こまめな鏡チェック
大森林で起こった詳細がミナリームの王城にまでとうとう届いた。
王都に鬼気迫る表情で飛び込んできた伝令の異常な様子に、それを目撃していた街の人達の間に動揺が広がっているらしい。
じわりじわりと確実に。
そしてミナリームのお偉いさんの間にも。
しかしそこはやはりミナリームだった。ぶれない。
なんと大森林に更なる大軍勢を差し向けようという話が進んでいるらしい。そっちかーい。
人を集めての話し合いはせずに、王とその側近達だけでその方針を決めてしまった。
ある意味人は集めているが、なんというか私の思い描いていた戦略会議ではない。
「あーもう直接王様のとこに瞬間移動して……でも出来るだけ人目につかないと自分達の都合が良い様にあれこれと情報操作とかしそうだし……」
神の力を心底実感してもらえれば変な事はしないと思うが、ミナリームという国自体が信用できなくなっている。
というか私も何様だ。
「チカチカさん、ミナリームって王の下にいわゆる一枚岩ってやつですか?」
「そこまでではないけど王の権力が1番」
「他にどんな勢力があります?」
「穏健派、どっちつかず。王の強硬派が大多数だけど」
「穏健派とどっちつかず……日和見ってやつかあ……」
強硬派以外の面々も一緒の空間に居てくれた方が安心なんだけどな……。
今のところ力になってくれそうなのが穏健派。そのトップと会いたい。
……あれこれなんか頭良さそうな私……。
「はる、誰でも思い付く」
だから惑星!
「……なんで考えてる事がわかるんですか?」
「顔がしたり顔」
「へえ……」
私のせいだった。
「じゃあ作戦をちょっと変えて――」
とりあえず降臨しとこう。ファストフード的なファスト降臨。
後は口コミの威力を信じる。お得意の、他力本願方式。
ボスの背中に乗り込み、ミナリームの王都上空にチカチカさんの力で連れて来てもらう。
私以外はみんな透明状態だ。
私の姿にいずれ気がつく人も出てくるだろう。
「初ミナリームだ~」
やはりお隣さんとはいえ、国が違うと建物の感じもどこか違う。
ミナリームのお城は色こそ黒っぽいが、王道の城感が出ていて見ていてワクワクする。
こんな事じゃなかったら観光したい。
いや、降臨完了したら行けるか……?
「ぴちゅ!」
「あ、早かったね。ありがと。白フワもよろしく~。垂れ布の中にいてね」
突然瞬間移動させられたら驚くと思い、キイロに白フワを連れて来てもらったのだ。
が、白フワのいつもよりキレのある上下運動を見ている限りは突然連れて来られても問題は無さそうに見える。
何となく衣装をささっと整え、前髪をちょちょいと直し笠の垂れ布も再確認。
ここにグロスがあれば塗ってるな。女子だから。顔は見えないけど。
「よし、では降下開始でお願いします。みんなもよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、神の武器(杖バージョン)を手に立ち上がる。
多少のふらつきは周りのもふもふが吸収してくれるし、衣装はボリュームがあるので目立たない。
そして轟く雷鳴。
……あれ……? かみなり……?
そっと空を見上げると、先程まで晴れていた空がだんだんと暗くなっていき――
「……チカチカさん、なんか突然出てきた雲の奥がこうおどろおどろしいと言いますか……ほのかに光ってる部分が……」
しかしチカチカさんからの返答はない。
「あの……演出ありがとうございます……でもあの……これじゃあ滅ぼしに来たよみたいな? あの……もっとポップな感じの降臨を想像してたというか……」
こんな闇属性の降臨じゃない。光属性のこうキラキラしい神の使い的な……。
「キャン」
「あ、うん……かっこいいね……」
やばい、ダクスの中学2年生の素養が目覚めようとしている。




