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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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神の愛し子の愛し子である男の回想録

 



 その日も良い天気だった。



 そんな日に、再び光の柱が立ち昇った。祈りを込めて毎日見ていた、神の島に。









「おいアルバート! もしかしてもしかするんじゃねーか!?」


「落ち着けって……!」



 身振り手振りで興奮具合を伝えてくるカセルだが、着ている衣装がばしばし当たって痛い。



「こんなに早くお姿をお見せ頂ける訳ないだろ……。祝祭だからエスクベル様がご配慮下さっただけだと思うぞ」


「そんなのわかんねーだろ? 祝祭の初日に光の柱だぞ! 光の柱!」


「うるさいなあ……」



 そう注意するも、神の踊りを奉納するための舞台の準備をしている住民はみんな手を止めて口々に騒ぎ合っている。



 でもな……期待した分だけそれが叶わなかった時の事を考えるとな……。

 俺はそういうのを何度も経験しているし。

 なので「まさか」という気持を押さえつける。



「カセル、準備を進めないと祝祭が始まらないぞ」



 数か月も前からこの7日間の祝祭の為に街一丸となって準備を進めてきたおかげで、今クダヤの街はこれまでに見た事がないくらい華やいでいる。

 他国からの訪問客も多い。



「でもな~絶対ヤマ様だって! 今まで光の柱が現れて何も無かった事は――おい、領主様がこっちに向かってきてるぞ」


「……そうか」



 嫌な予感がする。



 そしてあっという間に領主様がやって来た。……何故か俺の目の前に。



「光の柱だ」


「は、はい」



 俺の目の前でこちらを凝視している領主様は、昨年の祝祭時に比べて明らかに若返っている。

 しかも身長も伸びているし、髪も伸ばしている。

 本当にこの人はどこを目指しているのか……。不老不死だろうが……。



 よくヤマ様のお店に籠って何やらしているようだが、族長達が言うには「自分だけぬけがけしようとしている」そうだ。

 体に良いと聞けばありとあらゆる物を取り寄せているからな……。そこでこっそりと不老不死について研究しているんだろう。

 ばればれだが。




「領主様、私はヤマ様のお帰りだと考えているんですよ~」


「私もそう考えている。何しろ今回は私の1人演武があるからな。ぜひご覧頂きたい」


「ですね!」



 領主様の自分をきちんと主張していくところは見習おうと思う。そこは。



「急ぎ祝祭の準備を整え、何があっても対応出来るようにする」


「はいっ」



 慌てて準備を再開する為歩き出す。

 しかし領主様が俺の隣を歩いている。


「あの……?」



 そおっと質問する。



「あの時は船に乗っていてヤマ様が私の所に降臨しにくかったからな。今回は陸で待機しておく」


「あ、じゃあ私もそうしますね~」



 だからなんで俺を付け回すんですか……。理由はなんとなくわかりますけど……。



 絶対領主様はまだ根に持っているのだ。

 あのお別れの際にヤマ様が最初に俺の所に降り立ち、なおかつ去り際に抱きし――あああああああ……!


