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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録8:あの日神の島で

視点変わります。

 


 神の島であの女性に出会った日の事は忘れようにも忘れられない、生まれて初めての衝撃的な出来事だった。









 神の島から街に戻されている途中の船の上、俺とカセルはお互い無言のままだった。

 あまりの衝撃で話せないといった方が正しいかもしれないが……。




「……なあ……」


 白い霧を抜け街の船がこちらに向かって何艘か向かってきているのが見えた時、カセルが口を開いた。



「なあ……。あの鳥すげー威嚇してたな……」


「お前失礼だぞ……。あの方をお守りしている偉い鳥だぞ……」



 俺もたいがい何を言ってるんだと思うが心が衝撃で麻痺し過ぎてうまく会話ができない。

 そして確かにあの威嚇は恐ろしかった。





「――女性みたいだな」


「ああ……。すげー変わった服着てたな」


「お顔は見えなかったな……」


「鳥の守役はしっかり見えたけどな」


「俺、うまく話せなかった……」


「ああ、安心しろ。お前の良さはそこじゃない」


「そうか……」


「そうだよ」






「……おまっ! そういえば俺を……!!」



 思い出した。こいつが俺を巻き込んだという事を。



「なにが教師の仕事だよ……! 俺は子供達に教えてるだけであって偉い学者じゃないんだよ!」



 カセルの体を鷲掴みにして揺さぶりながら問い詰める。



「ははは、大丈夫だって! あの方はそんな学者なんかの難しい話なんて望んでねーと思うぜ?」


「そんなのは理の一族の仕事だろ!」


「まあまあ。どっちにしろ俺達があの方――そういや俺達と同じような立場だって言ってたな。でも明らかに神に近い立場だよな~、神の()使いってとこか。あ、そうそう、その連絡役なのは変わりねーんだから一緒だよ」



