い、いざ
惑星の演出に、ミナリームの人だけではなくこっちも腰が引けてしまっているが、ボスから「気がついた人間がいる」と教えてもらった。
後戻りはもうできない。
「……よし、とりあえずあのたくさん人が集まってる――ああ騎士さん? そこまで降臨しよう」
覚悟を決めてゆっくりと降下を始める。もちろんボスが。
思ったより大騒ぎされる事もなく、人々はこちらを見ている。
ただ、目的地に近付くにつれ辺りが不自然な程に静まり返っていくのは私でも分かった。
雷鳴の中、ゆっくりと降りてくるナニか――
それが人のような姿形をしていると気付いたのであろう誰かの声が響く。
「な、何奴だ……!?」
声のした方向に顔を向けると、声を上げたのは城壁らしき場所に立っていた警戒中の騎士のようだった。
槍っぽいの持ってるし、歩哨ってやつかな?
でも「何奴」って言われた。ほんとに言うんだ。
「――か「うわあああ……!!」
どこかワクワクとした気持ちで「神の島の御使いです」と足を踏み出そうとしたところで、男性が悲鳴を上げながら手に持っていた槍をこちらに突き付けてきた。全然届いてないけど。
そしてその悲鳴につられたように、一気に騒がしくなった。
「あの――」
「お、応援を……!!」
「話を――」
「ひっ!! 寄るな……!!」
「…………」
「来るなあ!!」
……気持ちはわかる。分かるよ。
だって仲間は近付いて来ず、遠くでわめきながらこっちに武器を向けてるだけだもん。
この人完全に独りぼっちだもん。
声を上げた男性その1がちょっと不憫に思えてくる。
勇気を出して自分の仕事を全うしただけだよね。
「……チカチカさん、もうちょっとお偉いさんは? 指揮官とか団長とかそんな感じの……」
この男性にこれ以上の負担はかけたくない。勝手に降臨しといてなんだけど。
「降りようとしてた所にいる」
「あ、じゃあそっちに行きましょうか」
心の中で謝罪をしながら声を上げた男性その1からすっと離れる。
男性が腰を抜かしたようにへたり込んだのが視界の隅に入ったが見なかった事にする。
上空から堂々とした城内侵入を果たし、騎士達の集団に近付く。
「はる、矢が飛んでくるよ」
「ひっ……わ、分かりました」
びくっとならないように、飛んでくる矢を直視しないように身構える。やればできるやればできる……!
すぐにかつんかつんと、この雰囲気には不似合な軽い音が聞こえてきた。
それはすぐにマッチャの結界にはじかれた矢の音だと判明する。
そしてそれは止むことなく続いている。
うわ、あれ槍じゃん。
「チカチカさん、私背後からも狙われてます」
思ったほどの怖さは無かったので、虎(惑星)の威を借る狐(私)としてはすぐに告げ口する。
保護者はリアルタイムで見てるけど。
「狙われてるね」
どこかのんびりとした会話。
しかし突然何かに包まれたように周りの音が聞こえなくなり、その次の瞬間、お城の尖塔の1つが黒焦げになっていた。
「お、え、お? え?」
一瞬居眠りでもしていたのかと思うほどの急展開に思考がついていかない。
「あれ? あんなんだっけ? あれ? 元々黒っぽくて――」
ますます混乱していると、聞こえなくなっていた音が戻ってきた。
が、聞こえてくるのは城壁の外からであろう喧騒だけ。眼下の騎士さん達は何も言葉を発さない。
生きてるよね……?
これはどうも以前ボスがどかんとやって懲らしめた時の状況と似ている気がする。
今回は不自然なほど破損した様子が見えないけど……。
「ボス? ――違う? ああチカチカさんですか……」
「そう」
最強の保護者の仕業だった。
……チカチカさんって雷好きなのか?
でもこれで攻撃がやんだので、権力がありそうな人に話しかける事が出来る。
ぼそぼそと「助かりました……」とお礼を伝え騎士達との距離を更に縮めた。




