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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録23:恥ずかしさの最上級

視点変更

 




 俺は今、これまで生きてきた中で1番強くカセルに会いたいと思っている。

 しかも2番を大きく引き離しての1番だ。



 逃げなければという本能にしたがって家を飛び出してきたはいいが、走り続けて息が切れてきたところでとんでもない事をしでかしてしまった事に気がついた。




(ああああああ……! どうしよう! 絶対不快に思われた……!)



 その場にしゃがみこみたい気持ちを必死に抑え、命綱であるカセルを探す事を優先する。



(もう港の執務室は出てるよな……港の辺りか……どの辺に……駄目だ! 俺の家に集合ってあいつ言ってた! 勝手に決めてた! やみくもに向かっても行き違いになる可能性が……!)



 行き違いの可能性に気づき慌てて足を止める。



(ど、どうしよう……! そうだ! 港側からくるはずだから家に続く道で待っていればいいんだ!)



 これまでにない程今の俺は機転がきいていると思う。

 急ぎ行き違いにならない場所まで戻る。





(カセル早く来い……!)



 いつもは呼んでもいないのに現れるが、今日に限って現れないカセル。

 ずっと立ち止まっている俺を通りすがりの人達が見ている視線を感じながらも、心の中で理不尽な憤りをカセルにぶつける。



(何してるんだよカセル……! 早く何とかしてくれよ……! だいたいあいつはいつも………………でもカセルは関係ないよな……逃げたのは俺だし……。……お怒りになっているヤマ様の前にカセルを連れて行ってもいいんだろうか……あんな奴だけどいつも最終的には助けてくれるし……やっぱりカセルを巻きこんじゃいけない――)


「おい。下向いて何やってんだよ」



 急に掛けられた声に体が大きく跳ねる。しかしこの声は――



「カ、カセル……」


「え、お前何? 泣いてんのか?」



 待ち望んでいたカセルの登場についつい泣きそうになる。

 が、泣きそうなだけで泣いてはいない。



「目に砂が入っただけだ! それよりお前落ち着いて聞けよ!?」



 落ち着いていないのは明らかに俺の方だが、人が来ない時を見計らってカセルに告げる。



「……ヤマ様が家にいらっしゃった」


「はあ?」


「だからっ……! 家に帰ったら居間にいたんだよ! 俺達の探してる人が……!」


「――何だよそれ。お前んちに? なんでだ?」


「そんなの知るわけないだろ! 姉さんから紹介された人を見たらヤマ様で……」


「紹介…………で? お前はなんでここにいるんだ? 何でいらっしゃるのか家族に聞けばよかったじゃねーか」


「………………げた」


「え? 俺でも聞こえない声出すなよ。何だよ?」


「…………だから! 逃げてきたんだよ!」



 大声で自分の情けなさを告げる。あああああ……!



「……はあ!? 逃げた…………くっ……にげ……た……ぷっ……!」



 堪え切れないかったようで、とうとうカセルが盛大に笑い出した。

 カセルを巻き込むのは――なんて考えていた少し前の俺を全力で突き飛ばしたい。



「ははは! あー! 苦しい! お前逃げたって……! ぷっ!」


「おい! 失礼な事をしたって俺が1番わかってるんだからな!?」


「そ、そうだな……! それにしても御使い様から逃亡……!」


「しょうがないだろ……!? まさか家にいらっしゃるだなんて誰が想像できるんだよ!」


「そ、それもそうだな……!」



 笑いすぎて俺じゃなくてカセルが涙を流している。そんなに俺の失態はおかしいのか。

 俺も笑えたら楽になるのか。



「笑うなら後でいくらでも笑えよ! それよりカセルどうしたら……!」


「どうするも何も家に戻るんだよ。もともとお前んちにお引き留めする予定だったんだからちょうどいいじゃねーか。守役様いらっしゃってるよな? お会いできるかな?」



 こいつの前向きさが今は恐ろしい。



「お前……! 俺はご挨拶もせずに逃げてきたんだぞ!? きっとお怒りだぞ……!」


「大丈夫だって。ヤマ――――人が来る。まあとりあえずお前んち向かうか」



 カセルに背中をどんどん押されて逃げてきた道をまた戻って行く。




「まだ心構えが……!」


「お前なあ、こんなの時間が経つほどややこしくなるからな? さっさと謝罪すればいいんだよ」



 思いっきり正論で諭され俺は何も言い返せない。カセルのくせに……。



「さっさと謝罪してお食事でも一緒に出来ないかな? でもこの後めんどくせー用事が入ってるんだよな……。領主様にはうまくごまかしてきたけどな、さすがに王族との会食に参加しませんなんて急に言えないよな~」


