島プレミアム
「ええと、すみません。お願いごとの代金なんですが――」
キイロとロイヤルという参加者は増えたが、とりあえず何事も無かったかの様に振る舞う事に。
「いえ。女神様から頂くわけにはいけません」
「かはっ……。……いいえ、なんでもありません」
むせた。なんでもないわけが無い。
初対面の相手からの女神呼ばわりは精神的にきつい。新手の嫌がらせみたいだ。
「私は神ではありません。あなた方と似たような立場の者です」
せっかく考えたキャラ設定を強調しておく。
「え……。いや、でも……」
何か言いたそうな茶色君。
「直接お言葉を賜るか、そうでないかの違いでしかありません」
「やはり神は、島にいらっしゃるのですか」
「そうですね。――すべての場所に存在しているとも言えますが」
赤毛君にそう答えたが、大体合ってると思う。うん、嘘はついてない。
これけっこうな信徒感出てるんじゃないかな?
「神はあなた方が健やかに暮らしていけるようにと心をくだいておいでです。――何かお困りの事はありませんでしょうか」
愛と光のエネルギーが集められそうな依頼をお願い、と思いながら彼らに問いかける。
大それたことはできないが、こっそりと家事を手伝うくらいなら出来る。
「も、もったいないお言葉です……!」
アルバートさんは恐縮しきりだが、カゼノカセルさんは何やら考え込んでいる。
「――私達では決められませんので、街に戻り相談してからでもよろしいでしょうか」
「かまいません。……最近、たくさん船がやってきているようですが、あなた達の住んでいる街とはどのような関係なのでしょう」
気になっていた事を聞いておく。
どこかの国とだけ懇意にしているのもどうかと思うのだ。できればまんべんなく関わって仕事を達成したい。
「……ただ、大森林を挟んだ隣にある国というだけです。今回、神がお姿を現され、さらに持ち物を我々に残されましたので、あちらの国でも様子を窺いに我々の領域まで来たようです」
……なるほど、仲悪そうだね。
どことなく硬い表情で答えているのでも分かる。まあ、その隣の国とやらの言い分も聞いてみないと。
「そうなんですね……。あなた方だけを特別扱いするつもりはありませんので、その国にもそのようにお伝えください。――ただ、長年島を敬って下さっているのはあなた方の住んでいる街です。私とのやり取りに関しては、あなた達2人が代表で引き受けてまとめてください」
「えっ、あっ、承知いたしました……!」
「ありがたきお言葉です」
アルバートさん、ちょっと困ってたな。すまん。
でも変にこちらに媚びてくることもないし、彼らは信用できそうだ。
「本当に代金はよろしいのですか」
「はい、すでに頂いている持ち物で十分足りています。私達が死ぬまでお願いを続けられてもまかなえる程の価値があります」
「それは……。そんなに価値のあるものでしたか」
正直、まじかという気持で頭がいっぱいだ。
そんなに高かったの?
