プロローグ
水音がする……。
なんだろう。どこか水道きちんと閉めてなかったのかなあ。
あ~閉めに行くかぁ。喉も乾いたし起きるか……。
「んーっ……」
しっかり伸びをして、ごろりと寝返りを打って目を開ける。
何時だろうと枕元の携帯を手探りで探す。あれ? 携帯はどこだ。
「めがねめがね……」
次は眼鏡を探す。
……見つからない。
寝てる時にどこかに飛ばしちゃったかなあ。
しょうがない、とりあえずベッドから出て水道を止めに行こう。
よしっと起き上がってベッドから足を下ろ……え? なんかごつごつしてる?
咄嗟に手で感触を確かめる。ひんやりしてごつごつしている。
……あれ、岩?
なんだ夢なのか? こんな感触がわかるような夢見たことないんだけどな。
しかも目が悪いところも忠実に再現されてるなあと考えた時、さあっと視界がクリアになった。
お? よく見えるようになった。便利な夢だなー。
ぐるりと周りを見渡すと、黒っぽいこげ茶っぽい壁だった。
10畳くらいのほのかに明るい空間で、少し先は通路のようになっていてもっと明るくなっている。これぞ出口という感じだ。
足元を見るといつもの布団。正確には掛布団と毛布数枚、シーツ、マットレスと枕代わりのバスタオル。
……ベッドはどこにいった。
なんで布団だけ残されてるんだと不思議に思いながら携帯と眼鏡を探してみるが、やはり見つからなかった。
自分を見てみると、寝る時に着ているトレーナーにスカートにスパッツ。眠る時の格好だから仕方ないとはいえ靴下と靴がないのがなんとも心細い。
落ち着いて考えてみる。
洞穴のような空間と布団と私。ミスマッチすぎる。
夢ってほんと繋がりがめちゃくちゃだなあと思いながらそろそろとマットレスから下りて明るい方へと少し歩いてみる。足がひやっとするが仕方がない。
数歩歩いたところで水音の正体を発見した。
色が壁と同化していてわからなかったが、壁の一部がぽこっと出て受け皿のようになっており、そこに天井から乳白色の液体が落ちてきているようで、液体は半分ほど溜まっていた。
それを見た時、洗面台みたいだなと思った。
それに乳白色のものに顔を近づけた時、壁が岩ではなく木のような素材で出来ているのがわかった。
木の洞の中なのかな?
なんだかわくわくしてきて自分がいったいどんなところにいるのか知りたくなった。
少し速足で明るくなっている出口のようなところへ向かう。
出口の先はただただ明るくてその先にどんな景色が見えるかわからなかったが、夢だという安心感があったので躊躇わず光の向こうへ歩いていく。
ふわっと顔に風を感じた。目の前に見えるのは森だ。
一瞬ジャングルかと思ったが、テレビでよく見るジャングルとは違う。
なんだろうこの感じ。少し考えてああと思い至った。
混ざっているのだ。ジャングルと屋久島にあるような古代から変わらない森が。
そして分かってしまった。
これは現実だ。
夢じゃない、現実だ。現実ではありえない風景を見たにも関わらず現実だ、と体の細胞1つ1つが理解した気がした。
その瞬間、誰かが話している声が思い出された。
「じゃあそっちではよろしく頼むよ~!」