原始インテリア
木を2本切り倒した所で形を整えることにする。もう細かい切り出しはロイヤルに任せてしまおう。
キイロは正確さというよりは切り倒す早さなので、申し訳ないがその頭の角を活用させてもらう。
ロイヤルに同じ長さで2本の丸太を作ってもらい、さあキイロの出番だ。
「キイロ、その角で木に穴ってあけられる? 痛いかな?」
鬼のようなお願いだなと思いながら一応聞いてみる。
ほら、みんなって普通の動物じゃないしハイスペックだし大丈夫な気がするんだよね。……でもごめん。
「ぴちゅ」
当たり前に出来るんだ……。
なので丸太に2ヵ所ずつ印をつけ場所を伝える。
ではキイロさんお願いします。
「ぴーーーーーー!!」
空中からのきりもみアタックが命中した!
角が刺さっているのでキイロの体を引っ張って引っこ抜く。
首大丈夫なの? あと3回で終わりだから!
そして計4ズガンで穴あけ作業が終わった。ほんとにほんとにありがとう。
そのキイロはどこもケガをしてないようだし、もっとやりたそうにしていた。
また今度頼む。
丸太は私の身長よりやや長く重さもあるので運ぶのに苦労した。
エンの背中に何とか乗せて1本ずつ運ぶ。
キイロのふわっと魔法を頼ろうとしたが、私にだけふわっと調節機能が働くのであって、その他のものに関してはぶわっと魔法で吹っ飛ばしてしまうという恐ろしい事実が判明したのであきらめた。
何とか丸太をテラスに引っ張り上げ、みんなの手も借りて立てることに成功した。
ダクスは応援ありがとうな。
あとは物干し竿をはめ込めば出来上がりだ。武骨な感じがまた良い。
「ちょっと休憩しようか」
椅子に座り、バナナもどきを食べながら1階のテーブルセットはどうしようかと考える。
椅子は丸太でいいとして……、今までいくつかの家具は組み立てた事があるけどあのテーブルの天板ってあのサイズの木から切り出してたのかな〜?
分からない事が多すぎる。
そもそもネジなんて物はないし組み立てるのは現時点では無理だ。というか、ナナの力でテーブルセットも物干し台も全部作れるという事に気が付いた。
家具といえば木、というイメージに踊らされたな。
でも自分でも作ってみたいので材質は木で試行錯誤してみることにしよう。
考えた結果、全部丸太でいくことに。
テーブル用に長さを揃えた丸太を並べて置いて、大きな葉をかぶせれば素敵なテーブルの出来上がり。
座れて物が置ければそれは誰が何と言おうとテーブルセットです。
試行錯誤なんてなかった。
「これから丸太をたくさん作るよー」
みんなに伝えて先ほどの作業場に戻る。
ロイヤルには同じ長さで木を切って丸太にする作業をお願いする。その間私とエンは大きな葉を集めに行く。
キイロとダクスは出来上がった丸太を転がして1か所に集めてもらおう。
木が足りなくなったらキイロお願いね。
がさがさと音を立てながら葉を持ち帰ってくると丸太がたくさん出来ていた。
「お、良い感じだね。ありがとう。じゃあ家に持って帰ろうか」
余ったやつは家の周りに置いておけばまた何かに利用できるだろう。
今回丸太はそこまで長くはないので少しずつ転がして運ぶことに。
「負けるか! ちょっと! エンが速い!」
何故か丸太ころがし競争に変わった。
キイロとロイヤルは上に乗ってうまく丸太を転がしているし、エンは前足の蹴りで丸太はどんどん転がっていく。
ダクス、勝負だ!
