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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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完全オーダーメイド

 





 ボスの力で強制的に、船にも乗れず神の島に連れさられたカセルさんとアルバートさん。

 街の人パニックになってないといいけど……。



「今2人は? ……空中待機ね。うん、急ごうか!」



 慌てて武骨な船にみんなで乗り込む。

 いつも私が乗っている船には2人を降ろしてもらおう。




 ボスにお願いして島の外に向かう。


 外に出た瞬間、満面の笑みできょろきょろしているカセルさんが目に入った。

 そして、水流に絡みつかれて手足がだらんとしているアルバートさんも。



「え……? 気絶してないよね? お願い。してないよね?」



 その声が聞こえたのか、アルバートさんはばっと顔を上げた。




「ヤマ様おはようございます」

「おはようございます……」



 笑顔で声を掛けてきたカセルさんは、上空で陽の光に照らされて髪の毛が鮮やかに輝いている。

 うん。とてもきらきらしている。色んな意味で。

 隣の人はぐったりしてるんだけどカセルさんは輝かしい笑顔……。すごいや。色んな意味で。



「おはようございます。……ええと、申し訳ありませんね。お2人だけになる機会が中々無かったものですから……」


「とんでもない。私達もどうしようかと思案していたところですから助かりました。ありがとうございます」



 帽子越しではなく、明るい陽の下ではっきりとカセルさんを見たのはこれが初めてだが、笑顔と現状がどうにもミスマッチだ。



「えーそれではこの船にお乗りください」



 そう告げると、2人の体は船に降ろされた。

 そこそこの高さから――。



「わっ!?」



 べしゃりと船に着地したアルバートさん。

 かたやスマートに船に降り立ったカセルさん。



 完全にひいきだが、アルバートさんには神の島の食べ物を多く食べさせようと思う。

 身長が伸びる予感しかしないが……。




「ありがとうございます。――守役様方もおはようございます。私、風のカセルと申します。よろしくお願い致します」

「……! アルバートと申します……!よろしくお願い致します!」



 カセルさんに引き続き、慌てて体を起こして挨拶をしてくれるアルバートさん。

 焦らなくていいよ。むしろごめんね。



「もう姿を見られているという事でしたので、皆にも同行してもらいました」



 お怪我は? なんて聞くとアルバートさんが落ち込みそうだったので見なかった事にする。



「このようにお近くで拝見する事ができ、誠に光栄でございます」



 こじんまり組から威嚇されているのに……。彼も慣れたものだな。

 アルバートさんはそおっと様子を窺うようにみんなを見ている。……よし、泣いてはいないな。




「改めて、昨日はありがとうございました」


「とても貴重な体験をさせていただきました。こちらこそありがとうございます」



 カセルさんは本当にそう思っているのが伝わる。

 アルバートさんも緊張した顔はしているが、頷いているので同じ気持ちなんだろう。



「昨日お話しした通り、お礼に島の食べ物を持ってきたのですが……。朝のお食事はもうお済みですか?」


「いえ、私はまだ。――お前は?」

「私は少し済ませてきました……」


「では、島の食べ物をこちらで召し上がっていただいてもかまいませんか? その方が都合が良いもので」



 そう言いながらバスケットに手を突っ込んで準備を始める。



 聞いておいてなんだが、相手の返答なんて関係ない。

 お腹いっぱいでないのなら食べられると思う。



「はい。問題ありません」

「ありがとうございます」



 2人はとても嬉しそうに答える。

 胃袋を掴むってこういう感じか。




 準備をしていると、予想通りみんなが参加してきたので一緒に朝食プレートを作る。

 お皿に果実を乗せるだけの5秒クッキング。



「あっ。ダクスちょっと牙! あ~歯形が……キイロ! くちばしで突き刺さない! ナイフがあるんだからさあ……」



 5秒なんて嘘だ。

 なんとなくわざとやっている気がしなくもないが、頑張ってお手伝いしている範囲の微妙なラインを攻めてくるので注意しづらい。




「あの、そんなにたくさん持ってきていなくてですね……。少し傷がついたりしているのもあるんですが、皮をむけば平気だと思いますので――ダクスはちょっと唸るのやめようか」



