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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録4:ばっちりはっきり見えました

 





 みんな昨日までとは違った緊張感を持ちながら監視を続けていた。



 もうそろそろ“赤”の鐘が鳴る頃、神の島方面の監視を続けていた1人が少しだけ席を外した。

 たまたま交代要員がその場にいなくすぐ戻ってくるとの事だったので、数分程度ならと遠見の装置を覗き込み監視を引き継ぐ。

 カセルも合わせて他数名も監視しているので問題はないだろうと思ったのだ。




 ふと、何か胸騒ぎがして遠見の装置を最大限近く見えるように設定し島のぼやけている部分とその上空との境目に焦点を合わせる。

 今日もよく晴れた日だった。島の上空はぼやけることもなく遠くまで見渡せる――はずだった。





「カセル!!!!」



 それはもう悲鳴に近い叫び声が出た。



「島の上空!!」



 何とかそれだけを力を振り絞って伝える。


「おう!」



 カセルをはじめ、風の一族が一斉に島の上空に目を凝らすのが感じ取れた。




 はじめはぼやけている部分だと思った。

 しかし、それはだんだんと上空に上がるにつれてはっきりとした形を現し始めた。





 身動きもせずに空に浮かび上がっているのは見たことがない生き物たち。




 そしてその中央にはひとりの人間が――




「誰か領主様を連れてきてくれ! 緊急事態だ!!」



 カセルがこんな厳しい声を出すのなんて今まで聞いた事がない。

 自分の心臓がどくどくと異常な速さで脈打ち手にはじっとりと汗がにじんできた。



 あれは……あれらはなんだ?

 あの生き物たち――人間の肩にとまっているのは鳥か?

 いや、そもそもなぜ浮いている? どうやって?

 あれは人間なのか?



 いくつもの疑問が浮かんでは消えていく。

 彼らはこちらに背を向けているようで表情は見えない。



 魅入られたようにその光景から目を離せないでいると、部屋が騒がしくなった。



「どうした」



 抑揚のない声――領主様だ。



「ご確認下さい」



 カセルがそう言う声が聞こえたと思ったら隣の遠見装置に誰かが座り込んだのが気配でわかった。



「そうしよう」



 隣から領主様の声が……!



 ひっと声を上げそうになるのを何とか堪える。


 風の一族でもない俺が何やってんだよと監視を他の人に任せようと行動しかけた時、上空に浮いているおそらく人間だろうと思われる者がこちらを向いた。




「ひいっ」

「ほう」



 俺と領主様の声が重なった。

 どっちがどの言葉を発したか小さな子供でも間違えないだろう。



「女か……? ――水の一族に急ぎ島に向かうように伝令、上空にいる何者かを刺激せず島の周囲で待機。風の一族も数名連れて行くように。これは最優先事項だ」



 領主様が冷静に命令を下すと周囲は慌ただしく行動を開始する。



 俺も遠見の装置から離れたいが上空の人間と目が合っている気がして目が離せない。

 領主様が呟いた通り上空に浮かんでいる人間は女性のように見えた。



 こちらをただじっと見ている彼女は長い黒髪をしている。

 周りを生き物に囲まれている様子は、彼女が生き物たちにとって大事な存在であるかのようだ。



 じっと彼女を観察していると口を開いたのがわかった。

 何かに話しかけているようだ。ついついその表情をもっと見たくて最大限まで近くに見えるように設定してあるにもかかわらず手元の術式をあれこれといじってしまう。


 その時、彼女の肩にとまっている鳥のようなものがこちらに向けて羽を広げて見せてきた――ように見えた。



 威嚇されてるのか……?



 もしかしてこちらを認識してるのではないかと嫌な汗が流れそうになった時、彼女と生き物たちはすうっと島の内部に消えていった。








「…………」



 誰しもが言葉を発しない。

 それもそうだ。今自分の目で見たものが未だに信じられない。




 その静寂を破ったのは領主様だった。



「私も島に向かおう」


「「「「……えっ」」」」



 皆の声が揃った。


 そりゃあこの場にいる面々はそうなると思う。

 安全かどうかもわからない所へ1番偉い立場の領主様が自ら向かうなんて。



「領主様、安全も確認できていない所へ向かうのはご遠慮下さい」



 風の族長がすかさずその提案を諫める。



「問題ない」



 領主様もすかさず答える。



「はは、領主様が対処できないんじゃ俺達が何したって無駄ですもんね」


「あなたは少し黙っててもらえるかしら?」



 深く考えてなさそうな地の族長にぴしゃりと言うのは理の族長だ。



「まあまあ」



 2人の間を宥めるのは技の族長。


 周りも領主様が自ら向かうのは反対のようで思いとどまってもらえるよう説得している。



「俺も近くで見たい」



 ついに領主様の本音が出た。

 なぜだろう少し親近感を感じる。


 しかしその希望は理の族長に一蹴され、結局「他国がこれを機に何かを仕掛けてくるかもしれません」の言葉で渋々諦めた。



 無表情だが残念そうにみえる領主様と一行が部屋を出るのを見送った後、改めてさっきの衝撃がよみがえってきた。


 監視を交代して休憩に入るとカセルに興奮を伝える。



「あれ人間だよな!? しかも浮いてた!」


「人間だと思うぜ~。しっかしふわふわしてた生き物に囲まれてたな! すげー触りたい」



 どことなくずれている感想を聞きながらも話は弾む。



「あれが島の神様なのかな? 若い女性だったぞ……。まあ神様なら見た目通りの年齢じゃないだろうけど……」


「どーなんだろうな。でも島にいるってことは間違いねーな」


「この街は大丈夫だよな……? ひどい事をしそうな感じには見えなかったし……」



 つい不安になってしまう。

 こちらが勝手に神様と呼んでいるだけで実際は全く別の存在だとしたら……?



