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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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羞恥の刑

 



「まったく。ごめんなさいね、ヤマチカちゃん」


「いえ。お2人とも紳士的でしたし、拝謁許可を得ているお2人と話をする事ができてとても光栄です」


「あらそう? なら良かったわ」



 アレクシスさんの良い匂いを堪能しながら後について歩く。



「食事の事なんだけど、何か食べられないものはある?」



 ……少し返答に困る質問をされてしまった。なぜならこの世界の食べ物等の名称はさっぱりだからだ。

 そして改めて思う――ユラーハンの事を聞かれても答えられない、と。



 食事の際の礼儀として必ず何かしらの質問が来るはずだ。クダヤの事はすでに教えてもらったから次は私が教えるターンだ。

 このご家族なら立ち入った事は聞いてこないと思われるが、なんせ立ち入った事ばかりか当たり障りのない事も答えられない状態だ。これはまずい。



「食べられないもの……辛いものは少し……」



 結局どこかで聞いた事のあるような返答になってしまった。

 しかしオーソドックスな返答は万能だな。料理名を言わずともこれで会話は成立する。



「そうなのね。じゃあ辛くないものをつくるわ」


「ありがとうございます」


「――城への使いを出さなきゃね。警備の方達に夫の予定を聞いてくるから先に居間に戻っててちょうだい」


「いえ……まだ少し緊張するのでここでアレクシスさんを待ってます……」



 しおらしい感じを出してみたが、心の中では「いぃやったぁ! チャンスがきた!」と興奮している。

 女性とは恐ろしいものだ。


 アレクシスさんは美しい笑顔で私の頭をそっと撫でてから玄関に向かった。惚れる。



「っそうだ! みんないる? 急いで2人を連れて来れる?」


「ぴちゅ」



 聞こえてきたのはキイロとボスの声。

 まだみんなは部屋に残っているのかもしれない。マッチャがいるから扉は開けられるし、カセルさん達も残ってるから――――嫌な予感がする。

<地球>さんが褒めてくれた第6感が反応しているような――



「――わっ!」



 私の第6感は素晴らしい。

 遠くの方で声が聞こえたかと思うと、アルバートさんがこちらに飛んできた。


 『飛ぶ』という単語で間違ってはいない。

 飛ぶというよりは投げ飛ばされてきた、に近いが。とにかく自分の意思でないのは明らかだ。


 そして転がりながら足元に到着したアルバートさん。



「…………大丈夫ですか……!?」



 この一連のあり得ない光景に一瞬行動が遅れた。



「ぴちゅ」

「わっ……!」




 助け起こそうと手を伸ばしたところ、今度は反対側に転がったアルバートさん。

 目には映っていないが確実にキイロ弾丸が発動したと思われる。



「キャン」


「え? マッチャが……? そりゃ言葉はわからないけど……まあ後で」



 事情聴取は後でじっくりゆっくりする事にして、時間がないのでまずは2人に話をする事に。

 結局アルバートさんはカセルさんに助け起こされていた。本当に申し訳ない。



「申し訳ありません! 知らない事が多いので食事の際にその辺りを助けてもらえないかとお戻りは遅くなりますかアレクシスさんが戻ってくる前に……!」



 若干まとまっていないが早口で伝えたい事は伝えた。居間に聞こえていない事を祈る。



「お任せください!」



 声でかっ!



