開拓精神
ハーブティーをみんなにも勧めてみる。
お玉でよそい、お皿やコップに注いでいく。みんな気に入ったようで併せて果実もむしゃむしゃ食べている。
ボスにもがばあと口を開けてもらい窓越しにハーブティーを流し込んだ。
牙! ってなったけど美味しそうに飲んでいたから良かった良かった。
キッチンでもっとのんびりしたかったがこれからいつでも出来るので探索を優先するべく動き出す。
テラスに干していた布団とバスタオルを取り込み出かける準備をする。
あまり意味がなかったけど斧といつものナイフは持っていこう。あとはカゴにコップと食べ物とそのままでも寄れるようにお風呂の準備もしておこうか。
「チカチカさん、また探索行ってきます」
窓は開けたままだが安心安全なのでそのまま出発する事にした。
「島の探索なんだけど最後に木の滝に寄るルートでお願いできる?」
「クー」
みんなを代表してエンが了承してくれた。
エンに乗り込み少し考え、ダクスとロイヤルは私の前に乗ってもらう。
陸の移動速度はね、あれだしね。
そしてボスは透明になって空中から見守ってくれるようだ。かっこいい。
「じゃあ出発~」
「キャン!」
まずは砂浜の反対方向に向かうみたい。
相変わらずの要素ミックス密林。密林なのか森林なのかよく分からないが言えることは自然がいっぱいという事だ。
そしてとても色鮮やかな色彩で、画家がこぞってモチーフにしそう。とても素敵。
しばらくエンの背に揺られるがこの辺りの風景は特別目新しくはない。
果実もちらほら実っているしマッチャの管理エリアだろう。
香草も集めつつそこから少し進むと木々の合間から海が見えてきた。
「こっちは砂浜じゃなくて崖になってるんだね」
エンから下り恐る恐る崖下をのぞき込む。
切り立った断崖とまではいかないがこれは登れないな。あれ? 登れないから切り立った断崖?
まあ私は登れないという事で。
「ここからなるべく崖沿いに進んで行こうか。でも私が見てないエリアがあればそっちを案内してもらえると嬉しいな」
みんなに伝え崖に沿って移動する。
巨木から砂浜とは反対に向かって進み、行き止まりの崖からさらに左に向かって進んでいるので反時計回りに移動している事になる。
特に変わらない森を移動していると、このまま左手方向に進むと虹色ゾーンがあると教えてもらった。
じゃあこのまま進んで行くと草原エリアになるのかな?
予想は当たっていて草原エリアが見えてきた。
崖の周辺は木々が生えているので海からは島の内部がどうなっているかはわからないだろうなあ。
そこでふと思いついた。
「ねえボス、移動しなくていいから私を乗せて上空まで連れて行って欲しいんだけど。あ! もちろん島の全体が見える程度の上空ね!」
横移動よりは縦移動の方が恐怖が少ないだろうとボスに頼む。
ボスは草原エリアにふわっと降り立ち登りやすいように透明化を解いてくれた。
よし、行くか! と尻尾から背中によいせと登る。
「あれ、みんなも来るの?」
私の後にみんなもぞろぞろと続く。
え、ちょっと私ダクスを気に掛ける余裕なんて無いと思うんですけど。
私の不安が顔に出ていたのかマッチャがダックスを小脇に抱えてくれた。
セカンドバックみたいな持ち方されてる……。
当のダクスは気にしていないようでキャンキャンと楽しそうだ。
「マッチャありがとー。じゃあマッチャは私の右隣でエンは左隣。ナナは私の後ろを任せた! ロイヤルは私の前、キイロは肩で。みんななるべく寄り添ってね! 私に!」
ふふふ、これでボスの背中に座り込めば完成だ。
両脇のエンとマッチャの体をぎゅっと掴んで準備は出来た。
「ボス、お願いしま~す」
そう伝えると徐々に透明になり段々と上空に。
「うわ~!!」
上空から見た島はほんとにドーナツのような形をしていた。
いや、先が繋がってる三日月の方が近いかも。
巨木はやはり島の中央にあって、ビーチはまるで取り残されたように島に囲まれている。
虹色ゾーンは上空からでもすぐに分かったのでそこから木の滝がある場所も推測できた。
大体は森が広がっているようだが、砂浜を挟んで草原エリアの反対側は木々が生えておらず木の滝から川のようなものが流れているのが確認出来る。
あそこで農業プレイできるんじゃない?
