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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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聞き上手

 



「お庭もこのテラスのように素敵なんですか?」



 カセルさんの作戦を無駄にしない為ロケ中のリポーターになりきる私、新米御使いのヤマ・ブランケット。



「今も素晴らしいですが、良く晴れた日中は海がとても美しく見えるんでしょうね」


 そう言いながらさりげなくテラスを離れる。少年、ちゃんとついてくるんだぞ。




「わあ。このお花はとても可愛らしいですね~」

「素敵なお庭ですねえ」

「愛情をもって育てられたのが分かります」



「はい」という2文字しか返事を返してこないが、ちゃんとついてきているアルバートさん。

 えらいぞ。こちらも暗くよく見えない中コメントを絞り出した甲斐がある。

 そしてテラスにいる人達に声が聞こえない所まで来て足を止める。この位置ならテラスからも姿は確認できるので、心配した女性陣が乗り込んでくる事もないだろう。



「視線を海に向けていて下さい――そうですね、海を見ながら話をしている感じで」



 視線を海に固定していれば少しは緊張も和らぐだろう。思春期は大変だ。



「サンリエルさんは――――わかった。今こちらの玄関を確認できる位置に潜んでいるようですね」



 ほんとに何をやっているんだあの人は。



「申し訳ありません……あっ!」


「あぁ、謝罪してももう大丈夫ですよ。こちらこそ投げ飛ばしてしまってすみませんでした。――それで、サンリエルさんは何がしたいのかわかりますか?」


「あの……領主様にはヤマ様が街にお見えになっていて……頼まれた事があるので会食には参加できないと話をしたんです……」



 ありのままの事実だな。



「もちろん質問攻めにはあいましたが、騒ぎになるので明かす事は出来ない、これは御使い様のご意思だと説明して納得したものとばかり……。申し訳ありません、勝手に御使い様のご威光をお借りしてしまいました……」


「お気になさらず。お2人の立場でサンリエルさんを納得させるならそれくらいはしないと」


「恐らくですが、話を長引かせるよりも私達の後をつけた方が合理的だと判断されたのではないかと……」



 なるほど。そして今に至ると。



「ここに私がいる事はもうばれていますかね?」


「私達がずっと家から出ないとなると怪しむとは思いますが……。まさかヤマ様が家にいらっしゃるとは思いつきもしないかと……」



 まあそうだろうな。

 それに御使いの頼み事で会食をキャンセルしておいて、家でご飯を食べてたら怪しいよね。



「う~ん。……会食はどうなったんでしょうかね? 相手王族ですけど」


「族長達が対応している可能性が……。どう説明したのかはわかりませんが……」


「なるほど」



 案外アルバートさん達と同じく御使い言い訳を使ったのかもしれない。

 街にいる事は絶対に漏らしてはいないと思うが……。自分だけ、とか好きそうだもんな。



「……あの、テラスを覗かれるとヤマ様がいらっしゃる事が発覚してしまうかもしれません」


「……あ~そうでした。クダヤの身分証を作ってもらった際にヤマチカの名は伝えましたね」



 サンリエルさんは風の一族でもあるから耳が良い。神の食べ物でバージョンアップされているなら『ヤマチカ』という単語を聞き取られてもおかしくはない。

 もう少し小声で話そう。



「覗かれないとしても、あらゆる事実を繋ぎ合わせ本日こちらにヤマチカ……という名の来客がある事が判明すれば……その……」


「家に乗り込んできそうですかね?」


「いらっしゃると確証を得ているならヤマ様のお怒りを恐れそんな事はしないと思いますが……。ヤマ様がいらっしゃるなんて夢にも思わないですから、我々が何をしているのかを確認するために訪問してくる事はあるかもしれません……」



 ちょこちょこ本音が漏れてるな。

 突然家にいてほんとごめんね。



「どうしましょうかね~。拠点でお世話になる予定ですのでお互い適度な距離感を――拠点の話はしました?」


「……いえ、まだです。ヤマ様が島にお戻りになられてから話をしようと……。拠点の場所を伝えてしまうと、私の家の近くという事から領主様に何かしら気付かれる可能性がありまして……」


