思ってたのと違う
ファンタジー世界でお馴染みユニコーンさん。
木の滝のひらけた場所に飛び出してきたはいいが、なにやら飛び上がって驚いた。飛び上がるんだ……。
そして後ろから走ってきたエンにさらに飛び上がる。
(リアクションの激しい子だな……。いやこの場合は仔か……)
わりとどうでもいい事を考えている間にも、じりじりと木の滝に追い詰められているユニコーンさん。
「……エンどうしたの?」
なんとなく予想はついているが尋ねてみる。
「クー」
「そうね、追い立ててね……」
みんなも加わってしまい、木の滝を背に絶体絶命感を出しているユニコーンさん。
池に飛び込んで逃げるのかと思いきや、後ろ脚を少しつけてはやっぱり出す、という動作を繰り返している。
……想像してたユニコーンと違う。
「泳げないの?」
見るに見かねて思わず話しかける。
そのユニコーンは悲鳴とも鳴き声ともつかない「ヒッ」という声を残したままとうとうしゃがみ込んだ。
……なんか人間臭いな。
「私の言ってる事分かる?」
「ヒッ」
私が凄く悪い奴みたいに見える。ただ話しかけてるだけなのに。
「ねえこの子安全だよね? ――そっちに近付いても大丈夫かな?」
「ヒッ」
ボスからの安全という言葉をきちんと聞いてから近付く私。危機管理。
それにしてもその「ヒッ」はどっちの意味なのか……。
「みんなは離れててね。白フワ達は一緒に来てくれる?」
害の無さそうなメンバーを厳選してゆっくりと近寄る。
白フワ達はひと足先にユニコーンを囲むように飛び回っていて、慰めているようにも見える。
「……こんにちは。はじめまして、近くの島にお世話になってる山内春です――そう、よろしくね」
ユニコーンよりも白フワ達が機敏な動きをして挨拶を返してくれた……ような気がする。
「ヒ……」
上目遣いでこちらを見つめてくるユニ……コーンでいいや。
神秘感はあんまりないけど、これはこれで可愛いしアリだな。
「よろしく。頭のとこ触っていい?」
許可を得てから挨拶がてら撫でさせてもらう。
さすがのさらっさらの毛並み。これは想像通りだった。
「ここをこのメンバーで守ってるの?」
撫でながらも白い襟巻みたいになっている白フワ達に聞いてみる。
みんなのように会話が出来る訳ではないが、動きから判断すると合っているようだ。
「……え? まだいるの?」
ボスから衝撃のお言葉。
「こっちを窺ってる? まあ正しい判断だよね」
なんとなく白フワ達をもふもふする。
「大丈夫だよ~って伝えてくれる? 追いかけ回されたんだろうしすぐには信用できないかも知れないけどさ」
そう言って島のみんな1人1人の毛をごしごしする。
「ほら怖くないよ~」
ごしごしやっても怒ってないよ~。
ボスの前脚を噛んでも怒られないからね。ひんやりして気持ちいいんだよ~。
この作戦が功をなしたのか、ぽつぽつと白いモノが姿を現し始めた。
「出てきた出てきた――――多くない?」
辺り一面白フワ達で溢れかえり、個々の区別がつかないくらいの密集具合。
島のメンバー周りは見事なほど誰も寄り付かないが……。
「へ~。幻影ねえ」
ボスが言うには、白フワ達は木の滝に近付こうとする生き物に対していわゆる混乱系の能力をつかい、寄せ付けないよう頑張っているという事だった。
だからこの数なのね。数で勝負する進化を遂げたのか。
「意外とスペック高いね~すごいすごい」
空中で手を大きく動かして白フワ達を撫でる。
「君? あなた? はどんな能力があるの?」
コーンにも質問する。白フワであれならもっと凄そうな能力を持っていそうだ。
「ヒ……」
答えてくれたが、言葉がわからないのでボスを見上げる。
ボスの返答は――
「……何も?」
――まさかの「何も無いと思う」発言。
ついついダクスに目がいく。私の次に何も無い代表だもんな。
そのダクスは頭に大きなふわふわが乗っているようにも見えて可愛さがアップしていた。
白フワ達もダクスには慣れた様子でなにより。
「何もかぁ~。……普段どんな感じで過ごしてるの?」
何か特技はあるかもしれないと思い、今度はコーンの普段の様子を尋ねてみる。
すると、そっと横に寝そべった。
