睡眠の偉大さ
「……ただいま~」
心にダメージを負いながらもようやく家に戻ってこれた。
「チカチカさん、まさしく御使いって感じの雰囲気出してきましたよ……」
布を脱ぎ捨てふらつきながらソファーに倒れこむと、チカチカさんは明るくはっきり点滅してきた。
この感じ……、笑っている時の光り方だな。
そしてシャララとレベルアップの音が聞こえてきた。
「他国民との遭遇がトリガーだったのかな~。めでたいめでたい」
ごろごろしながら、みんなが足を綺麗にし終わるのを待つ。
レベルアップはひとまずストックでいいか。
「――――チカチカさんて、過去に天地創造のような、文明とかまっさらに戻したりした事あります?」
チカチカ
「あ、やっぱり。それ各地の伝承とやらに残ってるみたいです。……惑星運営も大変なんですね」
自分がその時代に生きている人間だったらとんだ災難だろうな。でも、自然災害は制御できるようなものでもないだろうし、共存していくしかないんだろうな……。
チカチカさんがどんな方法でまっさらに戻したのかは知らないけど。
チカチカさんも「そうそう! 意外と大変」とばかりに点滅してきた。随分と顔色ならぬ、点滅色を読めるようになったものだ。
「そうだ。チカチカさん、クダヤの一族の人達の属性と、みんなの属性のようなものが奇妙にも一致するような気がするんですが――。関係ありますか」
チカチカ
「やっぱり……とういうか、そもそもみんなの存在ありき、で近くにいた人間にその影響が出たとか?」
チッカチカ!
今の光り方は褒められた気がする。
「ダクスとボスはちょっと他のみんなと意味合いが違うというか目的が違うというか……合ってます?」
チカチカチカ!
これまた正解した。たくさん褒めてもらえてうれしい。
「詳しい話はチカチカさんと話せるようになってから教えてもらえたりしますか?」
ごろごろしながらお願いすると、レインボー点滅を披露してくれた。
「ありがとうございます。レベルアップ分はまたストックしておきますね」
足を綺麗にしたみんなが何やら話しながら部屋に入ってきた。
私に向けてじゃないので何を話しているのかわからないが、キイロとロイヤルが悪い顔をしているのでなんとなく予想はつく。
「今日は付き合ってくれてありがとね」
お腹に飛び乗ってきたダクスを撫でながらみんなにお礼を言うと、「また行こうね」と女性の社交辞令のような返事が返ってきた。
みんなの場合社交辞令なんてものは存在しない。
みんなでまた遠乗りを楽しもうねの意味だと思いたいし、神の裁き的なものは関係ない……といいな。
「お昼ご飯まだだったよね。今日は冷たいものが食べたいな~。あ、冷やしてるキウイメロン食べようか。あとピーマンきゅうりも」
「フォーン」
「手伝うよ。――――わかった、お願いします」
ゆっくり休んでてと言われたので、ベッドに移動して遠慮なくゆっくり休む事に。
とりえず、悪い顔をしているキイロとロイヤルの毛をぼさぼさにしてアルバートさんの敵をとっておく。
本人達は楽しそうにしているのでとれたかどうかは不明だが……。
「当分予定が無くなっちゃったね」
ナナの甲羅を利用した柔軟体操をしながらぼんやりと呟く。
「何しようか。街に行ってもいいけど……。もうちょっと落ち着いてからの方がいいよね?」
あれだけ派手な神パフォーマンスをした後では街もざわついているだろう。
しかも今回はたくさんの人が御使いの姿を遠目とはいえ見たのだ。
「やっぱりもうちょっとほとぼりが冷めてからにするかな」
精神的にも疲れたのでしばらくはゆっくりしたい。ゆっくりするのは得意だ。
「船着き場でもつくるかな~。1回やってみて駄目ならその時また考えればいいか」
ダクスのお尻のふわっとした毛をわさわさしながら大体の今後の流れを決める。
……それにしてもお尻が近い。みんなはトイレというものが必要ないハイスペックな存在だが、いくら綺麗でもお尻を顔に向けられると多少は抵抗がある。
ダクスの体をベッドの上で回転させながら遊んでいると、マッチャが食事の用意をして戻ってきた。