もしかしてオーパーツみたいなものだったらどうしよう。優秀でもないのに世界を混乱させたって悲しい結果になりはしないだろうか。どうせだったら優秀だから世界を混乱させたとか言われた方が良いに決まってる。
「もちろん大変な価値です。すでに滅んだ国の硬貨や水晶などは探せば見つかるでしょう。しかし、神の食べ物やあれほど鮮やかな多色構造の宝石などは他では見た事がありません。そして、神の持ち物という事で価値はさらに跳ね上がります」
「そうですか……」
早く1人になって、失敗した! と大声で叫びたい。
「それは混乱を招いてしまいますね。これからは気を付けましょう」
今日はもう帰って寝たい。平静を装うのも厳しくなってきている。
「では、私はそろそろ。本日はありがとうございました」
「はい。ご所望の物はすぐにご用意いたしますので」
「……皆さん相談される時間も必要かと思いますので、また明日お待ちしておりますね」
今日は精神的に無理だから明日、をふんわりオブラートに包んで柔らかく伝える。
「かしこまりました」
そして彼らの乗る船は街に戻されてゆく。こちらの船も島に――。
アルバートさん結局ほとんどしゃべらなかったなあ。しかも何かにおびえている様子だったし。
まあカゼノカセルさんが一緒だから大丈夫だろう。そしてびしょびしょにしてすまんかった。
考えているうちに船が島の砂浜に着き、陸に降り立つ。
「今日も1日よくがんばりました」
とりあえず自分で自分を褒めておく。あと、キイロとロイヤルもわさわさと撫でておく。
そこで聞こえてきたのはお馴染みのレベルアップの音。
おめでとう。リクエストは帰ってからまた考えよう。
さっと家に帰ろうと思ったが、みんなは海に入って私の護衛(過剰な戦力)をしてくれていたので体が濡れていた。
「歩いて帰ろうか」
しょうがないね~と、歩き出そうとしたところでエンに服を軽く引っ張られる。
「クー」
「うん。待つのは平気だけど……」
エンにちょっと待って、と言われたので待ってみる。
そのエンは、ロイヤルに水を噴射してもらい水分をぶるると飛ばした後いきなり炎に包まれた。
「あっつ! 何どうしたの!?」
慌てるが火は一瞬で消えた。
トコトコとエンが寄って来るので無事を確かめる為に体を触る。
「ふっかふか!!」
乾燥機で乾かした後のバスタオル、ベランダに干してある毛布のような極上の暖かい肌触り。
「よいせ」
さっそく背中に乗り、エンの体を抱えるように寝そべる。
「うわ~うわ~」
騒がしいとは思ったが、ここは無人島だ。好きなようにする。
うるさい人間を乗せてエンはのんびり進んでくれる。
「…………!」
寝てた。思いっきり寝てた。
マッチャに抱き抱えられたところで目が覚めた。
まずい、エンの背中のある部分ががびがびになっている。
よだれの仕業だった。すまない。
「ありがと」
どさくさにまぎれてエンとマッチャに抱きつきながらお礼を言う。
周りのみんなを見回すと心なしか体がというか毛、羽がボワッとしていた。
「何それ?」
ものすごくエアリーな感じが伝わってくる。
乾かした、というみんなに順番に抱きついて頬ずりしながらそのボワッとを堪能する。
ナナは足の部分だったがしっかりと撫でまわした。
さて、家に入るかというところでボスの尻尾がひゅんっと目の前に。
「お? どした――、毛!」
なんとボスの尻尾の先に毛が生えていた。
「うっわー! ふわふわっ、どうしたの?」
どうしたのと言いながらもさっそく顔を埋める。
「えっ……、生やしたの? ……すごいね」
自由に毛を生やせたりするなんで特定の人達以外にとっても夢のような話だ。
ボスのライオンのような尻尾もひとしきり愛でてから家に入った。
「ただいま~。チカチカさん、初遭遇してきましたよ~。初遭遇!」
報告すると高速チカチカして祝ってくれた。
「でもちょっと失敗しちゃいました……」
今は大声で叫ぶ気分ではないが、誰かに聞いて欲しかった。
チカチカさんは今度はゆっくり点滅する。
なんとなく慰めてくれている気がした。
「ファンタジーだから、なんてどこか軽く考えてたみたいです。この島のものって、ものすごく価値があるみたいで。それを現実として体験するとちょっと腰が引けてきちゃいました」
