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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録24:平謝り

 



 俺の家だがカセルの案内のもと図書室に向かう。



「本当に申し訳ありませんでした……」



 念の為もう一度謝っておく。



「いえ。こちらこそすみません」



 ヤマ様が謝られた瞬間、背中に衝撃を受けた。



「わっ……!?」



 前に転びそうになるのをどうにか耐える。

 辺りを見回すが何も変わったところはない。だがまたあのばさばさという音が……。



「申し訳ありませんでした……」



 姿は見えないが、おそらく確実にいらっしゃるであろう羽を持つ守役様にも謝罪する。

 ヤマ様はどこかに向かって神の言葉を話されているので、やはり近くにいらっしゃるのだろう。


 カセルは「いいなお前だけ」と言いながらちゃっかり守役様にも挨拶をしている。



「皆様にまたお目にかかれて光栄です。あ、着きましたね」



 カセルが開け放した扉をヤマ様がお通りになる。その後ろをついていこうとして――



「わっ!?」



 何かが足に絡まって扉に激突しそうになる。



「お前何やってんだよ」


「あ、いや…………助かる……」



 カセルに助け起こしてもらい図書室に入ると、ヤマ様が困った顔をしていた。

 そして謝罪されたので恐らくさっきのも守役様が関係しているのだろう。

 守役様がお怒りなのはしょうがない。これも俺が逃げたせいだ。



「これが図書室ですか――あ、もう少し扉を開けておいてください」



 我々に話しかけた後、また神の言葉を話しているヤマ様。



「もう大丈夫です。ありがとうございました。それと窓を開けてもらってもいいですか?」


「かしこまりました」



 分厚いカーテンが閉まっている窓をカセルがさっさと開ける。

 俺の家なのに俺より手際が良いってどういう事だ。



「ありがとうございます。――――はい、もう閉めていただいて―――少し目を閉じていてもらえますか?」


「は、はい!」

「はい」



 これ以上守役様のご機嫌を損ねない様に急いで目を閉じる。

 これ以上閉じれないほど閉じた。



「――はい、もう大丈夫です」



 ヤマ様のお言葉にそっと目を開けると――



「ひっ!」

「あ」



 どっちがどっちの言葉かは明らかだ。



「お久しぶりでございます」



 カセルは嬉しそうに守役様達に挨拶をしていた。

 そう――俺達、いや、俺の周りは守役様達に囲まれていた。



「あ、あの……! 申し訳ありませんでした……!」



 慌てて謝罪するが視線を上げる事が出来ない。

 すると、小さめの体をされている印を頂いた4本足の守役様が俺の足元で唸り始めた。



「申し訳ありません……」



 謝罪しながら小さくなっていると、ヤマ様が無言で唸っている守役様を抱き上げた。

 途端に唸るのをやめ機嫌が良くなる守役様。ヤマ様だけに見せるお顔だよな……。



「お姿が見えませんでしたが……守役様のお力ですか?」



 楽しそうに質問するカセル。なんでそんなに楽しそうにできるんだよ……。



「そのようなものですね」



 ヤマ様はカセルと話しながらも守役様達を俺から遠ざけてくれた。



「アルバートさんすみませんね。まさかアルバートさんのお家だとは……」


「いえ! お気になさらずに! このような家でよろしければ……」


「とても素敵なご家族ですよね」



 家族を褒められて嬉しいが、それをどう表現したらいいのかわからない。



「何だよその顔。良かったな」



 カセルが背中をばしばし叩いてくれたおかげで何とかなった。今回は感謝する。今回は。



「ヤマ様は市場でカリプスをお売りになっていたんですね」



 さらにカセルはこの状況も詳しく聞き出してくれようとしている。ありがたい。



「そうなんです。街の女性の助けで商品を置かせてもらえる事になりまして。そこでアレクシスさんとお会いしました」



「ヤマ様、実は――」



 カセルがライハから聞いた出来事をヤマ様に伝える。



「えっ? あの美人さんが幼馴染なんですか?」



 かなり驚いた様子のヤマ様。

 俺も同じくらい驚いたしな。



「そうなんです。あいつの妹も含めて昔から付き合いがありますね」


「それで……。偶然が重なりましたね……」


「私共にとっては大変幸運でしたが。――あのカリプスを食べた瞬間にヤマ様が街にお見えになっている事がわかりました」


「わかりますか~」


「わかりますね~」



 仲良く話をしている2人。

 そんな中俺はというと、羽を持つ守役様達に蹴られていた。しかもヤマ様から微妙に見えにくい位置で……。



「思った以上に緊張しま――――ほんとすみません」



 無言の俺に気がつき、ご自分の周りの守役様を確認されたあと俺がどういう状態か察したらしく、足元の守役様達をすくい上げるように持ち上げて下さったヤマ様。



「いつもお気に障る事ばかりで……申し訳ありません……」


「そんな事ないですよ。少し言いにくいのですが……、実はアルバートさんが部屋を出て行かれた後から何をしていたのかは守役の1人がずっと把握していまして。とても後悔していたのは守役達も分かっていますので大丈夫です。先程の行為はこの2人なりの友愛表現とでも申しますか――」