 そうへらへらと答えるカセルには何を言っても無駄な気がしてきた。



「そりゃそうだけど……。一族でもない俺なんて街の人がなんてなんて言うか……」



 怒りは不安に変わってくる。



「しょうがねーよ。選んだのはあっちで俺らじゃねーし!」



 さっきまで少しだけ大人しかったのにいつの間にかいつもの調子に戻っているカセル。

 こいつには落ち込むという感情はあるのか、そう考えていると街の船が近付いてきていた。



「おお~、またぞろぞろと」


「えっ何だよ」



 俺の能力ではまだ船に乗っているのが誰だか判別できない。

 見てれば分かると、ニヤニヤして教えてくれないカセルを睨みつつ船がより近付くのを見守る。






 はっきりと見える距離に近付いた時、船の上にいたのは最近すっかりお馴染みになった領主様と族長達。

 それも全員が勢ぞろいしていた。



「うわあ……」



 誰しもがそういう感想になると思う。

 隣国も神の島に関わろうと乗り出してきているのに全員こんな所で揃ってしまって大丈夫なのだろうか。




「何が起きた」



 領主様の口調は落ち着いていて威厳たっぷりだが、船の先端に身を乗り出すようにしている時点で威厳は台無しだ。

 もっと大きい船で来ればいいのに……。



「神の使いと接触しました」



 どう答えようかとチラとカセルを見るとさっと答えてくれた。



「何ですって!?」



 悲鳴のような声を上げたのは水の族長。

 いつもは止める周りもカセルの言葉に驚いていて反応が遅れた。


 その隙に水の族長は海に飛び込みあっという間にこちらの船に乗り移ってきた。



「どういう事よ! 説明しなさい!」



 カセルが襟元を掴みあげられて足が船から離れてしまっている。



「あの……!」

「やめなさい!」



 俺の気弱な制止に重ねて言葉を発したのは理の族長だった。



「リレマシフ! 説明が聞きたいのは私達も同じよ! それじゃあ“風”のがうまく話せないじゃない」

「そうだ。まずは落ち着いて話を聞こう」



 続けて風の族長も水の族長を止めに入る。



「早く話を聞かせてくれ!!」



 船から大声で叫んでいるのは地の族長。声が大きいと技の族長に注意されている。



「街に戻ってから話しますから! 神様からのお言葉もありますんで」



 カセルがそう言うやいなや水の族長は海に飛び込み物凄い勢いで泳いで戻っていった。



「街に戻るぞ。お前達も急げ」



 領主様もそう告げるとさっさと戻り始めた。ほったらかしとはこういう事か……。




「……カセル、大丈夫か……?」


「ああ。相変わらずだよな~あの族長は」


「お前が気にしてないんだったら良いけどさ。……ほら、早く戻るぞ」


「そうだな!」







 カセルと協力して急いで戻ると港には人があふれ、お祭り状態になっていた。

 訳のわからぬまま引きずられるように城に連れて行かれる道中人々から俺とカセルに花びらが投げかけられる。



「カセル……。なんだこれ……?」


「さあ?」



 人々は、めでたい、素晴らしい、よくぞ、と様々な言葉を口にしているが俺達を歓迎している事だけはわかった。


 城壁の近くになると幼馴染のライハと妹のスヴィも花を持って待ち構えてるのが見えた。

 ――花をそのままこちらに投げつけてくるのも。



「いってっ!」



 遠慮なしに投げられた花はカセルに命中した。



「……ライハのやつみんなが何で花を投げてるのかわかってないんじゃないか……?」



 カセルにちょうど隠れる形になっていたので俺は無事に通り過ぎる事が出来た。



「あいつのあの顔絶対にわかってねーな」



 いててとぶつぶつ言いながらカセルは服についた花を払っている。



「そう言えば俺達びしょ濡れだったな……」


「領主様たちに報告する前に風呂に入らせてもらえますか」



 先導してくれている地の一族の1人にカセルは話しかける。



「そうだな~。部屋を整えるとか言ってたから多少は大丈夫だと思うが……。さっと終わらせろよ」



 楽しみだな~と気の良い笑顔で答える地の一族。



「あの……、俺達それほど遅く戻ってきたわけじゃないと思うんですが領主様たちは?」


「ああ、さっさと馬車に乗って城に向かったよ」


「……そうですか」



 びしょ濡れで城まで歩かされる俺達って……。







 街の人々から十分な花びらの洗礼を受けながら城に到着し、体をお湯で洗い流し新しい服に着替えた俺達は塔のある部屋に案内されようとしていた。



「そこって偉い人達が集まって会議をしたりする場所だろ……?」



 自分がそこに向かうと考えるだけで緊張してくる。



「そうそう、円卓の間だっけな?」



 カセルはさほど緊張した様子もなく落ち着いているように見える。

 こうなったらカセルにすべてを任せようと考えていると、先の廊下に俺の家族が勢ぞろいしているのが嫌でも目に――。



「アルバート、良くやりましたね」

「母さん驚いたわ!」

「家で話聞かせろよ!」

「やるじゃないあんた!」



 騒がしい面々に比べ祖父をはじめとした残りの面々は労わる様なまなざしで頑張れよ、と。