「…………いつもの感じ?」
「ヒ」
「……お腹が空いたらどうするの?」
起き上がり池の水を飲み始めるコーン。
「……危ないって時は?」
ささっと白フワの中に隠れ埋もれるコーン。
「そっか……あ、うん良いと思うよ! 池とセットで見ればさらに雰囲気も増して良い! ファンタジー感出てるし、会えて嬉しい!」
どことなく落ち込んだような表情を見せたコーンに慌ててフォローを入れる。
こっちの勝手なイメージで判断してごめん。
もしかするとみんなが知らないだけで、見つけると幸運が訪れる設定のキャラかもしれないよね。
「グー」
コーンを必死で褒めているとエンから聞いた事のない野太い声が聞こえた。
「……やだあ~エンよりもって~。そんな事ないし~それぞれの良さがあるし~付き合い歴はエンがリードだし~」
同じ馬系統としてのエンの嫉妬心を刺激してしまったようで、フォローを入れる羽目になった。
おネエ口調便利だな……。
自分が連れてきたのに、とは絶対口にするもんか。
「あ! そ、そうだ~私達予行演習に来ただけだからそろそろお暇するね。お邪魔しました~。エン乗せてね?」
長居するとめんどくさそうなのでさっさと探険を再開する事に。
てきぱきとエンに乗り込むと、島のみんなもそれぞれ移動の体制にうつる。
「帰りまた寄ると思う~!」
ぶんぶんと大きく手を振って森の中に突入する。これでコーンも落ち着けるだろう。
しかし、目の前をふよふよしている小さめの白フワが1匹いつまでたっても離れていかない。
「家族はあっちにいるよ。はぐれても平気?」
ダクスどころかロイヤルの周りも平気でふわふわしている白フワに聞く。
その白ふわは小刻みに動いて肩にとまった。
「まあ……本人が良いならいいけど。よろしくね~」
白フワ界の猛者と一緒に大森林探険は続く。
「――あのさあ」
言ってしまってもよいものか悩んだが、言おうと思う。
「島とあんまり変わらない気がする。というか、島の方がよっぼど大森林」
うまく言えないが、島の方が色々と濃いと思う。濃度が違うというか……。
広さはもちろんこちらの方が圧倒的に大きいのだが。
「島でごちゃ混ぜ自然を見慣れてるからかなあ? 思ったより普通だった」
「フォーン」
「うん。結界お願いするよ。陸路までの合流地点近くまで行って戻ろう。どのくらいで行けるかなあ」
「クー」
「だよね。島とは大きさが違うからそこそこかかるよね」
たいしたワクワクもない中移動し続けるのは大変かもしれない。なにより疲れそうだ。
「……合流地点付近で家に帰る方向でいいかな?」
あれだけ冒険に心ときめいていたのにこのありさま。
しょうがない。少し眠気も出てきたししょうがない。
「今日は帰るねって後でみんなに伝えてもらっていいい?」
肩の白フワにお願いしておく。
「じゃあ急ぎでお願いします」
エンの背中に寝そべり、その私の背中にロイヤルが乗る。なかなか重みがあって気持ちいい。
ダクスは振り落とされそうなので白フワと一緒に枕になってもらった。ここに完璧な準備が完了した。
うとうとし始めたところで陸路付近に到着したようだ。
「ぴちゅ」
少し歩けば人間が通っている道に出るらしい。
「端の方ならもっと開拓されててもいいのにね――――そりゃ無理だね」
大森林の生き物達がそれを許さないらしい。
魔物とかいうやつだろうか。みんなといる限り遭遇の可能性はなさそうだけどな。
クダヤの人達もミナリームからの防壁代わりになっているこの自然が無くなったら困るだろうし。
「それじゃあ帰ろうか。この辺から飛んでも大丈夫そう? ほらクダヤの人達のなんとか装置で見つかるとか……」
クダヤからもう少し離れた方がいいというボスのアドバイスに従って内部に少し戻る事になった。
人類の進歩がこんなところで足を引っ張るとは。見たものを忘れさせる魔法があれば便利なのにな。
「じゃあ気をつけて帰ってね~。危なくなったらボスを呼んでね~」
木の滝に戻る白フワを見送り、ボスに乗って家に帰った。
思っていた探険とは違う感じになったが、白い生き物達と会えたのは楽しかったし嬉しかった。
しばらくは島でゆっくり過ごそう。
次回視点変わります。