 あの瞬間を思い出し顔がほてる。

 が、同時に領主様の視線と舌打ちを思い出したら冷静になれた。一族の人間の羨望の眼差しも。

 それと家族からの強制抱きしめ。背骨が折れるかと思った。




「アルバート~!」



 その家族の声が聞こえてくるんだが……。



「光の柱よ!」

「お母さん慌てて来ちゃった!」

「アルバートは身だしなみを整えておきなさい」

「カセル、お父さんを見掛けてない?」



 女性陣がいつもより着飾って現れた。カセルの母親まで。

 拝謁許可者の親族という肩書で、出入りを規制されているこの場所までやってこれたと思いたくはないが、当たっている気がする。



「アレクシス、ジーノは俺が抱っこしとくね」

「ジーリ、次俺な!」

「兄さんは自分が思っている半分の力を意識して下さいね」



 残りの家族も。

 みんなそれぞれ興奮した顔をしている。



「姉さん、ジーノまで連れてきたの……?」


「当たり前じゃない。光の柱なのよ? それに叔父であるあなたの雄姿を見せないと」




 姉とジーリ義兄さんの息子であるジーノは、数か月前に地の一族の男の子として誕生した。

 姉のかっこよさからして男の子だと予想していたが本当に男の子だった。




 ヤマ様が神の戦いに赴いてから、クダヤではどんどん新しい住民が産まれている。そしてこれからも産まれる予定だ。


 ヤマ様の功績を語り継ぎいつでも帰還のお出迎えが出来るようにとの事らしいが、こういう形で結果を出すクダヤの住民は改めて凄いと実感した。

 なかなか子供ができなかった姉も出産した事により、神の力の恩恵をまざまざと見せつけられた気がする。


 でも俺はまだ結婚できていない……俺に神の恩恵は……。






「領主様! ――あら可愛らしい」



 騒がしく水の族長もやって来た。

 あまり見る事のない柔らかい笑顔でレオン兄さんに抱っこされたジーノの手をそっとつついている。


 技の一族である、我が家の絵を何枚も描いてくれたあの涙目の彼に子供だけ欲しいと強引に迫ったというのは本当だろうか……。彼が不憫でしょうがない。



「ローザも来ていたのね」



 理の族長のイシュリエ婆さんを先頭にお偉いさん達もぞろぞろと集まってきた。



「アルバートの近くにいた方が良い気がする!」



 わははと背中をばんばん叩いてくる地の族長。技の族長が止めてくれて助かった。

 みんな神の島方向を注視しながら光の柱について話し合っているが、俺を取り囲むようなこの陣形はどういう事だろうか……。



 そしてその陣形に加わって欲しくない人まで加わってきた。



「神の愛し子の愛し子であるアルバートさんの近くにいれば御使い様に触れてもらえるんですよね?」



 ララウルク首長だ。その呼び名は本気でやめてもらいたい。



「皆様申し訳ありません。――ララウルク首長、他国民の我々はここは遠慮しておきましょう。あちらに用意して頂いている席で待っていましょう」



 良かった、ユリ王子が止めてくれた。

 クルトさんと一緒に来たようだ。



「ヤマ様の愛し子は1人とは限らない」



 領主様はどういう対抗の仕方をしてるんですか……。




 大使館が完成してからユリ王子は頻繁にクダヤを訪れている。王族なので大使館の駐在担当者にはなれないようだが、未だ使者の責任者ではあるようだ。

 たまに王女様もやってくる。


 ララウルク首長は大使館で働くと言い張っているが今のところ誰からも賛成を得られていない。残りの首長達ももちろん反対している。

 にもかかわらずユリ王子にくっついてクダヤにやって来るので、本来のアルレギアの大使館担当者がいつも困っている。

 領主様が言うには「追い返すと変な知恵を働かせて面倒だ」という事で、クダヤ側からは表立っては何もしていない。

 もちろん監視はしっかりついている。



 ヤマ様がいなくなったにもかかわらず、友好的な態度を崩さないこの2国の存在はありがたいと思う。

 そして今、マケドの大使館の話も現実味を帯びてきている。







 光の柱目当てに数え切れないほどの人がいつの間にか港に集まっていた。

 その光景を見た姉がぽつりと言葉をもらした。



「ヤマチカちゃんも早く戻って来られればいいわね」





 神の力なのか、あの時別れを告げに来たヤマ様と商人のヤマチカさんが同一人物だと理解した人間はいなかった。

 髪の色も違うし、全体的な雰囲気が異なっていたので余計そうなのかもしれない。


 そこで領主様は、ヤマチカさんの正体を知っている人間には『ヤマ様がご不在の間、力を神の為にお役立てる為世界を放浪する』と説明し、姉などの知らない人間には『新たな親族が見つかったので会いに行っている』と説明していた。


 あの場にいた目と耳が良い風の族長がヤマ様のお顔を見て商人のヤマチカさんと結びつけなかったのも、その説明の後押しになっていた。




「――領主様!」



 とその時、ライハがジョゼフさん達を引き連れてやって来た。

 その焦りをはらんだ様子に周りから笑顔が消えた。



「どうした」


「か、神の祝福を受けた子供が――」



 ライハの視線を受け、真剣な顔をしたジョゼフさんが抱き上げていたガイアちゃんを下におろした。


 するとガイアちゃんは数歩前に進み、表情を消した顔で神の島を指差して言葉を発した。



「きかんされた」



「やくめをおえられた」





 帰還……? 役目……?


 ……これは1歳程度の子供が話す内容ではない。ありえない。



「光の柱が出現してから急にこの言葉を繰り返し始めまして……!」



 ジョゼフさんとミュリナさんは狼狽えており、周囲の人間は驚いた顔をしたまま誰も言葉を発しない。



 ヤマ様が帰還される……?

 ゆるゆると理解した瞬間、かっと体が熱くなった。



「カセル……!!」


「おう!!」



 カセルに声を掛けて船に乗り込む為走り出す。

 背後から家族の声援が聞こえた。


 領主様や族長達も俺の周りを離れず一緒に並走している。



「わっ……!?」



 いつの間にか白い守役様が俺の肩に乗っていた。

 たまに拠点や店でお姿をお見かけしていたが、これで本当にヤマ様が帰還されたという事がはっきりとわかった。



「お供致します……!」



 白い守役様にそう声をお掛けした時、陽射しが急に遮られた。



「……あ……」



 見上げた空にはあの、巨大な守役様らしき生き物が旋回していた。


 そしてそのままこちらに向かって――



「ひっ……!」



 咄嗟に顔を腕で隠し、人々の叫び声をかき消す強い風に耐える。






「アルバート……!」



 カセルの感極まった声に目を開けると、目の前に降り立った巨大な守役様の足元に人が立っていた。



 あの帽子のような被り物は――






「……あー……ただいま戻りました……」





 ヤマ様のお声だった。




「お、おかえ――」

「ご無事のご帰還、お喜び申し上げます」



 領主様が俺の前に割って入った。



「またお1人だけ!」

「そうですよ~! ――お帰りなさいませ!」

「あなたは声が大き過ぎるのよ」

「まあまあ、御使い様の御前だぞ」



 ……お偉いさんが揉め始めた。



 でも目の前にヤマ様がいる。ヤマ様だ……!



 ヤマ様に一生懸命話しかけているお偉いさん達を横目にカセルと笑いあっていると、守役様に懐かしい威嚇をして頂いた。


 羽を持つ守役様、4本足の小さな守役様に威嚇されて嬉しく感じるなんて……。



 そして空に浮かんでいる雲が突然人の形をとり、手の形をした雲に俺だけ包まれて持ち上げられて気絶するかと思ったが、あの時の神のお姿も再び拝見する事ができた。

 こんな幸せがあっていいのだろうか。





 また、あの日常が戻ってきた。




 そしてこの日の出来事ももちろん後の世に語り継がれる事になった。

 祝祭で繰り返し繰り返し人々の口に上り、老人が子供に聞かせる昔話として――









 **********







 この回想録を手に取った後世の者へ


 神に、ヤマ・ブランケット様に、変わらぬ忠誠を。




 “初代拝謁許可者” アルバート 










皆様に感謝を込めて

シーグリーン

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[一言] おもしろかったです。 3回目です。 時々読みたくなります。 是非消さないで頂きたいです。サンリエル好きです。 このお話をありがとうございます。
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