「なるようになるって! 心配すんなよ。俺らじゃどうあがいても勝てそうにないし!」



 ばんばんと肩をたたきながらそんな事を言ってくるカセル。


 俺のまわりはこんな性格の人間が多いなと改めて思った。








 その後、気が抜けてしまったのもありややぐったりとしながら手伝いを続ける。



 “紫”の鐘が鳴った少し後、風の族長が部屋に入ってきて休憩中だったカセルがすかさず尋ねる。



「族長! 船が戻ってきているようですけどそっちで収穫ありましたか?」


「残念ながらない。今日は日も落ちてきたので一旦退却し、明るくなってから再度島に向かう事になった。次は貢物も船に積んで出港する」


「へえ~! 今回は何を贈るんですかね?」



 それは気になる。良いこと言うなカセル。



「今まで通りの物に加えて各一族それぞれが貢物を用意する事になった」



 なるほど。一族の力は神の島からの最たる恩恵だと言われているからな。そりゃあ感謝の気持ちを表したいだろう。

 ……まだ神様と決まったわけではないが。



「うちはどうするんです?」


「これから皆で話し合って決める」



 これから話し合って決めるようだ。俺はそろそろここから退散した方が良さそうだな。



「じゃあ俺は家族の所に戻ります」


「色々と助かった。おそらく明日には家に戻れると思う。ご家族によろしくな」



 まだいてくれよ! と騒いでいるカセルを無視し、族長に挨拶して遠見の部屋を離れる。









 家族はどこにいるかなとまずは城の書庫に向かう事にした。



 書庫を覗いて見るとたくさんの人が昨日と同じように必死で調べ物をしていた。

 父達もいた。が、近付いて行くと何やら困っている人が。



「あ、あの、皆さま……。こちらの絵に関して今すぐ過去の文献を調べて欲しいのですが……。領主様のご命令で……」


「ちょっと今良いところなんで少し待ってもらえるとありがたいですね」

「申し訳ないですが座ってお待ちいただけますか」


「え、いや、あの……」



 なぜだろう……、涙目の彼を見ていると自分を見ているようで応援したくなる。



「父さん、兄さん。この人が持ってる絵に描かれてる生き物と人間って空に浮いてて神の島に消えて行ったんだよ」



 そう言った途端騒がしかった室内は静まり返った。



「え……?」



 なんだ、なんで静まり返るんだ?



 突然の事態におろおろしていると、室内にいた全員――涙目の彼も含む――がぐるんと音がしそうな勢いで顔を向けてきた。



「どういうことだ!?」

「空を飛んでいたのか!?」

「人間が浮いていたのか!?」


「ちょ、ちょっと落ち着いて……!」



 みんなの顔が大変な事になっている。

 この食いつきよう……この人達今日起こった事を聞いていないのか?



「父さん! 説明しますから皆さんを落ち着かせてください……!」



 レオン兄さんに詰め寄られながらも頼む。



「よし、わかった。さあみんなでまとめて話を聞こう!」



 みんな少しは落ち着いたものの、この後しばらく説明させられて中々離してくれなかった。

 しかし涙目の彼にはとても感謝された。また涙目だった。







「……疲れた……」



 ソファーに座りしなびた雑草のようになっていると父が謝ってきた。



「すまんな。空に浮いていたと聞いてしまってはな……」



 すまなさそうに笑う。



「長年の研究材料なんだからしょうがないとは思うけど……。そういえば母さん達は今どこにいるの?」



 そう聞いた途端父が顔を背けた。



「……何?」



 その反応はなんだ。



「あーいや、その……。城壁に上がって警備に参加すると言い出したからな、城の使っていない部屋で待機してもらっているんだ……」


「…………」


「…………」


「わ、わかった。その部屋ってどこ?」



 とりあえず一度様子を見に行った方が良さそうだ。










 書庫から少し歩いたあと教えられた部屋に着いたが扉を開けるのが怖い。

 そっと扉を開け、中の様子を窺う。





「だからその武器だと破壊力が足りないと思うのよ」


「あらやだお母様。生かして敵から情報を得る事も大切ですわ」


「そうね、アレクシスの言う事は間違っていないわ。でもアビゲイルの言う事も一理あるわね。なら追加で飛び道具を持つというのはどうかしら? しびれ薬を塗っておいてもいいかもしれないですよ」


「さすがお祖母様! ちょうど新しい武器を新調しようと思っていたところなんです!」


「お義母様、私達も新しい武器を作ってもらいません?」


「そうね、控えの武器があってもいいわね。ギルバートに相談してみましょう」


「私はフィンセントに強請ってみますわ」


「じゃあ私も――」











 ――俺は静かに扉を閉めて見なかった事にした。





次回視点戻ります。

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