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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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足元には注意をはらうもの

 











「たいまつ的な何かはないの?」




「待って、誰が先頭いく? 飛べるからキイロにする?」




「長めの棒持って床確認しながら進まなきゃね!」






「キャン!」


「あ! ダクス! ちょっと危ないよ! ……え? 危なくないの?」



 ……せっかくの洞窟探検が。


 いや、危ないことが起きてほしい訳じゃないんだけど……。気持ちの問題というか……。

 せっかく冒険の脳内テーマ曲流してたのに。



 ダクスが先頭切って中に走って行ってしまったので私も続く。ロイヤルとボスは砂浜で待っているそうだ。



 洞窟は特にかがまなくても入れる大きさで、人が2人は並んで歩けそうな幅がある。

 はじめは暗かったが、少し歩くとどこからか差し込んでいる陽の光が、洞窟内の水晶のような透明に輝く石に反射しているようで明るくなってきた。そしてそう歩かないうちに開けた空間に出た。


 そこは直接外の光が降り注いている箇所があり――




 ――きらきらと輝くコインが山積みになっていた。






「ざ、財宝発見! もうクライマックス!」



 びっくりした。こんなあっさり財宝が……!

 世のトレジャーハンターにお詫びする事態だ。

 そしてレベルアップの音も聞こえてきた。やった、リクエストしてないけど楽しみ。



「これ、お金? しかもこっちのは腕輪? 宝飾品だよねこの辺は……」



 あたりを見てみると絵画に剣、食器類、布なんかも置かれているし、鳥を模った像まである。


 そしてひときわスペースを占めているのはたくさんの木の樽だった。

 なんだろうと近づくとアルコールの匂いがつんと漂ってきた。



「これ、お酒じゃないの?」



 マッチャがどうぞと言うので斧で蓋を割ってみた。

 途端に濃厚な香りが当たり一面に広がる。



「うわっ酔いそう。というかこれ飲めるの? よく何年物とか聞くけど怖くて飲めないんだけど……」



 私が躊躇っているとマッチャは財宝の山からカップを取り出しみんなで飲み始めた。



 その高価そうなので飲むんだ。それ、お腹壊さない?

 そしてみんなが食器とかを認識していた理由はこれなのかな? あそこに人間が描かれた絵もあるし。

 でもみんなはチカチカさんの子供のようなものだからきっとそれだけじゃないんだろうな。



「ねえここにあるものってどうしたの? みんなが食器の使い方知ってるのもここにあるから?」



 聞くところによると、これは近くに住んでいる人間達から定期的にこの島に向かって船に乗せて贈られた物のようだ。

 さっきみたあの街かな? お供えのつもり?


 みんなは食器の使い方はともかく、贈られてくる物がどういった使い方をするのかぼんやりと知識としてあったそうだ。

 やっぱりハイスペック。ダクスは残念ながら無かったが。

 いいんだよダクスはそのままで。



 贈られてくるのはお酒や食べ物が多かったが、こういったコインなどのそれ以外の物もたまに贈られてくるのでここを保管場所にという事らしい。


 船だけ島に入れて、もらえるものはもらう精神のようだ。……そのたくましさに憧れる。



「あのー……、ちなみに食べ物ってどんな感じのがきちゃったりするの? また贈られる? どのくらいのペース?」



 こういうのを矢継ぎ早にというんだろうな、とは思うが期待があふれ出てくるんだからしょうがない。


 正直に言うと、米とかパンとか肉とか麺とか食べたい。つまりお腹にたまるもの食べたい。

 このままのヘルシー路線ではいつか飽きがくると恐れていたのだ。食べられるだけありがたいんだけどね。


 みんなが言うにはペースとかあまり気にしてないからわからないけど、もうそろそろ贈られてきてもおかしくないよという事らしい。しかもお肉が含まれている場合も……!

 それにしてもみんな雑食なのね。グルメだわ。



 よし! 何が贈られてくるかはわからないが非常に楽しみだ! 

 腐っちゃうともったいないしね。みんながくれるっていうから食べます! すみません街の方々。

 船で運ばれてくるみたいなんだけど船ごともらっちゃうとやっぱりまずいかな? さすがに図々しいよね?


