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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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もどかしい気持ち

 




 みんなの好意の結果、このハンカチ。

 1%は悪意が混ざっていそうなのは気のせいだろうか。


 しかし、役に立ったとばかりのみんなの様子を見ていると無下にもできない。

 そしてタツフグはいったいどうしたんだ。進化でもしたのか。



 私はこのハンカチをどうすれば良いのか……。

 アルバートさんの方をそっと窺うと、食べる手を止めてちらちらとみんなの方を見ていた。

 カセルさんは絶好の機会とばかりにもりもりと食べながらみんなを見ている。





「アルバートさん、これを」



 結局、足跡スタンプ付きのハンカチを渡すことにした。

 2人とも守役様のみんなに興味があるようなので困りはしないと思ったのだ。



「はい……!」



 ナナがくわえているハンカチを恐る恐る手を伸ばして受け取るアルバートさん。

 ナナはもうちょっと首を伸ばそうか。アルバートさん腕がつりそうだよ。



 受け取ったハンカチを見て、アルバートさんとカセルさんは息をのんだ。



「これは……」


「汚れを隠すために守役達が工夫してくれたようです。勝手に手を加えてしまって申し訳ありませんが、よかったらお使いください。――――洗ったら落ちる? じゃあ大丈夫だね」



 後半はみんなに質問する。

 一度乾いてるから平気と教えてもらったので、気兼ねなく使う事ができるだろう。



 アルバートさんは気の抜けた声でお礼を言ったっきり、茫然とハンカチを見ている。

 横からカセルさんによく見せろとせっつかれているが、どこか上の空だ。



「押しつけがましかったですか?」



 少し不安になったので聞いてみる。



 人に借りたものを勝手にリメイクして返すみたいなものだし、御使い相手だから文句も言えずにいるのではないかと思ったのだ。……当たり前か。



「とんでもありません!! あ、いえ! すみません……」



 突然の大声。

 元気があってよろしい。



「あまりにも恐れ多いので……。ですので決して不満に思っているわけではありません……!」



 必死で説明してくれるアルバートさん。



「そうですか。それならよかったです」


「額に飾り、家宝に致します……!」



 アルバートさんにしては珍しい、前のめりな発言。



「お前、他人に見られたらどうすんだよ? しつこく聞かれるし、盗もうと考える奴も出てくる。お前の家族なら大丈夫だろうけど、盗みに入った方が再起不能になるぞ。ばれないようにしないと」


「あ、そうか……」



 一気に後ろ向きになるアルバートさん。

 珍しい前のめりタイムはあっという間に終わってしまった。

 それにしても盗みに入った方が再起不能とは……。恐ろしい家だな。




「……いっそのこと、正式にもらったことにしますか」


「正式ですか……?」


「カセルさんにもご用意しますので、私とのやり取りを任されている印のようなものとお考えいただければ。それなら飾っても違和感はないでしょうし、今回の件で神の物に手を出そうという者は出てこない……と思いたいですね」


