小さい虫とか気になる
「装備はしっかりしたやつが良いよね。パンツスタイルで作業用ブーツにインして……」
駅で警戒中の警察官の服装を思い出し、なんちゃって刺繍装備を整えていく。
ある意味コスプレだと思う。
「武器は虹色ナイフに斧に水筒も持って行って……」
こちらが準備しているそばでみんなは準備運動のような動きをしている。
……完全にやる気だ。大きな音だけは立てないようにしてもらえれば嬉しい。
マッチャもキッチンから食料を詰めたバスケットを持ってきてくれた。
これだけ見るとピクニックみたいで探険とはとても思えないが、これから大森林に行くのだ。
魔物も出るという、あの大森林だ。ようやく冒険物語っぽくなってきたな。
「フォーン」
「あ、うん。こっちももうすぐ準備できるよ」
襲い掛かってくる生き物や魔物と対峙する手に汗握る展開もあるのかしらと妄想していると、マッチャから用意できたと声を掛けられた。
そこで、準備万端のみんなを見てそんな展開は無いだろうなあとぼんやり悟った。
「チカチカさん、ようやく冒険物語の主人公っぽい事ができそうです。行ってきます!」
ビシッとした挨拶をすると、チカチカさんもビシッとした点滅で送り出してくれた。
「ひい~寒いね~!」
深夜という事もあるのか、上空はいつもより寒い。
こじんまり組をぎゅっと抱きかかえ、大きい組に寄り添う。
もう体が埋まりそうなくらいぎゅうぎゅうしているが、さらにぎゅうぎゅうする。幸せだ。
「いいよ~!」
ボスからの降下のお知らせに力を入れて掴まる。
そして、いまだに慣れない心臓がひゃっとなる感覚がすぐに襲ってくる。
目をつむり、必死でボスとみんなにしがみついていると水音が聞こえてきた。
と同時にお馴染みのふわっと包まれる感じが――。
――水音はまだ聞こえている。恐る恐る目を開けると、目の前には見た事のある風景が広がっていた。
「――木の滝だ!」
島にある木の滝と同じものがそこにはあった。
「え~? なにこれ? ――木の滝だ!」
さっきから同じコメントしか言っていないが、木の滝があるんだからしょうがない。
しかもこの一帯だけ背の高い木々はなく、ぽっかりとひらけた場所になっている。
「ねえ、これって島と同じなの?」
なんとなくボスに聞く。
「そっか。まあそうだよね」
ボスが言うには、島の木の滝とは比べ物にならないほど弱いが、神の力を宿している場所ではあるという事だった。
「それで神聖な場所なのかな? クダヤの人ってこの水を飲んでるって事? だから一族が誕生した? あ、でもそれならミナリームはどうしてだろう?」
どんどん疑問が出てくる。
ミナリームも大森林に接しているんだから同じような一族がいてもおかしくはないはずだ。
「え? そうなの?」
解説者ボスは何でも知っていた。
「へ~。神の力を宿してるから神の下に還ろうとするんだね。じゃあこの水はチカチカさんの子供のようなものでもあるのかな」
ミナリームには残念なお知らせだが、力を宿した水は神の下に、つまりクダヤを通って島に流れていくようなのだ。
「キャン」
「いや、うん。なんとなく心の準備というものがね」
ボスの背中から降りるのを躊躇して乗ったままでいたが、とうとう指摘されてしまった。
躊躇というか、今風に言うとビビっている。
「周りに危なそうなのいない?」
「ぴちゅ」
「よし……。降りる。私は降りる」
「フォーン」
「……そうだね。景色を見たいから後でお願いしていい?」
薄い緑色といえど結界越しでは景色を楽しめそうにないので後のお楽しみにしておく。
「よっ」
気合いを入れて華麗……にはならなかったがよたよたと着地。
「……上陸だ」
冒険の地へ降り立った。
謎の感動が湧き起こる。開拓精神とはこういうところからくるのかもしれない。
「……ナナ、先歩いてもらっていいかな」
前後左右をみんなに囲んでもらいながら木の滝に近付く。完全な防御態勢だ。
「……この水飲んでも平気?」
「キュッ」
「……美味しくないのか~」
いつもあんな最高品質の水を飲んでいたんじゃどの水も味は落ちるだろうな。
「せっかく来たし記念に飲んでみるよ。――ボス、くわえて水が流れ落ちてるところまで運んでくれる?」
なんとなく水に触れるのが怖かったのでボスにお願いする。
ボスにくわえてもらってだらんと運ばれていると、下の池ではみんなが泳いでついてきていた。
キイロはボスの頭にとまったままだが。
この光景だけ見るとここは島のようにも見える不思議。
「ありがと」
木に到着し、くわえられながらも手をそっと伸ばし水をすくい飲んでみる。
「うーん。……うん、水だね」
不味くはないが、いたって普通の水だった。
喉も乾いていないし特にごくごく飲みたい水ではないかな。
「ここに人って――――レベルアップした」
みんなに話しかけている最中にレベルアップの音が聞こえてきた。
やはり新しいフィールドにはレベルアップポイントがたくさんあるんだろうな。
ひとまずレベルアップおめでとう。
「――チカチカさんとはまだ話せる感じではないなー。まだ貯めなきゃ」
気を取り直して再度みんなに話しかける。
「神聖な場所ってここの事で間違いないよね? ここに人は来ないの?」
「クー」
