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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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謎の発行体

少し時間が戻り視点も戻ります。

 


 大根アザラシと遊んでいるとボスから人間の準備が出来たようだと教えてもらった。



「意外と早かったね~。じゃあボスお願い! ついでに本棚も砂浜に」



 ボスにそう頼むと今度はアザラシと魚達に話しかける。



「相手してくれてありがとう。今から人間が来るから戻りな」



 勝手に連れて来ておいて偉そうにごめんね。

 動物に好かれ気持ちが分かるアタシって感じにしたかったんだ。



 (うず)水槽は離れていき、大根アザラシは少し名残惜しそうにしながらも街とは反対方向に消えていった。

 みんなもだけどあの子達も可愛いな……。




 海の生き物がいなくなった後、さっそく街の人を迎える準備を始める。


 ロイヤルに水を出してもらって手を洗い、髪の毛を結びなおして帽子に入れ込む。

 みんなも布を被りなおしたり船首でふんぞり返る準備を進めた。



「いやあ~、会えるの楽しみになってきた。風の一族はエルフっぽかったけど他の一族はどうなんだろう?」



 キイロの頭の毛を流れとは反対方向に撫でながらニヤニヤしていると、みんなから気を付けてねと注意された。



「うん、わかった。でもみんなも流血騒ぎにならないように気を付けてね」



 特にキイロとロイヤル、マッチャをじっと見ながらお願いした。











 のんびり待っていると、船がこちらにやってくるのが見えた。

 帽子を深く被りなおし船が近付いてくるのを待つ。船は4艘あるみたいだ。





「――お待たせしてしまい誠に申し訳ありません」



 見慣れない人達が多い中、見慣れたカセルさんが謝ってきた。



「いいえ、急なお願いでしたから」



 すまし顔で答えるがこっちはこっちで楽しく海の生き物と遊んでましたからね。

 本当に気にしないで。



 カセルさんから街の代表者達を連れてきたと報告を受けたので一緒に船に乗っている人物に目をやると、その人物は震えているように見えた。

 帽子越しだからはっきりとは分からないけどあの俯き方といい様子がおかしいと思う。



 ついどうしたのか聞くと、彼かな? は街の領主で神の力の影響を受けてそうなっているらしいと教えてくれた。



「そうですか……」



 いや、ほんとそうですかとしか言えない。びっくりなんですけど。

 水の力が――と言っていたのでその辺りにいるだろうボスに顔を向ける。どこにいますか。


 するとボスからこの辺は特に自分の濃いエネルギーがたくさん渦巻いているのでその影響を受けていると教えてもらった。


 なるほど。確か領主はいろんな力を受け継いでいるとかなんとかだったかな。



 ぼんやり一族についての話を思い返しているとボスからここだけ力を緩めようかとハイスペック過ぎる申し出が。

『すごい』の最上級の言葉はなんだろう。



 声を出すと怪しいので頷く事でその申し出を了承する。

 領主にはこちらの要求を受け入れてもらいたいので楽しい気持ちでいてもらいたい。



「今はお体はどうですか」



 私には濃いエネルギーというものがまったくもって分からないが体調は良くなったかなと聞いてみると、その男性が声を震わせながら感謝の気持ちを伝えてきた。




 え……? もしかしてあの人泣いてない?



 なにこの状況。男性に泣きながら感謝されるって……。

 こんな事ある?


 もしかしてまだ体調が悪いのかと思っていると残りの船の人達からも次々と感謝の言葉が――。





 確実に分かった。

 みんな泣いてるわ。



 正直なんで感謝されているのかが分からない。

 体調が良くなった領主さんなら分かるけどなんで周りの人達まで?


 あ、でもアルバートさんはおろおろしている気がする。

 仲間を見つけた。



 アルバートさんに親近感を抱いていると突然真っ白な光が体を覆った――。



「うぉっ……!」



 瞬間的な判断で声を最小限に抑えた自分を褒めたい。

 今の聞かれてないよね? カセルさん耳良いんだっけ。 聞いてないよね?



 こういうのって砂浜に戻ってから光るもんじゃないの?

 空気読むレベルアップ機能さんだと思ってたのに……。もしかして逆に空気読んだのか?



 エネルギー集まったやったね! なんて気持ちにはなれず、この場をどうしようかとあれこれ考えていると光が収まった事が分かった街の人達がちらほらと顔を上げ始めた。



 みんな一瞬こちらを確認した後軽く顔を伏せる。

 でも意識はまだこちらに向けているのが分かる。



 やめて……!

 気になるのなら何か言って……!

 いたたまれないからさ。



(今マジ光ってね?)

(御使い光ったくね?)

(なになにどしたの)