 2人に朝食プレートを渡しながら(もちろんマッチャが)、ひと言断っておく。



「このような素晴らしいものを……!」

「ありがとうございます!」



 なんだ、心配する必要なかったな。

 2人は感激して朝食プレート恭しく捧げ持っている。



「どうぞ。スプーンとフォークもご自由にお使いください」



 その言葉を合図に、2人は控えめながらも勢いよく食べ始めた。



「マッチャ、2人に飲み物も渡してくれる?」


「フォーン」

「キュッ」


「あーロイヤルはこのタオルをお願いしようかな?」



 紅茶の入ったコップをどうやって運ぶつもりだったのか……。羽で挟む系かもしれない。




「……このカリプスは今まで食べた事が無い美味しさです」



 カセルさんがどこか呆けた顔で食べているのはキウイメロンだった。

 キウイメロンの名前はカリプスなのね。



「昨日いただいた苗から収穫しました」


「えっ、昨日植えたものがもう収穫できるのですか……?」


「島の力のようですね」



 2人ともとても驚いている。

 そうだろうそうだろう。島の力はすごいんだよ。

 チカチカさんだからね。チカチカさんはすごいのよ。なんてったってチカチカさんだから。



「それと……種から収穫できたこの白いもの2つも合わせて……」



 がさごそとブロッコリーとナスもどきを取り出す。



「街で売ってお金を手に入れようと考えています。白いものも味見していただけますか?」



 自分で渡そうとするとみんなに止められるのが分かっているので、今回も自らマッチャに渡す。

 歯形がつく恐れを回避したとも言う。



「これらもですか……」



 驚きながら受け取り、端の方を少しかじるカセルさんとアルバートさん。

 そのままで食べるものではないと知っている動作だよね。ごめん。



「……これは美味しいですね! 通常は調理をして食べるものなのですが、作物本来の甘みが強いので気になりません……!」

「苦みがないです!」



 グルメ番組みたいなコメントをされた。

 本来の甘みて。

 私は島産のを味見しなかったが、そのままでも食べられるレベルの美味しさのようだ。



「売ると騒ぎになりますでしょうか」


「そうですね……。この美味しさだとしつこく栽培方法などを詮索される可能性があります。ですが、このカリプスであれば可能かもしれません」



 キウイメロンが1番騒がれそうなので意外に思い、カセルさんに理由を聞く。



「このカリプスという実は別名、神の気まぐれとも呼ばれています。それは、季節に関係なく収穫できるのですが当たり外れが大きいためです」


「味、という事ですか?」


「そうです。前回とても味の良い実が採れても次回そうなるとは限りません。ただ、実のなる木ごとに味は同じになるので判別は容易です」


「気まぐれだからこそ、そこまで怪しまれないという事ですか……」



 神の気まぐれ……。これほど神の島で生活している私が売るのにぴったりなものは他にはないだろう。

 神の気まぐれ……、かっこいい。



「あの……差し出がましいようですが、カリプスをお売りにならなくてもお金に関しては問題はないかと……。その、領主様が……」



 気になる言葉が聞こえた。



「……サンリエルさんですか」


「はい……。すでにクダヤの身分証は手配済みの上、お召し物一式も準備しているようでして……」


「はあ……」


「ヤマ様にと、白金貨まで持ち出そうとしているようです」



 白金貨――。確か国や商人同士の大きな取引でしか使われる事が無いお金、だったかな。

 説明された時、額が決まっている小切手のようなイメージを持ったんだよな。

 アルバートさんが持っていたのは銀貨までだったので実物は見ていないが……。



「張り切ってますね……」


「それはもう。昨日は一睡もせずに準備に奔走していたようです」


「……これをサンリエルさんに」



 そう言いながら持ち上げて見せたのは島で採れるバナナもどきだ。



「これで銀貨と銅貨と貝貨を用意してもらえると助かります、とお伝えください。――白金貨は頂いても使えませんので」



 徐々に『神の力、精神に働きかける説』が現実味を帯びてきたな。

 白金貨をその辺の人間が使える訳がない。やっぱりどこか緩んできていると思われるし、思いたい。

 本来はそんな人じゃないと思いたい。



「かしこまりました」


「力が増すことを説明し、口外しないようお願いしますね」



 ある程度秘密を共有してもらった方が大きな暴走はしないだろう。

 カセルさん達みたいに関われてないからこそ、一生懸命役に立とうとしている気がするし。



 そしてカセルさんにバナナもどきを渡すというか、落とすキイロを見て思いだした。



「アルバートさん」


「は、はいっ!」



 ごめん、急に話しかけて。



「昨日お貸しいただいたハンカチなんですが、汚れが落ちなくて……。申し訳ありません」


「いえ! お捨ていただいてかまいませんので!」


「そのような事は……。街で購入し改めてお渡ししますので、ひとまずお返しし――――」







「ヤマ様……?」




「……少々お待ちください。…………キイロ」


「ぴちゅ」


「この足跡はなに……?」




 カゴから取り出したハンカチには、キイロの足跡がしっかりついていた。

 これはうっかりなんてレベルではなく、完全に意識しないとできないものだ。



「ぴちゅぴちゅ」


「汚れが落ちないのを気にしてたから見えなくした……ね。確かに気にしてたけど……」


「ぴちゅ!」


「へえ、これタツフグの墨なんだね。そっかー。良かれと思ってねー、そっかー。なんで虹色のラメなのか不思議だね~、真っ黒の普通の墨だったよね~」



 役に立ってやったとばかりのキイロ。

 胸の膨らませ方すごいね。自信満々なのか。すごいね。



「キャン!」


「え、ダクスも……?」



 急いでハンカチを広げて見ると、ダクスの肉球の形が虹色ラメでスタンプされていた。



「クー」


「そうだね、他のみんなは手足が大きいから全員は無理だよね……」







 ……ほんと、すごい。

 色んな意味で。







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