは髪ふさふさだったし……海が近いからみんなわかめとか食べてるのかな……)


「お待たせ致しました」



 アルバートさんの頭髪に注目しているとサンリエルさんが戻ってきた。

 サンリエルさんも将来は薄くなったりするんだろうか。



「あの、カセルは遅くなる旨伝言を……」



 そのサンリエルさんはアルバートさんをじっと見た後、顔を伏せてこちらに近付いてきた。



「数は揃えられなかったのですが……」



 茶葉を入れるものとしてガラスや木製の容器、麻のような素材の袋もあった。



「十分です。ありがとうございます。カセルさんが戻ってきたら始めましょう」



 戻ってくる前にサンプル用のブレンド茶葉をいくつか作っておく事に。

 ブレンドティー守役スペシャル。ふふふ。



「サンリエルさん、先程と同じ組み合わせですがこれでまた淹れてもらっていいですか?」


「はい」


「アルバートさん、茶葉の名前をここに書き出してくれますか?」


「はいっ」



 肩書というのは凄い。ナチュラルに命令してるもんな。

 2人の男性が仕事をしているのを横目に甘いものを食べながら優雅にお茶をすする御使い。

 ……あー塩キャベツが食べたくなってきた。






「戻りました」



 カートの茶葉を机の上に並べているとカセルさんが戻ってきた。



「すみません、家に遅くなると伝えてきました」


「これは守役様が選ばれて私が淹れたものだ。飲むといい」



 アピールが凄い。



「皆さん飲みながらで結構ですので、ささっと決めて計画を実行に移しましょう」



 私の分の紙とペンも用意してもらい会議がスタートする。



「ではまず、守役が選んだ種類の茶葉の仕入れをどうするのか」


「城での仕入れ量を増やします。それらを利用し売り物にして下さい」



 初っ端から職権乱用だけどもういいか。



「ではその伝手をありがたく使わせていただきます。その茶葉は定期的な食事と共にこっそりと送れますか?」


「はい。その際に入れ物なども一緒にお贈り致します。どのようなものがよろしいでしょうか」


「そうですね――」



 スムーズに進む会議。権力があると色々と楽であると改めて実感した。









「はい、ではまとめます。――お城で仕入れた茶葉と木の筒を定期便で島に届けてもらい、木の筒に私の店の名前『ヤマチカ屋』の焼印を入れる。私が手を加える事に意味があるそうですので、島で私と守役が商品を作り上げます。焼印作成は先程描いた図案をもとにサンリエルさんにお任せします」



 名前がダサいとか関係ないし。



「木の筒込みで銅貨4枚。筒無し販売なら銅貨3枚。同業者との共存の為に値段で差別化を図ります。量り売りは今後考えていくという事で。仕入れ等のお金に関しては、街が定期的に決まった量を買い取る事で相殺します」



 借金を返すために量産して儲けを出さないといけないんだぜ。ふふふ……。

 お金は受け取れないって言い張るからしょうがないんだ。これも商売だ。

 いざとなったらキウイメロン保険とサンリエル基金でしのぐけどね。ふふふ。

 戸建て住宅の代金も控えているし、エネルギーを集めながら店主業もと一気に忙しくなったな。



「販売方法としては初めにお試しで試飲してもらい、許可を得て期間限定でお店に品物を置かせてもらいます。お礼と試飲用として店には2つ無料で提供という事で。提供先は先程話し合ったお店でひとまずいきましょう。ある程度の売り上げが見込めそうなら私の店――しつこいようですがほんとに建てるんですか?」


「もちろんです。高台の拠点と併せて進めた方が効率が良いですし」


「それもう建てるの前提ですよね……」



 ヤマ様の店建設は譲れないとサンリエルさんとカセルさんに主張され一度は断ったが、自分の店が欲しいと言っていたミュリナさんジョゼフさん夫妻に普段は店を管理してもらえばいいと思い直したのだ。

 売り上げが見込めそうなら建てる、と念押しはしておいたが完全に今から建設をはじめる気だ。

 しかも、ヤマ様に親切にした功績として2人にクダヤの住民になる許可まで出そうとしたので、周りに怪しまれると説得してやめてもらった。それでも当初より数年は許可を早めるつもりらしい。職権乱用の嵐。



「他国民が店を持つ事に関してはそちらで怪しまれないようにしてくださいね……」


「もちろんです」


「大き過ぎず派手過ぎず高価過ぎず」


「はい、心得ております」



 このやり取りも何回目だ。



「では――他に何かありましたか?」


「明日目星をつけた店に売り込みに行く予定です」


「そうでしたそうでした。現状私は他国民という事ですので怪しまれないよう住民であるアルバートさんについてきてもらいます。サンリエルさんにカセルさんは目立ちすぎるので無しです」


