表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/216

綺麗な人は良い匂いがする

 



 再びの喧騒の市場。私はこれから挑戦する。



(あの人他国の人だ……やめとこ。……あ、あの人……あーあ、お客さんと話し始めちゃった……)



 良さそうなお店の人を物色するが中々見つからない。できれば愛想の良い女性か、同い年くらいの人が好ましい。


 ……自分がえり好みをしているのはよくわかっている。

 人見知りがすぐ直るわけないしー。御使いキャラも使えないしー。




(同じような商品を扱ってる人は止めといた方がいいよね。出来るだけかぶってないような――)


「ねえ! どうしたの?」



 突然近くから聞こえてきた大きな声にびくっとする。

 私に話しかけているのかと、声が聞こえてきた方向に振り向く。



(うわ、美人さんだ)



 振り向いた先にいたのは、金色の髪をポニーテールにしている美人な女性だった。



(大人でポニーテールが似合うって難しいよな~。素材が良くないと似合わないだろうし――)



 美人さんを見ながらついついどうでもいい事を考えてしまったようで再び同じ質問をされた。



「ねえ、どうしたの?」



 慌てて返事をする。



「すみません……! あの……収穫したものを売りたいなあと考えていまして」


「そうなの! きょろきょろしてるからどうしたのかと思って」



 この人の声は大きめなんだという事はとりあえずわかった。



「ここでの商売の決まりも何もわからず来てしまいまして……。どこで売ればいいのか教えてもらおうと」


「そっか~。最近は場所取り争いも激しくてね~。みんな市場が解放される時間を狙って来てるから今からだと難しいかも」


「そうなんですね……」



 残念な表情とは裏腹に、初対面の人達とやり取りをしなくてすんだ事にどこかほっとしている私。

 いちおう挑戦したという事実は残るしね。



「ありがとうございました。また出直しますね」



 にこやかな笑顔で立ち去ろうとすると引き留められた。



「いいの?」


「はい、明日早くに出直します。今日は宿屋……が空いてるかどうか分からないんですけど、ひとまず教えてもらった宿に向かってみます」


「宿屋?」


「まどろ「それあたしの家!」



 ものすごい反射神経でかぶせてきた。



「……じゃあ、まどろみ亭の騎士の娘さんってあなたですか?」


「そうあたし!」



 神の使いらしい要素が出てきたな。目的の人物との奇跡的な遭遇。



「会えて嬉しいです。宿はやっぱり空きは……」


「そうね、空いてないの。ごめんね……。――あなた1人? 誰かと来てるの?」



 それからあれこれと怒涛の質問攻めにあったが、嫌な気持ちにはならなかった。

 親身になってくれているのがわかるからだ。



「――じゃあさっさと売り切って船で帰るのが良いかもしれない。いちおうその辺の人にも宿の空き状況がわかれば教えてもらえるよう頼んどくよ。――――すみませ~ん!」



 そう言うやいなや近くの人に交渉を始めた美人さん。

 色々と素早い人だ。別に商売しなくても大丈夫ですとは言い出せなくなってしまったけどね……。

 そういえばお互い自己紹介も何もしてない。美人さんも気にしてなさそう。





「この人達がカリプスを一緒に置かせてくれるって!」



 そう言って紹介してくれたのは顔に印のある若いご夫婦のようだった。



「あ! あたし買い出し途中だった! じゃあね! もし空きが出たら教えるね~!」


「あのっ!」



 勢いよく去っていこうとしたので慌てて引き留める。



「これよかったら……! 頼んでくれてありがとうございました!」


「いいの? ありがとね! それじゃあね~!」



 キウイメロンを持って人混みに消えて行った美人さん。後姿も綺麗だな。そしてありがとう。



「あの……ヤマチカと言います。ありがとうざいます。急にすみません……」



 ニコニコとこちらのやり取りを眺めていた男女のペアに改めて挨拶をする。



「ミュリナよ。気にしないで、今日はたくさん売れたから置き場所はあるの」



 組み立てやすそうなテーブルには食べ物や小物類が少しだけ残っていた。



「ありがとうございます、助かります。――これ赤ちゃん用の靴下ですか?」



 ついつい小さな可愛らしい靴下に目が留まる。



「そうなの。自分の子供用に作ってたんだけどね、作り過ぎちゃうからどうせなら一緒に売ろうと思って。ね、ジョゼフ」



 大きなお腹をさすりながら隣の男性に笑いかける女性。思った通り夫婦のようだ。



「とても可愛いです。……お体は平気ですか?」



 お腹の大きさからするともうそろそろ産まれてもおかしくない気がする。

 すると旦那さんが笑い出した。



「失礼、僕はジョゼフです。――ほら、お嬢さんにも心配されて。だから家で大人しくしてればよかったのに」


「だって……。私も商品を作ってるんだからそれを直接お客さんにお渡ししたいわ」



 仲の良いご夫婦にほんわかとした気持ちになりながら、お客さんが来るまで2人の話を聞かせてもらう。



「小物類はミュリナさんが作ってるんですね」


「一族の人ほどの技術はないんだけどね。食べ物なんかはジョゼフが仕入れているの」


「いつかは自分達の店を建てるんだ。――その前にクダヤの住民にならなきゃいけないんだけど」



 2人は今、他国民が居住を許されているエリアに住んでいるらしい。

 やはりクダヤは住みたい街ランキング上位のようだ。



