オールとナイト
視点戻ります。
街潜入ミッションは成功をおさめ、興奮した気持ちのまま島のテラスに降り立つ。
「ただいま~。お土産あるよ~」
テラスで待ってくれていたみんなにうっとうしいくらい抱き着く。
護衛をしてくれたキイロとボスには頬ずりもつけた。
ぼさぼさになるがいいわ。
みんなはこっちがいくらうっとうしく接しても迷惑な素振りは一切見せない。
心が広すぎる。
部屋の壁にも張り付いてチカチカさんにも挨拶する。
チカチカさんは高速チカチカで返してくれた。
ただいま~の儀式が終わったところで空気を読むレベルアップ機能が発動。
シャララと音が聞こえてきた。
「簡単にレベルアップぅ」
ミッションの達成感と、少し飲ませてもらったお酒のせいだろう、気分が軽やかだ。
周りから見ると少々痛々しいかも知れないが、私の周りに人間はいない。気にしない。
「今のところ2回分か~。ほんとどうするかな」
レベルアップの使い道が思い浮かばない。
家である巨木を見上げ増改築案を考えていると、街で言われた事を思い出した。
「あ~そうだった。ねえねえ、なんか街の人達に色々と見られてたらしいよ。顔バレしたくないとか言っちゃって恥ずかし」
両手で口元を押さえて恥ずかしい時の昭和のアイドルリアクションをする。
決して馬鹿にしているわけではない。
彼女達は上からの指示、人々の期待を背負い求められている役割をまっとうすべく笑顔の裏にすべてを隠し――――
「フォーン」
昭和のアイドルに思いを馳せ過ぎていた。
そうなの? と返事をしてきたマッチャを見ると、私と同じアイドルリアクションをしていた。
ちらっと周りのメンバーを見るとナナとダクスも伏せながら両手で顔を覆っている。
テラスで窮屈そうにボスまでも……。
キイロとロイヤルは悔しそうにバサバサしているが、こればかりは構造上無理な様子。
エンは……うん、ごめん。
しかしこの恥ずかしポーズは島エリア限定で流行る予感がする。
ポーズで思いだし、マッチャに外国人の男性同士が拳をグッグッとやるポーズも教えておいた。
朝の挨拶はグッから始めようと思う。
「顔バレの話なんだけど、どうやら私が悪いっぽいんだよね~。街の人達の発明品で遠くを見られる装置があって、前に高いところから島を見たでしょ? あれを見られてたらしいんだよね」
そう説明すると、はるは悪くないよ、装置ぶっ飛ばしにいこうか? と街でのキイロとボスと同じ慰められ方をした。
「ぶっ飛ばしはしなくていいや。明日――そうそう明日! 日の出と共にエア謝罪しにくるから日の出のちょっと前に起こしてくれる? 温泉入って目を覚ましてから行こうと思う」
みんなは任せろと請け負ってくれた。
ほんと目覚ましいらず。
「その時に御使い感出して『今後はこのような――』とか言って、こっち見るの止めてもらうようお願いしてみるからさ」
その言葉にみんなは納得し、街の人の偉大な発明品は守られる事となった。
上空でなければ、島周辺はぼやけて見えないと言っていたが念の為だ。
「明日はみんな同じ船に乗っていこうか。あの2人なら装置とやらでもう見てるみたいだし。――あ、そうそう。やっぱりみんなの姿は珍しいらしくて、街には一緒に行けないや」
同じ船に乗ってというところで喜んだみんなは、街には行けないのところで悲しそうにした。
「ぴちゅ」
「キャン」
「キュッ」
「手荷物検査されたらもうアウトだし、それだと大きいみんなだけが我慢する事になるでしょ?」
荷物に紛れて行くと主張してきた面々は不満そうにしている。
今日のように上空から侵入するのは街の人によけいな心配をかける事になるし、今度からは正式な手続きにのっとって門から入るつもりなのだ。
「みんながボスみたいに透明になれればねえ~? ――うわっ!!」
チカチカさんの突然のレインボー。
「なんだなんだ? というか1回だけのようですけど、そのレインボーな感じも目撃されてましたよ」
チッカチカ!
「あれ? 知ってたんですか?」
チッカチカ!
なんだろうずっとテンションが高めだ。
「そういやさっきのは――――。ああ、ボスみたいにのくだりですか?」
チッカチカ!
「ボスみたいに透明になれ…………る!?」
チカチカチカチカ!
