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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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前ふり

 




 キイロとロイヤルという2人の上司に進捗を逐一チェックされながらも、どうにかミナリーム宛の返信を書き終えたアルバートさん。



「ありがとうございます。次のユラーハンはもう少し詳細に書きます」


「詳細ですか……?」


「随分正直な内容のものが届きましたので」



 その言葉にカセルさんは少し興味深そうな顔をしたが、国の内情がだだ漏れな内容なので詳しくは語らない。

 慇懃無礼なミナリームの内容も黙っておく。なんとなくクダヤの皆さんが何かしそうな予感がするからだ。



「先程の手紙の最後に付け加える形で――はい、同じ内容を書いていただいてその後に『クダヤの長年の貢献もそうですが、神の持ち物が国同士の争いを引き起こすといけませんのでなおさらお渡しする事はできません』――――大丈夫ですか? 『しかし、神の持ち物を受け取る事が許されないからといって神に見捨てられたという訳ではないので安心してください。そして、神はすべての願いを叶えてくれる都合の良い存在では無いという事を念頭におき、欲にとりつかれませんようお気を付けください』――これで終わりです」


「はいっ」



 アルバートさんは2人の上司にじろじろ見られながらも頑張りを見せている。



「神の社は住民以外にも拝謁は許可していますよね?」



 カセルさんに質問する。



「はい。前々日に社を公開したのですが、他国民も少なくない数が訪れております」


「書簡の返信にも拝謁は社へと書いてありますので今後さらに増えるかと。サンリエルさん達にもその旨お伝えくださいね」


「かしこまりました」



 昨日もエネルギーが集まったサインがあったのでこのまま順調にいけば鎖骨あたりまで到達するのも時間の問題だろう。



「出来ました!」


「ありがとうございます。キイロ、ロイヤル、戻って来て。手紙は折れちゃうからマッチャにお願いするね」



 先手を打って折れ曲がりを防止する。

 いちおう国宛の親書のようなものになるからしゃわくちゃな紙じゃない方が良い。


 マッチャ経由で2通の手紙を受け取り内容を確認する。



「問題ないですね」



 そう言いながら虹色ラメに筆をつけ、御使いとしての名前『ヤマ・ブランケット』と最後に署名する。

 現地人には読めないだろうが御使いからの手紙だとはっきりわかるし、虹色ラメ程度じゃ歴史遺産にはなっても争いは起こらないだろう。



 乾くのを待ちくるくると丸くまとめて紐で結び、届いた時の小さな箱に入れ直す。

 ボスにお願いすると2艘の小舟は白い霧の向こうに消えていった。



「そちらに何か接触があるかもしれませんが……」


「こちらの事はお気になさらないでください。問題ありませんので」



 自信満々な表情のカセルさん。



「先程の輝く染料の証があればこちらに言いがかりもつけにくいでしょう。あの染料はあっという間に有名になりましたから」


「家宝、でしたか」



 にこりと笑いながら答える。



「はい。家に飾らせていただいているのですが、家に領主様と族長達が押しかけてきて大騒ぎをしていました」


「それはそれは……」



 本気で大変そうなんですけど。特にあの人。



「私の家は一族の者しか住んでいない場所にありますのでそれほどでもないのですが、アルバートの場合は一族以外の住民も住んでいる場所にありますのでもっと大騒ぎになったようです」



 アルバートさんに視線を向けると体がびくっとなったのが見えた。いつもすまん。



「そ、そうですね。警護の人を用意していただきました……」


「まあ、お仕事を増やしてしまったようですね」


「いえ! 本当は必要ないのですが……。みな神の証を守りたいようでして……率先して……」

「皆何かしらエスクベル様に関わりたいのです。あの夜海上に取り残された者達の事をヤマ様が気にしておられたと報告したところ、涙を流さんばかりに感激しておりましたし」


「そういうものなのですね」



 好きでやってるならいいか。今後なりたい職業1位、神の持ち物警護、とかになったら面白いな。



「それとこちらも皆が率先した結果なのですが……。ご所望のクダヤの地図です」



 そう言って差し出されたのは、両手を広げたくらいの長さがある筒だった。



「この中に地図が入っております」



 マッチャが受け取った筒の蓋を開け丸められている紙を取り出す。

 エンとナナの背中を借りて広げてみるとクダヤの街の情報がびっしりと書き込まれていた。

 役所に保管されてある番地なんかを調べる時に利用する地図みたいだ。



「……これはすごいですね」


「皆が率先して――主に自分の住まいなのですが、希望を出した結果ですね。ですがこれも街の情報を一新する良い機会だと領主様が仰られて。こちらの複製を今後執務に役立てるようです」



