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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン
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人はそれを余計なお世話ともいう

説明回。

 



 クローゼットの中に入っていたワンピースの左胸元にはH・Yの刺繍。





 私の名前は山内 春。


 やまうち はる。


 はる やまうち


 H・Y。






 だ、ダサっ。



 いや、イニシャルいいんだよ?

 イニシャルや地名がプリントされたTシャツ持ってるし。

 しかしこのいかにもアジアではない中世あたりの庶民の服にでかでかとイニシャル。

 そして現代の靴をコーディネート。




 あらためて思う。ダサい、と。



 もしやと思い中にある衣類を片っ端からチェックする。



 そう、すべてにイニシャルが刺繍されていた。

 しかも靴下、靴にまで刺繍する手の込みようだ。



 なんなんだ。イニシャルにどれほどのこだわりがあるのか。

 いや、イニシャルで合ってるよね? 見慣れた文字だし。

 何か違う意味でもあるのか? おまじない的なさ。


 いろいろ考えたが、はっと私にはチカチカさんがいるということを思い出した。



「チカチカさん、このクローゼットの中のものって私が着てもいい服でしょうか」



 そう問いかけるとチカチカさんは2回チカチカと点滅した。



「この胸元の刺繍って私のイニシャルですか」



 チカチカッ



 やはりイニシャルだった。

 色々と問い詰めたいが、ハイ・イイエの形でしか質問できないのでめんどくさそうだ。



「これはチカチカさんが用意してくれたのですか」



 ……チカッ…チカッ



 チカチカさんじゃない……?

 いや、チカチカさんは関係しているはずだ。



「チカチカさんの他にも誰か関わっているのでしょうか」



 チカチカッ!!



 びっくりした。ものすごく光ったぞ今。

 そうそれ! といわんばかりのフラッシュ具合だった。良い質問をしたみたいだ。

 じゃあ誰なんだ~? と考えた時突然ひらめいた。というか軽く忘れてたんだけど。



「あの、よろしく頼むねと誰かにお願いされたような記憶があるのですがその人はこの状況に関わっていますか」



 そう聞くと青色の光も織り交ぜてものすごくチカチカされた。




 重要人物が出てきたな。

 あの声の主はチカチカさんと知り合いみたいだ。そっちでは、みたいなことを言っていたが……。



「その人と話すことはできますか」



 …………



「その人は私がいる、今だといわゆる<こっち>にいますか」



 …………



 うん、まいった。その人の助けは期待できそうもないみたいだ。そもそもチカチカさんはなぜこのクローゼットを見つけてほしかったのだろうか。衣類を見せて声の主の存在を伝えたかったのだろうか。


 手掛かりを得たと思ったら更に謎が増えたな。まあしょうがない。とりあえずせっかく用意してくれたのだから靴下と靴でも履いて――



「!?」



 ごごごと突然背後から音がしたので靴下を履いている中途半端な体制で慌てて振り返った。

 するとこの空間の中央部分、そこから何かがあふれ出しているのが目に入った。



 それは段々と形作られてきて、最終的には長方形の木の角材のようになった。横に広いのでベンチのように座れそうだ。

 急いで靴下とスニーカーを履き近づいてみると、座れそうと思った上面にうっすらと文字が浮かび上がってきた。








 **********





 はるちゃんへ



 びっくりした? びっくりしたよね? サプラ~イズ!

 ふふふ。あ、いけない! 僕の力がそちらに影響を与えられるのも限りがあるんだった! 

 はるちゃんがクローゼットで見つけてくれた靴に残っている僕の力を使ってるんだ。



 えーと、僕ははるちゃんが住んでた<地球>と呼ばれるものの意思でーす。じゃーじゃん。

 思念体のようなものかな。ガイアとかアースとかでもカッコいいよね~。どう呼んでも大丈夫だよ!



 お察しの通り、はるちゃんには僕が頼んで今いる世界エスクベルに行ってもらったんだ~。

 無理やりじゃないからね! きちんと説明してお願いしたからね? 


 はるちゃんがなんにも憶えてなくてびっくりしちゃった!

 きっとね、その世界に送り出すときに僕が高次の存在感を出そうとしちゃったのがまずかったんだと思うんだ~。

 えへへ、ごめんねっ。


 こうね、バンッ! と光の柱が現れて神が降臨するみたいな? ワクワクするでしょ? 

 で、はるちゃんって酔いやすいタイプだったんだね。そこが誤算だったな~。

 光の高濃度のエネルギーの中で頭がシェイクされちゃって記憶がこう、ポーン! とね。



 もともとはるちゃんを選んだ理由の1つに第6感のような感覚が優れているって要素があったからいろんなエネルギーの影響を受けちゃったみたい。

 あはは、これ僕みたいな高次の存在達に対しての鉄板ネタになりそう!



