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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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セクシャルなんとか

 



「――それでは預かっている装飾品をお渡し致します」



 しかしどことなく困った顔をしているカセルさん。なんだろう。



 まず渡されたのはサンリエルさんが担当した3つのアクセサリーだった。

 私、ボス、チカチカさんの分だ。


 3つとも白と黒を交互に編み込んだようなものだが、それぞれ模様が違う。

 それよりもこのきらきらした感じは――。



「この編み込んでいるものは普通の紐じゃありませんよね? ……もしかして鉱石類を使用していますか」


「紐に溶かした鉱石を薄くまとわせたものだそうです」



 やっぱり。金糸のようなものだった。

 作り方なんて知らないけどかなり高価なものだと思う。



「ずいぶん高価そうですね……」


「華美ではないものをとのご要望でしたので……。他の一族が華やかなものを作成しているのを見て我慢できなかったようです」



 カセルさんは苦笑いしているが、こちらも同じだ。

 高価過ぎないものをお願いしてたんだけどな。こういう紐の使い方をしてきたか。

 命を懸けてとか言っていたのは、自己破産してまでもという意味ではない事を祈りたい。

 それでも一生懸命考えてくれたのがわかるので嬉しくはある。


 さっそく首に緩く巻いてリボン結びする。リボンモチーフのネックレスに見えなくもない。

 <ハル>とプレートに彫刻されていて手作り感が出ている。



「ボス、これボスのなんだけど頭の突起のひとつに結んでいい?」



 立ち上がりながら聞くと、目の前にぼんやりと突起の部分だけが現れた。

 そういえばボスだけ未だに透明のまんまだな。ボスを見ちゃうと気絶するかもしれないからまあいいか。



「どっちが外側? こっちね。――――うん、可愛い」



 全体像が見えない上、ボスに可愛いという単語が当てはまるかどうかは分からないが似合っていると思う。



「次は……カセルさん?」


「も、申し訳ありません! お次は――――」



 珍しく少し慌てているカセルさん。頭の突起物ひとつで動揺させられるボスは凄いな。

 そしてカセルさんは次々とアクセサリーを見せてくれた。



 風の一族と理の一族、住民代表の方が用意してくれたものはオーソドックスなもので、きちんと紐で編まれたものだった。


 風の一族のものはどこか品を感じさせるのに対して、住民の方達が用意してくれたものは明るさを感じさせる。自然と筋肉たっぷりのあの代表の人が連想されてしまう。

 そして、理の一族のものは真っ白な見事なレース編みで、幾何学模様が連続している様はとても美しい。


 技の一族の用意したものは、アクセサリーの両端を丸い宝石でまとめているのとプレートに施されている彫金とやらが見事すぎるのを除けばこれまたオーソドックスなものだった。

 しかし、水と地の一族のものは……。



「これは……紐を編むというよりは繋げる為に使用したようですね」


「そうですね……」



 まず、水の一族。綺麗な貝殻をたくさん集めてくれてありがとう。でも、貝殻と綺麗な石を交互に繋げてネックレス状にしているからリボン結びが難しいよ。ネームプレートなんて穴をあけて紐を通しちゃってるし。


 そしてアクセサリー騒動の発端のネコ科ガルさんの一族。

 革紐のようなものを三つ編み状に編んでいるのは要望通りだ。でも、中央に何かの牙が陣取っているのはなんでだ。


 私がそのアクセサリーを注視しているのに気がついたのだろう、カセルさんが少し言いにくそうに説明してくれた。



「……大森林で狩った魔物の皮と牙だそうです」




(…………意味ねー!)



