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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録13:叫びだしたくなるような秘密

 



「お~い! 起きろよ!」




「う…………」




「ほら! もう帰るぞ! ご挨拶しないと!」


「――カセルさんそれ揺さぶりすぎじゃ――」





「……え!?」



 がばりと跳ね起きる。



「あ、起きた」



 目の前には笑顔のカセルとこちらをじっと見ている領主様。

 ……もしかして俺は睨まれてるのか……?


 そして視界の端にはヤマ・ブランケット様のお姿――。



「なんだ……? 帰る? ……あっ!!」



 がばりとヤマ・ブランケット様に向けてひれ伏す。



「申し訳ありません! 申し訳ありません!」



 柔らかな感触を思い出してしまい、慌てて何度も謝罪をする。



「尊いお体を私の体に触れさせてしまい申し訳ありません……! あの、決して邪な気持ちなど持ち合わせておりませんので……!」



 謝罪するしか今は思い付かない。



「そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」



 どうしていいかわからない俺に、笑いながらおっしゃるヤマ・ブランケット様。

 そのお言葉につい顔を上げてしまう。なんで笑ってるんだろう……?



「カセルさんから聞きました。アルバートさんは私に、ではなく守役に触れたかったんですよね」


「え…………」


「それを私が勘違いをして握手を求められていると思ったものですから……。こちらこそ失礼しました」



 ヤマ・ブランケット様が少し照れくさそうに、気にしないように声を掛けてくださっている。



 そのお声を聞いてカッと体がまた熱くなる。

 ついでに体中の至る所から変な汗も出てきた。


 そうだ。俺はあまりの衝撃に気絶したんだ。――しかもヤマ・ブランケット様の目の前で。



(ああ~! かっこ悪い! かっこ悪すぎる……!)



 心の中でのたうち回る。



「それでは3日後お待ちしておりますね。――面倒でしょうから皆さん私の事はヤマでもブランケットでも好きな方でお呼びくださいね」



 顔を真っ赤にそめたまま固まったように動けなくなった俺に気を使われたのだろう、何事も無かったかのようににこやかな挨拶をして島に戻ってゆくヤマ・ブランケット様――。





「うわっ!」



 違った。

 守役様達は何事も無かった事にはさせないみたいだ。


 海から突然現れた守役様に海水を掛けられ、空から現れた守役様に頭をつつかれた。

 そして何事も無かったかのように守役様は島にお戻りになられた。






「…………」



 茫然としていると、カセルが笑いながら話しかけてきた。



「御使い様に気に入られたみたいで良かったな! 守役様にもつつかれてたし。羨ましいぜ! ――でもお前気絶するなよ~」



 ぶはっと噴き出したカセル。



「御使い様も慌てて――そういや好きに呼んでいいんだよな? じゃあ俺はヤマ様って呼ばせてもらうかな~。せっかくお許しをもらった事だし。やっぱり家名があるってことは元貴族かなんかか? で、お前はなんて呼ぶんだ?」


「笑うなよ! 俺だって好きで気絶したわけじゃないんだ……。ああ~! 恥ずかしすぎる……。 お前誰にも言うなよ!? 特に俺の家族に言ったら一生許さないからな!?」



 あえて質問は無視し、いつまでも笑い続けているカセルに詰め寄る。



「心配すんなよ! 死ぬまで黙っとく。たまに思い出して笑い転げるけどな!」


「笑うなよ……!」



 悔しい気持ちを込めてカセルを睨みつける。

 そこではっと領主様の存在を思い出す。



「あの……。領主様も私が気絶したことは内密にしてもらってもよろしいでしょうか……?」



 未だにこちらを睨みつけているように見える領主様に恐る恐るお願いをする。



「もちろんだ。御使い様のお手に最初に触れるのは私だからな」


「は……い……?」





 領主様が気持ち悪い事を言い出した。



「ええと……」


「たまたま御用聞きに選ばれたのではなく、私にしかできない事を直々に頼まれたのだからな。わざわざ、そして直々にだ」


「は、はあ……?」



 隅でカセルが笑いを堪えているのが目に入った。

 おい。助けてくれ。



「あの方にとって私が最も役に立つ者だ。残念だがお前達には運はあっても権力がないからな」


「そうですね……」


「わざわざ、直々に、私に頼まれた事は迅速に完遂しなければな。お前達も周りの人間に気取られないよう気をつけるように」


「はい……」



 祖母の「無口だけど優しい子」という領主様への評価が頭の中をぐるぐると回る。


 無口? 優しい? 

