接触
たくさん食べたので運動がてら農業プレイに本格的に手を付ける事に。
草原エリアの砂浜を挟んだ反対側が、川も流れていて農業に向いてそうな土地なんだよね。
木の滝からも近いし。
しかし、出掛ける準備をしているとレベルアップの事を思い出した。
「あ~また忘れてたわ」
いったん手を止めみんなをキッチンに集める。
「お家がレベルアップできますがどうしますか?」
みんなに意見を求める。
「キャン」
「う~ん。滑り台はいらないかなあ」
「キュッ」
「部屋を増やしてもいいけど……。結局はみんなと一緒にいるから今の部屋で大丈夫かな」
「フォーン」
「キッチンを大きく? んー……マッチャの負担ばっかり増えそうだから保留で」
どうしよう。みんなも色々と案を出してくれるがこれといって惹かれるものがない。
そもそもこの家は今のままでも十分快適だし、地球時代よりも良い家なんだよね。温泉付きだし。
「チカチカさんチカチカさん。レベルアップって、貯めるとグレードアップみたいな特典つきますか」
…………チッカチカ!
この光り方……。今考えて決めたな。
「じゃあ今回のレベルアップは貯める方向で! 楽しみだな~」
みんなからもよかったねと謎の祝福を受ける。
次のレベルアップが楽しみだ。
家のレベルアップの件は片付いたので出掛ける準備を再開する。
私の場合は贈り物チェックだが。
街の人達は種だけじゃなく苗も入れてくれていたのでさっそく植えてみようと思う。気が利く。
そしてマッチャは食器を洗ってくれている。とても気が利く。
もともとはのんびりした性格だったのに、私の世話をするようになってからテキパキしている気がする。なんかすまん。
私もマッチャの横で届いた石鹸を少し使ってみる。
説明が書かれた紙には洗濯用とあったが気持ちの問題だ。
「おお。洗えてる感じは出てるね~」
スポンジは無いので手洗いだが、油汚れも簡単に綺麗になっている気がする。
今まではマッチャが洗ってくれる事が多かったのであまり効果は実感できていないが……。
寝ている間に色々片付けてくれるんだもんな。実感できないのはしょうがないよね。
……洗濯は頑張ろうと思う。体を洗う用の石鹸ももらえたので今日は木の滝に行こう。
準備が終わったところで久しぶりの虹色斧を持ち、毛皮リュックを背負いエンに跨る。
騎馬民族再び。種はもちろんマッチャに任せる。
「出発~」
途中騎馬民族に飽きて斧を持ってもらうという出来事はあったが、その他は何事も無く農業予定地に到着した。
「久しぶりに来たな~。ハーブはどうなってるんだろう」
以前ハーブをちょこっと植えただけで放置していたのだ。
雨は2、3回降ったので元気でいるといいな。
ハーブを植えたところに近付いて行くと、そこだけ緑が生い茂っていた。
「うわっ。生命力すごいね」
数本のハーブが何倍にも増えている。
「……ねえ。私これで商売できるんじゃない?」
成長の速さに目を付けたのだ。
クダヤでも収穫できる作物ならいくら神の島産だとはいえ売っても問題はないように思える。
街に行く時のお金はサンリエルさんに恵んでもらおうと思っていたが、これを街で売れば自分でお金を手に入れる事が出来る。
「マッチャ、ナナ。ここで街の作物を育てたら変な効果付いちゃったりする?」
念の為、森と草原担当の2人に確認を取る。
「フォーン」
「コフッ」
「はいはい。すぐ収穫出来て、美味しくて、体に良い、かあ……。それすごいね!」
こんなの儲かる未来しか見えない。
でも売って大丈夫なのか。
「ちなみに……体に良いってどんな感じかな~?」
緑黄色野菜は体に必要な栄養素を――程度の体に良いだと思いたい。
「フォーン」
「はあ。力が満ち溢れる」
「コフッ」
「へえ。体調不良が治る」
「…………」
駄目だ。売れない。
がっかりしていると2人から補足の説明が。
「えっ? 効果は続かないの? 少しの時間? ああ~まあそうだよね」
2人が言うには、すぐ収穫すれば神の力がそこまで浸透しないから大丈夫という事だった。
時間制限のあるブーストアイテムみたいなもんか。
「じゃあ大丈夫そう。 よし、農家デビューするぞ!」
こんな軽々しい気持ちで農業を始めるなんて地球の農家さん達に殴られそうだが許してほしい。
「じゃあ耕すか!」
種は少しでいいとお願いしていたので耕す範囲もそこまで広くはならなさそうだ。
飽きる心配はない。
虹色斧でザクザクと適当に掘り起こす。
斧なので、斜めに差し込むようにするとそれっぽく仕上がる。
無言でひたすらザクザクする。
エンもナナも前脚でザクザクする。ダクスはサクサク掘る。
マッチャはその辺の岩でガツガツする。
キイロとロイヤルは種と苗を植える穴をお願いした。
ボスには疲れたら寄りかかれるように傍で待機してもらう。ボスがザクザクすると一瞬で終わっちゃうからね。
完璧な役割分担の結果、短時間で作業が終わった。
「ふう~。じゃあ植えよっか」
説明書きを読んで植えていく。
「ええと……、カリプ……? ……全然わからん。とにかく植えよう」
名前を知ったところで現物と結びつかない。
それぞれ間を開けて植えていく。
