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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ところ変われば




 誇らしげな刺繍、H・Y。





「恐れながら、初めて拝謁させていただいた際にその被り物に紋様が印されているのが目に入りまして――」



 カゼノカセルさんがにこやかな声で紋様の説明をしている。



 お時間を頂ければもっと緻密な手法でとか言っているが、それどころじゃない。

 もっと崩した感じのローマ字ならまだカッコ良さが引き立つのだが、お手本のような綺麗な文字なのでそれもない。



 ハンカチに愛しい殿方のイニシャルをひと針ひと針――、という貴族女性妄想をしてイニシャルを素敵なものに感じようと努力はするがどうもうまくいかない。


 そうだ。この感じは外国人が意味不明な日本語がプリントされたTシャツを喜々として着用しているのを見かけた時の感じだ。



 そっか、国が違えば感覚が違うのはしょうがない。そもそもここは国どころか世界も違う。

 <地球>さんも、街の人も私の為を思ってイニシャルを刺繍してくれたんだ……! 

 みんな違ってみんな何とかというやつだ。



「まあ、ありがとうございます」



 やや無理やりポジティブ思考にもっていって刺繍問題を乗り切った。



「お喜び頂けたようで何よりです」



 カゼノカセルさんだけでなく、アルバートさんもホッとしたような嬉しそうな顔をしているのが帽子越しに確認できたので、これで良かったんだな。



 彼らが自分達の船に乗り当初の位置に戻った後、断続的に唸り声を上げていたダクスが静かになった。

 ここまで唸り続けたのは逆にすごいよ。彼らも後半慣れてたし。




「では次はご所望の鞄ですが……。3つ程とおっしゃられましたが、神のお力の顕著な恩恵を受けている一族が5つに分かれて存在しておりますので、寝具と合わせて5つご用意させていただきました」




 今、聞き逃せない事を言った。




「神の恩恵とは……?」



 神の言葉を賜れるとか言っちゃってるのにそんな事も知らないのはどうかと思ったが、色々知りたがりの信徒設定なので大丈夫だろうと素直に質問する。




「私もその一族なのですが、クダヤに住む者は他の場所に住む者に比べて神の力が強くなる傾向にあります。我々にとっての神の力とは、力が強くなる・体が丈夫になるといった身体能力が向上するような恩恵の事です。数百年前のクダヤの人間ならその力をして様々な現象を引き起こしたと伝えられていますが、現在の我々にはそこまでの力はありません。」



 ほうほうと、ファンタジー感たっぷりの話を聞きながらワクワクしているとカゼノカセルさんがアルバートさんに話を振った。



「その中でも一族と呼ばれる……アルバート、街の話はお前の仕事だったな」


「えっ」



 突然話を振られて明らかにおろおろしているアルバートさん。

 分かるよ、その気持ち。

 自分にはあまり関係が無いなとのんびり気を緩めている時に限って、急に意見を求められるやつな。




「アルバートさん、一族とは?」



 手助けになるかは分からないがアルバートさんに質問を投げかけてみた。




「は、はい! あの……えー……クダヤには――」




 もっとおろおろしだしたアルバートさんのしどろもどろの説明をまとめると、クダヤには神の力が身体的特徴にも現れた種族のようなものが5つ存在しているらしい。


 水、風、地、技、理に分けられるその一族達は、それぞれの一族ごとに秀でている能力が違うという事だった。



 たとえばカゼノカセルさん――これは風の一族のカセルという意味合いで、“風のカセル”というように名乗るらしい。だから名前はカセルだけで良いみたいだ――は、目が大きく耳も長く、遠くのものを見聞きする事に長けているそうだ。


 そういえば、はじめカセルさんを見た時エルフっぽいと思ったもんな。

 しかも一族の者達は寿命が延び見た目も若々しいものだが、特に風の一族はずっと若々しいままであるらしい。

 まさしくエルフだよね。何百年も生きるわけではないようだが、設定がエルフだよ。



 ますます街に上陸して他の一族も見てみたい。

 しかし、理の一族の身体的特徴に“白い髪”というのがあると聞いて気になった。

 私もエネルギーを集めるにつれて、毛先からだんだんと髪の毛が白くなってきているからだ。




「あの、違う一族同士の婚姻で生まれた子供は両親の特徴を少しずつ受け継ぐのですか」



 自分の髪色はどうなんだろうと思い質問する。



「はいっ。その……一族の特徴はどちらかに必ず偏りますので……、複数の種族の特徴を持ちあわせる事はありません。……あっ! その、違います! 領主様だけは例外で……!」



「領主とはクダヤのトッ……1番偉い者ですか」



 大いに慌てているアルバートさんにさらに質問する。



「はい……! 領主サンリエル様は水、風、理の一族の能力を受け継いでおりまして――」



 その後、クダヤの領主はどう決定されるのかというところまで教えてもらった。

 複数の一族の能力をもった者が同時期には現れないって面白いな。なんか特別感が出ててかっこいい。


 しかし私のように毛先だけ白いといった人はいなさそうなので、街に行く際は髪を見えないようにまとめないといけないようだ。

 今ここで情報が手に入ってよかった。






「――クダヤの街の人々についてはわかりました。そういう事なら鞄を5つ頂きます」



 話は若干逸れたが、ある程度の知識を手に入れたので鞄の受け取りを再開する。


 鞄は彼らの乗っている船に載せられている箱に入っている様で、箱を開け中のものを取り出して見せてくれた。




(小さいな!)



