大事なことは簡潔に
ごごごごごごご、という効果音とともに長方形の何かは地中に消えていった。
――私宛のメッセージと共に。
「ちょっ、あの、……え!? ほんと……まじで!?」
今まで生きてきた中でこんなに混乱したことがあるだろうか。
「待って……! ……おいっ! 大事なこと教えてもらってない! 刺繍のくだり……! おいっ……! 誰が美人じゃないって……!? 刺繍のくだりが長すぎるんだよ……!!」
混乱した頭のままバンバンと、それが消えていった場所を手で叩く。
途中でグーでバンバンしてやった。肩たたきの要領だ。
思う存分声を出して床に攻撃を加え続けたところで少し落ち着いてきた。
チカチカさんは私の剣幕に恐れをなしたのかひっそりと静まり返って息を殺しているように感じられた。
「はあ~……」
特大の溜め息を1つこぼし、ふらふらと布団に近づき靴を脱いでごろんと寝っ転がる。
そして仰向けになり天井のある1点をじっと見つめ続ける。
(あいつめ……)
今だけはあいつ呼ばわりしても許してほしい。明日からちゃんとする。
体を左右に揺らし体をリラックスさせる。
ええっとやつの言うことには……私の目的は愛と光のエネルギーを集めること。
まるで幼児向けの変身系、愛と夢と希望いっぱいのお話のようだ。
この年で大丈夫かな? まあ20代だし大丈夫だろう。
具体的に何をすればいいのかわかんないんだけどね……。はは……。
安全も約束されて今までの生活にも戻れるみたいだし、何をすればいいかわからないけどとりあえずここで暮らしていけばいいんだろうか……。
そうだ、私には心強い味方がいたんだった。
「エスクベルさん……?」
そおっと尋ねれば、チカチカと室内全体が点滅する。
「なんだかテンション常時高めの地球の意思って人に褒められてるんだかけなされてるんだかよくわからない理由でここに送り込まれたみたいなんですけど何をすればいいのか具体的なことはきちんと伝えられないままメッセージが終わっちゃってそもそも必要な記憶が無いのも全部やつの仕業だったみたいで余計な演出加えて失敗しちゃったみたいであのダサい刺繍も喜ぶと思ってやったみたいで――」
思いついたことをつらつらと話す。返事はいらない、ただ聞いて欲しいだけだ。
チカチカさんこと<エスクベル>の意思さんは静かに聞いてくれているようだ。
「――――とまあいろいろ言いたいことはありますが、娘みたいに大切に思ってくれているのはわかりました。刺繍って手が込んでますしね。ダサいけど。あ、でも最近ダサかわっていうジャンルが流行ってきてたんだっけ? ダサかわいいって。愛情だと思えば意外と大丈夫かもしれませんね。そうですね、手助けしないと寿命が短くなって大変ですもんね。安心安全なサポートもしてもらったし、うん、ありがとうござます。エスクベルさんも受け入れていただいてありがとうございます。これからよろしくお願いします」
そう言い切るとまた室内が今度はレインボーな感じでチカチカした。
……いろんな色出せるのね。
「あの、エスクベルさんって言いにくいからチカチカさんでも大丈夫ですか?」
チカチカッ!
おう好感触だな。よかった。<地球>さんの後輩っぽいから何かと苦労してるのかもしれない。
良い関係を築けるようにしよう。
ひと段落すると疲れを感じはじめた。肉体的には元気だけど精神的にね……、消耗したのだ。
締め切りがあるわけではないし、愛と希望っていうくらいだからゆとりのある精神状態の方が望ましいだろう。
そう考えて私は少し休憩がてら眠ることにした。
「チカチカさん、いろいろ考えすぎて疲れてきちゃったので少し寝ますね」
布団をかぶって目を閉じる。
さっき起きたばかりだけどちゃんと寝れそうだ。意外と私図太いな。ふふ。そういえばファンタジーみたいな世界に来ちゃったんだな~。あの鳥もどきと森しか見てないけど。
剣と魔法の世界かな~。剣は実際危ないからそんなになくていいや。魔法使いたいなー。魔法も危ないのかなあ。刺繍の加護ってどんなのだろう…………。
とりとめのないことを考えながら眠りに落ちる時、チカチカさんが周りをふっと暗くしてくれたのがわかった。
(ありがとうございます……また後で……)
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あーっ!! 刺繍の感想しっかり聞けなかった~! ううん、しょうがないまた服を追加しちゃおう!
早く力を集めてまた僕とつながれるくらいまでレベルアップして欲しいな~。
どんな色が喜ぶかな? 楽しみ!
そういや力の使い方って伝えたっけ? あれ? まあ後輩が何とかしてくれるから大丈夫か! はるちゃんの好きなものも用意したし問題なし!
さあて、今度はあの民族の伝統技術でも見に行くかな。すっごく色鮮やかできれいな布が出来上がるんだよね~。こっちもレベルアップしなくっちゃね――――