表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/216

ある男の回想録10:目は口ほどにものを言う

視点が変わり少し時間が戻ります。

 





 今日も良く晴れた日だった。



 しかし、ぐっすりとは眠れず何度も目が覚めた身としては日差しが目に眩しい。

 その上朝早くから母に起こされてもうすでに疲れている。




「ほら! 早く朝食を食べなさい! カセルも待ってるんだから!」



「なんでこんな朝早くに来てるんだよ……」



 ぶつぶつ言いながら、階段を下りる。


 部屋に入るとカセルはお茶を飲みながらレオン兄さんと話していた。



「カセル、なんでこんな早くに来てるんだよ。指定された時間はまだまだ先だろ?」



 文句を言いながら席に着く。



「何言ってんだよ! こういうのは早めに待機しとくもんだって!」


「早すぎだよ……」


「何を言ってるんですか。今日は我々の命運が決まると言ってもいいほど重要な日なのよ」



 祖母が口を挟んできた。母もうんうんと頷いている。







 今日は神の御使い――ヤマ・ブランケット様から拝謁の件についての返答がなされる日である。



 初めてお姿を拝見した日、困った事はないかという恐れ多くもお優しいお言葉を頂き街の代表者で話し合ったが、結局は『神の御使い様に拝謁したい』でまとまってしまった。



 若造の俺とカセルがその意見を覆す事が出来るわけもなく、昨日拝謁した際に恐る恐る申し上げてみたのだ。

 もちろんカセルが、だ。


 その返答を頂けるのが今日なのだ。





「もう俺嫌だよ。すごく図々しいお願いだったしさ、得体のしれない唸り声は聞こえるし、カセルは急に話を振ってくるし」


「はは! お前の役目をとったら悪いと思ってさ。それに守役をあんな近くで見られたんだぞ。俺達ツイてるよな~」



 その笑顔が憎たらしい。




「俺はヤマ・ブランケット様の前で慌てまくってたんだぞ? しかもあの白い変な服なんだよ。あれって領主様の就任式かなんかでお偉いさん達が着てたようなやつだろ?」


「変な服じゃありません。着用を許されたことに感謝をしなさい」



 そう祖母に窘められたが感謝できない。



「かっこいいじゃないかアルバート」



 レオン兄さんの感覚が分からない。

 ルイス兄さんにも聞いているが、ルイス兄さんは「僕は着たくありません」とばっさりだった。

 それが正しい反応だと思う。




「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと食べて港に行きなさいよ。ジーリに会いに私もついて行くんだから」



 いつの間にか部屋の入り口に立っているのは姉。

 早く自分の家に帰ってくれよとは口に出しては言えないので、目で訴えておいた。



「領主様や族長達も港にいるのかな」



 姉の意識を俺からそらしてくれたのは祖父だった。さすがだ。



「ええ。ジーリから聞いた話だと、港の一画に執務室を移す話が出ているらしいんですって」






 ……何を考えているんだあの人達は。

 ただでさえ隣国からは神の島関係で不信感を持たれているのに。



「それは……。他国への対応は今どうなってるのか気になるな」


「御使い様も関わる意思のあるものだけと仰っていたのなら心配する事はないでしょう。あちらで勝手に書面でもなんでもお送りすればいいんですから。我らが神の名を騙るなど……!」



