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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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効果音を考え付いた人は凄い

 



 楽しく美味しい食事の時間が終わり、優雅に食後のお茶を飲んでいる私。

 リゾート地に来たかのような心の穏やかさ。素敵。しかし――――



「ヤマチカさん、神の社に拝謁する待機場所はもう見ましたか?」



 きた。



「――いえ」


「この時間でも賑わっていますので行ってみませんか? アルバートが港にカリプスを持って行くついでと言ってはなんですが」



 楽しい時間は過ぎるのがあっという間だ。この後はやや気が重い時間の始まりだが。



「暗くなってから女の子を外出させるのは良くはないけど……神の社なのよね……」



 アレクシスさん大丈夫です。私この街で最も安全な女の子ですから。



「アルバートと2人の方が――駄目だな。警護役でカセルは必要だな。じゃあ俺も行こうかな」


「兄さんがついて行ったらアルバートの話す隙が無くなるでしょう」


「今日は図書室で解読の続きをしよう」



 ナイス。父と兄その2。



「俺も仕事で城に向かいますので途中までは一緒に行けますよ」



 まだ仕事があるのね。一族も大変だ。



「ジーリが一緒なら……でもまだ小さい子を……やっぱり私達もついて行きましょうか?」



 アビゲイルお母さん、私とっくに成人してます。見た目も息子と同じくらいには最低でも見えると思うんだけど、なんかの補正でも働いてるの?



「御使い様のような帽子は作ってもらう話になってたかな? 売り物を色々と見て回った方が注文する時にも役立つと思うんだけどね。年の近い者同士の方が遠慮をしなくていいだろうし」