「私もですか!? ありがとうございます!」



 前のめりが今度はカセルさんに移った。



「ハンカチ……なんて持ってないしな。しょうがないこの服で……」



 そう呟くとカセルさんは冷静な顔をして着ている服を引きちぎった。




「お前何やってるんだよ!?」


「ハンカチ持ってねーから。力がみなぎってるせいか簡単に裂けたな」


「俺が持ってるから! 聞けよ!」



 爽やかな笑顔で引きちぎった服を手にしているカセルさん。

 神の力を強化してやる事が自分の服を引きちぎる事とは……。私の人を見る目の確かさよ。




「タツフグの墨って余ってる? ――じゃあ取りに行こう」



 言い合いをしている2人に断りをいれ、いったんその場を離れる。



 マッチャが洞窟に入り持ってきたのは、豪華なカップに入っていた虹色の輝いている墨だった。

 もはや墨とは呼べない。



「タツフグすごいねー。ボス、タツフグは進化でもしちゃったの?」



 タツフグを撫でながらボスに尋ねると、島の力で進化したと教えてくれた。



「そっかあ。ご飯も島産の食べ物だし、いちおうここって島の内部だもんね。おめでとうタツフグ」



 とりあえずタツフグを祝っておいて、2人の元に戻る事に。

 言い争いが終わってるといいけど。





 2人の元に戻ると、カセルさんは笑顔で、アルバートさんはそんなカセルさんを睨みながら何やら注意しているようだった。



「お待たせしました」


「いいえ」


「……そちらの白い洋服と、ハンカチどちらにしますか」



 どちらにするもなにも、すでに服は破いてしまっているが。



「アルバートと合わせてハンカチにします」


「(そっち!)……ではハンカチをお借りしますね」



 心の中の声はどうにか押しとどめた。

 キイロにハンカチを受け取ってきてもらい、手元にハンカチを広げる。



「お揃いにした方がいいから担当はキイロとダクスにお願いしようかな」



 キイロとダクスが足を虹色ラメに浸すのを見ながら気になっていた事を聞く。



「いつスタンプしたの?」


「キュッ」


「私が寝た後ね。みんなで?」


「コフッ」


「傍に控え組とスタンプ組で別れたのかあ」



 私が寝ている間にそんな事をしていたのか……。

 寝ている間に面倒な事がすべて終わっていればいいな~と考える事はあるが、なぜか今回の件は手放しで喜べない。




「ぴちゅ!」

「キャン!」


「終わったの? ……綺麗にできてるね、ありがと」



 2人を撫でながらお礼を言う。



 キイロは羽ばたきながら足を海につけてインクを落としているので、ダクスを抱えて脚だけ海につくようにする。

 勢いよく水かきを始めたダクス。気のせいか、海水がカセルさんとアルバートさんにかかるように足を動かしているような――。

 腰をひねりすぎなんだけど大丈夫なのか。



 思う存分水かきをして満足げなダクスを膝に乗せ、2人に向き直る。



「お待たせしました。しっかりと乾かせば水に濡らしても平気ですので」



 今回はエンにハンカチを渡してもらう。

 ハンカチをくわえたまま鼻から火花を出しているので、火がつかないか心配ではある。



「ありがとうございます」



 カセルさんはまったく気にすることなく、エンをじっくり見ながらハンカチを受け取った。

 猛者だ。




「空を飛ぶ守役様と、そちらの守役様のお印ですね」


「そうです。街の皆さんには、神の使いとの間に立つ者の印とでも――」



 私がカセルさんと会話している間、ダクスは2人を威嚇し続けている。

 頭を撫でると可愛い顔を作ってこちらを見上げてくるのだが、2人に顔を向けると威嚇を再開する。

 唸り声を出していないのでこちらには気付かれていないと思っているのだろうが……、上から剥き出しの牙が丸見えなんですけど……。



 マッチャが2人から使い終わった食器を回収している間も会話を続ける。



「――そうですね。昨日の打ち合わせ通り、今回の呼び出しは神の社に手をだした事による怒りの呼び出しとでも説明して下さい」


「かしこまりました」


「それと、装置を使用して神の島を確認する事もお止め下さい。島に向けていたものを神の社に向けるようお願いします」


「はい。申し伝えます」


「あとは……、そうそう。白い作物の調理方法を知っていれば教えて欲しいのですが」


「……あまり詳しくはないのですが、ロマは主に――」



 説明によると、ブロッコリーはロマと呼ばれ主に煮込み料理に使い、白ナスはスールジ、スールジは主に炒めて調理される事が多いらしい。

 今夜は自炊でもしてみようかな。




「ありがとうございました。――――昨日海上に取り残されてしまった方達についても打ち合わせ通りお願いしますね」


「はい」


「それではまた…………アルバートさん」




「っはい!」



 完全に気を抜いていたな今。



「今回の神の食べ物で変化はありますか」


「ええと……」



 立ち上がってカセルさんに目で問いかけるアルバートさん。




「身長は……あんまり変わってねーな。でも違和感はある……」


「そうなのか?」



 2人とも立ち上がってどこが変わったのか確認しているようだ。




「あ、わかった! お前髪が伸びてるよ」


「髪…………」



 落ち込むアルバートさん。

 なんで彼には神の力がそういう風にしか作用しないんだろう。

 身長も髪もだが、必要な人にとっては喉から手が出るほど欲しいものではあるのだが……。



「髪も心なしか輝いているようですね。長い髪を持つものとしてはうらやましい限りです」



 言ってから失敗した事に気がついた。

 褒められ待ちというか、褒められるよう誘導したようになってしまった。

 『え~、そんな事ないよ~』待ちとも言う。


 案の定――



「ヤマ様の御髪はとても美しいです!」



 強制的に褒め言葉を引き出してしまった。



「あ、ありがとうございます」


「とても美しい黒髪……と白髪です!」



 普段控えめなのに何でこんな時に限って饒舌なんだアルバートさん。

 やめてくれ。



 困っているとカセルさんから助けが。



「出過ぎた真似をして申し訳ありませんが……。ヤマ様の御髪の白髪の部分は、理の一族の髪の色と関係があるのでしょうか」




 ……助けじゃなかった。

 理の一族というより、チカチカさんに関わりがあるのは間違いないんだけどな。

 ふわっとしたまま放置してある謎を聞かれてしまった。




「……ないとも言い切れませんね」



 自分なりの謎めいた笑顔を浮かべ、はっきりと明言するのを避けた。

 神の信徒感出てるかしら。



「さようでございますか……」



 それ以上は知る事ができない範疇の事柄だと悟ったのだろう、質問を重ねてくることはなかった。




「それでは……次回は2日後ですね。お待ちしております。本日もありがとうございました」



 手を振って白い霧の中に消えてゆく2人を見送る。

 地球で使い慣れていたジェスチャーが通じるので助かっている。






「あーひと仕事終わったー。……寝直そうかな」


「キュッ」


「大根アザラシ? じゃあ少し遊んでいこう」



 大根アザラシが、島の力が強すぎないぎりぎりの範囲のところに集まっているらしい。

 さっそくロイヤルが追い立てに海に潜った。

 ごめんよだいこん……。




 程なくして白い姿がいくつも見えてきた。



「多くない……?」



 明らかに昨日より多い。

 周りは白い大根で埋め尽くされる。


 そこで、海面から顔を出している大根アザラシを1匹ずつ撫でていく事に。




(そういやこんなゲームあったな……)





次回視点変わります。

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