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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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喜びポイント




 私の書いたカタカナの名前を見てアクセサリーに文字をいれる事が出来るかどうか確認中の“技のサム”さん。



「この紋様をいれる事は可能です。編み込んで紋様を表すことも出来ますが、金属を薄く伸ばしそこに彫金を施したものを一緒に編み込む事も出来ます」



 ネームプレートみたいなものかな? 

 それもかっこ良さそう。

 いや、かっこいいのか? ……まあいいや。



「では、柔らかさを損なわない程度の大きさの彫金を施したものでお願いします」



 大きすぎると鉢金みたいになりそうな予感が。

 KATANA、SAMURAIが連想されファンタジー感が薄れる。



「承りました。……この書かれた内容によりますとそれぞれ一族によって長さが違うようですが……」


「そうですね。私1人で作っていただいたすべての装飾品をつけるのは難しいので……。例えば水の一族の方々にはこちらの者の装飾品を担当してもらいます」


 そう言ってロイヤルをひょいと持ち上げリレマシフさんに見せる。



「守役様の! 恐れ入りますが守役様のお姿を近くで拝見させてもらう事はできますでしょうか……!?」



 モリヤク? 守役かな? まあ確かに間違ってはいない。


 ひれ伏しながら懇願しているのでどうする? という視線を込めてロイヤルを見ると、どぼんと海に潜ったかと思うと次の瞬間にはリレマシフさんの乗っている船に現れた。



 ――大量の海水と共に。



 船に乗っていた3人はとっさに顔を隠したようだがびしょ濡れに。



「キュッ」



 そうひと声鳴いてみんなの視線が自分に向いたのを見るとまたあっという間にこちらに戻ってくるロイヤル。



 あの、早すぎるんですけど。

 あの人達濡れ損じゃないかな……?



 こちらの船は濡らさないよう気を使っているのか、船の縁で水気を飛ばした後アルバートさんの白いひらひらした服の上に移動した。



 し ろ い ひ ら ひ ら の う え に。




「…………」



 羽をこすりつけているロイヤルを無言でそっと膝の上に引き寄せる。



 呆気にとられているびしょ濡れの3人、さりげなく濡れた体のまま服を踏まれたアルバートさん、濡れている仲間かこちらにいるロイヤルどちらを見るべきかで困惑している様子の残りの人達(1名を除く)……。



 変な空気になった。



「あっあの良ければこの服でお拭きください……!」

「ありがとうございます! お近くでお姿を拝見しお声も拝聴する事が出来ました……!」



 アルバートさんとリレマシフさんの声が重なった。



 どういう事だ。

 さっきの出来事に喜ぶ要素があったっけ?



 理の族長――そうそうイシュリエさん、と風の族長のティランさんも喜び合っているように見える。

 嬉しいの? でもこれで変な空気は一蹴された。



「アルバートさん申し訳ありません。決して悪意があるわけではなく……」



 悪意はしっかり感じられるがそこはごまかして謝る。



「い、いえ……! 体をお拭きするものをご用意していなくて申し訳ありません……。気になさらずこの服で――」



 むちゃくちゃなクレームにも真摯に対応する人、みたいになってるんですけど。

 決してお客様の言葉を否定してはいけませんというところか。


 人が良すぎて逆に切なくなっていると質問が飛んでくる。



「ヤマ・ブランケット様、紙を運ばれている守役様はどの者の担当になりますでしょうか」


 そう聞いてきたのはサンリエルさんだった。



「風の一族の方にお願いしようと考えています」


「そうですか……」



 残念そうな声色になるサンリエルさん。

 片や興奮した声を上げたティランさん。



 視線が自分に集まっているのを感じ取ったのか、ごつい男性達の船でふんぞり返っていたキイロが紙をさっとくわえこちらに戻ってきた。



「いてっ」



 ――カセルさんの頭の上で2、3回足踏みをし羽をバサバサした後で。




「……この者なりの挨拶のようです。ほほほ」



 ほほほなんて柄にもない事を言ってしまったけど笑って誤魔化すしか思い付かなかった。

 まったくこのペアは予想もつかない事をする。



「光栄です」



 明るい調子の声で答えてくれるカセルさん。

 頭踏まれてたけどいいの?



