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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ガーデニング感覚

 






「うぅ……。おぉ…………」



 揺さぶられている。

 ……もう朝か。



「ねむ…………」



 眠い、仕事行きたくない、寝たい。

 ……この感覚は久しぶりだ。


 近くにいたナナの足にしがみつく。眠い。





「…………大丈夫。おきる……」



 ボスからあいつら待たせておこうかと提案を受けたので、起きる事にする。



「クー」



 よろよろしながらお風呂の準備をしようとしていると、エンから服を持っていくよと言われた。



「……執事……。うん、ありがとう。服は……なんでもいいや。よろしく」



 ふらふらとテラスに出る。まだ空は薄暗い。

 階段を下りようとすると、ボスにがぶっとくわえられ温泉のそばに下ろしてもらった。



「……ありがとボス。おはよ」



 服を雑に脱ぎ温泉に。



「あ゛あ゛~~~~」



 体に染みわたる温かさ。

 血が巡り頭もだいぶすっきりしてきた。この薄暗さがまた風情があっていい。



 鼻歌を歌いながら温泉に入っていると、背中に着替えとこじんまり組を乗せたエンがやってきた。


 あの姿はどうしても外国の物語が頭に浮かぶ。結局どういう話だったっけ?

 温泉の近くまで近寄ってくると、キイロが頑張って服を岩に乗せようとしている。



「ありがとね。もう出るからそのままでいいよ。――ロイヤルはバシャりとお願い」



 ロイヤルに水をかけてもらってバスタオルで体を拭く。

 昨日街で買ってもらったフェイスタオルのようなものも添えてあり、ホテルかと思った。

 そのタオルは思ったより肌触りが良くクダヤの生活水準の高さがうかがわれる。

 こちらが水準を下げ過ぎたとも言うが。




 もそもそと用意された服に着替えキッチンに向かう。

 キッチンからは、入る前から良い匂いが漂ってきていた。



「おはよ~」


「フォーン」


「飲む。朝ご飯は戻って来てから食べるね。ありがと」



 ハーブティーを淹れてくれるマッチャ。

 お母さん、ママ、というよりおふくろ感が強いのは何故だろう。あの丸みを帯びたフォルムかな。

 そしてさっそく朝の挨拶グッを忘れていた。


 みんなも席に着いたのでグッグッとやる事に。

 正式なグッはマッチャだけであとは変則だ。ダクスはお手みたいになってるし、ボスにいたっては窓ごと踏みつぶされそう。


 ひとしきり朝の挨拶も終わったのでハーブティーを冷ましながら飲む。



「お礼どうしよっかな~」



 飲みながら考える。

 いちおう果実でいいとは昨日の段階で確認していたのだが、よくよく考えればそれを持ち帰ったらあの1番のお偉いさんがあれこれ騒ぎそうだ。



「……朝ご飯を食べてなかったらその場で食べてもらえばいいか」



 あっさり解決した。

 今回もしお腹がいっぱいでも、次回食事をとらずに来てもらえばいい事だ。



「チカチカさん。この世界に影響がーとか、みな公平にーとか言ってましたけど、私の頭脳じゃ色々ほころびが出てきそうなんで若干適当でいいですかね?」


 チカッチカッ!