育て方も特に注意するようなものはないので、水をやってお日様の光を浴びればなんとかなるだろう。
何が出来るかは成長してからのお楽しみで。
仕事が終わったのでコップを取り出し川の水をすくい飲んでみる。
「ああ美味しい」
川の水は冷えていて、珍しく労働した体に染みわたる美味しさだ。
水やりはロイヤルに任せようと考えていたが、川の水を利用する事にした。
「……ボスごめん、ちょっと尻尾貸して」
そう言ってボスの尻尾の先を川に浸ける。
「尻尾をひゅんって」
尻尾の毛を畑方向に振ってもらうと水が畑に降り注ぐ。
ボスの力で水を操ってもらった方が早く終わるが、農業プレイの最中なのでそれっぽいやり方で水を撒く。
打ち水みたいで風情があると思う。
そして水やりもしっかり終えたところで木の滝に向かう事に。
みんなも程よく汚れているのでちょうどいいだろう。
早く石鹸を試したい。
エンに乗って木の滝に到着。
お風呂を湖と温泉の2択から選べるって贅沢。
しかし、リュックから着替えと石鹸を取り出しながら疑問に思う。
「ねえ、今さらなんだけど……。この石鹸ってこの辺に流すと自然に悪影響?」
排水設備のしっかりしていた地球でも生活排水はあれやこれと言われていたのだ。
ここで石鹸を使った水はどうなるんだろうと思ったのだ。
「そうなの? まあそうか。化学物質なんてものは使われてなさそうだしね」
ボスから自然に還るから問題ないというお言葉をいただいた。
心置きなく泡立ててみようと思う。
「んん~?」
しかし、いざ使ってみると思ったより泡立たない。
服の汚れがひどいのかと思い何度か洗ってみるが泡立たない。
「そういや自然派の石鹸ってあんまり泡立たなかったな……」
地球での暮らしを思い返す。
そして案の定、体を洗う石鹸もあんまり泡立たなかった。
でも良い匂いがするのでこの石鹸は使っていこうと思う。
お風呂に入ってさっぱりして家に帰った。
良い匂いの石鹸で体を洗い、良い匂いの化粧水でスキンケアをし、お腹にダクスを乗せながら夜ご飯までベッド(布団)でスキルアップの為の雑誌(異世界書物)を読む、という女子力の高い過ごし方をしているとボスからとんでもない報告を聞かされた。
「ええ? 早くない?」
どうもオブジェに手を出そうとした不届き者がいるらしい。
「遠くまで吹っ飛ばしたか……。生きてるよね?」
その人達は街の人達に捕らえられたから生きているだろうという事だった。
「神の裁きがあるって警告したんだけどな~。信じてなかったのかな?」
今日話した限りだとそんな風には見えなかったんだけど……。
ボスから詳しい話を聞くと、犯人達は暗くなるのを待って行動に出たようだ。
オブジェの周りには篝火がたかれ、船に屋根を取り付ける作業をしており見張りもついていたそうだ。
そこにひっそりと武器を持ち泳いで近付く人間がいたのでぶっ飛ばしたらしい。
「えーどうしよう。おバカな人達だったのかな?」
周りは明るい上に見張り以外にも作業している人がいる中での犯行。
どう考えても成功するわけがない。
しかもあんな重いオブジェをどうするつもりだったんだろう。傷つけて欠片でも手に入れるつもりだったのか。
そりゃ無理だ。だって虹色鉱石だし。
「今は? へえ、見張りが増やされたんだ。なんか大変だね」
見張りはいなくても鉄壁の守りはすでに敷かれているから安心なんだけどな。
まあ見張りゼロってわけにもいかないだろうからほどほどに頑張ってほしい。
「初日から慌ただしいね~。犯人は? ……え!? それって傭兵ってやつじゃない!?」
つい興奮して立ち上がる。
転がり落ちたダクスを抱っこしながらテラスのボスに駆け寄る。
布団がフカフカすぎて歩きにくい。
「その人達って普段は移動中の警護なんかを生業にしてる人達なんでしょ? なら傭兵だね~。もしくは冒険者! あーでも魔法要素が無いと冒険者の醍醐味が薄れるな……」
ボスがオブジェ周りにいる街の人から集めた情報では、犯人はどうも詳細を知らされずに雇われた他国の人間らしい。
その話を聞いてそれもそうだなと納得する。クダヤの街の人が神の裁きがあるとわかっててそんな事するはずないもんな。少しでも疑っちゃってごめんね。
「やっぱり悪い事をする人も普通にいるんだよね。街に行く時大丈夫かな……」
近くに悪事を働く人間がいる事を実感してしまい不安になる。
いくら刺繍の加護があるとはいえ私自身には大した力はない。というかほとんど無い。
「……そういや刺繍って街の人に見られてるんだった。街に行く時の服どうすんだ……? 服を用意してもらう? いや、それじゃあ街に行った時ばれるよね。自前の服は刺繍がついてるから完全にイコール御使い……。鞄も用意してもらったやつしかないから持ってたらばれるでしょ? でもその事を知ってるのは少数なんだよな。いや、噂って広まるの早いからたくさんの人に知られてる可能性もある。……そもそもこの手の甲の紋様はどうすんだ? こっちもばっちり見られてるよ……」
考え出したらきりがない。
みんながどうしたどうしたと集まってきたので、モフモフに挟まれながら悩む。
ほんとにどうしよう。