「ご家族に聞こえます……!」


「そうでした。申し訳ありません」



 照れくさそうな謝罪を受けた。

 通常時なら、はにかむ笑顔に胸がときめく場面だろうが今はそれどころじゃない。



「(アレクシスさんが戻ってきますのでこれで……よろしくお願いします)」


「(領主様に御使い様がお見えになっている事を伝えると話は早いのですが……)」







 完全に何かのフラグが立った。





「(…………拝謁はなしで)」


「(ありがとうございます!)」



 自分の保身の方が大切であると一瞬のうちに判断する。

 王女様ごめん。カセルさんアルバートさんとはまたの機会にぐいぐい近付いて仲良くなって欲しい。

 そのアルバートさんは今、服と髪がエアリーな感じになっているけどね。



「それではまた」


「はい」



 アレクシスさんの前で小芝居をし2人を見送る。

 カセルさんは後でちゃんとアルバートさんの身だしなみを注意してあげてね……。



「アルバートその格好はなに?」



 しかし先に身内からの注意が入った。まあそりゃそうだ。



「つまずいて……」


「気をつけなさい」



 あっさり信じた事に驚いたが、髪を直そうとする姉と恥ずかしがる弟、というニヤニヤしてしまう光景に癒された。

 思春期だね~。


 ただ、ニヤニヤしているところを見られてしまい、アルバートさんはカセルさんを引っ張って行ってしまった。

 ごめんごめん。投げ飛ばしてごめん。




「慌ただしいわね。今日は帰って来られるみたいだけど」


「ずっと忙しかったんですか?」


「そうなの。ミナリームの馬鹿がエスクベル様を怒らせてしまってね。だいたい今さらなのよね、最初にこちらが――」



 何やらアレクシス親分のお怒りスイッチを押してしまった。このお綺麗な顔から『馬鹿が』というセリフ……。

 そして私のリアルな黒歴史もまざまざと蘇ってくる。あーごろごろしてのたうち回りたい。



「どうしたの?」



 親分の話に相槌を打ちながら居間に戻ると、アビゲイルさんが話しかけてきた。

 この人も娘とはタイプが違う美人様だ。髪の色は同じだが瞳が青でまさにお人形。

 アレクシスさんの方が迫力という点では上だが。




「ミナリームの馬鹿な使者の話をしていたんです」


「……本当に不愉快な出来事だったわね」


「でもあの出来事があったからこそ、エスクベル様と御使い様のご威光を知らしめることができたのではなくて?」


「そうだな。奴らは尊い犠牲になったんだ」



 ……ミナリームの使者が天に召されたみたいな言い方をしているな。生きてる生きてる。

 そして誰もそこに疑問は無いようで――おじいちゃんは少し困った顔をしているが――話は御使い様の素晴らしさに移っていった。




「――突然の轟音が鳴り響き、哀れミナリームの船は海の藻屑となり果てた。我々は神の怒りをまざまざと見せつけられただただその光景を見つめるばかり――」





 ……なんか劇が始まったんですけど。





「すると神の島から何かがやってくる。それは空を飛んでこちらに向かってくるように見えた。――あり得ない。あれは何だ? 人々は固唾を飲んでその光景を見つめる。そしてそれは段々はっきりと見えてきて――『神の信徒たちよ』その女性はそう仰った」





 言ってない。





「――そう。その女性は御使いのヤマ・ブランケット様であった。そのあまりのお力に一族の者達は苦しみ始めた。――そして御使い様のお声に合わせ、これから神の裁きがなされるかのように辺りに白く立ち込める霧。そして残される会談の出席者――――我々は死を覚悟した」





 まじか。





「ひれ伏し神の沙汰を待つ我々。――しかし御使い様は仰った、『ミナリームの人間はそなたか』と」





 そなたて。





「――視線を向けられた男はあまりの恐怖で答えられない。しかし御使い様はその男の考えている事などお見通しだった。『なるほど。そちらの男か』」





 誰だ。





「――まさしくその男こそが神と御使い様を貶めた張本人だったのだ。そして御使い様は仰る、『即刻立ち去り二度とこの地に足を踏み入れるでない』」





 ほんとに誰だ。





「――しかし、その男は往生際が悪く御使い様に危害を加えようとした――」





 してない。





「その瞬間! 男に向けて神の炎、神の水、神の風が襲い掛かった――――その力はミナリームの人間共々近くの船を跡形もなく消し去るには十分な威力だった」


「何度聞いても素敵!」

「本当に素晴らしいわ」

「さすが御使い様ですね」





 さすが……?





「――そして御使い様は我々クダヤの民に仰った。『辛い思いをさせましたね。神の信徒達よ安心なさい、脅威は去りました。これからも健やかにあらん事を――』そして島にお帰りになる御使い様――――と、こんな話なんだよ」



 急に普段通りの口調に戻るご近所さん。

 色々と処理が追いつかないんですけど……。



「何度聞いても素敵ですわ~」

「やはりゲンさんの話は面白いわね」



 ……ゲンさんはどうしても源さんに変換されるな。



「ヤマチカちゃんどうだった? エスクベル様と御使い様の偉大さがより実感できたんじゃないかしら?」 


「…………すごいですね……」


「でしょう!? 御使い様ってほんとに神々しいお方なの……!」



 頬を赤らめながら目を潤ませて力説するアレクシスさんはとんでもない破壊力ではあるが、私にはそれより気になる事がある。



「あのぉ……そのお話ってアルバートさん達からお聞きになったんですか……?」



 私は誇張した犯人を積極的に見つけていこうと思う。



「アルバートとカセルははっきりとは話してくれなくって。だから私はイシュリエお婆様なんだけど――ゲンさんは?」


「私はイシュリエさんと地の一族、水の一族――あとは騎士達だねえ」


「どの一族の人間に聞いてもみな詳しく話してくれると思いますよ」


「そうだね。領主様もその話題になると饒舌になるようだし」



「……そうなんですね~」






 ……あの場にいた参加者のほとんどが関わっている模様。

 これはカセルさんとアルバートさんにはたくさんごちそうしないとな。




 そして御使いのポーズを真似し、再び称賛し始めたアレクシスさん。

 私の心にはどんどんダメージが積み重なってゆく事となった。









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