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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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HITOMISHIRI

 



 人間が貢物の船に乗って島にやって来ようとしている――。

 そんな予想外の出来事におたおたしてしまう。



「なんで? 島には近付けないのその人達は知ってるはずだよね?」



 ボスを見上げながら質問すると、知ってて近付こうとしているという事を教えてもらった。

 さらには、陽が昇った頃から近付けるギリギリの範囲で、船が昨日と同じく何隻か留まっているという事も――



「昨日も? えー、ほんとに何なの? なんのイベントなの、これ」



 なんの引き金でイベントが発生したのかさっぱり分からない……。

 いや、こちらに来ようとしているのは確実に注文書が原因だとは思うんだけど……。それにしても昨日? 



「ぴちゅ!」

「キュッ!」



 うろうろとせわしなく歩き回っていると2人から、吹っ飛ばしてくる? と恐ろしい提案を受けた。



「いやいやいや!! 大丈夫! 吹っ飛ばさなくても大丈夫!」



 必死で2人を止めると少し残念そうにしていた。この武闘派コンビは気を付けて見張っていないと……!

 みんなも挙動が怪しくなってきている。やめて。



 いや、でも待てよ? 向こうから来てくれてるんだよね? あれ、これってラッキーなんじゃ――


 言葉は通じるから意思疎通は問題ない。欲しいものをあれこれと注文できるし、現地人との交流ミッションも達成できる。船に乗って彼らの所まで連れて行ってもらうだけで良い。



 今がチャンスかも……! 