「ありがと~」
マッチからバスケットを受け取り中身をテーブルに並べていく。
コップも冷えていて、飲食店かと思った。その内お通しでも出てくるのかな。
「それじゃあいただきま~す」
その後はみんなでわいわいと食事をとり、お腹が満たされて眠くなったので眠気に従いそのまま寝た。
ああ、幸せだ。
目が覚めたのはもう空が暗くなった頃だった。
「……おはよ」
近くにいたエンにもたれ掛かりながらみんなに挨拶をする。
そしてこっそりみんなの所在確認。よしよし、誰もいなくなっていないな。
また懲らしめに行っていないか心配になったが大丈夫なようだ。
「すっごく良く寝た~」
全力の背伸びをしながらベッドから下りる。
マッチャの用意してくれた健康水を飲みながらテラスに出ると、空にはたくさんの星が瞬いていた。
「もう夜か~」
随分と熟睡していたようだ。
「…………変な時間に起きちゃったな」
しかも、とても良い目覚めを迎えてしまったので無駄に元気だ。
何かしたい。
「…………ねえ、ご飯食べに行こうか」
この時間帯にできる事と言えばそれしか思いつかなかった。
精神的に疲れてゆっくりしたい私はいなくなった。今日の昼の出来事なのに……。
こんなにころころと意見が変わる上司がいたら嫌だな。でも寝たら思いのほかすっきりしたんだ、私は悪くない。
「どうする? 前の個室のお店行く? それとも屋台でお持ち帰りにする?」
「コフッ」
「じゃあ個室のお店でゆっくりしようか」
「キュッ」
「わかった。串焼きのお店もね」
そうと決まればさっそくお出かけの準備だ。
以前街で購入した旅の装いセットを身につけていく。さっそく身分証を装備する事になるとは……。
「あ、ねえボス。お店はまだ開いてる? あと街の門は閉まってる? もし上空から行けそうなら不法侵入コースの方が楽なんだけどな~」
大事な確認を忘れていた。
外は暗くなっているが、まだお店の空いている時間帯なのか、それとも深夜に近い時間帯なのか。
「お店も門も開いてるのね。上空コースも街がざわついているのでいけそうと……」
神パフォーマンスのほとぼりは全然まったく冷めていないようだが上空から挑戦してみようと思う。
「クダヤの身分証は持ったし――――念の為住民の印も描いておこうかな」
「フォーン」
「大丈夫。ささっと適当に描くだけだから。そうだ、マッチャは地図とか読める?」
「ぴちゅ!」
「へ、へえ。そっかあ、キイロも分かるんだ~。じゃあ地図が分かる人は覚えてもらえると嬉しいな」
結局、テーブルの上にクダヤの街の地図を広げてみんなで見る事になった。
「えーと、ここがたぶん前降りたところかな? 今回もここに降りられそう? ――うん、お願いします。で、ここに降りてから行きたいお店は……あ、ここ。この印がついてるお店」
「クー」
「ここ? ここはね、カセルさんとアルバートさんの家だって。すっごく目立つよね」
やっぱりみんなもこのレインボーには目がいくらしい。
「こっちの色がついてるのがサンリエルさん達。それぞれ前に見た事ある人達の家ね。で、この赤い丸が――」
地図の説明をひと通り終え、みんなが地図を覚えている間に住民の印を描く事にする。
「キャン」
「あれ? 地図見ないの?」
「キャン」
「……そっか。よくわかんないか」
なんとなくダクスを抱きしめてから服の袖をめくり、二の腕に印を描き始める。
「身分証の名前と……桜の花びらでいいか」
20秒くらいで終わってしまった。でもまあ自分で描くんだからこんなものか。
そして残りの必要なものもリュックに詰めていく。お金は多めに持っていけばなんとかなるだろう。
「終わった? よし、じゃあ行こうか」
チカチカさんに挨拶をし、ボスの背中に乗りテラスから颯爽と飛び立つ。
随分と空の旅も慣れてきたなあと思いながら、周りを囲むように陣取っているみんなにぎゅっとしがみついた。
のんびりできる環境なのに逆に行動的になるのはなぜなのか、誰か教えて欲しい。