「会食を欠席してすぐさま拠点作りに取り掛かりそうですしね。――結果的に欠席してますけど」


「申し訳ありません……」



 君のせいじゃない。

 これからサンリエルさんの行動に関しては3倍大げさに予想しておけば対処できるな。



「よし、こうしましょう。もうついでなんで私からサンリエルさんに拠点の話をします」



 あ、こっち向いたし秒速で戻った。

 ――いいよいいよ大丈夫。驚いたのはわかったから、こっちを向いてからすぐ顔をそらした事に悩まなくてもいい。御使いはわかっているからね。



「顔は隠しますけどね。食事の後に私を連れて外出できそうですか?」


「あ、あの……カセルならなんとかしてくれるかと……」


「ではサンリエルさんに、御使いから人目につかない建物内で待機しておくよう指示があったと伝えて下さい。食事の後に向かいますので」


「は、はい! それでは戻りましょう……!」



 はやる気持ちを抑えきれない様子でテラスに戻ろうとするアルバートさん。そんなに御使いタイムは苦痛なのか。

 もう少し感情を表に出さない訓練をした方が良いかもしれないぞ。



「ちょっと待ってください。食事の際の守役のど……味見について、何か良い方法はないかカセルさんと相談してもらえれば助かります」


「あ! 気が回らず申し訳ありません……かしこまりました……!」


「キャン」


「え? マッチャが? じゃあ大丈夫か、ありがと。でもダクスはもうしーだよ。しー」



 おどおどと周りを見渡しているアルバートさんに改めて告げる。



「守役の1人がこっそり味見中らしいので大丈夫でした。勝手に申し訳ないですが……」

「いえ……お気になさらないでください」



 ハイパーエクセレント盗み食いだな。



「じゃあ戻りましょうか」



 行きの倍のスピードで(体感)テラスに戻り、アルバートさんはそのまま準備中のカセルさんに駆け寄った。



「カセル……ちょっと……」


「なんだ? もう話はいいのか? 上手く話せたのかよ?」



 ……お兄さんが答えてるんだけど大丈夫かな。



「……兄さん。何だっていいだろ……それよりカセル――」


「なんだよ。カセルに特別な興味を持ってないって珍しいんだからお前頑張っとけよ~。俺達を見ても顔色変えなかったしさ。前みたいに食事だけでさようならなんてな~。な、ルイス?」


「兄さんが変な横やりを入れるからいつも駄目になるんですよ。静かに見守るという事は出来ないんですか」


「アルバートの自主性に任せなさい」



 私との仲を深める話を聞かされるとは……。目の前にいるんですけど。



「父さんも兄さんもそんな失礼な事を……! もういいから! カセル!」



 アルバートさんはとうとうカセルさんを強引に引っ張って行ってしまった。

 わかるよその気持ち。おせっかいな家族が引っ掻き回すパターンだよね。



「いや~すみませんね~照れ屋な弟で」



 違うと思う。



「レオン、ヤマチカさんの席はどこにするんだい?」



 さすがのおじいちゃん。見事に話を逸らした。



「ここですよ! 用意が出来るまでもう少し待っててね~」



 客という立場なのでお手伝いは失礼にあたるかもしれないが、みんなが準備をしている中で1人何もしていないのは気が引ける。

 そのそわそわとした気持ちを察してくれたのか、おじいちゃんは近くの椅子にクッションを置いて座るよう促してくれた。そして自分も近くに腰を落ち着けた。おじいちゃんの神対応。




 さすがのレオンさんも準備中はあまり話しかけてくる事はなかった。あまり、だが。

 しかもおじいちゃんがうまくやんわりほんわかと間に入ってくれて、おじいちゃん好感度は一気にマックスになった。



(はは~こうやっておばあちゃんの心をつかんだのか。そりゃおばあちゃんも族長の座よりおじいちゃんを選ぶわ~。なれそめをアレクシスさんに聞いたら教えてくれるかな~)


「すみません。手伝いの途中で――」



 2人が戻ってきた。

 カセルさんはこちらを見て笑顔になったので、サンリエルさんにはうまく伝えられたのだろう。



「アルバートに相談でもされたのか? なんで俺には相談してこないんだろうな~」


「そんなの分かり切ってるじゃないですか」


「レオンは親身になりすぎるのかもしれないなあ」



 ジーリさんのフォローは優しいな。いかついのに柔らかいってギャップがあっていい。



「――準備は出来ているようですね。アビゲイルとアレクシスが持ってくる料理で最後ですよ」


 おばあちゃんがキッチンの側の扉から現れた。

 さあ食事開始だ。気合いを入れないと。



「いよいよカリプスか!」


「ジーリ、外の警護の人達にもカリプスを本当に少しですけど持っていってもらえるかしら。担当の時間外の方々には申し訳ないですけどね」


「ありがとうございます! あいつら喜びますよ~」



 おばあちゃんは世が世なら女性のリーダーとして世界で活躍しそうだ。

 知力はもちろん統治力もカリスマ性も備わっていそうだし、トレーディングカードではSランク相当でもおかしくないな。




「――お待たせしました」


 アレクシスさんとアビゲイルさんも揃った。

 小さく切られたキウイメロンを見て申し訳なくなったが、どうにかしてこの人達にはたくさんのキウイメロンを食べてもらおうと心に誓った。



「さあ皆で頂きましょう」







 食事の時間はとても楽しかった。

 レオンさんはすぐさまキウイメロンを食べて美味しいを連発し、それにつられたみんなも口にして美味しいと褒めてくれた。

 そうなんです、チカチカさんは凄いんです。


 心配していた話題もカセルさんがうまく御使い・守役話に持っていってくれたので、実際に拝見した方からのお話に感激している他国民を演じているだけで良かった。自作自演のレベルが上がったと思う。

 カセルさんの言っていた通りレオンさんは張り切っており、アルバートさんの印象を良くしようとしていて面白かったし、それに困っているアルバートさんも面白かった。


 3組の夫婦はそれぞれ相手に自分のキウイメロンを分けようとしていたが、すべて奥さん側が優勢だったのも面白かったし、おばあちゃんにキウイメロンを御使い様に持っていくように言われ、意を決して代金の話をしたものの女性陣に一刀両断にされていたアルバートさん達も面白かった。

 私が頼んだんだけどね。ごめん、ふふふってなったわ~。




 こんな大勢での美味しくて幸せで楽しい食事は久しぶりで、地球の家族や友人に無性に会いたくなった。

 そしてチカチカさんと島のみんなともこの幸せな気持ちを分かち合いたくて堪らなくなった。

 みんなはここにいるけど、島に帰ったら嫌がられるくらい抱き着こうと思う。





 美味しいね。幸せだね。




 家族や友人、チカチカさん、島のみんなにも伝わるといいな。あと<地球>さんも。一応。






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