 そもそもガルさんの宝物の牙をもらうのを回避する為にこの一連の流れになってるんですけど。

 ……結局牙はもらうのか。しかも皮までついてきた。そのうえ牙には<エン>と彫られている。もうどこからこの状況を処理すればいいのかわからない。



「地の族長が身につけていた牙とは別の物になるそうですので」



 カセルさんのフォローもフォローになっていない。



「地と水の一族の用意したものに関しては本日荷を積み込む際に全容を確認できたといいますか……」



 カセルさん達も驚いただろうな。この様子だと作成を任された技の族長のサムさんも知らなかったのかな。

 サムさんが見たらやんわり止めそうだし。



「お気持ちはしっかり伝わりました。ありがとうございます」



 慈愛に満ちた笑顔が浮かべられたと信じたい。



 気持ちを切り替えもらったアクセサリーをみんなの首や角に結びつける。

 すると、笑いが自然にこぼれるような光景が広がる。



「かわい~」



 みんなは褒められたのが嬉しいのか、色々とポーズをとって見せてくれた。

 服は必要ないがこういうパーツでおめかしするのも悪くない。



 こちらが上機嫌になったのが伝わり、カセルさんとアルバートさんは安心した表情になった。



「皆も喜ぶでしょう。……街においでになればすぐに知られてしまいますので今申し上げますが、今回お納めした装飾品に似せたものをみな自分達用に作成を始めておりまして」


「そうなんですか」



 こちらの人にとって御使いと守役は憧れの有名人のような扱いなのかな。島の外でつける事はないから問題ないが。



「ただ領主様はほぼ同じものを技の一族に依頼しているようでして」


「……お揃いという事ですかね?」


「……そう望んでいるようです」



 知らない所でお揃いにされるところだった。カセルさんいい仕事する。



「同じものは構わないのですが……。お金も用意して頂くようお願いしていますし――失礼ですが金銭的に大丈夫なのでしょうか?」


「その点はご安心ください。クダヤの財政はこれまで以上に潤っております」


「そういえば神の持ち物を展示していると仰ってましたね。私も一度見に行ってみます」



 一緒に食事をとった際に、他国からの商人や観光客が増えた話を聞かせてもらった事を思い出した。



「――それに領主様はご自分の資産もかなりあるようで、今回のお金はそちらからも出しているようですのでご安心ください」


「はあ……」



 思いっきり公私混同だと思うが、一族の人間は街を裏切る様な事が出来ないそうだしそれでいいんだろうな。



「こちらも領主様の個人資産からですね」



 そう言って見せられたのは肌触りが良さそうな3つの袋。さっそくエンとナナがそれぞれくわえて運んでくれる。

 音からして頼んだお金のようだ。



「あ、ダクスそれ重いから落としちゃう! マッチャお願い」



 カセルさんに唸りながらも袋をくわえようとするが、そのままがしゃんと落とすのが目に見えているのでマッチャに頼んだ。ダクスは抱っこして機嫌をとっておく。



「ずいぶんたくさんありますね」


「それはもう。これでも減らしてもらったくらいです。他の者の目につかないようにするのが大変でした」



 なんでも、神の御使いが他の誰でもないサンリエルさんだけに、しかも内密にお願い事をしてきたという事でかなり張り切ったようだ。



「無表情なのは変わらないのですが、執務中に気が付くと鼻歌が聞こえてきます」


「……ご機嫌ですね」


「私達は珍しいものが見れて面白いのですが、族長達はいぶかしんでいますね」


「あまり怪しまれないようにお願いします……」



 サンリエルさんが鼻歌を歌うという情報を期せずして手に入れてしまった。今後はたして役に立つ事があるのだろうか。

 そしていよいよお待ちかねの身分証明書の登場だ。



「こちらの箱の中にクダヤの身分証を含め、手続きに関する道具がすべて入っております」



 箱を受け取り中を覗いてみると、見た事のあるプレートと数種類の液体が入っていた。



「身分証と、そちらの鉄色の染料が現在の他国民用、白いものが住人用です。残った透明なものは先程説明した染料を消す為のものになります。液体の配合を変える際は新しいものを都度ご用意致しますので」


「ありがとうございます。ちなみに住民の印はどのようなものですか」


「だいたいは自分達で決めた家の紋様、家紋のようなものと名前をですね。――おい、アルバート。ヤマ様に――」



 カセルさんに言われ、アルバートさんは慌てて服をめくり二の腕の外側を見せてくれた。

 ほんとにタトゥーみたい。

 もっとよく見る為に立ち上がり船に乗り移ろうとすると、こじんまり組に止められた。



「なんで? いや、アルバートさんにわざわざ移動してもらわなくても……」



 そう説明したのだが、キイロとロイヤルがさっとアルバートさんの乗っている船に飛び移った。

 そして、びっくりして後ろに下がったアルバートさんを蹴り始めた。

 そう、何度見てもつつくのではなく足で蹴っている。



「ちょっと! やめてやめて」



 慌てて止めるが、2人は「はやくいけよ」とばかりにやめない。



「申し訳ありません! 私が何かお気にさわることでも……!?」



 蹴られながらもこちらと守役を交互に見ておろおろしているアルバートさん。君は何も悪くない。

 カセルさんはこの状況でなんでわくわくした顔をしているんだ? どういう心境なのか。



「申し訳ありません……。こちらの船に移って欲しいそうです」



 そう言った途端、ふらつきながらもカセルさんの助けを借りてこちらの船に移動してきた。



「ほんとにすみません……」


「い、いえ! 理解ができず申し訳ありません!」



 謝りながらも周りにいる守役のみんなとの距離の近さに気付き、小さく悲鳴を上げたのが聞こえてしまった。すまん。

 蹴ってきた2人の毛は後でぼさぼさにしとくから色々と許して欲しい。



「――では腕を見せてもらいますね。これは名前と……花ですか?」



 注射を打つ前の看護師さんのようなセリフ。

 腕から顔を背けているアルバートさんは注射嫌いの子供といったところか。



「はい……! 我が家はこの花を家紋にしています……!」


「ありがとうございました。参考にさせてもらいますね」


「はい!」



 急いで自分の船に戻るアルバートさん。背中が切ない。

 そして男性の腕を近距離でじろじろと眺めまわす私も少し切ない。



 一族のタトゥーも気になったが、カセルさんの場合は胸にあるという事だ。

 服をいきなり脱ごうとしたので確認するのはやめておく。そして高速ばさばさ威嚇をされていたが嬉しそうだったカセルさん。





 若い男性2人の肌見せを強要する女権力者という流れはどうにか阻止する事ができた。






次回視点変わります。


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