 父のもっともな疑問に、祖母が不愉快だと言わんばかりに答える。


 女性陣が隣国への不満を漏らし始めたのを祖父と父がなだめているのを見ながら食事をとり終えた。




「カセル、待たせて悪かったな。早いけど港に行くか。……早いけどな」


「気にすんなよ! お前んちの家族おもしれーから」


「毎日あれだとさすがに疲れるだろ」


「失礼ね。さあ行くわよ」



 カセルと話をしながら部屋を出ようとするとやっぱり姉に気づかれた。



「後で私達も港に行くから。しっかりお役目を果たすのよ」



 神の使いからの返答を家族特権とやらでいち早く聞き出そうとする姿が思い浮かんだが、自分にはどうする事もできないのはわかっているので曖昧に頷き返し家を出た。














 港に着くとすでに大勢の人が集まっていた。ほんとみんな何してるんだよ。


 姉はさっそく背の高い義兄を見つけ、朝食の入ったバスケットを届けにいった。



「じゃああの白いやつに着替えるか!」



 そう言って俺達のいつも乗る船の近くにある建物に向かうカセル。



「そうだな……」




 今日も覚悟を決めるかとやる気を奮い起こし建物に入った瞬間、領主様と族長が全員揃っているのを目にしやる気が霧散した。



「おはようございます……」



 ついつい小声になってしまう。

 間違ってもカセルの様に「皆さんお集まりですね~」なんて軽く言えない。




「あなた達遅いわよ」


「まだまだ時間はあるんだし」



 水の族長に絡まれている俺達を助けてくれる技の族長。

 技の族長はいつもこういう時助けてくれる。見た目によらず優しい。



 よく見ると部屋には他にも数名人がいた。

 一族以外の代表者として話し合いに参加していたバルトザッカーさんとフランシスさんまで……。



「皆さん揃ってどうしたんですか」



 そう風の族長にカセルが質問している。



「今日は俺達が神の御使い様に拝謁できるかどうかの大事な日だからな!」


「一族ではありませんが私達も海上でそのお言葉を待とうという事になったのですよ」



 風の族長に代わって答えた2人、バルトザッカーさんとフランシスさん。



 2人は揃って騎士の隊長という役職についている。

 一族ではないので力はさほど無いはずなのだか引けを取らないくらいに強い。

 大体の役職は一族の者――特に地の一族の者が任されているのだが。


 フランシスさんは確かライハの上司だったな。


 いかにも強そうな筋肉の塊のようなバルトザッカーさんはわかる。

 しかし、フランシスさんは見た目こそ黒髪の美少年と間違えられる程だがれっきとした女性である。

 でも強い。

 ライハがいつも、あの速さに憧れると夢見心地で聞いてもいないのに言ってくるので知っている。



「過度の期待はされない方が良いと思いますけどね。わざわざ俺達2人だけを指定したって事はお姿を見せたくないって事かもしれませんので」



 苦笑しながらカセルが言うと、理の族長が話に入ってきた。



「あら、なにあなた達。随分と知ったような口を。 御使い様の好みを掴んだかどうか知らないけど調子に乗るんじゃないわよ」


「そうよ。たまたまあの場にいたから選ばれただけでしょう」



 女性の族長達めんどくさい。



「調子に乗ってませんって! そもそも、ヤマ・ブランケット様の好みを少し把握できたのだって地の一族が用意した鞄のおかげでもありますし」



「え? 俺達? そりゃあ嬉しいな!」


 はははと嬉しそうに笑う地の族長を女性の族長達が悔しそうに見ている。




 ヤマ・ブランケット様は意外な事に、地の一族が用意した飾り気も何もない鞄がお気に召したようだった。


 それぞれで用意した鞄を箱に詰める時、地の一族の用意した鞄はあまりにも実用一辺倒なものでみんな心配したものだった。

 地の族長が最高級の毛皮だと言い張ったので仕方なく箱に入れたようなものだったのだが……。



 今回望まれた書棚もヤマ・ブランケット様の様子を拝見し、実用性に優れた飾り気のないものを提案したのだ。

 反対意見もあったが、飾り気のないもの、というのは彫刻でどうにか意見がまとまった。

 ヤマ・ブランケット様がどのような生活をされているのか皆気になってはいるが、聞くのは憚られる。

 書棚、喜んでいただけると良いな。






 これ以上偉い人達に絡まれないようさっさと着替えて船に乗り込む事にする。

 どうせ島に呼ばれるまではお偉いさんもぴったりくっついて待機するんだろうが……。

 他国への対応なんかは大丈夫なんだろうか。


 特に領主様はぶつかるくらい近くに船を寄せてくるし、無言でじっとこちらを見つめてくるから目が合わないようにしている。

 船上での執務の合間にも見てくる。わざわざここでやらなくても……。

 何も言わずに見つめてくるからとても恐ろしい。




 今日も海上で呼ばれるのを待つ間中こちらを見ているのは分かったし、俺達の船が運ばれていく時もじっと見ていた。

 風の族長がたまに注意してくれるのだが……。

 俺達が拝謁を代わって下さいというのを待っているのかもしれない。












 カセルと領主様の視線について話していると、神の島近くに到着した。


 拝謁する前に疲れてはいたが、ヤマ・ブランケット様と一緒に現れた守役様達の様子を見て更に緊張疲れする。

 今日もすごく威嚇されているな。そして後ろの船に何かが……。

 布に覆われたものが何かはわからないが結構な大きさであることが分かる。



 カセルが小声で「目が……。生き物――守役様かも」と伝えてきた時は泣きたくなった。







 その後は普段通り後ろの船の事を話題にもせず、書棚をお渡ししたり新たにお望みのものを承ったりした。

 普段通り威嚇もされ続ける。









「――昨日のご希望の件ですが」



 ヤマ・ブランケット様がそう仰った時、俺とカセルはきた! と思った。


 びくびくしながらお言葉を待つ。

 すると、本当の神の名をお教え頂いたばかりかその名をお呼びする許可も与えられたというのだ……!



 これには非常に感激した。あのカセルまでも泣きそうになっていた。

 そうだよな。お前は一族の人間だもんな、嬉しいよな。


 そして、ひたすらに頭を下げて感謝をしていると更に驚く事を告げられた。




 街の代表の者達のみではあるが、神の使いであるヤマ・ブランケット様に拝謁する事を許されたというのだ。

 それっきりになるかもしれないという事だが、クダヤが誕生してからというものこれほどの誉はないだろう。



 しかしヤマ・ブランケット様は続けてとんでもない事も仰られた。

 風と街の代表は俺達2人にと――。




「恐れながら――」



 そうヤマ・ブランケット様に意見を述べた俺は人生で1番と言っていい程の根性を見せた。

 今ここでご不興を買うのは非常に恐ろしかったがどうしても止まれなかった。



「もちろんそちらでご自由になさって結構ですよ。内情も知らずに失礼しましたね」



 今回はカセルも味方してくれてどうにか俺達が代表を外れる事ができた。

 神の使いを任されているだけあってヤマ・ブランケット様はとてもお優しい方である。



 しかも直接拝謁できない者達の為に代わりを用意なさったと仰られた。


 この言葉に俺達は興奮を抑えきれなかった。

 神の力を宿している何か(・・)……。



 その何かが載せられている船に視線を移すと、どうしても後ろの塊に目がいく。

 俺の力では確認できないが大きさはばらばらだが生き物と言われても納得できる形をしている。



 船を用意する為に街に戻る必要が出てきたが、カセルが機転を利かせ戻ってくる際に領主様達を連れてくる許可をとった。

 ……カセルの頭の良さを少しでも分けて欲しい。





 こうして俺達はいったん街に戻る事になった。

 ――街を歓喜の渦に巻き込むであろう知らせを携えて。







続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