 そう思うが、予想外の突発な出来事になかなか決断できない。



「うー、どうしよう」



 とうとう砂浜に座り込んでしまうが、そこでハッと自分の今の恰好を思い出した。

 完全に初対面の人様の前に出る恰好じゃない。

 そこまで思い至ると気持ちが楽になった。出来ない理由をみつけてしまったからだ。



「今日はこんな格好だから無理だね。うん、無理。これはしょうがないんだ。待たすのもあれだしね」



 なんとなく安堵しながらボスに続けて言う。



「ボス、透明になって向こうを偵察出来る……? 何を考えてるのか知りたいんだけど……」



 申し訳なく思いながらもボスに頼んでみる。

 するとボスは顔を私に摺り寄せて、まかせろと言いながら透明に変化していった。



「ありがとうありがとう! よろしくお願いします……!」



 全力で感謝を伝える。


 待っている間不安だったのでみんなにぎゅうぎゅうと全方位から挟んでもらった。

 癒し(物理)ってこういう事だなと納得した。






 みんなのホワホワでまどろんでいると、ボスが偵察から戻って来た。


「おかえり~! どうだった!?」



 勢いよく尋ねると、彼らの行動の理由は至極簡単なものだった。


 いわく『神の経典が理解できずに信徒として申し訳ない、詫びなければならない』という事らしい。



「経典って……。いや、ただの絵なんですけど。ペラペラの紙なんですけど」



 自分の絵がまるで理解されていない事に愕然とする。


 上手くもないけど下手でもないとは思うんだけど……。こちらの人はプロレベルの絵しか見た事がないんだろうか。写実主義というか。


 なんとなく自分の絵心が無さすぎるとは思いたくない。謎のプライド。



「いやーまいったねー。伝わってないよ、全然」



 ハハハと笑ってみたが気持ちは晴れない。


 少し落ち込んだ私をみんなが気にかけてくれる――中にはドカンとやってこようか? という物騒なものもあったが。



「こうなったら自分で行動するしかないか~」



 避けていた問題に向き合わなければいけない時がきたようだ。

 まだまだ問題は先送りにしておきたかったがしょうがない、美味しいご飯の為だ。あと愛と光のエネルギーの為。



「初対面の人達か~。しかもファンタジー世界の住人。緊張するな……」



 人見知ってる場合じゃないけど人見知りたい。



「エン、ちょっと船がいる方の島の端に連れて行って。ばれないようにひっそりとね」



 ひとまず偵察するという逃げ道に逃げ込んだ。


 ボスから「島の周りは人間にはぼやけてうまく見えないから乗っていく?」と言われたが、時間をなるべく引き延ばしたかったので陸路から行く事にした。すんません。


 どうせ洗うからと、濡れた下着のまま服を着てエンに乗り込む。ダクスとロイヤルも前に乗せ、気が重い偵察に出発した。





 木の滝エリア、農業予定エリアの間を通るように島の端まで進んで行く。

 エンは私の気持ちを察してくれているのかのんびりと移動してくれているが、進み続ければいつかは到達するもの。とうとう崖の近くに到着してしまった。



 エンから降りて木の陰からそっと、船が停泊しているだろう方向に視線を向ける。



「あれかー」



 ぽつぽつと船らしきものが見える。そして1番手前に1番小さい何かがあるのは分かるがそれが人かどうかは判別出来ない。視力は改善したが、それでも見えない距離らしい。



「思ったより島から離れてるね」



 距離があることに少しホッとする。

 しかし、偵察したもののさほど状況の改善には役立っていない。



「う~ん。しょうがない、お風呂に入って対面の準備でもしますか」



 緊張することはさっさと終わらすに限る。

 みんなは砂浜で待っていてもらい、エンに乗り込んで家に向かう事にした。










「チカチカさんただいまー。街の人が島の近くまで来てるそうなので会ってきます」



 報告しながらクローゼットを開けて洋服を吟味する。



「初対面なんですけど……緊張しますね~。これで頼まれてるエネルギーをたくさん集められるようになれば良いんですけど……」



 そう呟くように言うと、チカチカさんは優しく光ってくれた。

 まるで励まして応援してくれているかのような光り方に、肩の力が抜けてくる。



「もし危なくなったらフォローお願いします」



 笑いながら頼む。

 少なくともボスには一緒についてきてもらうので、そんな事はあり得ないとは思うが冗談ぽくお願いしておく。

 するとチカチカさんは高速でチカチカしてくれた。



「ありがとうございます」



 お礼を言って選んだ服をカゴに詰めていく。

 選んだのは、この島に来た時の服装一式だ。こちらの世界の服を着ていて万が一不審者に思われても困るのでこれを選んだ。



 <地球>さんの演出に関しては余計な事をするなあとちらっと思ったが、身を守ってスムーズに任務を遂行するためには必要だったのかも知れない。

 服装などから明らかな異物感を出した方がすんなりこの島の住人だと理解してもらえるだろう。



「じゃあいってきます」



 念の為虹色ナイフも持って、木の滝に向かった。





 木の滝に着くと、今日はゆっくりせずに水に頭までざばりと浸かる事でお風呂は終了した。

 簡単に髪を乾かして砂浜に戻る事に。

 麦わら帽子の中に髪を入れ込んで顔を隠し気味にする作戦なので適当でいい。






 砂浜に戻ると、そこには新たな小舟が――。



「何これ?」



 みんなに質問すると、人間から送られてきたそうだ。

 何艘か送られてきたが、他の船は生き物が乗っていたので(人間を含む)この小舟だけを島に運んだそうだ。



「いきものぉ? 死んでる動物でも持て余してたのに……」



 そう言いながら船チェックをはじめる。

 現代の恩恵をうけて生活してきた身としては、加工品をもらえればそれでいい。

 ペットもいらないな。仲間兼見た目動物のみんながいるから間に合っている。



 新たな船はいつもの小舟よりは少し大きめの船で、装飾もそこまで華美ではない。

 そして中央に大きめの白い箱。棺に近い形と大きさだが、もらって家に置いてある箱にどことなく似ている。


 これももらう事が決定した。

 白色の贈り物は全体的に繊細でセンスが良い気がする。女子が好きそうとも言うが。



 少しどきどきしながら箱を開けてみる。



「えー何これ。料理?」



 そこには、ナイフやフォークが数種類入った木の入れ物に、フレンチやイタリアンで見かけそうな銀色の丸い蓋がいくつか。

 銀色の蓋を取ってみると――



「コース料理だ!」



 現代のコース料理とは量と盛り付け方からして違うが、スープにサラダに魚に肉料理にパン、デザートと思しきものが見て取れる。しかもパンはたくさんある!