 さらりと卒倒しそうな事を言われたような気がする。



「……え? あの…………把握とおっしゃいますと……」


「そうですね、すべてですね。会話も、です。ですのでお2人が私達を歓迎してくださっているのは伝わっています。あ、いつも会話を監視しているわけではないのでご安心ください」



 目の前が真っ暗になる。

 家を飛び出してから一部始終を守役様に……。あの状態を守役様に……。



「守役様のお力は凄いですね! すみません、私は気軽にお食事をしたいなどと言ってしまって……」


「いえいえ。……それはそうとアルバートさんは大丈夫でしょうか」


「あー。少し椅子に座らせてもよろしいでしょうか」


「そうですね」



 ふらふらしている俺をカセルが椅子に座らせてくれる。



「……わっ……!?」



 突然、守役様が羽を動かされた事により風がこちらに吹き少し意識がはっきりしてきた。



「あ、ありがとうございます」



 羽を持つ守役様達に感謝の気持ちを伝える。

 今のは本当はどういうお気持ちの表れだったのか気にはなるが……。



「ヤマ様、どうぞお座りください」



 自然な動作で反対側の席を勧めるカセル。



「あっ……先に……申し訳ありません……」



 中腰のまま謝罪し、ヤマ様が席に着かれるのを待つ。



「ありがとうございます。アルバートさん、次謝罪したらこの守役達につついてもらいますので」



 笑顔で告げられた言葉と共に、目の前のテーブルに羽を持つ守役様達が陣取りこちらを威嚇し始めた。



「は、はい……。すみ……!」



 急いで口を押さえ、守役様を窺うと残念そうな顔をされている……気がする。何となくだが。

 そしてなんでカセルは羨ましそうな顔をしてるんだよ。



「それにしても個人のお宅に図書室があるって凄いですね。クダヤの街では多いんですか?」



 膝の上の守役様を撫でながら話を変えてくれるヤマ様。

 こんな近くで守役様がそれぞれ寛いでいる様子を見る事が出来るなんて……。



「ここまでのものはあまり見かけませんね。アルバートの祖母と父、後2人の兄が理の一族でして、城の書庫で働いている関係ですね――――そうだろ? アルバート」



 カセルの言葉に頷く。



「特に祖母が知識を習得する事に熱心でして……。私は肉体的な力という点ではそれほどの適性が無いもので、知識を活用して身を守るようにと」


「素敵な方ですよね、ローザさん。――物語の主人公達に会えちゃいましたよ」


「お会いしましたか」



 ヤマ様とカセルは2人とも笑い合っている。そして話が盛り上がっている。

 何なんだよカセル、お前のその話術は。すごいな。



「――アルバートさんは随分とご家族の方に愛されているようで」



 ヤマ様は俺にもきちんと話しかけてくださるが、その内容はまたしても答えにくいものだった。



「はい……。その……はい……」


「お前なに照れてんだよ」


「そうでした。年頃の男性の中には恥ずかしさを感じる方もいる話題でしたね」


「そうですね」



 カセルが同意するなよとは思ったが、またしても助かったので感謝をしておく。



「カリプスの顛末を城にいる家族が知ったら、みな面白がってすぐ城から戻ってくるでしょうね。長兄はアルバートと真逆の性格ですので色々と張り切ると思います」


「……面白そうですね」



 2人とも企むような顔をし始めた。



「今日の夕食が楽しみです。あ、でもお2人はこれから用事があるんですよね?」


「……はい。明日帰国される王族の方達との会食……という名の売り込みですね」



 カセルの顔が曇る。そして俺の顔も曇る用事だ。



「ユラーハンですか。売り込みという事は、今後の拝謁について何か?」


「いえ、その点はあちらも了承している事です。ヤマ様もいらっしゃる時にユリ王子が『他国と縁を結ぶ』という話をしてしていたかと思いますが――」


「あ~なるほど。確か王女のえー……王女様もいましたね。サンリエルさんが狙いですか?」


「今のところ表立っては領主様と拝謁を許された私達ですかね。領主という立場の者が他国の女性と結婚する事はありえませんので、アルバートがそのうち狙われるでしょう」



 またとんでもない事を言い出したカセル。

 しかもヤマ様が労わる様な表情でこちらを見ている。

 違うんです……!



「何言ってるんだよ……! 王女様はいつも領主様とお前にだけ嬉しそうに話しかけてるじゃないか……!」



 ヤマ様にも聞こえるようにカセルに反論する。



「王女様はまだお若いので今は自分の好みだけで結婚相手を探しているようなんですが、そのうち自国にとって誰が1番有益なのかは分かってくると思います。一族の者は他国の王族の女性を結婚相手にはしないでしょうし、そうなるとヤマ様に最も近いアルバートという選択肢になりますね。もともとクダヤに他国との政略結婚という慣習はありませんので、向こうも挑戦してみるという程度でしょうが」


「……皆さまそれぞれ大変ですねえ」



 ヤマ様に優しい表情で頷かれている俺。

 何でこうなったんだろうか。



「――あ、そうでしたそうでした。カセルさんに聞きたい事があったんでした」


「何なりと」


「御使い権限で聞いちゃいますね。好きな女性はいますか? 恋愛対象という意味です」


「っ…………」





 ここまで言葉に詰まったカセルは初めて見るかもしれない。

 いい気味だと思う気持ちと、同情する気持ちが同時に湧き起こる。






 さすが御使い様だ。







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