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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録17:受け継がれるもの

視点変わります。

 



 朝の明るい日差しの中、ヤマ様の船に乗り街へ戻る。





「今度は髪か~。ま、元気出せって!」


「おう………………そういや俺、お前に怒ってたな」


「お? なんだ? 思い出し怒りか?」



 爽やかな笑顔で肩を叩いてくるカセル。

 痛い。



「いや……。短い時間にいろいろあったから怒る気分じゃないな……」


「そうだよな! 俺に腹を立ててる場合じゃねーよな」


「自分で言うなよ」



 今日カセルに会った時は怒りがあふれ出てきたものだが……。



「お前はもともとそんな感じだった」


「そうそう」


「知ってたのに。……不意打ちだったしな」


「そうそう!」


「ヤマ様にばれない様にしないとな…………ヤマ様の御髪……」


「ばっちりはぐらかされたな!」


「守役様のお印も……」


「すげー神々しいよな!」


「こんな光る染料見た事あるか……?」


「ない!」


「神の島と同じ輝きだぞ……?」


「俺ら一躍有名人だな!」


「お前は前からだろ」


「お前の婆さん泣いて喜ぶんじゃねえか?」


「そうだな……」


「レオンが騒ぎたてるな~」


「家族全員かもな…………俺らがあんな感じで連れて行かれたから心配してるだろうな……」


「みんなびっくりしてたよな~」



 神の島に連れて行かれた方法が衝撃的すぎて忘れていたが、今街はどうなっているんだろう。



「領主様と族長達絶対騒いでるよな」


「領主様なんて同じ船に乗ってたのに俺らだけだもんな~」


「おい、あんまり笑うなよ」


「それにしてもすごかったな! 海の上をこう、さあ~っと!」



 カセルが人の話を聞かないのはいつもの事だ。



「俺はお前みたいに楽しめなかった」


「またやっていただけないかな~」




 あれこれと会話を続けながら白い霧を抜けると、大量の船がひしめき合っている光景が――。


 俺達の乗っている船を見てなのだろう、辺りは歓声に包まれた。



「お、おい……」


「すげー数だな。――――お、お前の家族と……俺の家族も来てるな。珍しい」



 やはり心配をかけてしまったようだ。

 しかしあの人数の関心がこちらに向いている中、近付いて行くのはかなり勇気がいる。なのでこっそりカセルの後ろに隠れる位置に移動する。



「なんだよ? 元気な姿見せてやれよ。お前の名前呼んでるぞ」



 そう言いながらカセルは、家族が乗っているであろう船に向けて手を振り始めた。

 それに併せて歓声も大きくなる。



「おい……!」



 ますます居心地が悪くなる。

 俯き加減に時が過ぎるのを祈っていると、俺の耳にも家族の声が聞こえてきた。



「アルバート~! どれくらいの速さが出たんだ~!?」

「お母さんあなたの雄姿見逃しちゃった~!」







「…………心配してないな」


「そうだな!」



 俺の身の安全というよりは、どんな方法であれ空を飛ぶ形になった事に意識が向いているようだ。

 速さも何も、必死で目を閉じていたから何も分かるはずがない。カセルに聞いてほしい。



 俺達の船はお偉い方々がいる方向へは行かず、家族の船に向かっている。

 領主様の船がこちらに近付こうとしているが、たくさんの船が密集しているせいでうまくいかないようだ。





「エスクベル様はお怒りなの!?」



 家族だけだと思っていた船に理の族長も乗っていた。

 この船の手配でもしたんだろうな。



「お怒りでしたね~」



 全然深刻そうじゃない顔と声で家族の船に軽やかに乗り移るカセル。



「なんですって!? たいへ――あなた服をどうしたのよ?」


「船にひっかけて破ってしまいました」


「まあ!」



 理の族長とカセルが話している間に、俺は助けを借りて家族の乗る船にどうにか乗り移れた。

 カセルの時は誰も手を貸さなかったのに俺の時だけたくさんの手が伸びてきた。

 助かったのは確かだが、どこか釈然としない。



「神の社に手を出した事、お怒りでした。ですが今はお怒りは静まっています。2度は無いでしょうね」



 そう言いながらも去ってゆくヤマ様の船に顔を伏せてお礼を伝えるカセル。

 こちらも慌ててそれに倣う。



「あの男達……!どうしてやろうかしら……!」



 これには理の族長達ではなく、祖母も母も、もちろん姉も怒りをあらわにしていた。

 カセルの母親は困った顔をしながらも母を宥めてくれている。



「で、空を飛ぶってどんな気持ちだ!?」



 こっちはこっちで気持ちが抑えられないらしい。

 普段控えめな父とルイス兄さんも、興味深げな顔をしてレオン兄さんを止めようとはしない。

 そしてカセルの父親もこちらを気にしているのがわかる。

 祖父だけだ。安心した様にこちらを見ているのは。



「俺は目を閉じてたから……。カセルに聞いてくれよ」


「そっか! それよりお前、ずっと手に何を握ってんだ?」



 無意識にヤマ様にいただいたハンカチを握りしめていたようだ。急いで手の力を緩める。

 どうするんだとカセルをちらっと見ると、意図が伝わったらしく頷いてきた。



「俺達、御使い様と街を繋ぐ者としての証を頂いたんです」


「なんですって!?」

「証!?」



 理の族長の声が1番大きいが、それぞれに驚いているようだ。



「これです」



 そう言ってカセルがハンカチを開いて見せたので、俺も開いて見せる。



