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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録22:望みの先の先

視点変わります。

 



「張り合いがないってこういう事なのかもしれないな~」



 明るい日差しの下、城に書類を届け終わりのんびりと歩いている俺達。

 そんな中どこか気の抜けた顔で呟くカセル。そもそも張り合いを持って仕事をした事があるのか疑問に思うが。



「張り合いって……。まだ数日だろ?」




 神の怒りを目の当たりにしたあの出来事から数日が経過していた。


 ミナリームの連中は被害が少なかった船に乗りすでに母国に向けて出発しているが、技と水の一族のご老人達が提案(やや強引な)し、破損した船のいくつかは修繕の為クダヤに停泊したままだ。

 修繕というか、神の力の痕跡が残っている箇所を修繕の名目で自分達の物にしているというか……。

 あの技の族長ですら喜々として炭化している船の一部を持ち帰っていたし、本当に一族のやる事には驚かされる。

 必要なのかそれは?


 もちろん領主様は「無償の修繕だからな」と神の遺物集めに参加していた。

 そして現在港の執務室に飾っているが、邪魔ではある。

 ぼろぼろの木材のなれの果てにしか見えないからだ。





「数日しか経ってないけどな~。今までは先の予定に拝謁があっただろ?」


「……二度とお会いする事ができない訳じゃないだろ」



 あまり自信がないがまたお呼び下さる……と信じたい。



「――望んでいない拝謁は予定されてるのにな」



 ぼそっと心からの気持ちを漏らすカセルだが、俺も同じ気持ちだ。口には出さないけどな。

 ユラーハンの王族のお2人が明日には帰国されるという事でとうとう今夜会食の予定が組み込まれてしまったのだ。


「国に戻る使者と最後に食事をするのはおかしい事ではありませんわ」という短期間で交渉の腕を上げてきた王女様の提案に、王族の誘いを断るほどの理由がなかったせいだ。

 俺の参加は今でも必要ないと本気で思っている。




「ユ……ース様はクダヤを楽しまれたようでなりよりだけどな」



 お2人の身分は伏せているのでこちらとしては表向き使者に対しての対応になるが、神の社に拝謁したり神の持ち物展示にも足を延ばしたようだった。


 ミナリームがもう少しぐずぐずしてくれていたらそれを理由に断れたのに、よほど神の力が身に染みたのか逃げ帰るようにいなくなってしまった。

 こちらの忙しさが和らいだのを見逃さなかった王女様はさすがユラーハンの王族――といったところだろうか。押しの強さも光るものを持っている。




「それより、俺達休憩も兼ねて外出してるんだから食事にしよう」



 気分を変えるためにそう提案する。



「だな。――今日はライハのとこでも行くか。この時間なら忙しさも落ち着いてるだろ」


「忙しい時に行くとスヴィが笑顔でやんわり嫌味を言ってくるよな……」


「ライハは嫌味どころか「帰れば」だけどな」


「おじさんとおばさんはそんな事ないのに……。あの2人の性格はどうしてああなったのか不思議だよな」



 幼馴染姉妹のあの性格はどうやって形成されたのか討論しながら店に到着した。

 ちなみに結論は「自分の意思」というあやふやなまま討論は終了した。




「あ、いらっしゃいませ」



 店に入るとスヴィが笑顔で出迎えてくれた。

 客も数人程度なので嫌味を言われる事はなさそうだ。



「飯食いに来た。ライハは仕事か?」


「お姉ちゃんは今日は休みで……。今は夜の仕込みの足りない材料を買い出しに」



 相変わらず繁盛しているようだ。



「おじさんとおばさんは大丈夫? このところずっと忙しいだろうし」


「最近は落ち着いてきたので。……拝謁の待ち時間に食事をとれるよう港の一画を整えてくれたおかげです」


「待ってる間暇だもんな~」



 今や、神の社への拝謁に出発できる場所は出店や露店が立ち並び夜でも賑やかな一角になってしまっている。

 警備の関係で一度に拝謁できる人数が限られている為、ゆっくり待てるように椅子が設置されたのがきっかけだ。

