権力者の義務
父親の擦り傷だらけの顔を心配しているクルトさんを見ながら、お腹空いたなあとぼんやりしていると、ミナリームのお偉いさんが全員ではないがそこそこ集まっていると教えてもらった。
「お2人とも後で呼びますので準備をしておいてくださいね」
杖を持ち直しそう告げると、一瞬で景色がガラリと変わった。
(はあ~すごいなあ~)
眼下には、まさしく豪華絢爛という言葉がふさわしい広間に、たくさんの人が集まっているのが見えた。
騎士の恰好をした人が多く、すごくざわついている。
これはもしかして謁見の間と呼ばれる場所だろうか。こんな感じなんだ。
なんだか外国のお城を見物している気分。
(うわ~足元あれ絨毯? 高そうだな~)
奥の少し高くなっている場所に立っているおじさんの足元には高そうな赤い敷物が。
周りを動きにくそうな重装備の数人に守られて立っている。
あ、あそこにいるのさっきのマントさんかな?
「チカチカさん、あれが王様ですか? 頭になんか乗ってる人」
天井が高すぎてその付近にいる私には誰も気がついていないが、ひそひそと確認をする。
「そう。離れた場所にいる黒一色の髭の男が穏健派のトップ」
「ふんふん」
良かった、強硬派以外も集まっているようだ。
やっぱりおじさん率が高いけど。
「仮病で来てない貴族も多い。あの時の使者も」
「まあ何されるか分かんないですもんね」
ある意味正しい。危害は加えないけどさ。
「よし、じゃあ降臨お願いします」
深呼吸をし終わり杖を握りしめたところで、この広間の出入り口の扉が大きな音を立てて閉まった。
突然の轟音に短い悲鳴が聞こえてきたが、その直後誰かが「来た……!」と叫んだことで、扉近くにいる人達がわめきながら扉に駆け寄っていった。
そして「開けてくれ!」と扉をどんどん叩いている。
……いや、あの、なんかパニック映画みたいになってるんですけど……。
来たって……。
「パニック映画になっちゃいました……もしくはホラー」
「そうだね」
「……下に降ります」
チカチカさんに頭を撫でられながら、ゆっくりと降下する。
……ヘリコプターが着陸する時みたいに風が吹き付けているのなんて気にしない。
皆さんの服が風でびろびろしてるのも気にしない。
人々は周りの視線につられて上を見上げ、そしてそこに浮いている私を目にし絶句する。その結果広間には静けさがさざ波のように広がっていく。
はっきり言って緊張しかしない。
こんなシーンでお腹の音とかなったら恥ずかしすぎる。ちょうどお腹空いてるし。
またこのタイミングで風が止むとかさあ。
少しめそめそしながらも腹筋に力を入れ、空中歩行で王様に向かってゆっくりと歩いて行く。
人々はおびえたように道を開けてくれるので演出としては成功だが、もう少しざわついて欲しい。
お腹の音をかき消す程度でいいから。お願い。
「――――この国は、神に軍勢を差し向ける準備をしているようですが」
王様の少し手前で発した言葉は、笠の機能のおかげでよく通る。
「滅ぼされたいのでしょうか」
よし、持っているフィクション知識をフル活用しただけあって効果は抜群だ。
お偉いさん達は真っ青な顔になりながら震えている。王様は悔しそうな感じだけど。
「王よ、最古の魔物に滅ぼされるのか、今手を下されるのか、どちらが良いのか選びなさい」
王様に向かって杖をすっと向ける。
が、いつまでたっても王様は口を開かない。
ま、まじか。
(え、ちょっとちょっと、『戦は神に対してではない』とか『最古の魔物は御使い様のお力で退治して頂けるのでは』とか、言う事あるでしょうが……! 何で沈黙? ちょっとちょっと……罵倒もないなんて……)
完全に私の独り相撲じゃん。
そなた達の悪行は的な事が言えないんですけど。
恥ずかしいんですけど。