水も確保できるし何か育ててみたい。食べ物じゃなくても花とかも良いな。
また楽しみが増えた。みんなも上空でわいわい楽しそうにしているし幸せだな。
そして――
「あれが人間の住んでる所かー」
まず目に入ってきたのは高い塔。あれがお城なんだろうか。
そしてそこを中心にして城壁と建物らしきものが広がっていた。
きっと小高い丘なんかを切り崩していったんだろうなと思える見え方だ。あれじゃあきっと攻め込むのは大変だろうな。兵法なんてさっぱりわからないが難攻不落といったイメージを持った。
その塔の背後は森が広範囲に渡って広がっている。ずいぶんと深そうな森だ。あそこは開拓しないのかな?
逆に海に近い所は計画的に作られたような形をしていた。
何あれ、海に浮いてる? 船らしきものが街中を移動している様子が見て取れた。
見たことないけど海上都市ヴェネツィアってあんな感じ?
なんにせよこの景色を作り出せるという事は、この<エスクベル>の現地人は高度な技術を要している可能性が出てきた。
うう~ん。大丈夫か私。今後の遭遇が不安になる。街入れるかな。
なにやつ!? みたいな展開になったらどうしよう。入国審査的な?
いや普通に考えてなるよね。この世界の住人じゃないし。
まあここで考えていてもしょうがないのでその時は機転で何とかするしかないか。
機転があるのかは謎だが。
しかしあそこまでどうやって行こうかとぼんやり考えていると、船が一斉に動き始めたようだった。
「漁にでも出るのかなあ? あー船欲しいかも。よし、いかだ作りにのんびり挑戦するか~」
当面の目標が決まった。
みんなにもお手伝いお願いねと伝えるともちろんと返事が返ってきた。優しい。
「ボスー。もう確認終わったから草原に戻ろうか。ありがとね」
そしてエレベーターが高速で下がる時のようなひゃっとした感覚を味わいながら草原に戻ってきた。
「みんなもありがとう。すごく安定感があって安心した!」
みんなと握手しながらお礼を伝える。
「さっそく探索続けようか。まずは木の滝から川が流れてた場所までお願い」
あそこで農業プレイが出来るかどうか確認したい。
またのんびりとエンに乗って探索を進めながら先程の光景を思い返す。
いかだで頑張れば行けそうな距離だったよね。ロイヤルとボスに近くまでついてきてもらえば心配はなさそうだし。
キイロも大丈夫そうだけどナナは完全にアウトだろうな。
最初お供はキイロ1人で上陸してみるか。あとはどう上陸するかだけどね……。
あれこれと考えていると上空から見えた川に着いたようだ。
周りを見渡すと草原エリアに似てはいるが特に食物が育っているわけではない。
地面の状態をみても耕すのは簡単そうなので斧で少しザクッとやってみる。
うん。問題はなさそうだ。ひとまず香草でも植えちゃおうかな。今度は根から抜いて採取してみよう。
種とか苗とかさっきの街で手に入るといいな。
「ねえここって人間の街から買ってきた植物を育てても大丈夫? ほら、生態系への影響とか」
人間側の植物は島にとって悪影響だとしたら困ったことになると心配し、みんなに確認をとる。
「クー」
「フォーン」
「コフッ」
陸担当のみんなから問題なしと返答をもらった。
これぞ自給自足。自分の出来る範囲で農業プレイを楽しむことにしよう。
さらっと農地の確認は終わったのでお風呂のために木の滝に向かう。
「もう私が知らないエリアってないよね?」
「フォーン」
「あるの? どこ?」
「クー」
砂浜の近くにあるみたい。木の滝からそんなに遠くないので先にそっちを案内してもらおう。
そんな場所あったかなと思いながらスピードを上げて砂浜に向かう。
案内された場所はダクスが真珠を埋めていた場所の反対側の崖の所だった。
「んー、どこだ?」
そこにあるのは繁みだけだった。
不思議に思ったが、マッチャが繁みをかき分けると壁にぽっかりと穴が開いているのが見えた。
…………冒険の始まりだ!