 今では簡易的な日除けも設置されており、楽しみながら拝謁の順番を待つ事が出来る。



「神の島に関する事は仕事が早いよな。いや、他が遅いわけではないけどさ……」



 他の事ももちろん優秀な一族の人間が筆頭となって進めているが、神の事となると力の入れようが明らかに違う。

 今回の社付近の整備には現役を引退した一族の人間も自発的にたくさん関わっていると聞いた。船の修繕がいい例だろう。

 俺の何倍も長生きしているのに俺よりもまだ力があるという事実には情けない気持ちが込み上げてくるが……。







「――――あ! いらっしゃい! 今日は暇なの?」



 用意してくれた食事をとっているとライハが戻ってきた。……声が大きい。



「城からの帰り。これから港」



 ライハの方を見もしないでがつがつと食事をしながら答えるカセル。

 一方のライハもカセルの返答など気にせず、スヴィに仕入れてきた食材を渡している。

 自分で聞いておきながらなんだよとは思うが、これがいつものライハだ。

 俺達が長年幼馴染をやっている理由がよくわからない。



「――――うん、これは2個しか買えなかったの。あんた達の仕事ぶりを今まで近くで見た事なかったんだけど、アルバートって何してるの? 必要なの?」



 突然俺の存在を否定してくるライハ。



「……なんだよいきなり。いつもそうだけど話の流れがわからないからな」



 スヴィと食材の話をしていたのになぜ俺の話になるのか。



「この前のあれ。そうあれ! すごかった! あたしも見ちゃった!」



 勝手に話しかけてきて勝手に話を終わらせて勝手に盛り上がり始めたライハ。



「――いや~スヴィにも見せたかったな~。で、アルバートってなんの役に立ってるの? カセルだけで成立してたよね?」


「……お前はいつも失礼だよな。……俺だって好きで選ばれたわけじゃないからな」


「みんな羨ましがってるのに。代われないの?」



 ずけずけと言ってくるライハだが、長年の付き合いから俺の事を心配して言っているのがわかる。



「あんな様子じゃ何かあっても咄嗟に対応できないでしょ。カセルは能力だけはあるから平気だけど」



 カセルにまで話が飛んだ。能力だけ……。



「アルバートはヤマ様と守役様に気に入られてるからいいんだよ。それよりお前あの時の顔なんだよ? すげー顔してたよな」


「顔?」


「会談に向かう時」


「会談? ……あの時はフランシスさんに毅然とした態度でって言われたからそのつもりでいたけど」


「あれがぁ?」



 大笑いをし始めたカセル。俺もついつい笑ってしまう。

 あの顔が毅然……。



「え~あたし変な顔してたの? あ~失敗しちゃったな~! 次はちゃんとしないと!」



 笑う俺達に気を悪くするわけでもなく前向きなライハ。幸せな奴だ。



「お姉ちゃんなら大丈夫。次は上手くいくよ。――――これどうぞ」



 そう言って目の前にお皿を置かれた。



「カリプス?」


「はい。お姉ちゃんがもらってきてくれたんですけど、美味しければお客さんに出そうと思って……」



 さりげなく毒味係にされている俺達。



「味見して買わなかったのかよ」



 食べやすく切られたカリプスを胡散臭そうに見ながらライハに話しかけるカセル。

 普通は味をみて買うものだ。出来の悪いものは食べられたものじゃないからな



「これはもらったの!」


「あやしいな」


「そんなんじゃないって! 市場で女の子を助けたらお礼にって」



 ライハの話によると、神の社へ拝謁ついでに他国から行商に来たものの、初めてのことだらけで右往左往している女の子に声を掛けたそうだ。

 事情があり知り合いの所に世話になっているが、自分の分は自分で稼ごうとやってきたらしい。

 まだ若いのにえらいな。



「宿屋も探しててね、うちに泊めてあげたかったんだけど今はどこもいっぱいでしょ? 露店を出せるよう交渉しただけで感謝されちゃって」


「へ~。ちゃんと交渉できたんならいいけど――――」



 カリプスをひと口食べ急に黙り込んでしまったカセル。