 みんなは船はいらないから送り返してたみたいなんだけど……。


 うう~ん。みんなは問題ないとは言ってるけど、今後その船で街に上陸した時に泥棒呼ばわりされるのが心配だし、私に敬意を払ってる訳でもないしな……。


 ま、船が来てから考えればいいか。



「この布って私が使っても大丈夫?」



 おそらくこの島に対して贈ったのだから私が使うのは気が咎めるが、この布は欲しい。


 みんなはむしろ全部どうぞという勢いだったが布だけをありがたく使わせていただく。

 今後街に上陸する目途が立った時にはこのお金のようなコインも何枚かもらっちゃうけどね。後で返すから。



 いつからここにあるのかはわからないが置いてある布は使えそうだった。

 その内のひとつを選ぶ。深い紫色をしており渋い。

 お坊さんとかこういうの肩に掛けてなかったっけ? 



「この布も洗いたいからお風呂入りに行こうか」



 みんなに声を掛けて砂浜に戻る事に。



「キャン!」



 引き返そうとするとダクスがひと言鳴いて前足で何かを転がしてきた。

 くれると言うそれを拾い上げてみると、洞窟内のあちこちにある水晶らしきものの欠片だった。



「ダクスありがと」



 ダクスを抱っこしながらお礼を言う。



 綺麗だね~なんて言っていると、みんながもっといる? という感じで臨戦態勢に入ったので慌てて止めた。



「あぁ~! 大丈夫、ドカンとやんなくていいから! また今度お願いね!」



 危なかった。過激な採掘シーンを見せられるところだった。


 ダクスにもらった真珠の事もあるので贈り物の山の中から宝石ケースをがさがさと探す。

 それっぽい入れ物があったのでこれも貸してもらおう。

 さあ気を取り直してお風呂に出発。







 砂浜でロイヤルとボスに合流し木の滝に向かう。

 着いたら昨日と同じように火をつけて体を温める準備をする。



 ばばっと服を脱いで下着姿に。



「あ! こんな所に紋様が……!」



 左の足首の所にアンクレット風に<D>のイニシャル、そして左胸の心臓あたりに<B>のイニシャルが刻印されていた。



「なんだか今までとパターンが違う……」



 ボスのイニシャルは心臓の上という特別感満載な場所だ。

 ボスの特別感はなんとなく分かるがダクスの左足首はなんでだ?