「当たり前だろ……。でもお1人にするのは……」


「だろ? ――まあお話をお伺いしてからこっちも考えるか!」



 いつまでも悩まないカセル。本当に羨ましい。

 俺はこの失態を思い返さない日は来るのだろうか。思い出したくない記憶がまたひとつ……。




 そしてとうとうカセルに追い立てられるままに家に着いてしまった



「どうした~?」



 警護の人達から声を掛けられる。

 そりゃそうだ。あんな勢いで走り出してきたんだから。



「驚く事があったみたいですよ」


「そうか~大変だったな」



 まさかとは思うが、信じた。

 地の一族の人達は大多数がこんな感じだったな。族長があの人だしな……。




 カセルを先頭にして隠れながら居間に向かう。



「もしかしたらもうお帰りになってるかも……」


「確認すれば済む話だろ。ほらさっさと来いよ」


「……俺んちだぞ」



 どうにか時間を稼ごうという試みもむなしく、カセルは躊躇することなく扉をノックした。



「こんにちは~」


「カセル? 今アルバートはいないのよ。それよりあの子どこにいるか知らない? まったく女性の前で――」


「悲壮な顔してたんで連れてきましたよ。なんでも知ってる女性と見間違えて驚いたらしく――」



 カセルは頼むまでもなく俺の失態の説明をしてくれている。ありがとうカセル。



「――ほら、アルバート」



 そしてとうとう扉の陰から連れ出された。



(――――――!!)



 居間にはまだヤマ様がいらっしゃった。

 笑顔だ……。そこまでお怒りではなさそうなのがせめてもの救いだ。



「アルバート! まったくあれほど女性には失礼のないようにって――」

「いきなり逃げ出すなんて!」


「まあまあ、2人とも。アルバートも反省しているようだし、驚いてしまっただけだよ」



 祖父はいつものように優しい。



「あ、あの……。突然申し訳ありませんでした。知っている女性と見間違えてしまって……」



 カセルの言い訳を拝借し、ヤマ様に向かって謝罪する。



「気にしないでください。――ヤマチカです。ユラーハンから神の社に拝謁する為と商いをする為に来ました。皆さんのご厚意で本日お世話になります」


「……え? ユラーハン? え? あの、お世話に……?」



 視線でカセルに助けを求める。俺では理解力が足りない。

 しかし、カセルはきょろきょろと視線を彷徨わせてこちらに気付かない。



「今日はヤマチカちゃんが泊まるから2人とも礼儀正しくね」



 母の言っている事を理解したくない。泊まる? そして『ちゃん』なんて呼ばないでくれ……!

 俺の混乱した気持ちがわかったのだろう、ヤマ様が説明してくれた。



「突然すみません。街で宿を探していたんですがどこもいっぱいで――」


「とっても美味しいカリプスを売っていたから全部買い取る事にしたのよ。でもどのくらいの価値があるのかわからないからお祖母様に判断を仰ごうと思って。そうしたら宿も決まってないって話でしょう? ちょうどいいわと思って連れてきたの」



 ヤマ様のお言葉を遮った姉にひやひやする。

 しかしヤマ様はにこにこと姉に話しかけている。



「お世話になります」


「いいのいいの。――やっぱりその帽子似合うわ。ヤマチカちゃんも作ってもらう?」


「……すでに出来ているものはないんですか?」


「街の店でも売り出し始めているんだけどね、やっぱり羽飾りなんかはなるべく御使い様に近づけたいじゃない? だから注文して作ってもらった方が良いの」



 姉がとんでもない事を言っている。



(姉さん……! その方が御使い様なんだよ!)



 御使い様に御使い様の真似をした帽子を勧めるというよくわからない事になっている。

 しかも御使い様の被っていた帽子について、母も祖母も加わりヤマ様に事細かく素晴らしさを伝えている。

 実際に見た訳でもないのになぜそんなに自信満々なんだろうか……。


 案の定ヤマ様も少し困った顔をしている。ああああ……!

 何とかしろの意味を込めてカセルの背中をこそっと殴る。



「ん……? ああ――――初めまして。“風”のカセルです」



 カセルが女性陣の話に割って入った。勇気があるやつだ。



「初めまして、ヤマチカです」


「――あら? カセルを見てなんとも思わない?」


「なんともとは……?」


「ほら、この子顔は良いし一族だし性格は……そこそこ良いし。たいていの女の子は惹かれるんだけど」


「そこそこって……。そういうの目の前で言わないでくれますか~」



 一気になじんだカセル。お前は本当にすごいよ……。



「一族の方を見慣れていないからでしょうか? そういう対象、という感じではないですね」



 意外とばっさり答えてくれるヤマ様。

 そもそも御使い様にそんな失礼な事を聞かないで欲しい。



「ほら、みんながみんな同じじゃないですって。――そういえば皆さん、ヤマチカさんにもうこの家の図書室はお見せしました?」


「まだよ」


「俺とアルバートで案内してもいいですかね? 見せられない物はしっかり管理しますので。――――アルバートもきちんと最初から自己紹介をやり直した方が良いと思いますし。皆さんの前だと恥ずかしいでしょ?」



 姉に続きカセルもとんでもない事を言い出したが、ヤマ様を家族から離す為にここは我慢だ。



「アルバート行っておいで。ヤマチカさんに色々と教えてあげられる事があるかもしれないよ」



 祖父の意見に女性陣も特に反対ではないようだ。



「ですよね~。先生やってるくらいですから」


「しっかりね!」


「う、うん。……じいちゃんありがと」


「じゃあ行きましょうか。この家の図書室は素晴らしいですよ~」


「楽しみです」



 うまくヤマ様を居間から、そして家族の傍から引き離す事ができた。

 しかし居間から出て扉が閉まった瞬間、ばさばさと聞いた事のある音が聞こえてきた。





 ……俺は無事に家族と再会できるのだろうか。







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