「幼馴染の店はついて行きますので」


「はい。サンリエルさんは仕事の妨げにならない程度に拠点建設をよろしくお願いします。お世話になります」


「……はい」


「それでは本日はお疲れさまでした。解散」



 ひと仕事終えた解放感にすっきりした気持ちで立ち上がる。



「アルバートさんのお金で買ってもらったんですけど、皆さんと分けてもいいですか?」


「はい!」

「じゃあ俺は――」

「お前は……!」


「ヤマ様に選んでいただいてもよろしいでしょうか」



 最後までぶれないな。



「いいですよ。じゃあサンリエルさんはこれとこれとこれ」



 適当にさっと選ぶとさっと回収された。速いな。








「――では進捗状況は定期便でお知らせくださいね」


「かしこまりました」


「それでは」



 外だと目立つ可能性があるので部屋の外でサンリエルさんと別れる。

 カセルさん達が私を送る事に凝視という方法で意思を表していたが、守役スペシャルのサンプルを渡してなんとかなった。

 私がいない時にこの2人は質問攻めにあう事が予想されるがなんとか乗り切ってほしいものだ。



 建物を出てのんびりと歩き、人々の喧騒が近付いてきた所でカセルさんが馬車を呼びに行ってくれた。

 そして当然取り残される彼。取り残され率高いな。

 木箱を持ち直したふりをして顔を隠そうとしているのはお見通しだ。



「わっ! ……申し訳ありません……」



 いつものようにつつかれているのもお見通しだ。





「お待たせしました~」


 透明なみんなの場所当てゲームをしながら待っていると、馬車と共にカセルさんが走ってきた。

 乘ればいいのに……。



「どうぞ」


「ありがとうございます」



 3人で乗るには大きめの馬車だがみんなが乗れるように配慮してくれたに違いない。さすが。

 みんなが馬車に乗ったのを確認してからカセルさんに頷いて合図を送る。



「ほら、アルバートも早く乗れよ。――それじゃあお願いします」



 アルバートさんを押し込んで扉と室内のカーテンを閉めると、目を閉じた方がいいのか聞いてきたカセルさん。守役のみんなの事好きすぎ。



「そうですね。――――はい、もういいですよ」


「ひっ!」

「あ」



 アルバートさんの顔の前にはエンのふわふわしたお尻が――。

 そしてその背中にキイロとロイヤルが乗ってアルバートさんを威嚇していた。



「ぴちゅ」

「キュッ」


 悪い顔をしながらこちらに戻ってくる2人。

 絶対わざとやったな今のは。



「守役達は綺麗ですから……」



 よくわからない言い訳。



「い、いえ! 場所をたくさん使ってしまい申し訳ありません!」



 そして側面に張り付くように体を小さくするアルバートさん。君は悪くない……。



「エンは座れる? みんなスペースをうまく使ってね。マッチャは私の隣に座って。ロイヤルは膝に移動して――はいはい、ダクスが膝でロイヤルは――ナナの背中でキイロがエンね」



 あーやっと落ち着いた。



「すみませんねアルバートさん」


「いえ!」

「いいな~お前はいてっ、なんだよ」



 2人の言い合いを聞き流しながら帽子を脱ぐ。疲れたなー。



「ヤマ様は領主様にお顔をお見せにはならないのですか?」


「今後の事を考えると顔を隠さない方が楽なんですけどね~」


「ヤマ様の店が出来れば確実に通い詰めると思いますが……」


「そうですよね~」



 なんとなく気が進まない、この理由が1番しっくりくる。

 むやみに私の存在を探そうとする事はしないように言ってあるのだが、偶然を装ってとかありそうだ。

 それにしても私も何様のつもりなんだ。偉そうになってないかな……。



「――あ」



 この流れで唐突に嫌な想像をしてしまった。



「どうしました?」


「部屋の片付けはサンリエルさんがするという事でしたけど……」


「そうです。私達の手伝いも必要ないとの事でしたね」


「…………あの人収集癖とかありますか?」


「……神の怒りを受けた船の欠片を執務室に飾っていますが……」


「何ですかそれ……」



 ほんとに何ですかそれ。

 でもそれよりも気になるのは――



「……私が使った食器などはどうなると思います……?」


「あ」

「あ……」






「し、食器なんかは洗ってから保管されると思いますよ!」

「そうです……!」








 フォローになってないんだぜ。








次回視点変わります。

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