 1人だけ足にイニシャルがある。やっぱりチカチカさんの言う、そういうもんなんだろうか。


 ま、いっか! いつかわかるよね。特に支障もないのでこの問題は深く考えない事にした。


 池に入ろうとすると、またすい~とナナが寄ってきたので乗せてもらい滝の場所へ。

 もちろんドリフッた。



 がしがしわしゃわしゃと頭を洗いながら街で石鹸があれば買おうと改めて決意する。

 そしてエンに乗り戻る。よどみない流れ作業でお世話されてるな私。



 岸に近付いたあたりで洗濯物を池に入れて洗う。手洗いって結構疲れる。



「あー洗濯機欲しい……」



 思わずポロリとこぼれる。


 するとみんなが、洗濯機って何? と聞いてきた。



「大きな樽に水を入れて、洗う物をそこに入れると水がぐるぐる回って自動で洗ってくれるの」



 この説明で大体は合ってると思う。


 するとボスがじゃあぐるぐるさせると言ってきた。



「え? ぐるぐる?」



 ボスの言葉に理解が追いつく前に、ゴオッっという音が聞こえてきた。


 はっと音をした方を見ると池の中心あたりに激しめの渦が出来ていた。



 ……あれって、海の男達が命がけで避けそうなレベルの勢いだよね。小さいけど。

 渦の周りが何事もない様に凪いでいるのがまた恐ろしい。小さいけど。



「ぴー!」

「キュッ!」



 恐々と渦を見ていると、キイロとロイヤルが渦に飛び込んだ。



「ちょっと! 大丈夫なの!?」


「ぴちゅ!」

「キュッ!」



 こちらの心配をよそに渦の中心から、大丈夫と飛び出してきた。

 うん、楽しそうで何よりだよ……。



「ボス、ありがとう。あの、あの勢いだと服が破れちゃうかもしれないからもう少し優しい渦にできる?」



 優しい渦ってなんだよと思いながら、みんな――特にダクス――が渦にじりじり近寄ってるのが目に入り慌ててお願いした。



 さっそく優しくなる渦。すごいなボスの力。



「ありがと~」



 ボスにお礼を言い紫の布も含めて渦に放り込む。

 少しほおっておけば大丈夫だろう。


 その時、ぐるぐる回っている衣類を見ながら流れるプールを思い出した。そして思い付いた。



「ボス! 尻尾を池の中に入れて。――そうそう。背中から池に向かって水を流せる?」



 そう、流れる滑り台である。


 ボスの背中に頑張って登り、池の水を背中から下に向かって流してもらう。



「いいよ~! 水流して!」



 勢いよく滑り降りる。



「うわはははー!」



 ざばんっ!! と激しい音を立てて着水。



「すっごく楽しいんですけど!」



 きゃーきゃー言いながら何度も繰り返す。

 みんなも楽しそうに滑っており、特にエンの立ち滑りはすごいと思った。








「そろそろ帰る準備しよっか」



 ひとしきり遊んだので池から上がり髪を乾かすことに。

 ボスにぎゅっと抱き着いて感謝の気持ちを伝えるのも忘れない。


 のんびりと飲んだり食べたりしながら体を温めていく。

 たくさん体を動かして美味しいもの食べて、みんなは優しいし家に帰ればふかふかな布団が待ってるって幸せ。



「あー幸せだね」



 そう口に出した途端真っ白な光に包まれた。



 ――まただ。



 髪の毛を見ると白の部分が増えていた。



 幸せって思ったら光ったって事は……、もしかして私の役割に関係しているのかも。チカチカさんも良い変化だって言ってたし。


 そう愛と光だ。集めてねって言われてる愛と光のエネルギー。

 今朝も幸せだなーって思ってたし。きっとそうだと思う。後でチカチカさんに確認しなきゃ。






 のんびりしている間に日が傾いてきたので家に帰る事に。

 家に到着し、まずは洗濯物を干す。夜干しになるが平気だろう。


 今日使った食器類も洗う。明日水を汲んできてくれるというのでマッチャに水瓶とカゴを渡しておく。

 そしてみんなと握手して別れた。今日も1日ありがとう。また明日。



「キャン!」


「ん? ダクスは戻らなくていいの?」


「キャンキャン!」


「そっか。じゃあ一緒に寝るか~」


「キャン!」



 ダクスはこの巨木の家で一緒に暮らしたいそうだ。いいぜ、大歓迎。

 ダクスの足を残った水で洗い、抱っこしてベッドルームに連れて行く。

 布団にゴロリと横になり息をつく。



「チカチカさん、そういえば今日レベルアップしたんですけど、家どこか変わってます?」



 それらしい箇所は見当たらなかったので聞いてみると、チカチカさんからの反応はなかった。



「どこも変わってないですか」



 チカチカッ



「家のレベルアップは終了?」



 ………………



「あれ……? もしかしてリクエスト待ちですか」



 チカチカッ!



 家のレベルアップは打ち止めかと思い残念に思ったが、単に私のリクエストを待ってくれただけのようだ。

 相変わらず優しい。



「リクエストは明日みんなと相談して決めますね。ありがとうございます。あと、今日また髪の毛の白い部分が広がったんですけど……、これって愛と光のエネルギーを集めたって事ですかね?」



 チカチカッ!



 うわお。レインボーだわ。やっぱり合ってた。

 この白い部分は愛と光のエネルギーのパラメーターみたいなものなんだろう。

 大部分が白くなった時の自分の姿を想像するとちょっとあれだな。コスプレ感があれだな。



 まあまだ先の話だしなんとかなる。それにしても眠い……。

 ちらっとダクスを見たらもうぐふぐふ言いながら寝ていた。

 はっや!



「がんばりすぎない程度にのんびりゆったり集めますね。おやすみなさい…………」



 外はいつの間にか陽が落ち暗くなり始めており、それに合わせて室内も暗くなっていく。



 目が完全に閉じる前、チカチカさんが淡く優しく点滅したのがわかった。




 おやすみなさい。





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