 見せてくれた鞄は……鞄? 鞄というよりは化粧ポーチのような見た目で、腰に巻いて使うのかベルトが付いていた。


 作業する人が腰に巻いている光景が思い浮かんだが、あれは丈夫な生地で作られた飾り気のないものだった。これは何やら装飾されて華やかなものになっている。

 携帯は入るが長財布は入らないタイプとみた。実用性より外見重視なんだろうな。



 他の鞄も小さめで、明らかに片手で持つ事を想定しているものだった。

 鞄と言えば勝手にリュックや肩掛け鞄のようなものが用意されると思ったが、ちょっと失敗してしまったようだ。



 しかし「最後の鞄なんですが……」とどこか申し訳なさそうに見せられた鞄は望んでいたものに1番近いものだった。



 それは完全に動物の毛皮で、暖炉の前に敷かれていそうなふさふさしているもの。

 真っ黒でどこか艶のある毛皮を使った鞄は、背中に斜めに掛けるタイプでそこそこの大きさがあった。



「最後の鞄も、とても素敵ですね」



 私の欲しい鞄はこういうタイプだよ、という気持をこめて褒めておく。

 毛皮の持ち主たちが乱獲されないよう、追加で『形』が素敵と強調しておく事も忘れない。



「……ヤマ・ブランケット様はこのような形のものを好まれますか?」



 さっそくカセルさんが察してくれたようだ。できる男。



「ええ。小さいものも便利ですけど、島の食物をたくさん入れる事が出来ますし」



 そう答えると、2人はなぜか顔を見合わせて頷いていた。





「鞄はここで受け取りますね」



 そう2人に伝え、彼らの方に手を少し伸ばす。どうせ箱は返すし。

 ボスにもっと近くまで船を動かしてもらおうとすると、キイロが彼らの船にさっと飛び移った。



「……!」



 アルバートさんは後ずさり、カセルさんはキイロから目をそらさずにじっと見つめ続けている。


 キイロは彼らをひと睨みした後、鞄の1つをくわえてこちらに戻ってきた。



「あ、ありがとう……」



 よかった。運搬役をしてくれるだけだった。


 いちいち彼らを睨みながらこちらの船に鞄を運んでくれるキイロ。どうしたんだ。

 毛皮の鞄は重かったのか、角にひっかけて強引にこちらに持ってきた。



「ありがとう。助かった」



 キイロを撫でながら彼らの様子を確認すると、まだ身動きもせず固まったままだった。



「鞄、ありがとうございました。……それでは昨日お伺いした困りごとなどはどうなりましたか」


「は、はい。その事なんですがあの……」



 体のこわばりはとれたようだが、珍しく言いよどむカセルさん。

 アルバートさんの方を見て、意を決したように言ってきた。



「申し訳ありません。困りごとではないのですが、街の者はみな神の使いであるヤマ・ブランケット様のお姿をひと目拝見し、神への感謝の気持ちをお伝えしたいと申しておりまして……」


「感謝の気持ちですか……?」


「はい。光栄にも私達2人を代表としてお選びいただき、やりとりをまとめる旨はみなに知らせたのですが……。感謝の気持ちを是非ともお伝えしたいという事で。……特に一族の者達が」




 2人の困りきっている様子を見て、街の人との相談とやらはなかなか大変なものだった事がわかった。

 最後の呟きにもそれが表れている。



 日本人という事もあり特定の宗教行為に熱心なわけではなかったが、こちらの人達にとっては神社にお参り、毎週ミサに通うみたいなものなのだろうか。

 不特定多数の人の前に姿を現すのは避けたいが、祈りとか感謝って愛と光のエネルギーがたくさん集まりそうな気もする。



「誠に勝手なお願いで申し訳ありません……!」



 どうしようかと考えていると2人はいつの間にか土下座に近い体勢になっていた。



「……! 頭を上げて下さい。その件に関しては神にお伺いしますので」



 中間管理職の辛さを今実感した。


 2人が体を起こした後、他の国についても聞いてみる事に。



「クダヤ以外の国については、現時点で何かありますか」



 そう聞くと2人の顔が強張ったように見えた。

 ……帽子越しって目が疲れる。サングラス欲しい。



「近隣諸国へは昨日の内に通達済みです。船で近くまで出向いてきている隣国に関しては使者を送ったのですが、クダヤの謀だと信じてもらえず」



「ああ~。まあそうですよね」



 つい素の口調に戻ってしまった。


 急に『神の使いとコンタクトできるのはクダヤから選ばれた者のみ』、なんてクダヤの人間から言われたらそりゃあ疑うだろうな。

 あー、前もっていろいろ気付ける頭脳が欲しい。




「こちらとしては無理に神を信じさせ信仰を強要するつもりはありません。隣国の方々はこの島をどのように考えておいでなのでしょうか」


「どちらかというとクダヤを守る力あるものとして警戒をしております」



 そこでカセルさんから隣国との間に過去にあったいきさつを聞いた。



 ふむ、船を押し流しですか。さすが。

 これはボスにどういう事があったのか聞かないとな。




「ではこの島に関わる意思がある国は今後、その旨書面で伝えてもらいましょうか。――それを小舟に乗せて送っていただければ島に届くように致しますので。もちろんあなた方お2人を通してでも構いません」


「かしこまりました」



 隣国がどこまで信じるかは不明だが、警戒されている国にはあまり関わりたくない。余計な問題が起きそうだ。

 各国まんべんなくエネルギーを集めたかったが、お互い無理強いせずにのんびり平和的に毎日を過ごしたいものだ。








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