地球でそんなものが実際にあったとしたら戦争まではいかないにしろとんでもない混乱を引き起こすのは目に見えている。それをポンと渡しちゃったんだよなあ。
キッチンの机に上半身うつ伏せでチカチカさんに向けて話していると、みんなが寄り添ってきてくれた。
「ありがと」
顔の下にダクスがぐいぐいと潜り込んできたので枕にしながらみんなに感謝する。
「今日は1日ぐずぐずして、明日からまた覚悟完了でファンタジー生活楽しむ」
自分に宣言して思いっきりだらける事に。
布団に横になりながら食っちゃ寝すべく2階に向かう。
「フォーン」
「うん、ありがとう。今日は甘えちゃう。いつもだけどさ」
マッチャが色々と用意して持ってきてくれるようなのでお願いする。
干していた布団を早々に取り込み、テラスに移動してきたボスの傍に敷いて寝っ転がる。
みんなはそれぞれテーブルセットに座ったり布団の傍に座ったり自由に寛いでいる。
「そういやリクエストどうしよう」
みんなと話しつつ横になってぼりぼりとピーマンきゅうりをかじるという、不健康なんだか健康的なんだかよく分からない行動をとっている時にふと思い出した。
「今の家で結構満たされちゃってるんだよね~」
みんなの部屋も出来たし、テラスも広くなった。
「あっ」
そういえば日本人ならではのお約束を忘れていた。
「チカチカさん! 家の側にお風呂って可能ですか」
もはや家のレベルアップでもなんでもないが、多少強引にお願いしてみる。
チカチカッ
「おお~!」
とりあえず言ってみる作戦が成功した。言っておいてなんだが許可が出るとは……。
家の中はジメジメしそうだったので野外でお願いしておいて良かった。
喜んでいると地面がごごご、と少し揺れた。
「何? お願いしたやつ?」
揺れはすぐおさまったのでテラスから下を覗いてみる。
「……温泉?」
そこには本気のお風呂が出来ていた。
湯気が立ち上り、まさしく露天風呂――。
「……チカチカさんってまじですごいよね……」
すごいとは思っていたけど、まさかこんな事まで一瞬で成し遂げてしまうとは……。
「チカチカさん本当にありがとうございます」
きっちり角度のお辞儀をして感謝を伝える。
クローゼットから着替えとタオルを取って来て、お風呂を堪能だ!
「キイロ、下の温泉に着地する前にふわっとしてもらえる?」
「ぴちゅ!」
まずは飛び込みを堪能する事に。直前でふわっとしてもらえればケガもしないだろう。
ここでは温泉のマナーなんてものは存在しない。私がマナーだ。
服を全部脱いで手すりから身を乗り出す。完全なる変態だが、それはその光景を見る人物がいてこそ変態となりうるわけで――「キャキャキャキャン!」
「うるさっ! ダメ! 私が1番に飛び込むの! ダクスは危ないし」
こればっかりは譲れない。
するとエンが顔でダクスをぐいっと手すりから離し、マッチャがナナの背中に乗せた。
「みんなありがとう」
いいチームプレイだ。
「じゃあ飛び込むから! キイロ頼むね!」
えいやっとテラスから温泉に向けて足から飛び込む。
もうすぐ温泉に到達するというところで、落下するスピードがゆっくりに。
「――ぶはあっ!」
見事な着地を決めてしまった。
「いや~おもしろかった!」
思ったより深かったせいかより楽しめた。
「キイロ~! ありがと~」
テラスを見上げてお礼を言うと、キイロとロイヤルが手すりの上にいるのが目に入った。
「ちょっと待って! すみっこに寄るから!」
慌てて移動した途端に2人は弾丸のように温泉に突っ込んできた。
どぱん!
――そして浮かび上がってくる2人。
「ぴちゅ」
「キュッ」
「楽しいよね~」
満足そうな2人と温泉の中をすいっと泳ぐ。
他のみんなはテラスの階段を下りている。
マッチャに抱えられたダクスは不満そうだったが仕方ない。
「あ、荷物ありがと」
後で全裸でテラスに取りに行こうと思っていた着替えをみんなが持ってきてくれていた。
温泉は周りを岩のようなもので囲まれているのでそこに着替えを置き、みんなで温泉を満喫する。
温泉は広いのでみんなが入ってもまだまだ余裕だが、ボスは尻尾だけつけてゆらゆらさせていた。
長く入るために温度が下がってちょうど良い。
今日は少し気分が落ち込んだがだんだん元気が戻ってきた。
明日からもみんなと仲良く生活していこうと、温泉につかりながら改めて思った。
次回視点変わります。