「お、おい。どうしたん「なあ。これを貰ったって女……の子、どんな顔してた?」


「美味しかったの? 買いに行くなら急がないと。まだいるかなあ~。そうそう顔はね……あれ? どんな顔してたっけ?」


「……黒っぽい髪か?」


「そう! 黒だったと思う。でもどんな顔してたかな~?」


「もらったやつ俺が全部買うから取っておいてくれ。食事代はその時に一緒に払うから。仕事を思い出したから帰る。じゃあな。あ、これもらってくわ。アルバート急げ」


「え? おい、カセ……! ごちそうさま! また後で!」



 らしくない態度でさっさと店を出て行ってしまったカセルを慌てて追いかける。

 ライハ達はお腹が痛くなったと思っているみたいだが絶対に違うと思う。








「おい! どうしたんだよ!」



 どこに向かっているのかもわからないまま、ずんずん歩いて行くカセルについて行く。



「――――お見えになってるぞ」


「え?」


「あのカリプスの味。食べた事がある」


「……そうか? それを買いに行ってるのか? お前が全部食べたから俺はよくわからないけどな」


「お前も食べた事あるよ」


「え? 俺も?」



 そしてカセルは辺りを見渡し、声を潜めて言った。



「――あれは神の食べ物だ。ヤマ様が街にお見えになってる」






「は…………。……え?」



 突然の事で声が出てこない。



「急げ。宿を探されてたって事は街にお泊りになるつもりだ。宿がないなら島に戻ってしまうぞ」


「え? あ? ……え!?」



 驚愕しながらもカセルについてひたすら歩いて行く。



「(ど、どうするんだよ!?)」


「(そんなの家にお泊りになってもらうに決まってんじゃねーか。あ、お前んちな)」


「(はああ!? なに馬鹿な事言ってるんだよ!?)」


「(お食事だけでも一緒にとれるかもしれないしな)」


「(お、おい! 人の話を聞けよ!)」



 いつもなら流せるが今日だけは話を聞いてもらいたい。



「そうだ。領主様をうまく誤魔化してくるからお前そっち側を探してくれ。俺は港近辺を探すから。見つけたらちゃんとお引き留めしとけよ! 後でお前んち集合な~」


「お、おい! 待てよ! 勝手に……!」



 まさしく風のように去っていくカセルを止められるはずもなく、ぽつんと1人取り残される俺。

 結局、ヤマ様が街に来ているかもしれないという事態を見過ごせるわけもなく1人で探す羽目になった。








(いらっしゃいませんように……! いらっしゃいませんように……!)



 祈るようにライハが会ったという市場に来たが、俺の願いが通じたのかヤマ様のお姿は見当たらなかった。



(もうお帰りになってるんじゃ……。…………聞き込みなんかしてたら怪しまれるよな。そうだよな、変な素振を見せない方がいいな。いちおう俺だって拝謁を許されている身分だからな。顔を知られている可能性もあるしな。…………よし、いったん家に帰って作戦を練ろう)



 自分に甘いのは知っているが俺は逃げる。

 万が一の可能性でも、1人でヤマ様達にお会いするなんてとんでもない。

 やれることはやったと自分を慰めながら家路につく事にする。

 情けなさに涙が出そうではあるが……。











「……ただいま……」



 玄関を開けとぼとぼと居間に向かう。

 いつものように近所の人達が集まっているんだろうが、あのおしゃべりで俺が逃げた事実を和らげたい。




「こんにちは……。母さん、お茶を入れてもらっていい?」


「あら。お帰りアルバート。疲れてるわね~」


「色々あってね。――――ありがとう」


「もう家に帰ってこられるの?」


「うん。ユラーハンの人達の滞在も今日までの予定だから」


「よくやったなアルバート」


「ありがとうございます……」


「元気がないわね~。あ、そうそうこちらヤマチカさん。お若いのに1人でクダヤに行商に来てるの。売り物のカリプスがとっても美味しくって――――ちょっと! 聞いてるのアルバート!? ……アルバート!!」











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