気になるワード
「御使いの人質兼大使館職員としてクダヤに来ますか?」
ぼんやりとだが、考えていた事を提案してみる。
「人質兼た、たいし? 職員?」
2人は大使館が何なのかよくわかっていなかったようだが、人質と職員という単語が結びつかずに困った顔をしている。
「大使館というのは簡単に言えば他国の使者のクダヤでの仕事場ですね。そこでクダヤと自国との橋渡しの役割を担ってもらいます。――正直に申しますと、クルトさんには投獄されていた点から見て人質としての価値はないでしょうが、自らの意思でクダヤに亡命したと思われなければ理由はなんでもいいんです」
随分と失礼な事を言った自覚はあるが、クルトさん達は「その通りです」と特に不快には思っていないようだった。
「来るならご家族全員で来た方が安心だとは思いますが」
クダヤ側にはまだ何にも言っていないが、あの人がきっと何とかしてくれるはず。
あのハイスペック白髪忍者スイーツインテリ男子が。
いつも頼りっぱなしでほんと申し訳ないけど……。
「いきなりの事ですぐには決められないでしょうから、こちらの話が終わった頃に返事を聞かせて下さい」
「いえ、御使い様……クルト……?」
「ええ、私も同じ考えです」
「……そうか。――御使い様、ご提案をお受け致します」
え、はっや!
「ご家族に確認を取らなくても良いのですか? おそらく生活水準は落ちますし、ミナリームの貴族はクダヤでは良く思われないでしょう」
それに提案しているのはあの恐怖の御使いですけど。
クルトさんの思い出したくない記憶第3位以内には入っていると思うし。
しかもまだ詳しい事は話してないのに。
「ええ、かまいません。家族の命には代えられませんし、どうせ大した力もない弱小貴族です」
「そ、そうです。治めている領地があるわけではありませんし、このところ……その……周りからは良く思われておりませんでしたのでクダヤに行ったところで変わりはありません」
「これで権力闘争に巻き込まれないよう気を遣わずにすみます。自分にはどんな仕事が出来るのか探るのも面白そうですし」
わっはっはとばかりに笑うクルトパパはどこか吹っ切れたようにも見える。
転んだことによりどっか打ったんだろうか……? 心配。
でも頭髪の寂しさからして、かなりのストレスを抱えていたんだろう。
「クルトが文官として優秀な為使者団に同行させられまして。まあ単なる使用人扱いだったようですが」
「力を認めて頂いたのは感謝しておりますが……」
そっかあ。しがらみとか大変そうだ。
「では――そうですね、王達との話し合いの際にお2人にも参加して頂き、ちょっとしたお芝居をお願いしたいのですが」
「お芝居ですか……?」
不思議がる2人に、クダヤ行きは自分達の意思ではないと周囲に知らしめる為の作戦を伝える。
その作戦を聞いたクルトパパは「お任せください」とキリリとしていた。
クルトさんは真剣な顔をして作戦をぶつぶつと呟いている。真面目。
アルバートさんにどこか似ているとは思ったが、クルトさんには貴族社会を生き抜いてきた独特の強かさのようなものが少し感じられる。受け流す能力というか。
「あ、あの……御使い様、すぐに出立の準備をした方が良いでしょうか」
どこかびくびくした様子で尋ねてくるクルトさん。
御使いの恐怖も受け流すといいよ。
「早い方が良いとは思いますけど」
「かしこまりました」
その後は2人がクダヤ行きの詳細を話し合っているのを横目に、透明もふもふに挟まれながら白フワにこしょこしょされながらのんびりとお偉いさん集合を待つ事に。
クルトさんにちらちら見られながらだけど。ここはアルバートさんに似ている。
火の玉は飛んでいかないから安心してほしい。
ただ、『婚約』『ノーラ』『謝罪』というワードはしっかりばっちり聞き取ったので、もう少し打ち解けてからその辺りの事は聞こうと思う。




