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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ちょっとそこまで

 




 上空から急降下してクダヤの街に潜入成功。

 不法侵入も手慣れてきたと感じるあたり、私も悪い女になったもんだ。


 今回も辺りは薄暗く人の気配はない。



「ええと、キイロは肩か頭でみんなはボスの背中かな?」


「キャン!」

「キュッ!」



 ダクスとロイヤルの2人がリュックに入ると主張してきた。

 予想通りと言えば予想通りだ。



「……ちょっと試しに入ってみて」



 まずはダクスをリュックに入れると、もうロイヤルの入るスペースは無かった。



「う~ん……。ロイヤルは肩でバランスとれる?」


「キュッ!」


「よし。じゃあみんな、お店に案内お願いね」



 こうして街に繰り出す準備は整った。






 3日ぶりの街をのんびり歩く。

 もう地理に関しては頭に入っているので(みんなの)、なんとなく気が楽だ。

 通りすがりの人達が神の怒りについて話しているのも聞こえたりするが、時間がたっている分前回よりは落ち着いている気がする。



(確か……あっちだったような……)



 なんとなく見覚えのある道を進もうとすると、ボスからそっちじゃないよと優しく教えてもらった。

 そういえば前回は人が集まっていそうな反対方向にまず向かったんだった。方向感覚に優れていない人間は大人しくしておくのが良さそうだ。


 心の中でボスにお礼を言いながら素直に案内に従う。

 周りのお店の様子から判断すると、前回と同じような時間帯に来られたようだ。



(女性向けのお店はまた今度かな)



 これからいつでも来られるんだし予定を詰め込む事もないだろう。






 その後は知り合いにばったり遭遇ハプニングも無く、お店に到着。

 こんな感じなら身バレ顔バレもそこまで気にしなくても大丈夫そうだ。



(いくらファンタジー世界でもいつでも盛り上がるイベントが用意されてるわけじゃないよね……)



 映画の、あの長時間見る者を引き付ける構成力に尊敬の念を抱きながらお店に入る。

 店内は客が多く、前回より活気があった。



「――あら?」



 声を掛けてきたのは前回料理を運んで来てくれた女性だった。



「確か数日前にも……」



 にこやかに声を掛けてくれるのだが、顔を覚えられていた事に驚いた。



「美味しかったのでまた来ました。1人なんですが個室は利用できますか? ……男性以上に良く食べるので人の目が気になるんです」



 物凄くさらっと嘘をつく。



「あら嬉しい。すぐ案内したい所なんだけどね、個室は今空きが無くって……。時間的にそろそろお帰りになると思うから良ければ下で食べながら待つ? 持ち帰りにも出来るけど……」


「下で食べながら待ちます」


「ありがとね。じゃあ、あそこの隅が空いてるから――――個室の料金は知ってる?」


「……いえ。でも払います。金貨は持っていないんですけど……」



 個室に料金がかかるのもおかしい事ではない。無料ならみんな個室を希望するよね。



「そんなにかからないわよ! 銅貨3枚なんだけど大丈夫?」


「はい、大丈夫です」



 良かった。銅貨1枚が大体1000円のイメージだったから3000円くらいか。

 商人の人達が商談で利用する事が多いという話だったのでそれくらいなんだろう。むしろ安いのかもしれない。



「あの、前回一緒に来た2人には私が1人で来た事は内密に……」



 この女性の物覚えの良さからしてどこから話が漏れるか分からない。咄嗟に口止めしておく。



「――ああ。“風”の坊ちゃんと“理”のローザのお孫さんね」



 そして女性はにこやかな笑顔で続ける。



「大丈夫、秘密にしておくから。あの子達も女性の前ではかっこつけたいでしょうからね、料理の値段も知られたくないでしょうし」



 ……いい感じの間違った解釈をしてくれた。しかもウインク付き。

 この人なんか好きだな。



「じゃあとりあえず飲み物持って来るわね~。お酒? 甘いの? ――じゃあ甘いのと今日のおすすめ持って来るわね? ちょっと合わないかもしれないけど」



 笑顔で嵐のように去っていく女性。あのテンションで人に不快感を与えないのは天性の才能だと思う。

 とりあえず空いている隅の席に着く。

 ちらちらと視線を向けられはするが、女性1人で来ているのが珍しいのだろう。前回のカセルさん程ではない。


 なるべく壁の方を向きながら顔を見られないようにする。気分は情報屋だ。しかも表の顔は別の、裏家業設定。

 これから悪い奴らの取引情報を手に入れるという妄想遊びをしながら料理が運ばれるのを待つ。





「お前見てないのか」

「そうなんだよ。大森林の所からでもすげえ音は聞こえたんだけどな……」

「ミナリームのやつら慌てふためいてたぜ~」

「いい気味だな。権力者に逆らえない下の連中には気の毒だが……」

「上が無能だと苦労するな」




「―――ほっときゃいいのに」

「それが“技”と“水”の爺さん達が可哀想だって」

「島の神の天罰だろう? わざわざ直してやらなくても……」

「あいつらの為じゃなくて船が可哀想って事らしい。船を置いてさっさと帰れって啖呵切ってたし」

「ははっ。なんだそれ」





「いくらくらいするんだ?」

「おい、うかつな事言うなよ。一族に目を付けられるぞ」

「そんな馬鹿な事しねーよ。ただ商人として気になるだけだって」

「国どころか大陸ごと買えそうな価値はあるぞ」

「すごすぎてわかりませんよ」






 すがすがしいくらい神の島関連の話題で持ちきりだった。

 それもそうか。悪い取引なんか普通は密室でするよね。



「お待たせ。上のお客さんが今から帰るからね。片付ける間もうちょっと待っててね」


「ありがとうございます」



 持ってきてもらったのはジュースと魚の煮つけのようなもの。

 ……白ご飯食べたいな。あとお茶も欲しい。


 こっそりと毒味を終えた煮つけを食べていると、辺りがさっきより静かになっているのに気が付いた。



(……なんだ?)