「……まあ! まあまあまあ……!」

「よく見せてくれよ!」



 急に近付いてくる家族。思わず後ずさってしまう。



「なんて美しいの……」

「これは風の一族が担当を任されている守役様のものか……?」

「こちらのは……」



 男性と女性で反応が違うのが面白い。

 女性達は光り輝いている美しさに目がいき、男性は形に興味があるようだ。



「空を飛ぶ守役様と、初めてお見かけした守役様のおみ足の印です。家に飾っても良いとの許可をもらいましたので、家宝にするつもりです」



 そうカセルが報告すると、大騒ぎになった。

 大騒ぎしているのを近くの船に乗っている人が聞き、俺達の船を中心に騒ぎが広まってゆく。




 家族からの興奮した言葉に返答していると、何やら叫び声が聞こえた。

 声のした方を振り向くと、領主様がそれは身軽にたくさんの船の上に飛び移りこちらに向かってきているのが目に入った。



「…………領主様」



 叫び声は、技の族長か風の族長が領主様を止める言葉だったみたいだ。

 騒ぎの内容がお偉いさん達の所まで届いたのだろう。

 地の族長は技の族長に羽交い絞めにされていた。さすがだ。



「あら。こっちに向かってるわね」



 のんびりと笑っている祖母。

 理の族長は領主様の行動に顔をしかめているが……。


 飛び乗られている船の人達は面白そうに囃したてて大盛り上がりだ。

 みんな楽しそうだな~とぼんやり領主様がやってくるのを見ていると、人間の手が海から急に現れ船の縁に手をかけた。



「ひっ!」



 思わず後ずさり家族にぶつかってしまう。



「――どうなってるのよ!?」



 海から豪快に現れたのは水の族長だった。



「ちょっと! こっちまで濡れてしまうじゃないの!」



 理の族長はぶつぶつと、水気をぬぐってから来なさいよと注意しているが、そういう問題じゃないと思う。



「まあまあ」



 カセルは水の族長の剣幕にも動じず、証のハンカチをしまおうともしない。

 自慢げに見せびらかしているように見える。

 その時、領主様がとうとうこちらの船に到達してしまった。



「よく見せろ」



 第一声がよく見せろ……。



「こちらです」



 カセルも素直にハンカチを領主様に見せているが、渡すような事はしない。

 領主様がこちらも見てきたが、同じく見せるだけだ。何となく他の人達には触れて欲しくないのだ。


 俺達がハンカチに触れられるのを避けているのが分かったのだろう、領主様は渋々見るだけにとどめる事にしたようだ。

 それでも距離が近いとは思うが……。




「――領主様」



 街に戻るよう指示を出し、穴が開く程ハンカチを見つめ続けている領主様にカセルが思い出したように告げた。



「なんだ」


「ヤマ様から指示を受けました。神の島に遠見の装置を向ける事を禁ずる、代わりに神の社を監視するようにと」


「早く――!!」



 水の族長は最後まで言わずに海に飛び込み、風の族長が乗っている船に泳いで行った。

 慌ただしい人だよな……。



「そうか」



 領主様は一度顔を上げカセルの方を向いたが、またハンカチに視線を戻す。

 大丈夫だろうか。きちんと家に持ち帰れるよな……?



 その時、カセルがそっとハンカチをしまいこちらに目配せをしてきた。

 ヤマ様の船に乗っていた時に打ち合わせた事が思い出される。



「申し訳ありません、汚れてしまうといけませんのでまた後程。――そういえば空を飛んだ時の話なんですけど――」



 この場から離れ、みんなの気を引いてくれるカセル。

 証を見られなくなり残念そうな領主様もカセルの方に近付こうとしたが、領主様だけに聞こえる小声で必死に引き留めた。



「領主様にヤマ様からお預かりしているものがあります……!」



 ぴたと足を止め、射るようなまなざしでこちらを見つめてくる領主様。



「神の食べ物を……。そして密かに銀貨、銅貨、貝貨を用意して欲しいと……」



 この船には風の一族であるカセルの両親も乗っているので、聞かれないよう細心の注意を払って伝える。

 すると、領主様の目が見開かれた。

 ……やはり領主様の真っ黒な目は恐怖を感じさせる。



「どこにある」



 さりげなく話している風を装い質問してくる領主様。

 俺もできるだけ不自然にならないよう気を付ける。



「カセルが持っています。食べると神の力が増すので口外しないようにと……」


「神の力が?」


「はい。領主様だけにという事ですので……」


「私だけか」


「はい」



 自分だけという所に満足感を覚えたのだろう、領主様の口の端が上がった。

 明らかな笑顔についつい凝視してしまう。しかし、その表情は一瞬で消え失せた。



「…………お前達は口にしたのか」


「……えっ? えー……」



 突然の質問に狼狽えてしまう。

 領主様にとお預かりしている何倍もの食べ物をいただきましたとは絶対に言えない。ましてや街で食事を一緒にとりましたなんて知れたら……。

 咄嗟にカセルならなんと答えるだろうと必死で考えを巡らす。



「あの……、ひと欠片だけ毒味をしました」


「毒味」


「は、はい。それで異常が無かったので丸々おひとつ領主様にと……」


「そうか」



 何やら納得した様子の領主様。どうにか切り抜けた様だ。

 そして俺の頭にはカセルの言った言葉がずっと繰り返されていた。






「お前な~、嘘の中にほんの少し真実も混ぜ込むんだよ~。そしたらより真実味が増すだろ?」



 そうだなカセル。今初めて役に立ったぞ。








視点戻ります。

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