「いまだに島の神に不安を感じて敬遠する人もいるから私達もなんとか住む場所を確保できたのよ」


「みんなが殺到しちゃったら住むところが無くなっちゃいますもんね」


「一族の人達はたくさんの人が一度に住める家を作れる技術は持ってるらしいんだよ。あの塔みたいなものかな」



 ……さすが一族の人達。マンションも視野に入れているとは。



「あのお城も塔も他国では――――いらっしゃいませ」



 話に夢中になっている内にお客さんが来たようだった。

 そのお客は女性のようだが、羽飾りがついている大きなつばの広い帽子を被っていて顔は見えなかった。



「もうこんなに売れてしまったのね」



 そう言いながら帽子を上げたのでその時初めて顔がはっきりと見えた。



 ――とてつもなく美人な女性だった。美人さんなんてものじゃない。美人様だ。

 髪は一般的な茶色なのだが、目の色が淡い紫でとても綺麗。とにかくすべてが美しい女性だった。



「アレクシスさん」


「同じような年じゃないの。やめてよ」


「さんをつけなきゃいけないような雰囲気なんですもん」



 楽しそうに会話する女性達。

 美人様は近寄りがたいオーラを醸し出していだが、話し出すとそれもなくなった。



「この靴下可愛いわね~。お腹の子は元気? 私も早く子供が欲しいわ」


「相手が一族だとすぐにってわけにはいかないみたいですね」


「そうなの。うちの祖母も――――あら? 妹さんかしら?」



 隅っこにひっそりと潜んでいたのだが気付かれた。



「いえ、他国から行商にきた子です。初めてクダヤに来たようで、一緒にここで商いをしてます。私達も商品が少なくなっていたので助かっていますよ」



 ニコニコとジョゼフさんが私の説明をしてくれる。

 それにしてもジョゼフの旦那が良い人過ぎて泣きそう。完全なお荷物なのに優しすぎる。



「1人で来たの?」



 美人様から会話のボールが……!

 しかもこれぞ本物の慈愛の笑み。美しすぎる。



「は、はい」



 そして謎の緊張。



「そう。このカリプス?」


「はい……」


「味見用のカリプスはある?」



 ……そんな事全然考えてなかった。



「ええと……これを……今切りますから」


 わたわたと腰ベルトから短剣を取り出そうとするが、慣れていないのでもたつく。

 すると、美人様が「これね」と言ってキウイメロンを持ったと思ったらいつの間にかキウイメロンは2つに切られていた。

 その美人様の手には短剣が……。





(…………アサシン?)



 茫然と美人様を眺めていると、カリプスをひと口かじった美人様がカッと目を見開いてこちらを凝視してきた。



「すっごく美味しいわ……!」



 なんだ、びっくりした……。



「よ、良かったです」


「これ全部もらうわね。同じ木から採れたものでしょう? おいくらかしら?」


「あ。えーと……」



 金額を決めて無かった事と、豪快な買い物の仕方に少し動揺する。

 なのでもう正直に話す事にした。



「実は他のお店の値段を見て決めようと思ったんですが、値段に差があるみたいでどうしようかと……」


「そうなのね。――――これの価値は?」



 そう言ってジョゼフさんに残りのキウイメロンを渡す美人様。



「これは……。これほどの味は滅多に出ないかと……」



 味見をした後悩み始めたジョゼフさん。



「あの、手続きをしてくれた男性が銅貨1枚で買ってくれたんです。もし高過ぎなければその値段で――」



 お願いします、と続けようとしたところで美人様が物凄い勢いで遮ってきた。



「なんですって!? 手続きって事は一族の人間よね? 今日の担当はどの一族だったかしら……こんな子を騙すなんて……!」



 どうしよう。ヒートアップしてる。

 訳がわからずジョゼフさんを見ると、銅貨1枚の何倍もの価値はあると教えてくれた。

 ……そういや予想は出来た事だったな。



「ア、アレクシスさん?」



 勝手に名前を呼ばせてもらう。



「その人、味見をせずに銅貨1枚で買ってくれたんです」


「…………そうなの? ……じゃあしょうがないわね。むしろ良い人ね。ジーリに言っておかなきゃ」



 美人様アレクシス様を宥める事に成功した。



「じゃあお祖母様の意見を聞かせてもらおうかしら。――あなたどこの宿をとっているの?」


「え? ……宿はどこもいっぱいなようでして、売れ次第帰ろうかと……」


「まあ! それならあなた家にいらっしゃいな。それがいいわ! こんな良いものを売ってもらうんだからちょうどいいわね。家に帰ればお金も用意できるし――」


「……あの……」



 話がどんどん進んで行くが、見知らぬ人の家に行くのはさすがに遠慮したい。肩に爪も食い込んでますし。

 困った顔でミュリナさんを見ると笑顔を返してくれた。



「安心して。アレクシスさんのお家はお城の次に安全だから。もしかしてお城より安全かもしれないけど」



 ……どんな家だ。



「そうそう。うちには男達もいるけど一族ばかりだから安心して」



 素敵なウインクを披露してくれるアレクシスさん。さすがに様になっている。



「……じゃあお言葉に甘えて」



 もともと宿に泊まる予定ではあったし、どこに泊まっても私の安全は揺らがない。

 ならご厚意に甘えさせてもらおう。



「さあ! そうと決まれば行きましょう!」




 いつの間にか親分と子分みたいな関係になってしまった。でも女性にもモテそうな人だからしょうがないな。

 ついて行きます、親分。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