 そうそう、そっちにいるチカチカしてるの……プーッ! チカチカさんだって!

 いっつもクールぶってるのにさ~。プーッ! 

 そいつは僕の後輩みたいなもので<エスクベル>の思念体だよ。その世界はまだまだ子供のようなものだからね、だから僕が先輩なの!



 で、なんでそっちの世界に行ってもらったかというと、今地球のエネルギーが真っ黒に変わりそうでさ~、僕の寿命が短くなりそうなんだ。

 はるちゃんも知っている通り、争い・恐怖・憎しみなんかの負の感情が増大してて、愛と光の高次のエネルギーを覆いつくしそうなんだよね~。



 世界ってバランスが大事なんだ。表裏一体って言葉知ってるでしょ? 陰と陽ともいうかな? そのバランスが崩れちゃってて大変だから<エスクベル>でたっぷり愛と光のエネルギーを集めてこっちに戻ってきてもらおうってわけ! 

 そこの世界はまだ新しいから変化・変容しやすくて集めやすいんだ!



 ふふふ、びっくりした? 最初に説明した時もびっくりして自分にはそんな大それたことできないって言ってたよね。でもはるちゃんならできるよ!


 小さいころから周りの愛情をたっぷり受けて自分も愛情を与えること、素直に感謝ができるってとこも僕が選ぶ重要な要素の1つだったんだよ。愛というものに体が慣れているんだよね。

 だからこっちに戻ってくるときに愛と光のエネルギーをたっぷり持って帰って来れるからね!



 それにはるちゃんは引越しして1人暮らしを始めても氏神様にお参りをかかさなかったでしょ? 田舎で育っておじいちゃんおばあちゃんの影響も受けてるから信心深いし。

 それで高次の存在達の加護が人より多いし強いんだよね~。だから愛と光のエネルギーもより集めやすいと思うよ!



 そして! もっとも重要な要素が、普通であること! これ重要! 

 いやね、僕もこういうこと頼むのはるちゃんが初めてじゃないんだ~。そこ以外のいろんな後輩の世界にも行ってもらってるんだ。


 始めたころは優秀と呼ばれる人達を選んで色々と送り出してきたんだけど……、安全の為に僕の力を少し分け与える上に優秀だからやっぱりそこの世界に多大なる影響を与えちゃってさ。

 王様になっちゃったり、魔王って呼ばれちゃったりさ……。世界を混乱させちゃって申し訳なかったな~。


 そういう立場になっちゃうとそれに付随して負の感情も増えちゃうでしょ? 妬みやら恨みやら。

 そしてこっちに帰ってくるときはもれなく少しの傲慢さもついてきちゃうんだよね~。


 王様やってかしずかれてた人が<地球>に戻って今までの生活すんなりと送れると思う?

 別の世界で何年過ごしても戻ってくるときは数時間しかたってないからさ、周りもその人の変わりっぷりに驚いちゃうわけよ。なにも不幸にしたくて戻ってきてもらうわけじゃないからさ~。


 その点、はるちゃんは何かモノづくりの知識があるわけではないし、武道を嗜んでるわけでもなし、内政できるような頭の良さもなし、とびきりの美人でもなし。

 うん、大丈夫。権力者にはなれないよ!



 具体的に何をして欲しいのかっていうのと、愛と光を集めてもらうためのいろんなサポートなんだけどさ。あ、靴いいでしょ? そっちの靴はいろいろ不便そうだから僕のプ・レ・ゼ・ン・ト!


 服は目立っちゃうといけないから用意できなかったけど、刺繍すごくいいでしょ! はるちゃんはぼくの子供みたいなものだからさ、しっかり名前を縫い付けとかないとね~。

 こっちのお母さんお父さんたちが子供達の為に一生懸命やってるの見て僕もやりたかったんだよね~! 

 はるって刺繍するか悩んだんだけどやっぱりイニシャルの方がカッコいいよね! 


 ほんとはもっとアップリケとか付けたかったんだけどあまり目立つような服装は良くないと思って止めたんだ~。その刺繍には加護の力が備わってるから何かあっても安全安心だよ! 

 どのくらいのサイズで縫うのかもすっごく悩んじゃった~。

 ねえねえ、その色の組み合わせで大丈夫だった? 

 やっぱりもっと淡い色の方が―――――――― 






 ごごごごごごご








「……え?」





「…………えっ!?」







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