「守役様、私“風のティラン”と申します。誠心誠意お選びさせていただきますので今後ともよろしくお願い致します」



 そう丁寧な挨拶をしてくれるティランさん。



 キイロは私の肩にとまったままひと声鳴いて返事をした。



「ありがとうございます。あの……」



 言葉を詰まらせたままそっと髪の毛を触るティランさん。


 そのしぐさを見てピンと来た。



「(挨拶して欲しいのかも)」



 そっとキイロに教える。



「ぴ」



 仕方なさそうに飛んで行ってティランさんの顔の近くてバサバサするキイロ。

 たいぶおざなり感が出ているが当のティランさんはとても嬉しそうに感謝の気持ちを伝えてくる。



「あ、あの! 地の一族のお選びする相手は……?」


 そう言って自分のもさあっとした髪を撫でつけ始めたガルさん。



 あのバサバサは別に祝福を与える――みたいな感じじゃないからね。

 お正月にお詣りに行くとバサバサしてお祓いしてくれるけどさあ。



 どことなく他の人達もそわそわしている気がする。

 大きい組が乗っている船をちらちら見ている気もする。

 何かがいるのはもうわかってるからね。




「……守役の1人とだけ。今はまだ姿を現すその時ではないのです」



 後で思い返しては恥ずかしさで悶えるセリフを冷静なふりをして発する。



「そうですか……」



 明らかに落ち込んでいるガルさん。

 他の人達もなんだか残念そうに顔を見合わせている。


 そこで、毛の色と合わない色のアクセサリーになってもみんなが可哀想だし、水と風の一族だけ優遇しているようになるのもあれなので毛の色だけは伝える事にした。



「アルバートさん、道具を持ってこちらへ――」



 隣の船に移りながら同じく移動するように促す。



「はい!」


「キイロとロイヤルは船の番をしててね」



 そこで大人しくしててもらえると嬉しいわ。




「アルバートさん、バルト……ザッカーさん達にはこの色の守役の担当をしてもらいます」



 布でこんもりとなっている所に近付き、腕を入れたところにじゃれついてきたダクスの尻尾をひょいと出して見せる。



「はい……」



 ダクスの唸り声にびくびくしながらもしっかりメモをとるアルバートさん。



「理の一族には――ナナ、足だけ出してもらえる?」



 そうお願いするとごついネコ科の足の先をにゅっと出してくれたが――。



「爪はちょっと引っ込めてもらえると嬉しいな」



 爪をむき出しにして見せているナナ。鋭すぎる。

 完全に威嚇している。



「この守役の担当は理の一族で」



 ナナの足を撫でて布を被せ隣に目をやると布の隙間から鼻だけ出しているエンが。



「地の一族に担当してもらいます」



 鼻の周りのモフモフした毛をかりかりしながら伝える。

 かりかりが効いたのかエンは特に威嚇することなく……、いや鼻から小さな火花出てるわ。

 そんな威嚇あるんだ……。



「は、はい……」



 アルバートさんは完全に腰が引けているが目をそらさず色を書き留めている。

 ちらっとメモを見ると暗めの赤と書かれていた。


 今さらだが色の概念は同じようで安心した。

 実物を見た者としてみんなの助けになって欲しい。

 そしてもっと自信を持って日々を過ごしてもらえると個人的に嬉しい。





「最後は技の一族ですね」


 そう言いながらマッチャのたっぷりした毛を布から少し出す。


 すると、マッチャが大きな手のひらに石をのせて布からにゅっと出してきた。

 そして手のひらの石をさっと握りこんだかと思うと開いた時には石は粉々になっていた。



「ひっ」


 思わずペンを落とすアルバートさん。



 りんごを片手でつぶすみたいな脅しを見せつけられた。

 こっちでもそういうのあるんだ~と感心すればいいのか、マッチャにやんわり大丈夫だからと伝えればいいのか分からなくなってくる。



「……この者なりの挨拶のようです。ほほほ」



 本日2度目のセリフ。



「あ、は、はい。私はアルバートと申します……。よろしくお願い致します……」



 律儀に挨拶をしているアルバートさん。


 この人会うといつもどもってるけど普段はそんなことないんだろうな。

 先生やってるくらいだし。

 ほんと幸せに生きて欲しい。


 私達と関わったばかりにどもっているキャラになっているという事実は考えないようにし、アルバートさんだけ船に戻ってもらい街の人達の元へ送り返す。




「それではアルバートさんに書いていただいた内容でお願いしますね。サンリエルさんの担当に関してはあまり華美でないものを3つお願いします」


「では私はヤマ・ブランケット様のものを……と考えてもよろしいでしょうか」


「はい、私のものも含まれます」


「……この命を懸けて事にあたります」





 どうしよう気持ちが重い。


 そもそもアクセサリーなんて当初の予定では頼むつもりも無かったし話の流れでさらっと決めただけなのに……。



「お仕事の合間にで結構ですので」



 にこやかにお願いする。



「話が随分逸れてしまいましたね。拝謁という事でしたがこのような形でご満足いただければ良いのですが――」



 望まれているであろう御使い感を出してまとめにはいってみる。

 すると街の人達からは次々と感謝の言葉が。



「皆様の神への感謝の気持ちはしっかりとお伝えします。神の社はこちらが選んだ海上に浮かべておきますがよろしいですか」


「もちろんでございます」



 それからカセルさんと頼んだ品の受け渡し日を話し合う。



「それでは料理などは本日で。装飾品や地図などは3日後の同じ時間帯でお願いします。装飾品は高価すぎないものをお願いしますね」



 ひと言付け加えておく。


 素材が素材なので金属のアクセサリーよりは高くならないだろうがこの人達の様子を見ていると不安になる。

 いくら初めに価値のあるものを支払っていたとしても、彼らはそれを絶対に売りに出さないだろうから財政の面で心配なのだ。




「ヤマ・ブランケット様、再度拝謁を許される可能性はありますでしょうか」



 お疲れ~の気持ちでこの場を締めようとするとサンリエルさんから質問をされた。



「……可能性はとても低いと考えてもらった方が良いかもしれません」



 今後は街にデビューする予定だしわざわざ船の上で帽子越しの会話は面倒だ。あとこの口調疲れる。



「さようでございますか……。誠に恐れ多いお願いなのですがヤマ・ブランケット様と守役様に私の持ち物に触れていただく事は可能でしょうか」


「触れる……ですか」


「はい。一生の宝としたいのです」



 有名人にあったら写真を一緒にとってもらうみたいなことかな。記念品ってやつだよね。



「触れるだけならかまいませんよ」


 そう許可を出し、空いている船に持ち物を入れるよう伝える。



 返答を聞くやいなやサンリエルさんは服を脱ぎ始めた。




 脱ぐんかい。






次回視点が変わります。

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