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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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192/216

それっぽいセリフ

 



 ボスに移動を任せ、後ずさりを始めている騎士達を観察していると、ぴたりとある所で止まった。

 眼下には数人の騎士がいるが、その中の1人が高価そうなマントを羽織っていたのでお偉いさんだと当たりをつける。

 こちらを睨みつける眼光が歴戦の戦士感出てるし、いつでも斬りかかってきそう。やめてほしいけど。





「――そちらが手を出さなければこちらも手を出しません」



 少し偉そうな御使いを演じる。

 実際は私に『こちら』を抑える権限はないから約束出来ないけど。すまん。



 私が声を発した事により、騎士達がどよめく。

 笠の拡声機能の便利さよ。



「神の島への使者、クルト・ルーデンスを連れてきなさい」



 私って何様! という気持ちに蓋をする。

 ここは侮られたらいけない場面だ。


 なのでマントのお偉いさんが何か言う前に言葉を重ねる。



「そなた達の王にも報告が必要でしょうから、好きなだけ報告を」



 よし! 『そなたたち』クリア! 



「すぐに動かなければこちらから出向きます。牢にも――――王の目と鼻の先にも」



 持っていた杖で城の方向を指し示し、そのまま神の武器を長剣バージョンに変化させる。

 ついでにきらきらと謎の金粉付き。



 よし! 『意味ありげなポーズ』クリア! いいぞ白フワ!



 予想通り、これにはこの場にいる全員が驚愕していた。何人か剣を落としてたし。成功だ!

 マントさん(命名)は神の武器を見てすぐさま声を張り上げ、何名かの騎士の名前を呼び命令を出していく。


 そして最終的に、こちらを囲みながらも数歩下がるよう騎士達に合図を出した。



「賢い選択です」

「ありがち」






「……チカチカさん今の?」



 垂れ布の内側でひそひそと問いかけるが、チカチカさんからは何の返答もなし。



「あの……降臨採点は後にして欲しいなって。叫びだしたくなる恥ずかしさが襲ってきそうなんで勘弁してもらっていいですかね……?」



 ハートが砕ける。



「いいよ」



 いいよて。





「…………」



 そのまま眉間に皺を寄せつつ、恥ずかしさが襲ってこないよう夕食に何を食べるかひたすら考える。

 上空で無言の御使いと、同じく無言の騎士達。


 こんな気まずい空気にはそうそうお目にかかれないだろう。

 少し強くなれた気がする。




 そして焼き肉のタレに思いを馳せているところで、状況に変化があった。

 こちらに慌てて向かってくるような足跡が聞こえてきたのだ。


 誰か来たと思い様子を窺っていると、通路からこの中庭のような場所に駆けこんできた男性が、いきなりつまずきそのままとんでもない勢いで地面にダイブした。



(ぎゃー!)



 声を出さなかった私を褒めたい。

 絶対これ誰でもびっくりするって!

 騎士の人達も驚いたように見てるし。





「…………あの」



 そのままぴくりとも動かないのでついつい近寄って声をかけてしまった。

 打ち所が悪いと大変だし誰も声を掛けないし。



「――はっ……! ひっ! ご、ご無礼をお許しください!!」



 地面にうつ伏せのまま顔だけを上げこちらを確認した途端、引き攣った顔で謝罪をしてくる男性。

 しかも流れるような土下座を見せられた。



「――そいつを捕らえろ!!」



 男性に再度声を掛ける前に城内から新たに騎士が数人ばたばたと飛び込んできた。

 そして男性を強引に立たせると、こちらを警戒しながら引きずってどこかに連れて行こうとしている。



「待ちなさい」



 その乱暴さに不快感を覚え、とっさに声を掛ける。



「その男性を離しなさい」



 私の声に怒りがこもっているのを感じ取った騎士達が、慌てふためいているのがわかる。

 しかし男性を掴んでいる騎士はどうしていいのか分からないのだろう、掴んでいる手を放す事無くおどおどと周りを窺っている。



「――離してよい」



 静かな声で割って入ってきたのはマントさんだった。

 助かる。


 騎士はほっとしたような顔で男性から手を放し後ろに下がった。



「――何か用があってこちらに来られたのではないですか?」



 男性に話しかける。

 顔、派手にすりむいてるな……。そりゃああれだけ派手に転んだらそうなるよな……。



「……発言をお許し頂けますでしょうか」



 しばらく躊躇していた男性が思い切ったように声を発した。



「かまいません」



 お風呂入った時ひりひりしそうだなあと思いながら返事をする。



「ありがとうございます。――貴方様はクダヤの……神の御使い様であらせられますか」


「そうですね。クダヤではなく島の神、エスクベル様の使いですが」



 大勢の前で神の使いって堂々と認める私って意外と図太い。


 そして私の正体がはっきりした事で、騎士達が息を呑んだ声が聞こえてきた。



「……クルト・ルーデンスなる者をご所望との事ですが、何故なのかお聞かせ頂く事は出来ますでしょうか」



 ご所望って言われたんですけど。



「――とても理不尽な目に遭っていますので助け出します。拝謁の際、彼は命を懸けて自分に与えられた任を全うしようとしていました」



 あのおじさんを必死でかばってたし。


 しかしそう言った途端男性の顔がくしゃりと歪み、震える声で驚くべきことを言い始めた。



「……お心遣いに感謝致します……! 名を名乗らなかった無礼をどうかお許しください……。私はハンス・ルーデンスと申します……クルト・ルーデンスの父でございます」







 ……パパさんだ!







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