 拗ねている小さな子供にしか見えない。



「霧が晴れてきましたよ」



 カセルの言葉により領主様との精神がじわじわ削られていくやり取りは終わった。

 助かったがもっと早く助けられたとも思う。





「うわ……」



 視界が開けたその先にはたくさんの船が浮かんでいた。



「この状況は」



 一族に何やら指示を出している技の族長の船まで近付き、領主様がそう尋ねた。



「ああ、お戻りですか。さすがにこの大きさの神の持ち物はすぐに知れ渡ってしまったようでして」


「見に来ているのか」


「はい。社の建設の説明をする必要がありましたし、ここで待機していた者達も我々と同じく興奮してしまって」



 苦笑する技の族長。

 そうだよな。あんなすごいものを目にしてしまったら大人しくしているのは無理だと思う。



「そうか。他の者達は城か?」


「はい。装飾品の件もありますので全員が真っ直ぐ向かっているかどうかはわかりませんが」


「技の族長もこちらの指示がひと段落したら城へ。それまでこの場を任せる。技の一族はこれから忙しくなるだろうが頼んだぞ」


「もちろんです」



 領主様の希望で俺達も神の持ち物を改めてじっくり鑑賞し、港に戻った。









「アルバート」



 こんなに人がたくさんいる中でもすぐに見つかってしまった。



「じいちゃん」


「領主様とカセルが目立つから探すのが楽だったな! ん? お前濡れてるのか?」


「レオン兄さんも……」



 家族が港で俺を待っていた。

 俺の家族に挨拶をされている領主様。こう見ればしっかり領主の貫禄が出ている。

 あの時の領主様はいったいどうしたんだろうか。



「そういやばあちゃん達は?」



 あれだけ乗り気だったのに何故かこの場にはいない。



「理の族長が連れて行ったぜ~」


「ああ……」



 もうそれだけで大体の事が分かった。



「私達はこれから仕事でな。お前を待っていたんだ。城に向かうだろう?」


「たぶん」



 父の質問に、ちらりと領主様を見るとこちらの視線に気が付いたようだ。



「円卓の間で待機を」



 そう言い残し数人を引き連れて城に戻ろうとした領主様を祖父が引き留めた。



「領主様これを。ローザからです。良かったら皆さんでどうぞ」



 祖父が手渡したのはバスケット。中に食べ物でも入っているんだろう。



「ローザか」


「はい。アルバートと同じ船に乗っていると聞きまして」


「そうか。礼を言っておいてくれ」



 領主様はバスケットを受け取り、そのまま身をひるがえして馬車に乗り込んだ。



「今……領主様の顔が……」


「だな。少し柔らかくなったな」



 見間違いかも知れないが、カセルもそう言う事だし間違いじゃないんだろう。

 祖母と知り合いみたいだしな。



「アルバート、途中で家に寄るから着替えを」



 ぼんやりしているとルイス兄さんに話しかけられた。



「兄さん……。じいちゃんはもう帰る?」


「お祖父様はお祖母様に特に何も言われていませんよね?」


「ああ。家でみんなが帰ってくるのを待っているよ」





 その後は用意してくれた馬車に乗り込み、軽食をとりながら今日の拝謁の様子を家族に話しながらのんびりとした時間を過ごした。

 レオン兄さんとカセルは相変わらずうるさかった。













「遅いわよ」



 城に到着し、円卓の間に入った途端お叱りを受けた。またか。



「申し訳ありません……」



 とりあえず謝っておく。



「まだ全員揃ってないじゃないですか~」



 俺と正反対の対応のカセル。


 確かに部屋には水・理・風の族長の3人だけ。



「お2人とも室内なのに帽子ですか?」



 カセルがまた余計な事を。



「急だったから綺麗な羽が手に入らなかったのよ」


「やはり地の一族の狩りの際に頼んだ方が良いかしら」



 そう、女性の族長2人は羽のついた帽子を被っていた。

 ヤマ・ブランケット様のように――。



「族長も髪なんか編んじゃってどうしたんですか」


「守役様の加護がついているからな」



 髪をまとめて編み、片方の肩に垂らしている風の族長。

 この人はどんな格好をしていても様になるよな。



「皆さん思いっきり影響受けてますね~」


「当たり前じゃない、神の御使い様よ。とても輝いてらして本当に神々しかったわね」



 ほう、とため息をつきながら理の族長が言う。



「ええ。それにお優しくて……。貢物を街の者にお分け下さるなんて」



 水の族長は良いように解釈しているが、レオン兄さんの言った通り多すぎて困っただけだと思う。



「地の一族が用意して戻ってこなかった船もお使いになられているようだな」


「なら私達の一族が用意した入れ物もお使いいただいているって事よね? 光栄だわ。――そういえばアルバート、あなたもう1つの船に乗っていた……あの布の下にいらっしゃったのは守役様なんでしょう? 説明なさい」



 風の族長の発言をきっかけにこちらに話の矛先が向いてきた。



「説明と言っても……。お体と思われる部分を少しだけ拝見しただけですが……」


「十分よ! 私達なんて目にする事も許されなかったのに……! 大体あなた御使い様といい、守役様といい、距離が近いんじゃないの?」


「そうね。守役様なんて頭の上に乗ってらしたわ」



 俺の意思では全くないし、どうしようもない事で責められ始めた。



「アルバートが書き留めたものは今領主様がお持ちなんだろう? 説明はみなが揃ってからでいいじゃないか」



 風の族長は優しい。

 ニヤニヤしているカセルとは同じ一族でも大違いだ。



「“風”と“水”はお選びする守役様のお姿が近くで拝見できただけいいじゃないの。私達はわからないままなんだから」



 そう言い始めた理の族長に、風の族長も強く言えないでいる。

 風と水の族長は挨拶もしていただいているしな。







 結局、拝謁した面々が全員揃った後も、主に話し合われたのは俺が御使い様と守役様に近付けて羨ましいのでどうすれば近くなれるのか、という事だった。


 近いというか守役様に関しては攻撃なんだけどな……。



「ここで話し合ってもヤマ・ブランケット様と守役様のお心次第なのでどうにもならないと思います」



 そう言いたかったが、調子に乗っていると言われそうだったのでやめておいた。

 装飾品についての話はいいんだろうか……。





 そして領主様は「御使い様の手の甲に紋様があった」と報告し、自信満々な顔をしていた。

 自分も近かったと暗に伝えたいんだろうなと思った。







次回視点戻ります。


ささのはさらさら

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