 うん。優しさにあふれまくってるな。



「コフッ」


「はっや! もう収穫できるの?」



 優しさに浸っていると、ナナから昨日植えた作物が収穫できると報告があった。

 恐るべき成長力。


「砂浜に行く前にちょっと寄ってこうか」



 日が昇る前にボスに乗ってさっと確認する事にした。



 ハーブティーを飲み終えさっそく準備にかかる。



 バスケットに果実を詰め込み、以前街の人――風の一族だと判明したが――に贈ってもらった紅茶もどきを使って飲み物も作る。水出しなのは大目に見て欲しい。

 昨日買った水筒に紅茶をいれ、食器類も準備する。


 腰に虹色ナイフを装着し完成だ。



「あ、ハンカチ忘れた」


「ぴちゅ」


「じゃあお願い。ありがとね」



 キイロがハンカチを取って来てくれるというので任せた。いちおう返却はしておかないと。

 マッチャが空きカゴを持って後ろをついて行ってるから大丈夫だろう。



「じゃあチカチカさん、いってきま~す」




 外に出てみんなでボスの背中によじ登る。

 思いだした。装置とやらの事もお願いしておかないと。

 上空過ぎないからこの場合は大丈夫だと思う。







 ボスの背に乗りあっという間に農業エリアに到着。

 昨日種を植えた辺りを確認すると――



「あっ! これキウイメロンだ!」



 苗を植えた箇所には何度か街の人にも注文したメロン味の果物が。

 周りがぼんやりと光ってくれるおかげでよく見える。



「結構大きいのに1日でこれかー」



 木のミニチュア版のようなしっかりとした茎と葉が生い茂っており、いくつもの実が生っている。

 隣にはこれまた見た事のある作物が。



「これ、味がブロッコリーとナスのやつだよね」



 クダヤではメジャーな作物なのか、種の正体はいつもの贈り物の小舟に載せられていたものだった。

 これでキウイメロンはいつでも好きな時に食べる事ができるようになった。


 さっそくキウイメロンを切って食べる。



「あー……。これすごく美味しいわ……」



 美味しさの秘密を探るために実力行使されそうな美味しさだ。

 それを考えるとキウイメロンは売りにくいかもしれない。

 ブロッコリーとナスも味見しようと思ったが、初めて食べた時にうえっとなったのを思いだしてやめた。



「……カセルさんとアルバートさんに味見してもらおうか。街で売れるかどうか知りたいし」



 ついでにこの野菜のレシピも聞けばいいや。

 何度か料理で食べて美味しかったし。



「今収穫したら傷みだすよね?」



 でも島の力が蓄積しないようにさっさと収穫しておきたい。



「フォーン」


「島にある間は大丈夫なんだ。その間って島の力は?」


「コフッ」


「そっか。もともと島の物じゃないし、土から離れて栄養が届いていない状態だから影響はほどんど無いのか」



 そこで自分達が食べるエリアと、売り物用エリアに分ける事にした。

 自分達が食べる分には、力がどれだけ蓄積しても構わないので収穫せずにそのまま。売り物用は収穫できるようになったらその都度こまめに収穫するのが良さそうだ。



「たぶん毎日収穫だよね」



 そうぽつりと呟くと、私が出来ない時はみんなでやっとくので安心してと言われた。



「ありがと……」



 愛しさが込み上げてきたのでみんなをはむっと噛んで感謝を伝える。

 これってママパパが赤ちゃんのほっぺたをかじりたくなるのと一緒の心理なのかもしれない。

 ボスはそもそもはむれなかったので、前脚のあたりをがりっとしておいた。



「あ、もし良かったら後でウロコ1枚欲しいんだけど……。貯蔵室みたいにひんやりした空間に作物をしまっておきたくて――いや、1枚で大丈夫。ありがとう」



 何枚でもあげると言われたが、丁重にお断りした。

 こんな太っ腹な申し出を受けたのは私くらいなものだろう。

 しかし、土地をくれるとかなら遠慮せずにもらうのだが、体の一部はさすがに遠慮したい。




 のんびりと売り物用エリアから収穫し終わり、ボスに乗って砂浜に移動する。




「タツフグおはよ」



 日々どんどん高くなるジャンプを見せてくるタツフグ。

 もはや柵は意味をなしていないが、タツフグは柵の内側が好きなようで逃げ出そうとする素振りすらない。

 このプライベートビーチでは自由にしていいからね。



 そして陽が昇るまでタツフグにご飯を上げながら過ごす事に。



「この砂浜ももうちょっと改造したいね。船着き場とか」



 実は毎回船に乗り込むのが地味に面倒なのだ。

 ボスが砂浜に船を乗り上げるようにして寄せてくれるけど、海に浮かばせて船着き場から乗る方が高さ的にも乗りやすい。



「大工仕事できる人が欲しいな……」



 そう考えると色々と欲しいものが浮かんでくる。



「ビーチパラソル欲しい。あとベッド、下に収納付きのやつ。ソファーも欲しいしテーブルも――――ねえみんな。お家のレベルアップなんだけど家具をたくさん作ってもらう方向でお願いしてもいいかなあ?」



 みんなに確認をとるとすぐさま賛成の返事が返ってきた。

 これからは思い付いた事はどんなことでもすぐメモに取っておこう。すぐ忘れちゃうから。



「ボスも入れるくらいの空間に生活しやすいように家具も配置して――」



 夢が膨らむ。

 レベルアップボーナスの範疇を超えそうなら街の人に作って贈ってもらおう。


 わくわくしながら今後の部屋についてみんなとおしゃべりをしていると、ボスからお知らせが。



「えっ。ついて来ようとしてるの? あー……。しかも同じ船に乗り込んでるのかー」



 サンリエルさんがカセルさん達の船に一緒に乗り込み、昨日会いに来た人達も近くでスタンバイしているらしい。



「まあ、あの人達の信仰心からするとこうなるか……。とりあえずカセルさんを信じて、2人だけになった隙にささっとお願い」



 カセルさんがうまいこと言って退けてくれることを祈る。



 だが、2人だけになる前に空が次第に明るくなり夜が明けてきた。



「綺麗だね~」



 今までこの時間はぐうぐう寝てたから見た事がなかった。

 早起きしてる私……。とてもかっこいい。



「そういやあちらはまだかな?」

 ボスに現在の進捗状況を尋ねる。


「え? 揉め始めた?」



 その上、街の人も大勢集まってきているらしい。



「なんなの? 神の力って肉体だけじゃなくて精神的にもなにか影響あるって話だっけ?」



 自分の目で見たクダヤは発展していて、それは統治がうまくいってる証拠だと思っていた。

 しかし、お偉いさん達がこんな事で揉めてちゃ街をうまく治める事なんてできないと思う。

 他の仕事とかどうしてるんだろ?

 神の島に関してだけ理性が緩むのとでもいうのか……。神の力恐ろしいな。




「どうしようかな~」



 自分の計画では、神の信徒、御使い感を出すために担当の2人の準備が出来次第呼ぼうと考えていたのだ。

 今までとは違うこちらの迅速な行動に、神の社に手を出すとマズいという認識を現地人に持って欲しかったのだが……。



「待ってもいいけど……。2人だけにならないと意味な――――持ってきたって何を?」



 ボスからあいつら持ってきたと急に言われた。



「んん?」



 あいつらという言葉と、持ってきたという言葉が結びつかない。



「あの2人だけを……、はいはい、海……水で……、持ってきたと…………」




 あの2人を海水を使って持ってきた(連れてきた)。


 2人を海水で……。






「泣いてないかな……?」



 主に茶色い髪の彼。








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