 コース料理と思った方が楽しさが増すのでコース料理と言い張る。スープとかタレとかこぼれまくってるけどね。


 正統派宝箱に入っていたような食器類に盛られたそれらからは良い匂いがしている。

 スープを飲もうとスプーンですくうとみんなに止められたので毒味が終わるまで待つことになった。



 なんとなく大丈夫な気はするんだけどな……。海外旅行に行ってお腹を壊すような環境じゃ任務に差し障りがあるだろうし、信徒を自ら名乗ってる人達が毒を仕込むはずもないと思うんだよね。

 記念すべきひと口目をもっていかれた悔しさでは断じてない。



 そしてみんなの許可が下りたのでスープから口にする。



「うん。素材の味を活かしてる系の味だ。まだあったかいし美味しい!」



 立ったまま勢いでスープを飲み干してしまいそうになったので、慌ててスプーンを置く。



「これ、お昼ご飯にしようか」



 腰を落ち着けて食べたいので箱の料理をいったん船の上に乗せ、箱を砂浜に移動させてもらった。



「マッチャ、この箱の上にお皿を一緒に並べてくれる?」



 お願いして2人でお皿を並べ始める。

 足元を手伝いたそうにダクスがウロウロしているけど。ごめんね、ちょうどいいお仕事はないんだ。



「では、いっただきまーす!」



 並べ終ってさっそく食べ始める。



「おいしいね~。お肉おいしいね~」



 お肉が美味しい。

 人に作ってもらった料理ってなんでこんなに美味しく感じるんだろう。

 そして調味料って偉大。

 みんなにも取り分けながら食べ進めていると、シャララとレベルアップの音が聞こえてきた。



「あ、レベルアップした。そっかあ、これいちおう初交易成功って事なのかな」



 あの食事の絵を見てこの料理を贈ってくれたんだよね、きっと。解読成功したのかな?

 深く考えずにもりもり食べてたな~。それにしても午前中に頼めば当日届くあれみたいな速さだな。

 とてもありがたい。

 布団に関しては伝わらなかったんだろうな。しょうがない、洞窟内の布をみんなの布団代わりにしよう。




 お腹いっぱいになったところでお昼ご飯は終了した。



「いっぱい残っちゃったね。残りは夜に食べよ」



 箱の中に残った食べ物をしまってボスに家まで運んでもらう事にした。



「あー、今日はいっぱい頑張ったね~。もう家に帰ってゴロゴロしよっか~」



 洞窟内の荷物も運びたいから何往復かしないと、とこれからの計画を立てていると大事な事を思い出した。



「あっ! 初対面!!」



 新たな贈り物にすっかり忘れていた。



「……いちおう意図は伝わったんだよね? じゃあ対面は今回じゃなくてもいいかなー……」



 今は、よしやるか! のテンションはすっかり大人しくなっているのだ。



「ボス、この船を送り返すついでに、お詫びする為にこの島に来ようとしている人や生き物も優しく街に送り返せる?」



 ボスに聞くと、出来ると返事が返ってきた。



「じゃあ、あたらしく注文書描くからちょっと待って」



 急いで洞窟に紙とインクの入ったカップを取りに行った。



 紙には、開いた状態の本にペン、筆、そしてそれを持っている人間の絵を書きこんでおいた。

 代金は同じコインを2枚。それらを船に乗せて送り返してもらった。


 今度もうまくいきますように。






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