これまで道をふさいでいた岩が一気に爆発して進めるようになった気分だ。
爆発――そんな状況はあり得ないので自分は少なからず動揺しているんだと思う。
「透明になれるんだ~! 最終兵器、奥の手みたいに隠してたの!?」
きゃっきゃとはしゃぎながらみんなに話しかける。というか絡む。
しかし、みんなは困惑してそんな事はできないと申し訳なさそうに言ってきた。
「あれ……? 出来ないみたいなんですけど……」
またたく間に気分が落ち込む。
それもそうだ。街に行ける方法をみんなが隠すはずがない。
自分の頭の悪さに苦悩していると、チカチカさんは慌てたように不規則に点滅しだした。
その点滅を見て分かった。
「あー。もしかしてチカチカさんと話せるパターンと一緒とか?」
チカチカチカ!
「レベルあげてエネルギーもたくさん集めればいいんですね?」
チカチカ!
なんだ。そういう事か。早合点して恥ずかしい。
恥ずかし~とポーズを取りながらちらりとみんなを窺うと、恥ずかしポーズをとっていた。
ククク。
「レベルアップボーナスとは別に、レベルアップとエネルギー集めを一定値こなせばいろんな要素が解放される感じですかね?」
チカチカッ
「今は力が足りない状態なんですね?」
チカチカッ
すごい。ゲームのシステムに置き換えるとものすごくわかりやすい。
地球のゲームを作っているすべての人にありがとうを伝えたい。
「じゃあ街はみんなが透明ミッションをクリアしてからにしようかな。オブジェの屋根が完成したら一般公開するみたいだし、エネルギーは意外とすぐ集まるかも」
そう伝えると、みんなはとても喜んだ。
みんなが喜ぶと私も嬉しい。
「じゃあ今日はパジャマパーティーでもしようか!」
街に到着してからが異世界生活の始まりなのだ。なので今日は第2の始まりの日だ。
これは祝うしかない。
「余ってる丸太取ってこよう。布団は汚したくないからテーブルにしてお土産食べよ」
パーティーしながら好きなだけ食べてすぐ横になれるなんて。
ある意味夢だよね。
健康や体重に影響がないんだったらみんな食っちゃ寝するはずだ。
「それじゃかんぱーい」
みんなで手分けして準備をし、パーティーを開始する。
ボスには申し訳ないが、テラスの出入り口から顔だけ入れてもらった。
やっぱりボスも入れるどでかい部屋を増やすという案も良いかもしれない。
街であった事をみんなに報告しながらお土産をちょこちょこつまむ。
「そうだ。街で買ったの見て」
ばっとフードマントを羽織り、靴を履き手袋をする。
残りの装備も身に着けてみんなの前でポーズをとる。
「このベルト、虹色ナイフも装着できそうなんだ~。街では無理だけど島にいる時は腰にまいちゃおうかな」
くるりと回りみんなに見せる。みんなはかっこいいと褒めてくれた。
チカチカさんも明るく点滅してくれていい気分だ。
安全安心の刺繍衣類は、ばれないようになるべくたくさん身に着けるから安心してほしい。
「お財布も買ったんだ。しかもお金貰えたんだよ! アルバートさん気が利く~」
ニヤニヤしながらお金を触っていると、アルバートさんにハンカチを借りていたことを思い出した。
慌ててポケットからハンカチを出す。
「洗って返さなきゃ」
ロイヤルを連れてキッチンでハンカチを洗う。
時間がたっているので串焼きのシミが綺麗にとれない。それにしても串焼き美味しかった。また食べよう。
「う~ん。どうしたもんか」
ごしごし洗いすぎても生地を傷めそうなのであきらめて干す事に。
ひとまず謝って街で新しいのを買って返そう。
テラスにハンカチを干し、またパーティーに戻る。
エンにもたれかかりながらのんびりした時間を過ごす。
「――そうなんですよ。たぶんですけど、隣国の権力者が嘘ついてクダヤをどうにかしたいみたいですね」
カセルさんとアルバートさんに教えてもらった件をチカチカさんにも伝えておく。
「まだ他の国からアクションはないですよね? そんな陰でごちゃごちゃしなくてもね~。権力者とかそういう国の思惑とかめんどくさ~い」
完全にクダヤ側の言い分だけを信じるわけではないが、オブジェに手を出そうとしたのは確かだ。
「難しい事はわかんないから静観しますけど……、降りかかる火の粉は払っても大丈夫ですよね?」
チカッ! チカッ!
払うのは私ではなく、チカチカさんとみんなだけどね。お世話になります。
内政しにこの世界に来たわけじゃないし、そもそもそんな事期待されてないし、深く考えるのはやめよう。
世界が滅びるわけでもなし。
しかし世界の命運を背負わされた物語の主人公達はいったいどれほどのプレッシャーがかかっていたのか……。
うつらうつらとしながら、モフモフにもふもふされながら、主人公補正はやっぱり必要だよなと考えていた。