きゃっきゃ言いながら丸太を運んでいると虹色組も戻ってきた。さすが仕事が早い。
「お帰り〜。もうちょっとで運び終わるから待っててね!」
そう伝え競争に戻る。負けない。
程なくしてすべて運び終えた。
いい汗かいた〜。いや〜勝負なんて関係ないよね! いい汗かけたってことが大切。
先に虹色制作物でも確認するかと、虹色組を見るとマッチャが物干し竿を手に持っていた。
「……ねえマッチャ、その棒こうやって振り回せる?」
頭の中であの歌詞が――。
「フォーン」
「おお〜! それで伸びたり縮んだりすれば完璧だね! 強そう強そう!」
いやーリアルで見ることが出来るとは。
ニコニコしながら他の制作物も確認していく。
うん、どれも素晴らしい出来だ。ありがとうの気持ちを込めてナナをはじめ、みんなにハグをする。
「よし、じゃあこの棒2本はテラスに持って行って、食器類はキッチンの棚で、丸太なんかは最初の部屋に運ぼう」
棒ははめ込む作業があるのでマッチャと持って上がる。みんなは丸太を運んでくれるみたいだ。
マッチャに手伝ってもらいながらテラスに立てた丸太に物干し竿をはめ込む。
良かった、サイズの事を全く考えてなかったが大丈夫だった。あぶないあぶない。
上下に洗濯物を干せるので色々と便利だろう。試しに手すりに干していたバスタオルを干す。
この光景が――物干し竿が虹色の鉱石で出来ていても――今までの生活風景を少し思い出させてくれてなんだか気持ちが和らいだ。
「マッチャ、ありがとう。食器をキッチンに運ぼうか」
食器類を持って玄関から家に入る。
ボスは家の中に入れるほどのサイズには変化できないらしく外で待っているようだ。ごめんね、後でハーブティー作るから一緒に飲もう。
最初の部屋には運ばれてきた丸太と固まって寛いでいるみんなが。
あー写真撮りたい。
運んでくれたお礼を言いながら食器を棚にしまい、ささっとテーブルセットを作成することに。
テーブル用の丸太を楕円形に近くなるように立てて並べ、大きな葉をかぶせる。椅子(丸太)を6つ配置すれば完成だ。
「出来た! 座れそうならちょっと座ってみて」
さっそく椅子に座ってみる。
机は若干でこぼこしているが、ぱぱっと作成した割には上出来な気がする。
キイロ、マッチャ、ダクス、ロイヤルは椅子にうまく座っている。乗っているとも言うが……。
エンとナナは前足を乗せていた。その心配りが嬉しい。
まだ丸太は余っているし外にボスのスペースでも作ろうかなと考えているとレベルアップの音がシャララと聞こえてきた。
「レベルアップだ」
ワクワクしながらキッチンに窓が出来るのを待ち構えるが、一向に窓らしきものは見当たらない。
不思議に思っているとチカチカさんがチカチカしだした。
「え? 出来たんですか? どこ?」
きょろきょろしながらチカチカさんに質問すると、お得意の矢印光らせをしてきた。
それは隣の、最初の部屋を指している。
「サービスでそっちにも窓を作ってくれたんですね! ありがとうございます!」
お礼を言いながら隣の部屋に足を踏み入れるとチカチカさんが高速チカチカを繰り返す。
チカチカチカチカチカチカ!
「あれ? 窓ありませんけど……?」
いまだに高速チカチカを続けているチカチカさんに尋ねる。
……なんか慌ててない?
そして今度はキッチンに向けて矢印が――。
どういう事だと思いながらキッチンに戻ると、真正面に窓が出来ていた。
窓だ。両開きの大きめの窓が出来ていて、ボスがこちらを覗き込んできた。
「……? ありがとうございます、チカチカさん」
……なんだかよくわからないが窓を作ってもらえたしいいかー。
換気窓も出来たことだしハーブティーを作ってみたい。
今朝、外でお湯を沸かしたときに使った薪を持ってこようと玄関に向かうとそれは目に入った。
「窓だ……」
最初の部屋の奥にキッチンと同じく大きめの両開きの窓が追加されていた。
ほんとにどうしたと言いたい状況だが、お礼を言ってひとまず窓を開けておく。
「……チカチカさん、さっき焦ってませんでした?」
………………
「焦ってましたよね?」
………………ボワッ
じんわり光った! しかもチカチカじゃない。
なんで焦ったんだろうと先ほどの流れを思い起こす。ふと、閃いた。
「もしかして、こっちの窓は予定に無かったとか……」
………………ボワ……
あれ、やっぱり私が「サービスありがとう!」なんて言っちゃったからかな……?
「なんつーか、その……、すんませんした」
壁に向かって頭を下げる。
チカチカチカチカ!
チカチカさんは慌てたように高速チカチカを。
大丈夫だからっ僕が悪いからっという声まで聞こえてきそうな光り方だ。
絶対に『っ』は語尾についているはずだ。
「あの、改めて窓ありがとうございます。ものすごく活用します」
感謝の気持ちを伝えるとチカチカさんは通常チカチカで返答してくれた。
通常モードに戻ったので外に出て薪を取ってくる。
キッチンのコンロらしき場所に鍋を置き水を入れ、その下の空間に薪を入れエンに火をつけてもらう。
よくわからなかったので香草は洗ってちぎり水の状態から鍋に投入した。お玉でかき混ぜ様子を見る。良い匂いはすでにしている。
少し時間がかかりそうだったので、これから何をするか考えることに。
「これから何しようかなー。最後の予定はお風呂・洗濯として、その前に探索を進めてこの島を大体把握しておきたいんだけど……。暗くなるまでに時間ある?」
質問すると「大丈夫」とみんな答えてくれた。
そんなに広大な島ではないのかな? やっぱり自分が住んでる所がどんな場所なのかある程度知っておきたいよね。
今日の予定を話し合っているとお湯が沸いたようだ。
お玉ですくいコップに入れる。匂いはしているので、味がしっかりついているかどうかだな。
ふーふーとハーブティーを少し冷まし、ひと口飲んでみる。
「意外と美味しい」
草っぽさが際立つのかと思ったがそうでもない。ハーブティーにはたくさん種類があるが、何らかのハーブティーと分かる匂いと味だ。意外と美味しいという言葉がぴったり。
甘い果実と一緒に飲めばバランスがとれてよさそう。
予期せずオシャレなティータイムが今後楽しめそうだ。