 カセルの両親も来ていて静かに息子をねぎらっていた。

 カセルの両親は2人とも風の一族で美男美女の夫婦だ。共に静かで穏やかな人達で、カセルの性格はどこからきたのか未だに謎だ。顔と髪は確かにあの人達の子供なのだが……。



「アルバート、カセルをよろしく頼むわね」



 カセルの母親と目が合いお願いされてしまった。

 いや、こっちこそと答えようとしたところで母が割り込んできた。



「カセルなら安心よ! こっちこそよろしくね」



 自分でも似たような事を言おうとはしていたが先に言われると複雑な気持ちになる。

 そのまま仲良く話し始める2人。仲が良いのが不思議だが、カセルの母親も嬉しそうにしているので俺の母親の一方通行ではないだろう。





 近くの部屋で待機しているという家族と別れ俺達は円卓の間に入室する。


 そこは緑と茶色を基調とした調度でまとめられた部屋だった。

 部屋の中心には大きな円卓があり、領主様に5人の族長が席に着いていた。

 部屋の隅には書記官用と見られる机があったが今は誰も座っていない。



「遅いわよ。早く座りなさい」



 さっそく水の族長に怒られ俺とカセルは扉に近い席に座る。

 まあまあと技の族長が宥める声を聞きながら左隣の理の族長の机の上を見ると、筆記する道具が置かれていた。



「理の族長、俺も書き留めるの手伝います」



 小声でそっと提案する。



「あらそう。じゃあお願いしようかしら」



 意外とすんなり了承したイシュリエ婆さんから道具を受け取る。


 よし、これで意識を少しでも他にそらす事が出来るだろう。

 他に人を立ち入れないのはよほどこの報告を重要視しているからだろう。

 ――街でのあの騒ぎは何だったんだと思わなくもないがきっと水の族長が大騒ぎしたんだろうな。





「では神の使いについて話してくれ。そもそも使いとはどういう事だ?」



 領主様の声でカセルの報告は始まった。



「順を追って説明します。――私達が神のご意向を待つ担当として海上で待機していますと、ご存知の通り突如霧が発生しました。こちらから街が確認ができなくなると船はゆっくりと神の島に運ばれました」



 そこでがたっと音を立てたのは水の族長と領主様。2人とも立ち上がらんばかりの勢いでカセルに質問したそうだったが、周りの族長達の視線を受けぐっと我慢して椅子に座りなおした。



「神の島を囲っている断崖を少し回り込むような形で船は進み、かねてより報告がありました断崖の洞窟の先、貢物が流れ着くと言われる砂浜に向けて船は進路を変えました」



 がたたっと音を立てたのは先程の2人に追加して地の族長。

 ……あの人達興奮しすぎじゃないのか……。



「――船が洞窟に近付いたその時、洞窟の先、島の内部から船がこちらに近付いてきました。神の経典が送り届けられる際に使われているあの船です。そこには1人の女性が乗っていました」


「上空でお見かけした方か」



 耐え切れずに領主様が質問をした。



「女性の声でしたのでおそらくは。上空で見た生き物達の存在を探しましたがその時はそばにいませんでした」


「その時は……? そうだな、話を聞こう」



 風の族長の頷きを受けて質問は後回しにする領主様。



「その方は見た事のない服装をしており、帽子を被りお顔を隠されておいででしたので詳しくはわかりませんが、しばらくこちらを観察しているようでした。そしてあちらから我々の貢物に対しての感謝の気持ちを伝えられ新たな願い事をなさいました」


「何てこと!」

「感謝の気持ちを……!」

「やはり我々を見守って下さっていたのだ……!」



 もはや誰も止める者はなく皆それぞれに興奮して言葉を発し始めた。

 ざわつく室内、そこにカセルが言葉を続けるとさらに収拾のつかない事態になった。



「明日までにまず大陸の地図や歴史書などこちらの暮らしが分かる書物、眠る時の寝具を5組。そして鞄を3つ程。これらはすぐ用意できるものをご所望です」



「早く言いなさいよ!」

「5……ということは一族それぞれで用意をすればいいな」

「書物は理の一族が主だって用意しましょう」

「鞄も多い分には構わないよな?」

「送り出す船は1艘にまとめるか……?」






「急ぎ手配が必要だ。報告はいったん中止する。手配が済み次第戻って来るように」



 ひとしきり意見を交わした後領主様の言葉で族長たちは急いで部屋を出て行った。



「ふう~……」



 ため息をついて体の力を抜く。

 すると、まだ残っていた領主様がこちらに歩いてくるのが見えて何だろうと自然に背筋が伸びる。



「その女性の容姿についてもっと詳しい報告を。どんなお声をしていた? どんな服装だ? それから――」



 あれこれと先んじて話を聞いてしまおうというのか神の使いについてやたらぐいぐいと聞いてくる領主様。


 族長達が戻られてからじゃないとうるさく注意されますよとカセルのひと言でしぶしぶ引き下がったが、何故か俺が姿絵を描かされる羽目に――。




 しかも出来上がった絵を見て、無理を言ったなと領主様に慰められた。

 ひどい罰を受けている気分だった。






続きます。

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