 ロイヤルに気をつけながら背後を振り向くと、みんな食事をしながらも階段の方向に目を向けていた。

 つられて視線をそちらに向けると、男性だけの集団が降りてくるところだった。



(顔に印……。他国の人か……なんだろ?)



 不思議に思っていると、近くのテーブルから『ユラーハン』という単語がひっそりと聞こえてきた。



(ユラーハンの人達か。……使者関係の人? あの2人の王族は……いない。まあ王族だもんね)



 さりげない風を装いながらユラーハンの集団をそっと観察する。

 彼等はこちらの大量の視線にも気がついているはずなのだが、お店の人に礼儀正しく挨拶をして何事も無かったかのように去って行った。






「――ユラーハンもとうとうクダヤにつくか」

「いや、まだわからんぞ」

「ミナリームに付け込まれるような真似はしないだろう」

「クダヤというよりは島の神に、だろうな」

「あそこはほんと耳が早いよな」

「ユラーハンの販路を更に開拓できるかな?」





 こういった所に情報が集まるとはよく言ったものだ。自分で聞き込みをせずとも情報がどんどん手に入る。

 今後のエネルギー集めにこういった場を活用できるかもしれない。

 今のところ神の島の話だけで、困り事なんかの話題はちっとも出てこないが。




「―――あの」



 いつの間にか近くに青年が立っていた。

 声を掛けてきた事にキイロとロイヤルは警戒を強めたようで、声は出さないまでも足に力が入ったのがわかった。

 皮膚と髪が挟まれてちょっと痛い。



「部屋の用意が出来ました。――お待たせしました」



 お店の人だったみたいだ。以前料理を運んでくれた青年が確かこんな感じだったような……?

 青年はさっと飲み物とお皿を持ち歩き始めた。



「あ、はい」



 少し急いで後をついてゆく。

 先程の女性の愛想の良さとのギャップにやや戸惑う。



「こちらの部屋を使ってください。お料理はどうしますか」


「……すぐ出来そうなものはありますか? あるならそれを数種類、2人前ずつお願いします」


「わかりました。――違うお飲み物も持ってきますか?」



 ちらりと飲み物の種類を確認してから声を掛けてくる。

 愛想はあまりないが気が利く青年だ。



「そうですね。甘いものはもうあるので、お願いした料理に合うお酒ではない飲み物をお願いします」


「わかりました」




 青年が部屋から離れたのを見計らって窓を開けに行く。




「お待たせ~」


「フォーン」


「わかった」



 窓から少し離れてねと言われたのでひとまず席に着く。

 リュックからダクスを出しながら窓を見ていると、小さな物音が聞こえた後エンが姿を現した。



「クー」


「かがんで入ってきたの? すごいね~」



 その後もマッチャ、ナナと次々と部屋に入って来る。

 もちろんボスは壁抜け状態で、室内部分だけ透明化を解除している。器用すぎる。



「怪しまれるからそんなにたくさんは頼まなかったんだ」



 説明しながらみんなに抱き着きに行く。

 お疲れさま~とばかりに毛をわさわさ触っていると、人間が来たと教えてもらった。



「早いね、みんな透明化お願い」



 急いで席に着いてお店の人が入って来るのを待ち構える。

 入ってきたのは先程の青年だった。



「――ひとまず飲み物とこちらを。残りは後から持ってきます」


「ありがとうございます」



 シチューっぽい何かという事しかわからないが、とにかく美味しそうな料理が届いた。

 早く食べたいところだが厳しい料理評論家みたいな毒味係がいるのでまだ食べられない。

 青年が部屋を出ていくのをはやる気持ちで横目に確認していたが、いっこうに出て行く気配が無い。



「…………?」



 不思議に思い青年に顔を向けると、相手がびくっとしたのが見えた。

 最近はこんなのばっかりだな……。



「あの――」

「か、風のカセルさんとはどのようなご関係で……!?」





 かぶった。






「関係ですか……?」

「すみません!」







 ……またかぶった。





 また口を開くタイミングが重なりそうだったので手を上げて発言の意思を示す事にした。



「はい」


「あ、どうぞ!」


「カセルさんとの関係を知りたいみたいですが、カセルさんのお友達ですか?」



 前回の様子から違うだろうなあと思いながらも一応聞いてみる。



「いえ! ……私が一方的に知っているだけです」


「関係を聞いてどうするんですか?」



 ひと目惚れでもされたか? と自意識過剰な面がむくむくと顔を出してきた。



(困ったなあ。ファンタジー世界ではモテる顔なのかも)



 どう断ろうかと、勝手にそこまで想像していると青年が意を決した様にこちらを見つめてきた。





「エ、エリーゼが気にするので……! 俺は別に構わないんですけど、あいつがいつもカセルさんの話ばっかりで……!」










 …………エリーゼ?



 誰だ。






次回視点変わります。

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