「――カセル、ジーリ。ヤマチカさんをしっかりとお守りするのですよ。アルバート、あなたも」



 おじいちゃんの後押しでおばあちゃんから許可が出た。ありがとう。







「――――そうそう。ここをこちらに曲げようとすると体が自然とこう回転して――――」


「あの~もういいですかね~?」



 カセルさんが少し困ったように言った。



 私は今、出掛けるにあたり何故か女性達から再度護身術の実習を受けている。

 下っ端なら1人くらいは倒せそう。



「そうねえ、一度アルバートでおさらいをしてから終わりにしましょう。――ジーリじゃ体格差がありすぎて練習にならないわ。ほら、アルバートここに立って」



 てきぱきと場所を指示する上官達。

 ジーリさんが代役を申し出るも却下され、嫌だとも言えずに立たされる敵役。



「まずは男達を囮にする。男達が倒されたら逃げる。それでも追いつかれて手を伸ばされた時――はい、アルバート手をこう出して」


「そんな失礼な事……!」


「早く終わらせるぞ。ほらこうやって――」



 誰もアルバートさんの意見を聞いておらず、カセルさんに至ってはアルバートさんの手を持って伸ばそうとしている。

 ……かわいそうに。



「アルバート。力の流れに逆らうと骨が折れますから自然体でいるんですよ」



 おばあちゃんのフォローは全然フォローになっていない。



「……じゃあ失礼して……よっ」


「わっ……わっ!」



 見事アルバートさんを地面に倒した私。アルバートさんには申し訳ないが少し嬉しい。

 武道をやっている人はこの流れをもっとスムーズに行うんだよなあ。すごいな。



「よくできました」



 上官達に褒められた。皆さんの可愛がっている末っ子を倒したんですけどね。

 その末っ子は、男性達(カセルさんを除く)に同情を込めた顔つきで手を差し伸べられていた。

 ……飴と鞭がこんなに機能している家は他にはないだろう。



「ありがとうございました。それでは行ってきますね」














「お体は大丈夫ですか?」



 家から少し離れたところでアルバートさんに声をかける。



「はっはい、大丈夫です!」


「綺麗に投げましたね~」


「アルバートも受け身が良かったと思う」



 ジーリ義兄さんはほんと優しいな。



「女性の皆さんは何か武術でも修められているんですか?」


 その言葉にアルバートさんとジーリさんが困った顔をした。

 質問の選択肢を間違えたかもしれない。



「アルバートの家の女性達は体術はもとより、武器の扱いにも長けているんです。――そうそう毒物の取り扱いについてもでした」


「へ、へえ~。すごいですね~」



 これで女性全員アサシン説が濃厚になった。

 そういやおばあちゃんは毒物に詳しいって言ってたな……。武器屋の説明も熱が入ってたし。



「これで道中をより安全に移動できます。――ジーリさんは陸路側の門を担当されている一族の方を知っていますか?」



 なんとなく話を変えておこうと思う。



「地の一族なら全員知ってるよ。他の一族も大体なら分かると思う」


「カリプスを最初に買ってくれた人がもしどなたか分かれば改めてお礼をお願いしたいんですが……」


「アレクシスの言ってた事だよね? 任せて。あの美味しさなら向こうがヤマチカちゃんを探しているかもしれないけど」


「よろしくお願いします」



 せっかくの機会なので、時間が許す限りジーリさんとアレクシスさんのなれそめ的な事を聞いてみた。

 初めは仲が良いですね~から軽く探りを入れ、不快に思われない程度に芸能リポーターヤマチカを出してみた。

 プロポーズのくだりでは驚かされたが、当の本人は照れくさそうにしていたので良い思い出なのかもしれない。

 しかしどう考えても土下座プロポーズだよな……。






「――じゃあ気をつけて」


「はい。ありがとうございました」



 カセルさんとアルバートさんとも挨拶を交わし、ジーリさんは城に向かう道に、私達は港に向かう道を進む。



「――――さて。食事の時はありがとうございました」



 ようやく気心が知れた仲というか、色々と隠さなくていいメンバーになった。

 なんとなく気が楽だ。



「いえ。クダヤの住民なら御使い様と守役様の話を聞きたがるものですので。私も楽しかったです」


「知らないふりというのもなかなか大変なんですね~」


「自然な演技で良かったかと」


「……話が誇張されて伝わっている事も多くて驚きましたが」


「それは……申し訳ありません」

「申し訳ありません……」



 今まで会話に参加してこなかったのに、謝罪にだけはきっちり参加してくるアルバートさん。

 つくづく幸せになって欲しい末っ子だ。



「お2人は誇張していないのは知っているんですがね。まあ、話し手の一存で色々と変わってしまいますので仕方がないですね。――――ただ、ミナリームの使者は全員無事に生きている事はしっかりと伝えてください」



 そこはとても重要な要素だからね。頼んだよ。



「サンリエルさんはどちらにいますか? 向かう前に新しいマントと顔を隠せるものを買いたいのですが」



 持ってきた荷物は今夜寝る部屋に置かせてもらっていて、今は財布しか持っていない。

 その財布も女性達にばれない様にこっそりと忍ばせてきたのだ。

 今回は自分で稼いだお金を持っているからそれで買い物をしたい。



「今回は拝謁待機場所で買い物をしましょう。領主様が待機している場所からそう遠くありませんので」


「……すんなりといきましたか?」


「ヤマ様のご指示ですから。それはもう物凄く興奮していました。近くにいらっしゃるのかと何度も聞かれましたがその質問には答えませんでした。ですがそのうち……」


「そうですね。アルバートさんの家にヤマチカという来客があった事はその内知れるでしょうから気にしないでください。今日ばれなければいいです」



 とりあえず今日を乗り切ればなんとかなるだろう。



「では、また他人を装う感じでお2人の後をついてゆきますので――」



 白フワの金粉がかかっているので大丈夫だとは思うが、念の為2人から距離をとっておく。特にカセルさん。

 馬車も提案されたのだが、なんとなく問題を先送りにしたい気分だったので歩く事にした。帰りは馬車でお願い。

 案の定カセルさんはまた女性に話しかけられていたので正解だったようだ。







 2人にのんびりとついて行き到着したのは賑やかな一画。あの市場よりは小規模だがそれでもたくさんの人がいる。



(――座れる場所がたくさんあるな~。なんかフードコートみたい)



 野外だが屋根の付いている場所も多いので天候を気にせずに楽しめそうだ。



(そのうちアーケード商店街に進化しそう。……費用に問題がないんだったら2人にちょっと言ってみようかな――あ、マント売ってる)



 演技が上手とはとても言えないアルバートさんのこちらを頻繁に確認してくる視線に軽く頷きを返し、商品を見始める。

 じっくりすべてのお店を見て回りたいがそれはまた今度。



「これを下さい」



 即決。

 びっくりした顔で慌てて2人がこちらにやってきたが、その前にお金を払いマントを受け取る。

 ご家族からヤマチカちゃんの為にとお金を受け取っていたのは知っているので――というか目の前で繰り広げられていた――支払いをするつもりだったのだろう。

 だが、今日の私は自分で稼いだお金を持っているので変装衣装は自分で買いたいんだ。初給料でバッグや時計を買うような気持ちなんだ。

 お金が減っていないと2人が怒られそうなので後で甘いデザートのようなものでも買ってもらえばいいだろう。

 その流れで、残りの変装道具も先程より距離を縮めてきた2人の隙をついてこっそり購入した。ふふふ。





「あの――」



 向かう先に人気が少なくなってきたので2人に声をかける。



「甘いものが食べたいんですけど」



 意図せずわがまま系女子の発言になってしまった。まあいいや。



「甘いものですか」


「全部で4人分ですね。食べながら気楽に話を進めましょう」



 変にかしずかれても困るので、むしゃむしゃやりながら雰囲気を和やかなものにしたい。



「口元だけ見えるように帽子を被りますので食べやすいものを」



 自分で言っておいてなんだが注文が多いな私。



「かこしまりました」

「カセル! 俺が買ってくるから……!」

「おい――」



 キウイメロンをカセルさんに押し付け勢いよく走り去るアルバートさん。

 明らかに御使いタイムを避けた動きだったな今のは。2人で買ってくればよかったのに。


 カセさんと話をしながら待っていると、アルバートさんは大きな木箱を抱えて戻ってきた。

 そんなに?



「ありがとうございます。では行きましょう」





 そして目的の建物に近付くと同時に、ホラー映画のBGMが演出効果ばっちりで頭の中に流れ出す。あとサメに襲われる系のやつ。




 脳内BGMが流れるなんて結構余裕あるな私。







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