 領主らしい一面が見えてきたサンリエルさん。ちゃんと仕事してたのね。



「大変だったでしょうね。お役に立てたようなので良かったですが……この青い箇所は?」


「ヤマ様が仰った店や施設などです。恐れながら……、守役様のお体のお色を参考にさせていただきました」


「それで青ですね――――こちらのカセルさんとアルバートさんのご自宅もしっかり目立ってますね」



 ついつい笑ってしまう。

 これにはアルバートさんが慌てた。



「あ……! 申し訳ありません……! 祖母がどうしても頂いた証と同じ色にすると譲らなくて……」



 カセルさんとアルバートさんの家の箇所はレインボーな色が塗られおり、非常に目立つ。



「私は気に入っております」



 カセルさんは元気がはつらつな笑顔を見せてくれた。



「私も分かりやすくて良いと思いますよ。サンリエルさん達もそれぞれ目立つ工夫をしているようですし」


「ヤマ様に拝謁を許された面々という事で目立つようにしたようです」



 サンリエルさんなんて領主だからお城に住んでるのはわかる。わかるが、執務室や居住区なんかの記載はいるのかな。港にも執務室と書かれてあるし居場所がすぐ特定できそうだ。

 この個人情報の塊は絶対紛失しないよう気を付けないといけない。……紛失しようがないが。




「以前お願いされました女性向けのお店ですが、赤い丸がある所がそうです」


「ああ、あの時の。……それにしてもカセルさんは随分女性に人気があるそうで」


「は……アルバートですね?」


「そうですね」



 アルバートさんが少しおろおろしているが構わずばらす。

 ごめんねの意味も含めてにやりとしたら顔をそらされた。おい。



「一族の者はどうしてもそうなる傾向にあります。クダヤで生活する限りは将来の保障がされているようなものですから」


「なるほど」



 照れるわけでも謙遜するわけでもなく、淡々と事実として述べているカセルさん。

 モテ慣れしているのがよくわかる。こういう質問も山ほど受けてきたんだろうな。



「一族の女性は一族の者と結婚する事が多いですね。ですがアルバートの祖母は理の一族の次期族長候補でありながら他国出身の男性を夫にしました。しかもミナリームの元貴族です」



 にやりとしながら教えてくれるカセルさん。アルバートさんに対するカウンターが始まった。



「まあまあ。もしかして……物語が何冊か書けそうなお話ですか?」



 こちらも話に乗っかる。カセルさんのカウンターじゃなくても気になるワードがてんこ盛り。



「そうですね。巷では語り継がれる大恋愛と――」


「それはぜひ主人公のお2人にお会いしてみたいですね」



 2人でにやにやしながらアルバートさんを見るとよりおろおろしていた。



「いえ、お会いするだなんて……! 祖母が強引に押し切ったという話ですし、そんなヤマ様がお会いするほど――」



 これは……いやよいやよも、押すな押すなよ、というやつだろうか。アルバートさんに限ってはないとは思うが……。

 なんにしろこちらは住所を掴んでるんだぜ。物語のヒロインヒーローをそのうちこっそり見に行こうと思う。ふふふ。

 それくらいなら大丈夫だろう。



「――そういえば確認したい事がありました」


「何なりと」


「今後代筆の必要な場合なども含めお2人に何かお願いしたい時はどのようにしましょうか。現在は神への対応を優先して頂いているとはいえ本来のお仕事もありますでしょうし」


「こちらの仕事に関してはお気になさらないでください。ヤマ様に関する事が私達の仕事になりますので」



 いつの間にかジョブチェンジしていた2人。私がいなくなった後にちゃんと復職できるといいけど……。



「ヤマ様のお呼びが無い場合は港に新設されました執務室で領主様の補佐などを行っております」


「新設したんですか」



 嫌な予感がする。



「ヤマ様に関する事では迅速に行動できるようにと領主様が」



 やっぱり関わっていたサンリエルさん。まあ領主だしな。



「城の執務室も残っていますがほぼ港に詰めております。調理場も新たに作りましたのですぐにお食事もご用意できます」



 にこやかに教えてくれるがせっかく作っても私が数か月で地球に帰る事になったらどうするんだろう。

 1年くらいはいないと申し訳ない感じだ。ミッションを達成したらすぐ地球に戻るのかチカチカさんに聞いておかないと。



「その食事ですが、量を減らして3日毎にお願いしてもよろしいですか」


「もちろんです。いつものこのくらいの時間帯でよろしいでしょうか」


「それでお願いします。――普段港にいらっしゃるという事ですので、今後は何かあれば船を神の社付近に送ります。常に社を守る方達がいらっしゃるでしょうから」


「かしこまりました」



 これでいっそう過ごしやすいファンタジー生活になったな。

 代筆以外で呼び出すことはあまりないだろうから、カセルさんとアルバートさんの2人には補佐の仕事を頑張っていただきたいものだ。






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