 みんなの脳内セリフが自然と思い浮かぶ。


 どうしよう。

 ここは確実に光った私から話しかけるターンだと思われる。






「……失礼しました。……ただ今神からお言葉を頂きました」



 困った時のリアル神頼み。



「神ですか……!」



 いいぞカセルさん。もっと食いついてきて。



「感謝の気持ちは……、神に対してだけではなく常にもっているようにとの事です」


「おお……!」

「ありがたいお言葉です……!」

「常に感謝を……!」



 よし。この盛り上がりはなんとか乗り切った証拠だと思う。

 いや、ほんと神の信徒設定便利だわ。



 神社かお寺なんかにああいう張り紙がよく張ってあるよね。

 神様仏様、違う世界でも助けてもらいました。ありがとうございます。

 感謝の気持ちを忘れずに。 




「お体の調子はもうよろしいようですね」



 誰となくそう話しかけると代表してカセルさんが答えてくれた。



「はい。神の力の影響を受けていた族長達も問題ないようです」


「族長の方達もですか」



 族長さん達が来たのねと思いながら質問する。



「長年クダヤに住み一族の力を頂いていますので……。私の年齢ではさほど影響はないのですが」



 みんなが感謝してきた謎が解けた。

 花粉症発症までのメカニズムみたいなものか。ある一定までたまると症状が出ますよ、みたいな。



「そうですか。……それでは今後はアルバートさんお1人にお任せした方がよろしいでしょうか」



 毎回ボスに頼むのもな~とアルバートさんに向けて提案してみる。

 さっき一方的に親近感を感じたので少しからかいの気持ちも入っていた。



「いっ、いいえっ! カセルは平気ですので! 私では力不足ですので! ……カセルも何か言えよ……!」

「もっと自信もてよ。大丈夫だって」



 船が少し揺れるほど大慌てなアルバートさん。


 うん。やっぱり私の人選は間違ってなかった。この人達なら変な事は考えなさそう。



「ではこれまで通りお2人にお願いしますね」


「はい!」



 心底ほっとしているようなアルバートさんを母親のような気持ちで見ていると、後ろの男性がカセルさんに何やら話しかけていた。



「恐れながらヤマ・ブランケット様、領主の発言をお許し頂けないでしょうか」


「もちろん。皆さんも自由に発言なさって結構ですので」



 そう許可を出すと、顔を伏せたまま領主さんが言葉を発した。



「クダヤの領主を任せて頂いております、サンリエルと申します。お目にかかる事ができ光栄の極みにございます」


「サンリエルさんですね。顔を上げてください。皆様も」



 その時、上げられた顔を見て思わず叫びそうになった。



(ドワーフっぽい人がいる!)



 男性ばかりの船にドワーフさんが乗っていた。

 あそこまでもじゃもじゃしてないけどあの腕の太さはそうでしょ。


 しかも、隣にいるのあれライオン系の獣人じゃないの? ネコ科だよネコ科。

 尻尾と耳は見当たらないけど髪はもさあっとしているしそれっぽい体格をしているような。

 だいたい獣人ってあんな感じで表現されてるよね。



 あー! 帽子が邪魔だ! はっきり見たい!



「――ヤマ・ブランケット様」


「っはい、なんでしょうか」



 まずい、ドワーフと獣人(未確定)に気を取られてサンリエルさんの話を聞いてなかった。



「ご所望の品をお伺いするだけならこの者達2人でも出来ますが、2人だけでは街で承認が必要な案件が発生した場合いったん街に戻り確認を取る必要があります」



 そりゃそうだよね~とのんびり話を聞く。

 それにしてもすっごいこっち見てるなこの人。前のめりだよ。



「それではヤマ・ブランケット様をお待たせしてしまいます。ですのでよろしければなのですが……。もう1人ある程度の権限を持った者を加えるというのはいかがでしょうか」


「権限ですか」


「はい。……私は領主を任されておりますのである程度の決定権は有しております」





 ……ん? それって……。





「領主様!」



 あれ? と考えていたところで女性の声が響いた。

 声のする方に顔を向けると視線に気づいたのかその女性が慌てて挨拶をしてきた。



「も、申し訳ありません! 申し遅れました私“水のリレマシフ”と申します! 水の一族を率いております!」



 わあ、すっげー胸。しかもなにあのくびれ。

 というか1人だけ薄着なのはなんでだ。



「リレマシフさんですね」



 あの胸にあの体つきは現実的に両立するのかとモヤモヤ考えながらも挨拶を返す。



「お名前をお呼び頂けるとは……!」



 どうしよう。また泣き始めた。



「落ち着きなさい!」



 周りの女性2人がリレマシフさんを咎め始めた。



「そうだ、御使い様の御前だぞ」




 あれ、男性の声が聞こえてきたけど……。


 みんなの意識がリレマシフさんに向いているのを確認し――、駄目だ1人すっごくこっちを見てる。

 ――いや、違う。キイロとロイヤルを見てる。

 羽をすごいバサバサさせてるのにじっと見てるな領主さん……。



 サンリエルさんの意識がそちらに向いているのを確認してさっと顔を上げて声の主を見る。


 一瞬だったが、髪の長い青年の姿が見えた。

 あのエルフっぽさ……、風の一族である事は間違いないだろう。

 髪が長いし細身だから女性かと思ってしまった。





「だいたい領主様が1人ぬけがけなんかするから――」



 別の船の獣人さん(未確認)がサンリエルさんに注意している。

 たぶんあれ小声で話してるつもりなんだろうけどこっちに丸聞こえだよ。

 他の人も何か言ってる様子だけど何を言ってるのかはわからないし。



「私が最も権限があるのは事実だろう」



 しれっと答えるサンリエルさん。



 う~ん。こっちの船も何だかガヤガヤしてきたな。

 それにしてもみんな大きい組の乗っている船とか気になんないのかな? こんもりしてるんだけど……。



「カセルさん、アルバートさん。皆さんに話し合ってもらっている間に船を確認させてもらえますか」



 偉い人達なりに色々とあるんだろうなあと先にオブジェの設置をする事に。

 しかし、その言葉を聞きつけたのか辺りは一斉に静かになった。


 そして――。



「失礼致しました……!」



 街の人達に一斉に謝罪される羽目に。





 この時間だけで一生分の感謝と謝罪を受けた気分だった。







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