「……? 守ってるやつらって……」
「コフッ」
「え……? いるの!? ちょ、ボス! 背中に乗せて背中!」
慌ててボスの牙をぱしぱしすると、首をにゅいっと伸ばして背中に乗せてくれた。絶対安全圏。
そしてボスは思ってたより体が柔らかい。
「守ってるのってどんなこ?」
ボスの背中にしがみつきながら周りをきょろきょろと窺う。
もう主人公なんて関係ない。知らない場所では警戒するのは当たり前なんだ。
「え? 逃げた? ――――それもそうか」
この見た目は愛らしい集団も中身はアレだからな。そりゃあ本能が発達している生き物は逃げ出すだろう。
「なんか悪い事しちゃったね。……ちょっと見てみたかった気もするけど」
みんなから逃げたという事実が私に謎の強気を起こさせる。
私はまさしく虎の威を借る狐の体現者だと思う。
いいんだよ。チカチカさんもみんなも良いって言ってるんだから。
「ぴちゅ!」
「えっちょっ! 無理に連れてこなくても……!」
「クー!」
「ちょっとまっ……!」
「キャン!」
「いや、無理だと思……マッチャ!」
勇まし気に飛び出していったダクスのサポートをマッチャに託す。
ロイヤルもナナの背中に乗りレーシングゲームのスタートみたいなダッシュを決めて森に消えて行ってしまった。
「…………」
取り残される私。
調子に乗った罰が下ったような……。
即効性がありすぎる罰に落ち込んでいると、それどころじゃない事に気が付いた。
「ボ、ボス! あの、前脚の間にいていい!?」
背中だと飛び道具の攻撃を避けられない。
みんながいない今、これではまさしく『背後がガラ空きだ』状態。
ボスの背中が絶対安全だと分かっていても何かに包まれている方が安心するものなのだ。
「ごめんね」
謝りつつもボスの足の間に挟まって辺りを警戒する。
ふふふ。ボスの目をかいくぐって私のもとにたどり着くのは不可能だろう。ふふふ。
ボスの尻尾のふわふわに前面からも隠してもらい、完璧な布陣の中ひんやりとしたウロコを堪能していると、キイロの声が聞こえてきた。
「帰ってきた……!」
前脚の隙間からそおっと顔を出す。20センチくらい。
「ぴちゅ!」
目の前に現れたキイロ。いつもと違って両足の先に白いふわふわしたものが――。
「捕まえられなかった? それたんぽぽの綿毛? 巨大たんぽぽでも生えてるのかなあ」
「ぴちゅ」
「え!? これなの……?」
思わず後ずさる。
キイロが足で掴んでいるもの――それがこの場所を守っているモノだった。
「……それ生きてるの? 安全?」
安全というボスの言葉を聞き、顔を近づけ観察してみると、その白いふわふわは小刻みに震えているように見えた。
「……動いてるね。抱っこしてもいいかな?」
白いふわふわにいちおう話しかけてから、そっとすくうように持ち上げる。
ビーチボールみたいな大きさだ。
「……あ。動きが止まった」
顔はどこだろうと、ぐるぐると回転させるが見つからない。
「目とか無いのかなあ」
そうぽつりと呟くと、白いふわふわが上下にシュッと動いた。
「お……。言ってる事分かる?」
先程と同じようにシュッと動く白い……白フワ。
「意思疎通はかれる系だ~」
嬉しくなって白フワをポンポンと空中キャッチして遊ぶ。
なんだか白フワも嬉しそうだ。
「ぴちゅ」
楽しそうにしている私達を見てキイロも参加してこようとした。
が、白フワは素早い動きで私の肩と首の間に挟まってきた。
「…………」
無言で白フワをキイロに近付ける。激しく振動する白フワ。
抱きしめる。ぴたりと振動が止む白フワ。
再びのキイロ。再びの振動。
ボスに――――うん、ごめん。
「……タツフグと同じパターンかな?」
どうやら私は安全な生き物だと判断されたようだ。正しい野生の勘。
その白フワに話しかけようとすると森の奥からガサガサと音が聞こえてきた。
「みんな帰ってきたかな?」
キイロが白フワを連れて来てくれたよ~と声を掛けようとしたところで、木々の間からロイヤルとナナが顔を覗かせた。
「おかえ――――何その白いの?」
ナナの口元には今抱っこしている白フワのようなナニか。そしてロイヤルの羽に挟まれている白フワのようなナニか。
「…………1匹じゃないの?」
「キュッ」
解放されて一目散にこちらに向かってくる白フワ達。
そして――
「キャン!」
「フォーン」
マッチャとダクスも1匹ずつ捕まえて戻ってきた。
こちらに声をかける直前、マッチャがダクスにそっと白いものを差し出したように見えたんですけど……。
「……ダクスも自分で捕まえたんだー」
「……キャン!」
穢れの無い真っ直ぐな目で嘘をつかれたので、とりあえずマッチャを抱きしめておいた。優しい子。
そして決まり事のように私に集ってくる白フワ達。
「……君達は何匹いるのかな?」
そう質問した時、森の奥からひと際大きな破壊音が聞こえてきた。
「えっちょっと!」
慌ててボスの前脚の間に挟まる。
「……エンなの?」
ボスからエンが戻ってきたと教えてもらったので、音のする方をじっと見ていると白い何かが飛び出してきた。
「わっ! エンじゃな――――あれ、ユニコーン?」
大きな角の生えた馬のような真っ白い生き物――――どう見てもユニコーンなんですけど。




